俺と邪神のクラシック五冠道   作:カニ漁船

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気合十分ですよっと。


俺とアイツと10度目の対決

 ワシントンDCインターナショナルの日が近づくにつれて、各陣営の気合が入っていく。

 

「ええか廉田!このワシントンが最後のチャンスやと思え!これがカミノライザンにリベンジする、最後のチャンスや!」

「はい、谷瑞さん!今度こそ……勝ってやるわ富永!」

 

 勝つために、栄光を掴むために準備を進める。

 

「トミィ!絶対に油断するんやないで!こんまま勝て!勝ち続けろ!」

「勿論です!絶対に侮りません!」

 

 今回のワシントンDCインターナショナルはかなり注目されていた。アメリカの馬ではなく、日本からやって来た馬が一番注目を集めている。

 

「なぁ知ってるか?あのタニノムーティエってカミノライザンのライバルらしいぜ!」

「マジか!日本を飛び出して、このアメリカの地でライバル対決が見れるのかよ!」

「他の馬よりも、この2頭のライバル対決が気になるな!」

「おいおい、ランザガントレットのことを忘れるなよ?マンノウォーステークスの勝ち鞍だぜ?」

「フランスからはアイリッシュボールが来るみたいだ!凱旋門賞は良いとこなしらしいけど、愛ダービーを勝ってるから期待はできるんじゃないか?」

 

 勿論、日本からも観戦しにファンがやってきていた。

 

「楽しみだな~、ワシントンDC!」

「今回、日本馬が初めて勝つかもしれないんだろ?やっぱ期待しちまうよ!」

「お前どの馬に賭ける?俺はやっぱカミノライザンだな!」

 

 仲間内でお祭り騒ぎの日々が続く。最終追い切りも終わり、各陣営万全の状態を維持する。そして──ワシントンDCインターナショナル開催の日がやってきた

 

 

 

 

 

 

 アメリカのローレル競馬場*1に大勢の競馬ファンが押し寄せている。アメリカ国民に加え、チラホラと日本人の姿も見えていた。

 競馬場に入ったファンはそれぞれ見やすい位置に場所を取る。自分達の目的であるワシントンDCインターナショナル発走の時を今か今かと待ちわびていた。

 

「くぅ~!今から待ちきれねぇよ俺!」

「抑えとき!その気持ちはまだ抑えとくんや!」

「それにしても楽しみだぜ、一体どんなレースになるのやら……!」

 

 このレースは著名人も観戦しに来ていた。誰もが発走の時を待ち遠しく感じている中──パドックの時間が訪れた。

 パドックでは出走する競走馬達がその姿を見せている。アメリカ馬の中で最も注目を集めているのはランザガントレット。この年のマンノウォーステークスを制してアメリカの芝戦線に頭角を現し始めている3歳馬だ。ダートが主流のアメリカ競馬においては比較的珍しい馬である。

 そして……その馬がパドックに姿を現した時、今までの倍以上の歓声が響き渡った。

 

「きたきたきたぁぁぁ!アレが日本の……カミノライザンか!」

「今年の凱旋門賞を圧勝したらしいぜ?しかも、向こうの有力馬達をねじ伏せてな!」

「ハハハ!ざまぁないぜ!まぁ俺達のとこの馬も負けたんだけどな!」

 

 今年の凱旋門賞馬カミノライザン。青毛の輝く馬体は今日も絶好調であるという証。フランス開催である凱旋門賞からの直行ローテにも関わらず、調子は上向いていることを確信させた。まるで問題はない、そう言わんばかりの様子をパドックで見せている。

 

(めっちゃ注目されてる……公開調教で大体察してたけど。俺の身体穴だらけだよもう)

 

 カミノライザン的にはその視線で調子を落としそうになるのだが。さすがにそんなことにはならないだろう。

 もう一頭。日本の馬が注目を浴びている。その馬の名はタニノムーティエ。今回の1番人気カミノライザンのライバルにして、ここアメリカでも少しずつ注目され始めてきている馬だ。

 

「前走は3着……だけど、カミノライザンのライバルだからな」

「あぁ、期待が高まるってもんだ!」

「このレースでどんな走りを見せてくれるのか!期待してるぞー、タニノムーティエー!」

 

 アメリカのファンからも声援が飛んでいる。アメリカで走ったレースは凡走ではあるが、着実にファンは増えていた。

 

 

 パドックを終えた馬達が本馬場入場を迎える。今日の芝の状態は雨が降った影響もあってか重馬場。しかし会場の熱気はすさまじく、良馬場になりかねないほどだった。

 

《やってきました、ローレル競馬場の国際招待レース、ワシントンDCインターナショナル。世界各国から招待された輝かしい実績の競走馬達がこのローレル競馬場に足を踏み入れております。アメリカの有力馬ランザガントレットがいますが……やはり一番注目されているのはこの馬でしょう!》

 

 実況の声も興奮を抑えきれない様子だった。

 

《今年の凱旋門賞を制した日本の競走馬カミノライザン!凱旋門賞からの直行ローテ、しかし我々に不安を抱かせないほど好調な姿を見せております!なんとカミノライザンは我らが英雄マンノウォーの血筋!その血統は超・良血といっても過言ではない牝馬であります!青毛の雄大な馬体、このローレル競馬場でどのような走りを見せてくれるのか!?》

 

 続いて入場してきたのはランザガントレット。こちらも負けず劣らずの声援が飛ぶ。各馬を拍手と歓声で出迎えていた。

 カミノライザンの鞍上である富永は呼吸を整えて気持ちを落ち着かせる。彼が見据えているのは、このレースにおける勝利。

 

(体調は問題ない。後は、勝つだけだ!)

