4/10 キングカメハメハのレコード勝ちの文を削除。
メジロアサマから続く三代天皇賞制覇。メジロアサマの子メジロティターン、そしてメジロティターンの子メジロマックイーンが成し遂げた大記録である。こうなると、是が非でも期待したくなるのが四代天皇賞制覇だ。その期待に見事応えたのが、メジロマックイーンの子メジロクロノスである。
母がカミノライザンの血を引くメジロアルビダ、母父がグリーングラスという血統。母母は偉大なる名牝ノヴァスターダストであり、メジロアルビダ自身は3戦目で未勝利戦を勝ちあがったものの、12月のクラシックシーズンに故障。そのまま繁殖入りとなった。
メジロアルビダは体質が弱く、生まれた子もほとんどが病弱。それは、メジロクロノスも例外ではなかった。
「大変です!アルビダの子の容態が!」
「
2001年4月22日に生まれたメジロクロノスだが、デビューまでに二度命の危機に瀕した。一度目は1歳を迎えた放牧中に疝痛を発症。なんとか回復はしたものの、その後も身体の弱さは変わらず。快復に向かうまでは油断ができない状態だった。
それでも何とか元気になり、さぁデビューを……と考えていた頃に、今度は原因不明の高熱に見舞われる。またも厳戒態勢が敷かれることになり、デビューどころの騒ぎではなくなった。関係者がなんとか生きてくれ!と祈る状況、獣医も最悪を想定していたが……。
「か、快復しました!アルビダの子、快復してます!」
「本当か!?~~~ッ、良かったぁ~……!」
なんとか奇跡的に快復。ただ、デビューに関しては大幅に遅れることになった。いや、生きてくれているだけでも良かったのだろう。関係者はほっと胸をなでおろしたと回顧している。
調教が進められていくことになったアルビダの子改めメジロクロノスだが……これがまぁ
「なんというか……ズブいな」
「えぇ。メジロブライトに匹敵しますよ、これ」
見た目はメジロマックイーンを一回り小さくしたような葦毛の馬。馬体も別段悪いというわけではなく、纏まっている印象があったのだが……どうにも反応が鈍かった。スタートも下手で、エンジンがかかるのも遅い。それでもなんとかゲート試験を突破し、どうにかデビューにこぎつけたレベルである。
そしてデビューすることになったメジロクロノスだが。デビューは遅れての3歳の2月。鞍上に倉敷という騎手を迎えて新馬戦は2着とまずまずの好走、3月の未勝利戦で勝ちあがった。ただ、当然皐月賞に間に合うはずもなく、コツコツと勝ち星を重ねていくことを選択。
しかし、あまりにも反応が悪く中距離のオープン戦でも入着するのがやっとといった具合だ。二度命の危機に瀕していたとは思えないほどに怪我も病気もしなかったが、2400mでも距離が短いと言われるほどにエンジンのかかりが遅かった。勝ち星が足りない上に大事に使われていたため、勿論ダービーに出走できるはずもなく。日本ダービーと同日のレースである青嵐賞で5着に入っていた。なお、この時の日本ダービーはキングカメハメハの勝ちで決まった。
「なんとか菊花賞には出走したいよな~」
同世代がそんな激闘を繰り広げている中、メジロクロノス陣営は菊花賞には出走したいと思う。メジロマックイーンとの二代菊花賞制覇を成し遂げてみたいと考えていた。ただ、今の状況だと獲得賞金が足りないためどうにかこうにか出走にこぎつけようとする。コツコツと勝ちを積み重ねて、どうにか菊花賞への出走権を得た。
とはいっても、ファンはあまり期待していない。
「マックイーンの子だし、長距離強いとは思うけどね~」
「ブライトの例もあるから一概には言えないけど、あのズブさはいかんでしょ」
「ま、ハーツクライだろ。クロノスは切りで」
