俺と邪神のクラシック五冠道   作:カニ漁船

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最終話です。


俺と引退とその後

《やりましたやりました!カミノライザンがやりました!中山競馬場は揺れている!凄まじい偉業を達成しましたカミノライザン!なんとなんと七冠馬!父シンザンが打ち立てた偉業を!娘であるカミノライザンが全て超えてみせた!史上最多の七冠馬、シンザンの連対記録19連対を超える20連対!神の娘もまた神だった!カミノライザンがやりましたぁぁぁぁぁぁぁ!!》

「「「うおおおぉぉぉわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」」

《カミノライザンは堂々と佇んでいる!この佇まい、これこそがカミノライザン!凄まじいレースでした!引退レースを見事に勝利で飾ったカミノライザン!おめでとう!2着はトウメイ、3着はメジロアサマ!4着にはメジロムサシ、5着にはヒカルイマイが入線!トウメイ達もまた、素晴らしいレースを見せてくれました!》

 

 レースを終え、トウメイに騎乗していた志水は……驚愕に目を見開いていた。

 

(なんなんだ、あれは……!)

 

 最後の直線で見せつけられた、圧倒的な差。富永は一度も鞭を振るわずに最後の直線を走っていた。ただ手綱を握って、走らせたいように走らせる。なにより。

 

「実際の差は1馬身……なのに!()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……!」

 

 トウメイはカミノライザンの1馬身差2着。5着以内は大体その差で収まっていただろう。しかし、志水達が感じたのはカミノライザンが6馬身も7馬身も先にいるかのように錯覚するほどの歴然とした差である。

 追いつけそうなのに追いつけない、このまま一生追いつけないんじゃないか?と錯覚してしまうほどの強大さ。とても1馬身差に追い詰めているとは思えなかった。

 それは志水以外の騎手も同様である。彼らもまた、カミノライザンと富永紘一の強大さを感じていた。

 

「これが現役最強、ってことかい」

「宝塚よりもさらにえげつなくなってるな……」

「やっぱヤバいわ、あのコンビ」

 

 畏怖を感じる。ただ、それと同じくらい。彼らを祝福する気持ちで満ちていた。拍手を送り、今もカミノライザンの背で泣いている富永へとお祝いの言葉を送る。

 

「うおおおぉぉぉ……!やっぱ寂しいわ~!引退せんでくれ~!」

「もっと走ってくれ~!止めないでくれ~!」

 

 ファンも、カミノライザンの引退を引き留めるような声がチラホラと上がっている。中には泣いているファンもいた。

 だが、もう覆らない。カミノライザンは──この有馬記念を以って引退するのだ。

 

 

 

 

 

 

 インタビューの場。カミノライザン陣営へのインタビューが行われるその場では、嗚咽の声が混じっていた。

 

「ま、まずは。有馬記念の勝利、おめでとうございます。保茂さん、猛田さん、富永さん」

「うん、ありがとうね」

「「……」」

 

 3人には涙の跡が見え隠れしている。先程まで涙を流していたのが良く分かった。

 

「史上最多の七冠馬、海外のレースも合わせると八冠、さらには九冠馬と言っても差支えはないと思われます。これほどの偉業を打ち立てることができたのは?」

「ライザンちゃんだけじゃない、猛田さん達の尽力があってこそだね。猛田さん達がいなかったら多分、達成できなかったと思う」

「そんなん保茂さんも一緒ですよ。保茂さんおらんかったらそもそもクラシック五冠すら不可能でしたわ」

 

 軽口を言い合いながら、和やかなムードでインタビューは進む。そんな中、その話題に触れないわけにもいかず……ついに踏み込んだ質問が出てきた。

 

「カミノライザンは、この有馬記念をもって引退となります。今後のことは?」

 

 カミノライザンの引退。そしてその後のこと……誰もが興味を持つだろう。

 少しの沈黙の後、保茂は答えた。

 

「ライザンちゃんの故郷、五十嵐牧場で繁殖牝馬をする予定だよ。種付け相手は~……まだ決まってないかな?」

「カミノライザン程になると、むしろ種付け料を払わなきゃいけなさそうですね」

「いや~、そこまではいかないでしょ」

 

 記者の機転により、寂しい話題でもユーモアな雰囲気が流れる。

 

「引退式は行う予定でしょうか?」

「今のところはね。シンザンの時と同じように、関西と関東で1回ずつ、2回に分けてやろうかなって思ってるよ」

「ほほう、2回に分けて!それは楽しみですね!」

「うん、きっと豪華になるだろうからさ。楽しみにしておいてよ」

「……俺はもう今から嫌な予感しかしませんわ」

 

 猛田は猛烈に嫌な予感を感じる。こういう時の保茂がヤバいのが分かっているからだ。富永も苦笑いを浮かべている。保茂は納得のいかない表情をしているが。

 

「あ~、それにしても……」

 

