俺と邪神のクラシック五冠道   作:カニ漁船

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引退後の小話。


独占インタビュー

 今回我々は、カミノライザンが暮らしている五十嵐牧場を見学できることになった。

 

──本日はよろしくお願いします

 

「いえいえ、こちらこそよろしくお願いします。富永さんも、よく来てくださいました」

「あはは、来ちゃいました」

 

 我々テレビ局の人間以外にも、今回は特別ゲストとして富永紘一氏に来てもらっている。かつてカミノライザンと共に駆け抜けた唯一無二の相棒。カミノライザンを語る上で外せない、天才ジョッキーだ。

 

「ですが、くれぐれも!他の馬やカミノライザンをあまり刺激しないようにお願いします!良い画を取りたいがために、行動しないでくださいね!」

 

 そう釘を刺してくる牧場長。勿論、我々としてもウマを怖がらせてしまうのは本意ではない。なにより、カミノライザンに関してはマスコミ関係で一度やらかしている。だからこそ細心の注意を払わねばならない。五十嵐氏の言葉にスタッフ一同、深く頷いた。

 五十嵐牧場内を歩く。機材は最小限にとどめていた。

 

──牧場でのカミノライザンは?

 

「もう繁殖牝馬も引退してますからねぇ。穏やかに暮らすようになりましたよ。娘であるノヴァスターダストと一緒に、良く過ごしてますよ」

「現役生活ではずっと張りつめてましたから、ちょっと想像できないなぁ。ゆっくりしているひ……ライザンは」

「富永氏はちょっと想像しづらいかもしれませんね。ただ、今日はオフの顔を存分に見ることができるかもしれませんよ?」

 

 そう言って笑う五十嵐氏の表情は朗らかだ。

 カミノライザンはつい先日、繁殖牝馬を引退した。今は功労馬として五十嵐牧場で余生を過ごしている。

 

──期待値は高かったですが、凄い子が出ましたね

 

「我々としては、無事に出産してくれただけで万々歳ですよ。それがま~、あんなに立派な子を出してくれて……本当に感無量です」

「ノヴァスターダストの有馬記念は俺も観てました。いやぁ、思わずこぶしを握り締めて応援しましたよ。頑張れ!って」

「あの子もまぁ、世間の声に負けずに頑張ったものです。富阪騎手と一緒に、頑張ってくれました」

 

──メジロ牧場やシンボリ牧場にも子がいるとか

 

「あぁ、そうですね。ただ、どちらもあまり良い結果は残せなかったみたいで……。けど、両牧場で可愛がってもらってるみたいです」

 

 歩いている途中でインタビューをしていると、ついに辿り着いた。カミノライザンの放牧地へ。スタッフに緊張が走り、富永氏も心なしか顔が強張っているように見えた。どことなく嬉しそうにも見える。

 

「もうすぐ放牧の時間なので、出てくると思いますよ……あ、ほら!出てきました!」

 

 そういう五十嵐氏が指差す方向へと視線を向けると──あの伝説的名馬カミノライザンが姿を見せた。現役の時よりも少しぽっちゃりとしているようにも感じられるが、それ以上に感じるのは……気品。引退しても尚、カミノライザンの馬体からは人々を魅了するようなオーラに溢れていた。青毛の馬体は、とても引退しているように見えないほど輝いている。

 カミノライザンがこちらに気づく……というよりは、富永氏に気づく。厩務員の手を離れると、一目散にこちらへと駆け寄ってきた。久しぶりに会ったであろう己の相棒に、カミノライザンは嬉しそうに顔を寄せていた。

 

──久しぶりに相棒に会えて嬉しいみたいですね

 

「ですね。一目散に富永さんのとこ行っちゃいましたから。カミノライザンも会いたかったんだと思います」

「嬉しいですね……わっぷ、あはは!」

 

──確か、富永さんの息子さんも乗ったことがあるのだとか?

