俺と邪神のクラシック五冠道   作:カニ漁船

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ついに登場最大の壁。


俺と強敵とレース

 京都3歳ステークスに向けて調教を重ねるカミノライザン。

 調教は順調そのものであり、後はレース前に体調を崩すことを除けば順調にいけるだろう。

 だが、猛田は今回のレースに懸念点があった。それは──()()()()()()()()という馬の存在。

 

(現在西の代表格は2頭おる。1頭はウチのカミノライザン。やけどそれよりも注目されとんのが……タニノムーティエ

 

 まぁ実際えらい馬やしな~、と1人愚痴る猛田。

 タニノムーティエ。タントリー牧場の方針であるスパルタトレーニングを生き残った内の一頭。現在時点で7戦5勝である。

 加えて、オープンレースを2勝。紅葉盃は4着だったがそれも道中2度不利を受けてのことだ。

 

(後方からの競馬ゆえに展開に左右されやすい……やけどタニノムーティエは)

 

 その不利を覆すほどの末脚を持っている。

 今のカミノライザンなら五分の勝負ができるかどうか。それが猛田の見立てだった。

 

(どっちかっちゅーと姫の方が有利や。姫の競馬は王道も王道やからな)

 

 それで測れない何かがあるのが競馬なのだが。

 とにかくこの一戦は大事だ。どちらが関西を代表する馬になるか、現時点でどちらが上なのか……それが分かるレースだ。

 もう一つ気になる点。

 

「保茂さん、タニノムーティエがクラシック最大の壁になる言うてたけど……まさか姫は()()()()()()()()()()?」

 

 前に保茂が言っていたこと。その言葉を猛田は疑問に思っていた。

 普通、牝馬ならば桜花賞に進ませるだろう。それが鉄板だ。

 桜花賞は牝馬限定戦。牡馬であるタニノムーティエは勿論出走できない。

 しかし保茂はこういったのだ。

 

「ウチのライザンちゃんの障害になるのは、タニノムーティエだろうね~。次点でアローエクスプレス?」

 

 保茂が挙げた2頭。この2頭は()()()()()()()()()

 

(アローは関東の馬。しかも牡馬や。なんでそっちに注目してるんやろか?)

 

 しかも、保茂は良く分からないローテを組んでいた。

 

「京都3歳ステークスが終わったら、次は中山の3歳牝馬ステークス?よう分からんローテ組むなあの人」

 

 連闘になるし、しかも関西から関東への輸送だ。その問題が立ちはだかる。

 調教師の立場として反対した。馬のことを考えているのか!と。

 だけど保茂は食い下がった。なんとしてでも出走させたい、そんな意思を感じさせるほどに。

 

(……まぁ姫はある程度コントロールできとるし、できんことはないやろ。やけどホンマにどうしてなんや?)

 

 ……なんとも言えんわ、最終的に猛田は思考を打ち切った。

 カミノライザンの調教は順調に進んでいる。京都3歳ステークスは大丈夫だろう。

 牡馬と牝馬の差。斤量差があるが、それがどこまで有利に働くか。そこが焦点になる。

 3歳牝馬ステークスの方は京都3歳ステークスの状態を見てになる。それに関東への輸送にカミノライザンが耐えられるかどうかも分かるしデメリットばかりではないだろう……なにも連闘じゃなくてもいいだろ、そう思わずにはいられないが。

 

 

 

 

 

 

 さ~てさて、そろそろ次のレースが近づいてくる頃でござい。

 にしても、次のレースでついにアイツが来るのか。

 

(タニノムーティエ……幻の三冠馬と呼ばれた、関西の雄)

 

 スタートがそんなに上手くないのか後方からレースを展開する馬だ。

 これがま~強い。ダービーまででとんでもないくらいレースを使ってるし、しかもほぼ勝ってる。関東の雄であるアローエクスプレスと合わせてA・T世代なんて言われてた。

 皐月とダービーの直接対決は全てタニノムーティエに軍配。前哨戦はアローエクスプレスが勝っているものの、大レースはタニノムーティエが勝った形だな。

 というか末脚がえげつない。この時代は36秒台出せれば優秀な差し馬と言われている時代で、タニノムーティエがとあるレースで記録したタイムは──驚異の34秒台。

 勿論これは推定のタイムであり本当のことかどうかは分からねぇ。だけど、それだけタニノムーティエの時計は衝撃的だったってことだ。

 

「そもそも、タニノムーティエが三冠を逃したのも喘鳴症が原因、なんて言われてるくらいだからね~。それさえなければあるいは、と思わせるような馬だった」

『んだな。だからこそ、幻の三冠馬なんだろうが』

 

 病気さえなければ、そんなたらればを語りたくなるような名馬。それがタニノムーティエ。

 で、それが俺の次の相手な訳だが……。

 

『今から緊張でお腹痛くなってきた……』

「いつまでたっても慣れないねぇ。そろそろ4戦目だよ?」

『わ、わーってるよ!』

 

 でもそういうもんだからしょうがねぇだろ!