 インタビューの最中、ふと保茂が呟く。報道陣も手を止め、保茂の言葉を待っていた。猛田と富永も怪訝な顔をする。

 

「……本当に、終わっちゃうんだなぁ」

 

 寂しそうに、涙を耐えている表情で。ぼそりとそう呟いた。その一言で、今までせき止めていたものが決壊する。

 何とかインタビューを続けていた報道陣も、すすり泣くような声が聞こえ始める。猛田と富永も、また泣いていた。

 その光景を見て保茂は──実感する。

 

(ライザンちゃんは、愛されているんだなぁ……)

 

 本当ならずっと。そう思ってしまうがそうはいかない。これからきっと衰えていくライザンちゃんに、そんな無茶はさせられない。だからこそ、今が退き際。そう自分に言い聞かせる。

 

「俺……俺……ッ!もっと姫と一緒にレースに出たかった!俺と彼女なら、誰にも負けない!だから、だから……!」

「無茶言うなやトミ!そんなん、俺らかて一緒や!やけど……姫のためにも!俺らは笑って送り出さないかんねん!」

「分かってます!分かってますよぉ……っ!」

「……なんか、しんみりさせちゃったね。ゴメン」

 

 このムードを作ってしまったことに保茂は謝罪する。ただ、保茂が悪いというわけではない。それだけ、カミノライザンの引退を惜しんでいるということである。

 

 

 その後もインタビューはしばらく続いて。その夜ではカミノライザン陣営で打ち上げのようなものを行った。

 

「やっぱ姫にはトミがおらんとダメやな~。トミやないと姫の実力は発揮できんわ!」

「そんなの当たり前じゃないですか!姫の屋根は誰にも渡しませんよ~!」

「猛田さん完全に出来上がっちゃってるよ……刈谷さん。電話入れといて」

「はいはい……ま、今日くらいは無礼講、ですよね」

「いや~、楽しいね~!」

 

 月日が経って、カミノライザンの引退式のニュースも飛び交うようになる。彼女の引退を惜しむ声が多数であり、中には海外からも手紙を介してカミノライザンの引退を惜しむ声が届くほどだった。

 そんな状況の中で引退式を迎える。ただ、ファンは心の中では分かっていたのだろう。自分達の心に踏ん切りをつけて、カミノライザンに惜しみない賞賛の拍手を送る。

 

「ありがとーう!カミノライザン!今までお疲れ様~!」

「これからも頑張ってくれよ~!」

「楽しみにしてるからね~!」

(……なにを?)

 

 カミノライザンはファンの言葉の意味が一部分かっていなかったようだが。それでも自分が祝福されていることが分かっているため嬉しかった。

 関西での引退式を終え、今度は関東での引退式となる。ここではサプライズ……で済ませていいわけがない出来事があったのだがそれは割愛。ただ、中央競馬会から次のような通達があった。

 

「実は今回、カミノライザンの名前を冠したレースを設立する予定です」

(ファッ!?)

 

 カミノライザンは驚くが、考えてみれば当然で。

 八大競走を7つ制したばかりか凱旋門賞にワシントンDC国際競走と海外の2つのレースを制した名牝の名前がついたレースを設立しないわけがなかったのである。

 関東でもカミノライザンを讃える声が上がり続け。引退式は無事に終わった。

 さらに月日は流れて──

 

「げん゛き゛でや゛る゛ん゛だぞ~!ひ゛め゛~!」

「泣きすぎや刈谷。いい加減踏ん切りつけろお前は。向こうでも元気でな~!」

「絶対に会いに行くからね!姫!」

「ヒヒ~ン!」

 

 栗東トレセンを退厩し、五十嵐牧場へと帰る日がやってきたのである。

 

 

 

 

 

 

 な~んか、色々とあったなぁ。ま、引退式も無事に終わって万々歳よ!俺の胃と引き換えにな。

 

(まさかよぉ……関東の引退式でさぁ!天皇陛下が来るとは思わないじゃん!?

 

 関東、東京競馬場での引退式にはまさかの天皇陛下が来てくださったのである。心臓止まるかと思ったわ!というか一瞬止まったわ!あまりにもサプライズ過ぎて!