 

「そうですね。小学生ぐらいの頃だったかなぁ?そのくらいの頃に乗ったことがありますよ」

 

 そんな富永氏の息子も、もうじき騎手としてデビューすると聞いている。果たしてどのようなジョッキーになるのか、今から楽しみだ。

 

 

 放牧地へと足を踏み入れると、カミノライザンの他にもチラホラと見受けられる。そんな中、カミノライザンに駆け寄るように寄ってきた馬が一頭。

 

「この子がノヴァスターダストですね。ほら、父譲りの流星があるでしょう?」

「本当だ。テンポイントも懐かしいですね~」

 

 【流星の貴公子】テンポイント。トウショウボーイやグリーングラス、クライムカイザーらとともに時代を彩った名馬。そんなテンポイントを父に持つノヴァスターダストは、カミノライザンのことが大好きな子らしい。

 

──ノヴァスターダストはカミノライザンにべったりですね

 

「えぇ。ほとんど離れることはないですね。子供の世話に関しても、カミノライザンがしっかりと教えてるみたいで。それにスターダストもライザンも子供が大好きですから」

 

──エンタープライズとの仲は?

 

「これから見れば分かりますよ……あ、ホラ。来ましたよ。エンタープライズです

 

 五十嵐氏の指差す方向には、燃えるような赤い栗毛の馬体が特徴的な名馬──【三代目ビッグ・レッド】エンタープライズがいた。どうやら少しの間こちらに来ているらしい。我々は、なんとも奇跡的なタイミングでカメラを回せたようである。

 さて、エンタープライズの馬体はカミノライザンに勝るとも劣らない馬体だ。いや、エンタープライズの方が大柄だろう。そんなエンタープライズは……ノヴァスターダストの後ろをとことこと歩いていた。

 

──現役時代とはかけ離れた、可愛らしい姿ですね

 

「ココではいつもあぁですよ。お姉ちゃんとお母さん、というよりは家族が大好きみたいで。いつも後ろをトコトコと着いて行ってます」

「ノヴァスターダストもカミノライザンも、まんざらじゃなさそうですね」

「特にスターダストは私についてこーい、みたいな感じで。エンタープライズを可愛がってます」

 

 かつて米国と欧州を蹂躙した英雄も、家族のこととなるとべったりらしい。微笑ましい画だった。その後もカミノライザンは放牧地で穏やかに過ごしており、とてもリラックスしている画が撮れた。自身の子であるノヴァスターダストとエンタープライズと並んで寝転んでいる画は、今回のベストショットだろう。

 

 

 放牧地でカメラを回すのも程々に、本題であるインタビューの方へと移ることにした。

 

──当歳馬の頃のカミノライザンは?

 

「いつも一頭でいるような子でしたね。あまり他と関わろうとしないというか、一頭で黙々と走るのが好きな子でした。ただ、他の馬が嫌いだった、みたいなことはないですね」

「当歳馬の頃から自分で鍛えてたのか……そりゃ凄い」

「もしかしたら、そうかもしれませんね、はい」

 

──現在世界唯一のクラシック五冠馬。ですがやはり、心配だった日もあるのでは?

 

「そりゃあ勿論!私達としては、月海の可愛い可愛い子ですから……オークスが終わった後なんて心配で心配で……!あんなに疲れたあの子は見たことがなかったから……」

「その節は本当にご迷惑をおかけしました……」

 

 カミノライザンに騎乗し、無茶をさせた側である富永氏はバツが悪そうに頭を下げる。その様子に牧場長は慌てて言葉を紡いだ。

 

「いえいえ!保茂さんもあなた方も、カミノライザンのために一生懸命頑張ってくれたのは知ってますから!ただ、それでもやっぱり心配で……」

 

 五十嵐牧場の人々にとって、カミノライザンという馬は本当に可愛い子だったのだろう。言葉の一つ一つからそれが読み取れる。

 

──無事に走り切って、五十嵐牧場に帰ってきた時は?