 と、とりあえず今のうちに聞いておこう。

 

『なぁクソ神。ちょっと聞いていいか?』

「うん?どうしたんだい?」

 

 これはクラシック五冠を目指すうえで聞いておきたいこと。というか、やっておきたいことだ。

 

『俺の関東遠征はいつ頃からだ?』

 

 この時期の長距離輸送はかなり厳しかったはずだ。

 というか、北海道から関西に来るまでもかなり大変だった。あれをまた経験しなければいけない。

 なら早めに慣れておいた方がいい。桜花賞は阪神、それから1週間後の皐月賞は中山だ。

 

(……冷静に考えて、この時代にクラシック五冠はとんでもねぇなマジで)

 

 道路の整備だって俺の前世よりも悪いだろうし、輸送車の性能もかなり型落ちのはずだ。そんな状況で体調に影響が出ないわけがねぇ。

 クソ神もクソ神なりに懸念しているだろう。前も愚痴ってたし。

 

「一応考えてはあるよ。ただ賞金の関係で大分レースが絞られててねぇ」

『あ~、そっか。それもあるのか』

 

 賞金のこと忘れてた。

 

「今考えているのは3歳牝馬ステークスかな?京都3歳ステークスの1週間後」

『ほ~ん、連闘ねぇ。良いんじゃない?』

「お、悪く言われると思ったのに好反応。理由は分かるけど」

 

 当たり前だろ。桜花賞から皐月賞で連闘だぞ?だったら、同じようなローテで慣れておく方がいいだろ。

 ま、問題としては猛田さん達だよな。

 

『猛田さんの許可はもらえたのか?』

「凄く嫌そうな顔されたよ。最終的には君の体調を見てになるだろうね」

『ま、マジかよ!?じゃあ頑張らねぇと……!』

 

 俺の結果次第では走ることができなくなるのか!しかもこれを逃せば次機会があるかは分からない状況……や、やるしか!

 

『ぐおおぉぉぉ……!は、腹が……!』

「あんまり気張らないでよもー。体調悪くするんだからさ」

 

 ほ、本当だよ……!

 

 

 

 

 

 

 迎えた京都3歳ステークスの日。

 この日は2頭の馬が注目されていた。

 

「ついに関西最強の2頭が激突やな!」

「俺はタニノムーティエ軸や!あの末脚はごっついで~!」

「分かってへんなぁ。こういうんはロマンや!俺はロマンを求める!カミノライザンの単勝や!」

「アホやコイツ!牡馬と牝馬の差はデカいっちゅうねん!」

 

 カミノライザンとタニノムーティエ。関西最強格の2頭の初顔合わせ。それもあってか、京都競馬場はいつも以上に賑わっていた。

 もっとも……現在進行形で雨が降っており、馬場も不良馬場での開催となっているのだが。

 

《空はあいにくの雨模様、雨模様であります京都競馬場。芝1600m、馬場は不良馬場開催であります。今回注目されているのはやはり、やはりこの2頭でしょう。1番人気カミノライザン。そして2番人気のタニノムーティエ。この2頭が抜けた人気を誇っております。どちらも関西の代表格、スパルタの鬼が勝つのか?それとも女王が勝つのか?各馬順調にゲートへと収まっています》

 

 カミノライザンの鞍上である富永は少し緊張していた。

 

(今回がライザンと挑む初めてのオープンレース。き、緊張する……!)

 

 タニノムーティエとカミノライザンの実力は拮抗している。それが猛田調教師の見立てだ。

 タニノムーティエに勝てるかどうかは自分の騎乗に掛かっている。そう考えると緊張するのは仕方なかった。

 そんなカミノライザンを見る騎手。タニノムーティエの鞍上廉田だ。

 

(同門かて容赦はせんで、富永)

 

 富永を一睨みしてタニノムーティエの返し馬を済ませる。……もっとも、タニノムーティエがカミノライザンをジッと見ていたので少し手間取ったが。

 

《各馬順調にゲートへと収まります。この二強対決はどちらに軍配が上がるのか?軍配が上がった方が、関西の代表となるでしょう。全馬ゲートに収まります》

 

 最後の馬がゲートに入る。しばらく待った後、ゲートが開いた。

 

《雨の中発走となります京都3歳ステークス!どちらが関西の雄に相応しいか、その決戦であります!外枠カミノライザンは好スタート、タニノムーティエは出遅れたか?カミノライザンは気持ちのいいスタートを切って先行争いに加わります。逃げるのはゼットアロー、ゼットアローが単身逃げます。そこから離れること2馬身程の位置、この位置につけますカミノライザンとウメノダイヤ。やはり逃げ馬を見る形カミノライザン》

 

 逃げ馬を見る形でレースを展開するカミノライザン。壁にならないような位置取り、自らのポジションにつく。

 富永はタニノムーティエの末脚を警戒する。

 

(警戒するならタニノムーティエの末脚だ。ただ、この馬場で本来の力は発揮できない。どれだけ差をつければいいかは分かる!)

