俺と邪神のクラシック五冠道   作:カニ漁船

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おフランスざんす。


俺とフランスと現地の評価

 カミノライザンを乗せた飛行機は無事にフランスへと到着した。飛行機から降りた保茂と刈谷は軽く伸びをする。

 刈谷は物珍しさから視線が慌ただしく動いているが、保茂は何かを探すように視線を動かしていた。

 

「さ~てと、約束の時間はちょっと過ぎてるけど~」

 

 少しの間キョロキョロとする保茂。そんな彼らの下に近づいてくる人影があった。

 早歩きで保茂達の下へと近づいていき、やがて立ち止まった。いかにも外国人といった顔立ちの男、刈谷はその男に見覚えはない。しかし、その男は保茂の姿を見ると──笑みを浮かべた。

 

「『よく来てくれたなぁ元春!待っていたぞ!』」

 

 ()()()()()()そう挨拶した。刈谷は一瞬ポカンとしたものの、すぐにガイドブックを広げて対応しようとする。そんな刈谷をよそに、保茂はその男と笑顔で挨拶を交わす。

 

「『いやぁごめんごめん!ちょっと遅れちゃったよ!』」

「『なぁに気にするな。お陰様でお昼を摂る時間ができたぐらいだからな』」

 

 楽し気に会話する2人。刈谷は言葉が分からないので置いてけぼりである。そんな刈谷の様子を察してか、保茂は目の前の男を紹介し始めた。

 

「刈谷君、この人がフランスに滞在する間お世話になる厩舎の調教師さんだよ」

「あ、あぁ!え、え~っと……は『初めまして。私は、刈谷です』」

「『この人は刈谷君。日本でライザンちゃんのお世話を担当していた人だよ』」

「『そうかそうか君が!私はジョエルだ、よろしく頼むよ刈谷!』」

 

 刈谷の手を握り、挨拶を交わす。戸惑いながらも刈谷は握り返した。

 

「『さて、それじゃあ早速、我らが姫様を厩舎に送るとしよう。早い方が良いからな』」

 

 軽い自己紹介が済んだところで、保茂達はカミノライザンを厩舎へと移動させることにした。輸送用のトラックを用意し、飛行機からカミノライザンを降ろす。

 長い時間飛行機に乗っていたカミノライザンの様子は……()()()()()()()()()

 

「うぅむ、『やはり長旅のせいか疲れているな。けど、もう少しの辛抱だ。厩舎に着いたらゆっくりさせてやるからな』」

 

 刈谷に引かれるまま、カミノライザンはトラックに乗り込む。3人はカミノライザンとともに乗り込んで、空港を出発した。

 向かう途中の車内ではカミノライザンについての話になる。

 

「『それにしても、この子がカミノライザンか。完調したらどうなるのか、楽しみだね!』」

「『そうでしょう?僕の一番気に入ってる子なんだよね』」

 

 刈谷はまだフランス語がたどたどしい。なので完璧に話すことのできている保茂に対し尊敬の念を抱いていた。

 

(こっちに滞在している間に、俺もフランス語話せるようになっておきたいな……)

 

 そう思いながら2人の会話を聞く。時折保茂に翻訳してもらいながら会話に混ざり、和やかな雰囲気で厩舎へと向かっていた。

 

 

 

 

 

 

 フランスに着いてからしばらく経って。体調も戻ってきたところで調教inフランスだ。俺達とは別日で来たトミーを乗せて、とりあえず走る。

 にしても……うん。やっぱ違うな、こっちの芝は。

 

(なんつーか走りにくいな。まだ慣れてないせいだけど)

 

 ここから新しく走りを模索していく必要があるな。こっちの芝に合った走りを。

 多分、タイム的にも芳しくないんだろうな。フランス人っぽい調教師さんは渋い表情してらっしゃる。

 

「『まだ病み上がりだし、こんなものなのかな?それにこっちの芝に適応しなきゃだし……うん、様子見だね』」

 

 なんて言ってるのかは分からんが、とにかくあんまり良い感情じゃないのは確かだな。

 それから軽い調教で今日は終わり。ただし、俺はちょっと居残りだ。

 

