俺と邪神のクラシック五冠道   作:カニ漁船

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ついに迎える有馬記念。


俺と暮れの中山と有馬記念

 中山競馬場。有馬記念が開催される今日、優に20万に迫ろうかという競馬ファンが押し寄せていた。さらに周辺の施設は今回の有馬記念を放送するために貸し切り状態。それでも溢れるんじゃないか?と言わんばかりのファンが集まっている。

 今回の有馬記念でこれだけのファンが詰め寄っている理由は1つ。現役最強にして、人々の心を掴んで離さなかった名馬──カミノライザンの引退レースだからだ。

 神馬・シンザンの娘としてデビューし、盤石のレースっぷりを発揮してきた名牝。無謀と言われたクラシック五冠の偉業を成し遂げ、天皇賞を制した六冠馬。果てにはレベルが違い過ぎる、と関係者が語った海外のレースで結果を残してきた、まさに日本で活躍した競走馬の中でも最強格であるカミノライザンの引退レース……誰もが現地で見たいと思うだろう。

 ファンはレースが始まるその時が早く訪れないかとワクワクしていた。それと同時に、カミノライザンの引退を惜しむ声も上がっている。

 

「楽しみだな~、有馬記念!確か、出走取消はまだないんだろ?」

「らしいで。やけど……ライザンも引退か」

「仕方ないといえば仕方ないんだけど……やっぱ寂しいぞ!」

 

 今か今かと待ちわびている中、ついにその時が訪れた。

 

「開門で~~すッ!」

 

 門が開くと同時に、一斉に駆け出す。我先にと駆け出していた。

 

 

 運よく中山競馬場に入場することができたファン。後はレースを観ながらメインレースである有馬記念発走の時を待つばかりである。

 

「今回、確か感冒が流行っとるんやろ?カミノライザン出走できるんやろか?」

「陣営は問題ないって言ってたぞ。前日の段階でだけど」

「出走できることを祈るしかねぇよ……頼む~、せっかく入場できたんだ!カミノライザンの勇姿を見せてくれ~!」

 

 祈りながらレースを観戦する。有馬記念の時は少しずつ近づいていた。

 

 

 有馬記念に出走予定だった競走馬達。結果は──全人馬無事に出走できることになった

 これにより、カミノライザン、トウメイ、メジロアサマによる天皇賞馬3頭による有馬記念。加えて、クラシック二冠馬ヒカルイマイ、ダービー馬ダイシンボルガード、菊花賞馬アカネテンリュウという八大競走を制した経験のある馬が11頭中6頭という超豪華メンバーによる有馬記念となった。

 

「「「……」」」

 

 しかし、彼らの目に映るのは……カミノライザンただ一頭。19戦16勝、2着3回。八大競走を制した数は──実に6つ。当然のごとく、今回のレースにおける最注目馬だ。

 突き刺さるような視線を受けるカミノライザンと富永。富永は……非常に落ち着いていた。

 

「……ふぅ」

 

 両の手を見つめ、頬を叩いて気合を入れる。カミノライザンは。

 

(……突き刺さるような視線が痛い。でも、大分マシな気がしないでもない)

 

 マシ、と言える部類だった。

 まもなくパドックの時間を迎える。

 

 

 

 

 

 

 ついに有馬記念のパドックの時間を迎える。

 

「全馬無事出走か!それにしても、豪華なメンバーやな~今日は!」

「カミノライザンだけやない、他もとんでもない馬ばっかやで~!」

「いやぁ、毛艶も良いし良い馬体だ!調整も上手く行ってるみたいだ!」

 

 どの馬も馬体に問題は見受けられない。好調といった様子だった。

 とりわけ目を惹いたのは、やはりカミノライザン。今回も青毛の馬体が人々の目を掴んで離さなかった。

 

「う、うおおぉぉ~……ッ!これが、世界を制してきた馬の姿か!」

「俺、あの時のワシントンDC見に行ったんだぜ?」

「はぁ!?羨ましすぎるやろ!にしてもとんでもない馬体や!」

「馬体も立派、毛艶も文句なし!これは今回もカミノライザンだな!」

 

 カミノライザンの体調問題なし。期待が持てる……そんな状況。単勝支持率は88.1%と圧倒的だった。

 