レース内容がほとんど棚から牡丹餅だっただけに、あまり評価はされていなかった。一応長距離血統だからちょっと多めに見とくか~、を加味してもである。
ファンとは対照的に、陣営は自信をもっていた。
「メジロマックイーンの子だし、さらにはグリーングラスの血もあるから長距離には絶対強い!自信がある!」
と、太鼓判。本当に大丈夫か?と思われていたが──陣営の予想が大当たりすることになる。
迎えた菊花賞は11番人気。1番人気はハーツクライである。レースはブルートルネードがハナを切る展開かと思われたが、コスモバルクが我慢できずにハナを奪い逃げる形。8番人気のデルタブルースが先行勢の後ろにつけて隙を窺い、ハーツクライは後方からのスタート。メジロクロノスはというと……スタートダッシュに失敗して最後方からのスタートである。元から追い込み馬なのであまり関係はないのだが。
最初の1000mは60秒4というやや速めのペース。中団ではコスモバルクも落ち着いたのかペースダウンした。レースが動いたのは向こう正面半分を過ぎた頃……メジロクロノスが進出を開始した。
《向こう正面を進みます。先頭はコスモバルク、2馬身と差をつけてコスモステージとモエレエルコンドルが追走。デルタブルースがその後ろを走りますが、おっとここで最後方からメジロクロノスが上がってきました!メジロクロノスがグイグイ押してくる!これは掛かっているのか?動き出しが速いぞ!》
スパートをかけ始めるメジロクロノス。どんどん位置を押し上げていき、第4コーナーを迎える頃には先行集団に追いつきそうになっていた。
800m付近で勝負をかけるデルタブルースの鞍上磐田。デルタブルースに発破をかけ、位置を押し上げていった。そして迎えた最後の直線──目を疑うような光景が広がる。
《最後の直線を迎えました!最後の直線、先頭はコスモバルク!コスモバルクにデルタブルースが来ているぞ!他には……え?め、メジロクロノスだ!?メジロクロノスが来ている!来ているが、なんだこのスピードは!?速い速いメジロクロノス!どんどん加速していく!》
最後方から追い上げてきたメジロクロノスが、猛然とコスモバルク達に襲い掛かる姿である。これには観客も度肝を抜かれた。何故なら、今まで見たこともないほどのスピードだからである。
メジロクロノスの勢いは衰えることなく、200m手前でコスモバルクとデルタブルースを捕まえるとそのまま抜き去る。そのまま差を広げていき、最終的には6馬身近い差をつけて勝利を掴んだ。11番人気の逆襲は、母父であるグリーングラスを想起させた。
「メジロクロノスすげぇぇぇぇ!」
「正直バカにしてたわ!」
「いや、なんやねんあのスピード!えげつないわ!」
これでG1初挑戦初勝利を勝ち取る。気分良くした陣営は有馬記念に出走したが……ゼンノロブロイの16着に沈んでいた。最下位である。ファンからは菊花賞のスピードは何だったんだと揶揄された。
◇
次のシーズンでは阪神大賞典から始動。ここを7馬身差で圧勝を飾ると、四代天皇賞制覇に向けて春の天皇賞へと出走した。同世代からはハーツクライ、かつての天皇賞覇者であるヒシミラクルなどがおり、果たしてどうなるかと思われていたが……その不安を一蹴するようなレースを見せる。
いつも通り最後方からレースを展開すると、残り1200mでスパート。菊花賞で見せたような圧倒的なスピードを見せつけ、春の天皇賞を見事に勝利した。
《メジロだメジロだ!メジロクロノスが抜け出した!そのままグングン突き放す!恐ろしい脚だ!1200mのロングスパートを決め、メジロクロノスが飛び出したぁぁぁぁ!5馬身差をつけて、今ゴール板を駆け抜けたメジロクロノス1着!メジロアサマから受け継がれる悲願の盾!これで四代天皇賞制覇ぁぁぁぁ!》