 

 カミノライザンも冷静そのものだ。慌てていない。

 レースは淀みなく進んでいく。逃げ馬を見る形で道中4番手の位置につけているカミノライザン。先頭走るゼットアローは2番手に3馬身はつけている。

 タニノムーティエは後方集団に位置している。前へ進出する機会をうかがっていた。

 レースが動いたのは600mを切ってから。

 ここで後方集団に位置していたタニノムーティエが仕掛けた。前へ前へと進出してくる。

 

《残り600を切ります。京都3歳ステークス、残り600を切ります。ここでタニノムーティエが動いた!タニノムーティエが動きました!タニノムーティエ、その末脚は驚異の一言!さぁここから捲ってくるぞタニノムーティエ!前はまだ動かない。前はまだ動かない!タニノムーティエぐんぐん上がってくる!まもなく最後の直線、最後の直線です!》

 

 カミノライザンの鞍上である富永はまだ動かないつもりだった。だが、カミノライザンが突如として進出を開始した

 

(っ!?どうしたんだ、ライザン!まだ動かなくても!)

 

 手綱を抑える富永。しかしカミノライザンはお構いなしに上がろうとする。

 何かを感じ取ったのだろう。けどこの不良馬場で体力も消費する。無理させるわけにはいかない。

 それに先頭のゼットアローも落ち始めた。まだ動くのは早い。そのため富永は必死に手綱を抑えた。カミノライザンも、最終的には従った。

 富永の読みは当たっていた。400を超える頃にはゼットアローが落ち始め、他の馬も体力の消費が著しいためか思うような末脚がない。

 これを好機と捉え、富永は鞭を入れる。カミノライザンは4番手からするっと抜け出した。その差を徐々に詰めていき、200を切る頃にはゼットアローを捉えた。

 

(良し、このままっ!)

 

 そう思ったのもつかの間だった。

 背後から凄まじい圧を感じる富永。その圧を感じて、後ろをちらりと見る。

 そこには──後方から捲って上がってきたタニノムーティエがいた。

 

《残り200を切ってカミノライザン先頭!やはりこの馬は強い!だがしかし!ここでタニノムーティエが射程に捉えた!タニノムーティエがカミノライザンを射程に捉えた!これはすんごい脚!やはりタニノムーティエこの末脚は一級品!差を詰めるタニノムーティエ!逃げれるかカミノライザン!》

 

 最初に抱いたのは困惑。

 

(っえ?いやいや!?)

 

 いくらなんでも速すぎる!?そう思う富永だが今はレース中。

 カミノライザンに鞭を入れて手綱を必死に押す。カミノライザンもそれに応えるように走る。

 だが、タニノムーティエの方が速い。必死に粘って走るカミノライザンだが、残り100を超えた辺りでついに捉えられ。

 

「あっ……」

 

 そんな気の抜けた声とともに、カミノライザンは差し切られた。

 

《ここはタニノムーティエ強かった!京都3歳ステークスはタニノムーティエに軍配が上がった!タニノムーティエがクビ差で差し切った!カミノライザンは惜しくも敗れる!これが牡馬と牝馬の差なのか!カミノライザンは惜しくも敗れました!》

 

 カミノライザンはレース後すぐに走るのを止める。いつものことだ。

 鞍上の富永は項垂れる。

 

(判断を、誤った……)

 

 タニノムーティエの末脚は、富永の予想を超えてきた。

 この馬場では発揮できない?これだけ差をつけていれば大丈夫だろう?

 

(そんな、甘い考えをしてるから……!)

 

 最後に差し切られた。富永はそう自戒する。

 カミノライザンなら、もう少し早めに仕掛ければ勝てていたレースだった。これは自分がタニノムーティエの末脚を侮っていたからもたらされた敗北。

 そもそも、カミノライザンは早めに動こうとしていた。だけど、自分がそれを邪魔した。

 

(カミノライザンは分かっていたんだ。タニノムーティエなら、上がってくるって)

 

 それを邪魔したのは……他ならない自分だ。

 カミノライザンは問題ないとばかりに佇んでいる。全然疲れた様子をみせていない。つまりは、余裕はあったということ。

 

「……ごめんな、ライザン。お前のことを信じてやれなくて」

 

 懺悔するように、ライザンに話しかける富永。

 カミノライザンは気にするな、そう言わんばかりに富永の身体を揺らす。思わず笑みを零した。

 

カミノライザン。京都3歳ステークスにて初敗北

 

 

 

 

 

 

 なお、当のカミノライザンはというと。

 

(ムッキー!次こそは勝っちゃるからな!覚えとけよタニノムーティエコラァ!)

 

 表には出さないもののタニノムーティエへのリベンジを誓っていた。




主人公ちゃん初敗北。
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