 

 パドックを終えた競走馬達の本馬場入場が始まる。観客は拍手で出迎えていた。

 

「来た来た~!待ってたぜ~!」

「『これが日本のグランプリ……確かに凄い熱気だ!』」

 

 中山競馬場には、日本人ではなく外国人の姿もあった。彼らもまた、カミノライザンに惹かれて日本へとやってきたのかもしれない。注目馬達に熱視線を送っていた。

 最注目はカミノライザンだが、次に注目されているのはどの馬か?それはメジロアサマ……ではなく。トウメイとヒカルイマイだった

 距離不安を覆して天皇賞馬となったトウメイ、今年のクラシックをその末脚で二冠を制したヒカルイマイ。同じ父を持つこの2頭がカミノライザンの対抗馬として挙げられていた。

 

「頑張れよ~!トウメイ~!」

「応援してるぞヒカルイマイー!カミノライザンに勝てよ~!」

 

 声援も飛んでいる。トウメイは2番人気、ヒカルイマイは3番人気。注目を集めていた。この2頭の実力でもあるのだが、やはりカミノライザンとは真逆の道を歩んできたともいえる2頭。その背景が、人気の要因にもなっているのかもしれない。

 

 

 当初、トウメイは全くと言っていいほど評価されなかった。小柄で貧相な馬体からは「まるでネズミのようだ」とまで評されており、中々買い手がつかなかった。ようやく買い手がつき、預託先も決まって調教が進められる……かと思えば今度は担当する予定だった調教師が急死。代わりに面倒を見てくれる調教師もなかなか現れなかった。

 厩務員もろくにつかず、放牧の際もただ一頭ポツンと放置される日々。誰も彼女の活躍に期待していなかったのだ。

 だが、デビュー戦で2着に入るとその次の未勝利戦で勝ち上がり。その後も6戦4勝と優秀な成績を収めた。クラシックこそ取れなかったものの好走、一時引退してもおかしくない怪我をするが持ち前の勝負根性で現役を続行、ついには天皇賞を制するまでに至った。誰からも期待されなかった小柄な牝馬が、大レースの1つである天皇賞を勝ち取ったのである。

 

 

 それはヒカルイマイも同様である。そもそもが競走馬専門の牧場ではなく、農家の牧場に生まれたためか駿致も満足に行われなかった。そのため気性がとても荒く、父も無名であるがゆえにトウメイ同様買い手がつかない。しかし、何よりも致命的だったのは……ヒカルイマイがサラ系であることだ。血統が不明、父もまだまだ無名の種牡馬、人気が出るはずもなく。廃用になる直前でなんとか買い手がついたレベルである。

 そんなヒカルイマイはデビュー戦を難なく勝つと勢いのままに3連勝。その後は4連敗を喫するがレーススタイルを確立し、きさらぎ賞で初重賞を飾った。

 迎えた皐月賞は、浮き沈みの激しいレース成績が嫌われての4番人気。それでも陣営は関係ないとばかりに大外一気の追い込み戦法で勝利を収めた。サラ系の馬が、クラシックホースに上りつめたのである。

 ダービーの前哨戦、NHK杯を勝利してダービーへ。28頭立てで開催されたダービー、このダービーでヒカルイマイは恐ろしい差し脚を見せた。

 ヒカルイマイはスタートで出遅れ、最後方に近い位置でレースを展開していた。圧倒的不利を背負ったこの状況で、ヒカルイマイはなんと最後の直線だけで22頭をごぼう抜き。見事にダービーを勝ち取ったのである。

 血統不明のサラ系による下克上物語。人々はヒカルイマイに惜しみない賞賛を送った。

 

 

 この2頭に共通するのは、誰からも期待されなかった競走馬であるということ。誰からも期待されなかったが、己の実力を証明しこの舞台へと上がってきたのだ。この背景に、人々は目をつける。

 カミノライザンとはまさに対称的だった。長らく血統背景が不明だったが、明らかになった血統は御料牧場の集大成とも言うべき超良血馬。名門厩舎によって鍛え上げられ、デビュー当初から人気を誇る馬体。なにもかもがトウメイ達とは真逆である。