 

 覚悟を決めてこのレースに臨んでいた。

 それは、タニノムーティエに騎乗する廉田も同じである。

 

(大レースではずぅっと負けっぱなしやった。負けて、負けて……悔しい思いをさせてしもうたな)

 

 己の愛馬であるタニノムーティエを撫でる廉田。数瞬の後、廉田の眼に闘志が宿る。

 

(けど、それもここで仕舞いや。このワシントンDCで……お前を勝たせたる!)

 

 気合が入る廉田。こちらも順調に返し馬を済ませていた。

 

 

 返し馬を済ませた競走馬達がゲートへと向かう。今回は10頭立て。カミノライザンとタニノムーティエの枠は──隣同士だった。

 

《各馬順調にゲートへと入ります。ローレル競馬場、芝12ハロン*2、馬場の状態は重馬場発表です。開催国の意地を見せることができるか?本レースの2番人気、3歳馬の新鋭ランザガントレット!そして今回最注目である日本生まれの凱旋門賞馬カミノライザン!青毛の女神がこのアメリカの地に降り立った!果たして日本馬初の勝利をもたらすことはできるのか?カミノライザンのライバルであるタニノムーティエにも注目です!》

 

 最後の馬がゲートへと入る。係員が散開し、競馬場に集まったファンが静かに見守る中──空気を切り裂くようなゲートが開く音とともに、各馬一斉に駆け出す。

 

《最後の馬がゲートに入ります。国際招待レース、ワシントンDCインターナショナルが今……スタートしましたっ!絶好のスタートを切ったのは日本のカミノライザンだ!カミノライザンが好スタートで飛び出してっ!それにタニノムーティエが続いたぁ!他の馬も好スタートだ好スタートだ!出遅れはなし!12ハロンの熱い戦いが幕を開けます!》

 

 カミノライザンが絶好のスタートを切り、それと同じくらいタニノムーティエがスタートを切る。抜け出したこの2頭はすぐさま先行争いの位置につき、逃げ馬を見る形に徹した。

 カミノライザンとタニノムーティエの10度目の対決。これまで大レースのことごとくを制してきたカミノライザンと苦汁を舐めさせられてきたタニノムーティエ。2頭の戦いが、日本を飛び出してアメリカの地で激突する。

 

 

 

 

 

 

 逃げ馬は1頭。快調に飛ばしている。その逃げ馬を見る形で1馬身後ろにカミノライザン。そのカミノライザンの外にタニノムーティエが控えている。アメリカ注目のランザガントレットは中団6番手の位置。先頭からは6馬身程離れた位置につけていた。

 

《先頭の逃げ馬7番が快調に飛ばしております。快調に飛ばす7番を見るように4番のカミノライザンと5番のタニノムーティエ。日本からやってきたライバル2頭は先行争いの位置で競り合っているぞ!その2頭を見るように1番がいます。カミノライザン達から遅れること1馬身外目につけている。1番から2馬身離れて9番、9番の外に8番が、その2頭を見る形で期待の3歳馬ランザガントレットが隙を窺います》

 

 富永は隣を走るタニノムーティエをチラリと見る。

 

(後方待機じゃない。それはきっと、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 自分は資料で確認しただけである。このアメリカでのレースは自分よりも廉田の方が経験豊富だ。そんな廉田が選んだこの位置でのレース、油断はできないだろう。富永はそう考える。

 ペースとしては速め。逃げ馬がハイペースの展開を作っている。

 

(欧州ではこれが自滅に繋がる可能性があるけど……アメリカではそうはいかない)

 

 欧州は起伏が激しいためタフなレースになるが、アメリカの競馬場はそのほとんどが平坦なコースだ。求められるのはスピードの持続力である。

 

(廉田さんはおそらく、俺達をマークする作戦に出ている。もしくは、このハイペースな展開に飲まれないようにするためのレース運び)

 

 崩すことは難しいだろう。なにより、他の馬も競りかけてこない。小細工は通用しないと思った方が良い。富永はそう結論づけて、レースを進めることにした。

 

《コーナーを曲がって向こう正面。先頭7番との差がちょっと開いたか?1馬身から、2馬身後ろの位置にカミノライザンとタニノムーティエ。コーナーを利用して1番が差を詰めてきました!1番から3馬身離れた位置に9番、そして8番。ランザガントレットは位置を押し上げました、ランザガントレットが8番と9番に並びました!じっくりとうかがうランザガントレット、期待に応えることはできるでしょうか?》

 

 タニノムーティエの鞍上、廉田も非常に落ち着いてレースを進めていた。

 

(隣にライバルがおるってのに、不思議なほど落ち着いとるわ)

 

 タニノムーティエも絶好調だ。廉田はほくそ笑む。

 カミノライザンとタニノムーティエの競り合いは続く。

 

「いけいけー!負けんじゃねぇぞ!」

「ムーティエえぇ位置につけとるな。やけど、カミノライザンをそこから抜かすんは厳しいで~!」

「いつものスタイルでもいいと思うんだけどなぁ」

「頑張れ~!カミノライザ~ン!」

 

 声援に包まれるローレル競馬場。ワシントンDCインターナショナルは大盛況だ。

*1
現在の名称はローレルパーク競馬場

*2
大体2400m

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