「ライザンちゃん。時間いっぱいまで走っておいで。その間に……()()()()()()()、身に着けてね?」

『任せとけ。1日でマスターしちゃるわ』

 

 保茂の言葉に頷いてしっかりと走る。

 当たり前だが、日本でして来た走りでこっちの芝を走っても適応するってのはまず無理だ。余計に体力を消耗するし、なによりそれでレースを勝てるはずもない。

 

(だから、まずはとにかく走る。少しずつ走り方を変えて、その中でこれだ!って走りを見つける)

 

 完歩の取り方、重心の移動、どれだけの力を込めて地面を蹴るか……まぁ色々と試行錯誤して走る。地道な反復作業だが、これも勝つために必要なこと、妥協は一切しない。

 しっかしまぁ不思議なもんだ。別に負けても何かあるわけでもねぇってのに、こうして()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

(これが馬の闘争心、ってヤツかね?)

 

 思わず笑いそうになる。さて、頑張って走りを身につけるとしますかね。

 

 

 走る、走る。とにかく走る。あーでもないこーでもないと試行錯誤をしながら走っていって……ついに見つけた。

 

(……ッ!お、今の良い感じじゃね?)

 

 感覚を忘れないうちに、今の走り方を再現する。走ってみると……うん!良い感じだ!

 

(よーしよし!これでこっちでの走り方は決まった!これなら走りやすい!)

「おーい姫ー!そろそろ馬房に戻るよー!」

 

 そして丁度良いタイミングで刈谷が呼びに来た!いや~良かった良かった、無事に今日までに見つけることができたぜ!

 

(まぁ、まだ日はあるから別に今日までに見つける必要はなかったんだが)

 

 それでも早い方が良いだろう。後はこの走りを詰めていくだけだ。

 刈谷にひかれて馬房に戻ってきた俺。勿論食事の時間が待っているわけだが……。

 

(水がなぁ、うん)

 

 やっぱ慣れてない水だからか違和感が凄い。でもこっちに輸送するのも厳しいだろうし、仕方ないという面が大きい。飼葉は特に変わらんからいいけど。とりあえずもっと寄越せー。

 

「はいはい、おかわりね。すぐ持ってくるからな~」

 

 ま、そのうち慣れるでしょ。今は我慢我慢ってね。

 飼葉を平らげて、水を飲んで。後は馬房でゆっくり過ごす。少しずつ日本でのルーティンに戻していきますかい。

 

 

 

 

 

 

 調教の様子を見守る保茂。富永を乗せて軽快に走るカミノライザンを見て、満足げな表情を浮かべていた。

 

「良い調子だねぇ、ライザンちゃん」

「初日は動きが硬かったですけど、日を増すごとに良くなってますわ。ええ傾向です」

 

 カミノライザンの様子を見て、猛田も満足している。ただ、フランスの調教師──ジョエルは大口を開けて固まっていた。

 

「な、な、な……っ」

 

 カミノライザンがフランスの芝を苦にせず走っていることに余程驚いたのだろう。その表情を見て保茂は楽しそうにしていた。

 やがて我に返ったジョエルが保茂へと興奮気味に詰め寄る。その表情は輝いていた。

 

「『おいおい元春!あの馬はなんだい!?』」

「『凄いでしょ?あれがライザンちゃんだよ』」

「『凄いなんてもんじゃねぇ!こんなに早くフランスの芝に適応するなんて……!ありゃ本当にすげぇぞ!』」

 

 興奮が冷めないジョエル。調教の時計で好タイムを連発しているカミノライザンに感服していた。

 

「『いやぁ……日本の競馬レベルも捨てたもんじゃないな!こんな馬がいたなんて!まさか、日本にはこのレベルの馬がたくさんいるのか!?』」

「『いないしいたら困るねぇ』」

「『違いないわ。姫レベルの馬がそうポンポンおってたまるか』」

 

 ジョエルの言葉を即座に否定する保茂と猛田。事実なので仕方ないが。

 

「『こりゃクラシック五冠ってのも嘘じゃないな。これが日本のセプターってわけかい』」

「『そんなところさ』」

 