 頭真っ白になった俺。そんな俺が取った行動はというと……天皇陛下を乗せることである。

 

『今思うと、大概とんでもないことやってねぇか?俺』

 

 後世で自慢できるな。天皇陛下を乗せた馬って。誰に自慢するか知らんけど。

 それにしても……生まれ故郷に帰ってきたな~!懐かしいぜ本当!そして、ここからは悠々自適な生活が待っているんだ!ま、頑張ったんだしこれぐらい許されるだろ。

 

『でもな~んか()()()()()()()()()()()()~』

 

 引退式の時もファンからこれからも期待しているぞ~!って声があったし。なんだっけな?……まぁいいや。思い出せないし。

 それにしても。我ながらここまで来るとは思わなんだ。

 

(初めは酔っ払いのアホみたいな発言から始まった、アホの挑戦だったな)

 

 クラシック五冠という誰も成しえたことのない偉業。その偉業への挑戦をクソ神に聞かれたのが運の尽き。俺は牝馬に転生して走ることに。なんでこんなことになった!?と思わずにはいられなかった。

 ま~達成できなかったら来世が悲惨なことになるから頑張らざるを得ないわけで。必死こいて頑張った。ライバルとかいたな~。一番の強敵はタニノムーティエの野郎だったが。

 

(そういやアイツ、無事に日本に帰ってこれたのかね?俺らよりも後に帰ってきたはずだけど)

 

 ま、クソ神がその内報告しに来るだろ。

 タニノムーティエやアローエクスプレス、タマミにメジロムサシ、海外と言えばミルリーフ。色んな相手と戦ってきたもんだ。それでもクラシック五冠を成し遂げて。その後の俺達の目標は……いけるとこまでいこう、ということで天皇賞制覇と有馬記念制覇を目標に掲げる。なお、そこに凱旋門賞とワシントンDCが追加された模様。

 

『冷静に考えてフランスの凱旋門賞からアメリカのワシントンDC走って、最後に有馬記念ってとんでもねぇクソローテで走ってんな?』

 

 なんだこれは?世界を股にかけた秋古馬三冠か?冗談キツイぜ。いや、全部勝ったんだけども。ワシントンDCに関しては同着だけど。

 適当にゴロゴロして過ごす俺。月海母さんは離れたところで俺を見守っている。いや~、引退ライフサイコー!

 

(……しかし、なんだ?この、さっきから俺を襲っている悪寒は?)

 

 重大な何かを忘れているような、そんな気を感じさせる。おかしい、なんだ……何を忘れているんだ俺は!?

 まぁさっきも思考を放棄したので今回も放棄だ放棄。そこまで重要じゃないってことだろ。

 

「いやぁ、元気そうだねライザンちゃん」

 

 お、この声は。

 

『保茂じゃねぇか。引退式ぶりだな』

「ごめんね~。ちょっと手続きとか諸々あってさ」

 

 コイツも忙しい身だ。特に気にしてない。

 さてさて、今回は何の用があってきたのだろうか?なんか封筒持ってるけど。

 

『ところで、その封筒はなんだ?やたらニコニコして嬉しそうだけど』

 

 俺はこの時の自分の発言を生涯呪うだろう。いや、どうせ避けようのないことだから仕方ないんだけども。でもこのバカみてぇな質問をした自分をぶん殴ってやりたかった。

 いまだニコニコ顔の保茂。その口から出てきた言葉は──

 

「これ?これね~……ライザンちゃんのお見合い写真!

 

 ……あっ。

 

「どの子が良い?選り取り見取りだよ?」

 

 待て、待ってくれ!お願いだから待ってくれ!

 

「アローエクスプレスでしょ?スピードシンボリなんかもいるねぇ」

 

 そうだそうだ!そうだった!俺の性別は……現在の性別は!

 

「海外からもオファーが来てるんだよね~。ほら、ニジンスキーなんかも是非!って言われてるんだ!ノーザンダンサーとか~」

『嫌だぁぁぁぁぁぁ!?!?』

 

 そうだよ!俺の性別雌じゃん!?ということは、俺にこの先待っているのは……!

 

(繁殖牝馬生活……!)

 

 今なら分かるぞ、ファンの期待してるぞの意味が!そういうことかよ!?

 

「嫌、って言われてもねぇ……ライザンちゃんの血を残さないといけないし。ほら、選り取り見取りだよ?」

『うるせぇよバカ!メス堕ちなんぞしとうない!』

「メスじゃん今の君」

 

 生物学上そうだけども!ごもっともだけど!後馬の写真見せられたからなんだよ!?それで人が発情するとでも思ってんのか!?馬だけど!

 

『イヤッ!イヤッ!イヤー!』

「嫌じゃないよ。ホラ、なら僕が選んであげよっか?う~ん、初年度だから安牌を攻めたいよね~。やっぱりノーザンダンサーかニジンスキー?日本ならアローエクスプレスもいいんじゃない?」

 

 やだー!嫌だー!

 

「あ、こら!逃げないでよ!逃げたところでなんも変わらないよ!」

『うるせぇバーカ!んなこと分かってんだよ!』

 

 その後も俺は牧場を駆けまわり続け……最終的にどうしようもないことを悟る。

 

『……なんだろう、死刑が確定するのを待つ囚人の気分だ』

「大丈夫大丈夫、一瞬だから」

『俺の尊厳がなくなりそうなんだよ!?』

 

 クッソ!鋼の意思で絶対に耐えてやるからな~!

 

 

 

~fin~




あとがきは活動報告にて。
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