 クラシックからその強さをいかんなく発揮し、前人未踏のクラシック五冠を成し遂げた六冠馬。日本馬として初めて凱旋門賞とワシントンDCインターナショナルを制した、まさしく神とも言うべき競走馬。確かな血統に疑いようのない実力、全てにおいて恵まれてきたお嬢様ともいうべき存在。

 名門が誇る超良血の神馬VS成り上がりのシンデレラガールVSサラ系の下克上物語。対称的な背景を持つトウメイ達とカミノライザン。そこにストーリー性を見出したのが、人気の要因の一つになっているのかもしれない。今回の有馬記念は、このような形になっていた。

 

 

 返し馬を済ませる各馬。問題なく走っていた。

 

《無事に開催を迎えました、第16回有馬記念。中山の芝2500m、天気はあいにくの曇り空ですが芝は良馬場発表!今回の有馬記念は天皇賞馬3頭にクラシック二冠馬、さらにはダービー馬に菊花賞馬が出走など、11頭中6頭が八大競走制覇の経験がある競走馬11頭が集いました!この豪華メンバー、名レースになること間違いなしでしょう!》

 

 淡々と競走馬達の紹介が始まり、カミノライザンの紹介を迎えた。

 

《そしてそして!海外からこの馬が帰ってきました!歴代史上最多の六冠馬!さらには世界の名だたる競走馬相手にその実力をいかんなく発揮してきた現役最強牝馬、カミノライザン!今回は7枠からの発走、しかしこの馬と富永紘一には全く問題にならないという安心感があります!このレースを最後に引退が決まっているカミノライザン、引退レースでどのような走りを見せてくれるのか?注目が集まるところです!》

 

 悠々と走るカミノライザン。全くと言っていいほど問題はなかった。

 その後も紹介が続いていく。

 

《続いてはトウメイ。当初の評価を覆し、小柄な馬体ながらも持ち前の勝負根性で成り上がってきたシンデレラガール!その勝負根性はこの有馬記念でも発揮できるか?今回は6枠からの発走、鞍上の志水はどのように立ち回るか?》

 

《さらにはクラシック二冠馬ヒカルイマイ!農家に育てられ、サラ系という不利を背負いながらもダービーで見せた【電撃の差し脚】は驚愕の一言!その差し脚で見事に並み居る強豪相手を下すことができるのか?枠は3枠です》

 

《天皇賞馬と言えばこちらも外せない、メジロアサマ!父パーソロンの評価を一転させた葦毛の天皇賞馬、宝塚記念ではカミノライザンの後塵を拝した本馬、この舞台では負けられないという思いがあるでしょう!8枠からの出走となります!》

 

 紹介も終わり、気づけば返し馬の時間も終わっていた。各馬がゲートインへの準備へと入る。

 

 

 ゲートインの時を待ちながら、富永は自身の胸に手をやっていた。

 

(……よし!)

「行こうか、姫……勝ちに

「ブルル」

 

 係員の指示に従ってゲートへと入る。まもなく発走だ。

 

《各馬順調にゲートに収まります。圧倒的一番人気、単勝支持率は驚異の88.1%カミノライザン!それに挑むは、シンデレラガールトウメイとサラ系の星ヒカルイマイ!メジロアサマにメジロムサシの2頭も両にらみ、アカネテンリュウも機会を窺う!そして全馬ゲートに収まりました》

 

 ゲートに収まったのを確認して、係員は左右に散開する。いついかなる時でも、この発走の瞬間は緊張のためか静かになる。静寂の後──ゲートが開いた。馬達が一斉に駆け出す。

 

《第16回有馬記念、世紀の対決が今っ、スタートしましたッ!出遅れはありません、しかしカミノライザンが7枠から誰よりも早く駆け出した!やはりスタートにおいてこの馬に敵う相手はいない!しかし内の方からコンチネンタル、コンチネンタルが出てきました!カミノライザンはっ、控えます控えます。カミノライザンは外からスーッと内へと切り込みます!始まりました有馬記念、年末の大一番!果たしてどのようなレースになるのか?期待が高まります!》

 

 有馬記念、カミノライザン最後のレースが始まった。




始まりました。
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