 

「本当に嬉しかったですねぇ。しかも、色んな称号を引っ提げて帰ってきたわけですから。グレード制だとG1を10勝、八大競走の事実上完全制覇、日本調教馬として初の凱旋門賞制覇、ハリウッドで映画も制作されましたし」

「ハリウッドの映画は日本の吹き替え版も出ましたよね。俺もビデオ持ってますよ」

「勿論私も持ってますよ。アメリカでも大人気だったみたいで。海の向こうでもカミノライザンは人気なんだって思うと、感慨深いですね」

 

──引退式では天皇陛下がサプライズでお越しくださいましたね

 

「いや、あれはもう心臓が止まるかと思いましたよ!まさか来ていただけるなんて!?って気持ちが大きかったですねぇ」

「俺もビックリしましたよ。保茂さん以外には知らされてなかったみたいで、猛田さん達も凄く驚いてました。しかもカミノライザンの背に乗りましたから……後にも先にもライザンだけだと思いますよ、天皇陛下を乗せた馬だなんて」

 

 2回に分けて行われたカミノライザンの引退式。関東の引退式では天皇陛下がお越しくださった。その場に集まった全員の度肝を抜き、事件とまで称されたほどである。

 

──繁殖牝馬の最初の頃は、大変だったとか?

 

「あ~……確かに大変でしたねぇ。ライザンは種付け自体がそんなに好きじゃないのか、凄く嫌がってて。滅多に暴れないあの子が暴れてたから、今でも覚えています」

「暴れまわるライザンって想像がつかないなぁ」

「ただ、最後には大人しく種付けされて。出産の時も暴れることはなかったですから。本当に種付け自体が嫌いだったんだと思います。もしかしたら、自分より弱い牡馬に種付けされるのが嫌だったり?」

 

 少し茶目っ気を出すような五十嵐氏。表情は笑顔だった。

 

──繁殖牝馬時代のカミノライザンの印象は?

 

「現役時代とそんなに変わらなかったですね。いつも気を張り詰めてて……だからこそ、今あぁやって穏やかに過ごしているのが嬉しいんですよ」

「繁殖牝馬時代は一度だけ会いにいきましたけど、確かにそうですね。気を張ってました」

 

 富永氏にも覚えがあるらしい。どうやら、繁殖牝馬時代のカミノライザンは現役時代と同じく油断ならなかったのだろう。

 

──カミノライザンの印象は?

 

「我慢強い子、ですね。嫌って言わない、責任感の強い子です」

「俺も同じ感じですね。真面目で責任感が強くて……」

「後凄く食べる子ですね。牡馬よりも食べますよ、あの子は」

「刈谷さんも言ってたなぁ。ライザンに蹴られそうになってましたけど」

「その分運動するので。今もたまに走ってますよ」

 

──何か思い出深いエピソードは?

 

「そうですねぇ……あの子、他の馬からのアプローチにたじたじになっていることが多かったですね。色んな牡馬に言い寄られてましたけど、戸惑ってました」

「それはちょっと微笑ましいですね。あんまり想像できないや」

「レース時代は牡馬も一蹴する女傑だったのに、引退したらアプローチに戸惑う女の子。カミノライザンの二面性を垣間見た気分です」

 

 どうやら最強女王も恋愛面は弱かったのかもしれない。面白い話が聞けた。

 

 

 その後もインタビューは続く。牧場時代の話、そして富永紘一氏の話。富永氏は今度、自著を出版するらしい。そちらも非常に楽しみだ。

 

──本日はお忙しい中ありがとうございました

 

「いえいえ、良い番組になること、楽しみにしていますね」

 

──プレッシャーですね。勿論、満足いただけるような作品に仕上げるつもりです

 

「それは楽しみだ。今日はありがとうございました」

「俺も、久しぶりにライザンに会えて楽しかったなぁ。本当に良い子だ」

 

 富永氏も満足いただけたようである。

 こうしてカミノライザンを育てた牧場、五十嵐牧場への独占インタビューが終わった。余談だが、このドキュメンタリーがとんでもない視聴率を叩き出したのはここだけの話である。




アプリでメインストーリー第2部が始まり。トレーナーがあの人と話題になっているのでこの世界での期待について考えてみる。

・父は同一年クラシック五冠を成し遂げた初の騎手
・日本人として初めて凱旋門賞を勝利
・史上最速で八大競走を全て制覇(ジョッキー5年目)
・戦後最年少でダービー制覇
・クラシック五大レースの内、菊花賞以外は初挑戦で制覇
etc.etc……

……期待が重すぎるってレベルじゃねぇぞオイ!

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