 カミノライザンに高い評価を下すジョエルに、嬉しさが隠し切れない保茂。やはり欧州の調教師に自分が気に入っているカミノライザンが評価されているというのが嬉しいのだろう。

 保茂は興奮気味のジョエルに。

 

「『僕はねジョエル、ライザンちゃんで凱旋門賞を獲るよ』」

 

 自信満々にそう告げた。今回の凱旋門賞を勝つと。

 その言葉を聞いて、ジョエルは難しい表情を浮かべていた。

 

「『宣言するだけは自由だが元春、今年の凱旋門賞は一筋縄じゃいかない。それは』」

「『()()()()()()()()()()、だろ?』」

 

 こくりと頷くジョエル。カミノライザンが凱旋門賞を勝つ上で最大の障害となる相手……それはやはり、ミルリーフの存在だろう。

 今年の3歳馬であり、エプソムダービーと古馬混合戦のエクリプスステークスとキングジョージを制した競走馬。エクリプスステークスはコースレコード、キングジョージは古馬相手に6馬身差の圧勝だったことから、今回の凱旋門賞最有力候補と言われている。すでに出走を表明しており、凱旋門賞に出てくることは確実だ。

 もう一頭、対抗としてブリガディアジェラードの名前があったがこちらは凱旋門賞には出走せず、英チャンピオンステークスの方に出走する。

 やはりミルリーフの存在が頭にちらつくのか、ジョエルは凱旋門賞を勝つのは難しい、と評価している。

 

「『いくら走りをこっちに適応したといっても、やっぱりミルリーフが懸念材料だな。あの馬もまた怪物さ』」

「『古馬相手に6馬身差、ですもんね。そらえらい強さですわ』」

 

 猛田の言葉にジョエルは頷く。ただ、とジョエルは続けた。

 

「『こっちのカミノライザンの評価を知っているかい?元春、文男』」

「『いや、知らないね』」

「……『大体想像つくわ』」

 

 保茂は知らない、猛田は何となく想像がつくと返した。そんな2人の反応を見て、ジョエルはカミノライザンに下されている評価を教える。

 

「『()()()()()()()()()()()()()()()()()……それがカミノライザンに対する評価さ。ま、当然だけどね』」

「『これは手厳しいねぇ』」

「『実際間違ってへんですし』」

 

 カミノライザンの評価は下の下……今回出走を表明している競走馬の中では、ドベ人気に等しいとのことだった。

 それも仕方がないだろう。日本の競馬は海外に比べて明らかに遅れている。そんな競馬後進国の日本で実績を上げたと言われても、ふ~んそうなんだ、で済ませられる。むしろ、それほど容易くクラシックのタイトルを取れるのか、と思う人間もいるようだ。

 それゆえに、カミノライザンの評価は散々なものだ。こちらでは通用しない、最下位で負けるに決まっている、マークするまでもなく勝手に自滅する。それに加えて、()()()()()だ。

 今回の凱旋門賞でも富永が騎乗する。勿論だが、富永は欧州において無名の騎手だ。こちらのトップジョッキーなどではない。

 日本で活躍したらしい凡の競走馬に無名の、しかも騎手歴も浅いジョッキー……評価などされるはずがなかった。

 

「『簡単に言えば舐められてる、ってことだね。カミノライザンが勝つなんて思ってる競馬ファンはまずいないだろう』」

「アッハッハ!『そりゃあそうだ!だって事実だし!』」

「『事実やけどイラっときますね』」

「『()()()()()』」

 

 ジョエルはニっと笑う。その笑みは──これから起こることを想像して、きっと愉快なことになるだろうと確信している笑みだった。

 

「『()()()()()()()()()()()()()……それ次第では、勝ちの目があるかもしれないね』」

「『作戦次第では勝てる、ってことでしょ?ま、任せてくれよ』」

「『トミがええ感じの作戦考えとるやろ。どう騎乗するかなんて、な』」

 

 猛田達はカミノライザンへと視線を移す。カミノライザンは、とても気持ちよさそうに走っていた。




当たり前ですけど評価はめっちゃ低いです。仕方ないね。
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