2着スズカマンボに5馬身差。長距離において圧倒的な強さを誇るようになる。その後は宝塚記念に出走したが、またも最下位に沈んでいた。長距離以外はてんでダメみたいである。
秋シーズンは天皇賞秋を10着、ジャパンカップをアルカセットの12着といいとこなし。一応有馬記念にも出走したが……無敗の三冠馬ディープインパクトを同期のハーツクライが下した舞台の最下位に沈んでいた。長距離とそれ以外であまりにも極端な成績である。
「多分有馬でも短いぞこの馬」
「3000mないと本領発揮できないんだろ」
ファンはこれも愛嬌と思い、むしろ人気を上げる要因となった。
次年度も現役を続行。阪神大賞典に出走……の予定だったのだが、怪我で回避。ぶっつけ本番で春の天皇賞に挑むことになる。そしてこの年の春の天皇賞には──
そう、無敗の三冠馬ディープインパクトである。ディープ人気は凄まじいものであり、この春の天皇賞でもぶっちぎりの1番人気。前哨戦の阪神大賞典も勝って勢いに乗っていた。仮にも前年度覇者なのに、メジロクロノスはディープインパクトから大きく離された2番人気である。
さてそんな春の天皇賞だが……ディープファンにとって悪夢のような光景が広がっていた。
《場内いっぱいの大歓声!大外からディープインパクト岳が上がってくる!残り800の標識を通過しましてディープインパクトが上がってきた!割れんばかりの大歓声、ローゼンクロイツを抜き去って早々と先頭に立とうとしている!これを追走できる馬はいない!これを追走できる馬はいないでしょう!》
800の標識を通過し、最後の直線に向く頃には先頭に立ったディープインパクト。観客は勝った、常識破りな勝ち方でもディープインパクトならば勝てる!と握り拳を作る……その後方から迫りくる、葦毛の馬に気づかずに。
誰もが勝ちを確信した。最後の直線手前で先頭に立ち、脚色が衰えないディープインパクトが負けるはずがないと誰もが思った。しかし──
《さぁディープインパクトだ!やはりこの馬は強い!並ぶもの……え?ちょ、えぇ!?》
場内の歓喜の声が、一転して悲鳴に変わる。逃げてくれと誰もが叫ぶ。しかし……メジロクロノスはディープインパクトを楽に躱して先頭に立ち、ディープインパクトを下して天皇賞二連覇を成し遂げた。
《め、め、め……メジロだメジロだ!?メジロクロノスが飛んできた!メジロクロノスが飛んできた!ディープインパクトを捕まえて!さらに抜き去って!メジロクロノスが先頭だ!なんという強さだ!なんという恐ろしさだ!?これがメジロクロノスだ!長距離最強!メジロクロノスだぁぁぁぁぁ!》
ディープファンにとって悪夢ともいうべき春天。その元凶は、メジロクロノスという馬の存在だった。ディープインパクトの勝ちパターンを崩した馬、この勝利により、長距離でメジロクロノスに勝てる馬はいないと断言されることになる。また、この時の天皇賞はレコードタイムだった。
当時のことを、ディープインパクトに騎乗していた岳はこう語っている。
「なんていうんでしょうね……勝った!って思ったら凄いスピードで飛んできた。しかも騎手共々笑いながら追ってくるもんだから恐怖でしかないよ」
なんでも倉敷、この時テンションが上がりすぎていたらしい。またメジロクロノスも、馬を追いかけている時が楽しいのか笑っているように見えることが度々あった。いざ直面すると恐ろしい光景である。
その後は長期休養。そして夏明けにはディープインパクトや神の一族でありディープインパクトの同期であるノヴァスタービートと共にフランスへと遠征した。ディープインパクトとノヴァスタービートは凱旋門賞、メジロクロノスはカドラン賞に出走するためである。ちなみにディープとクロノスの2頭、かなり仲が良かったため、遠征先のストレスはほぼない状態だったと証言されている。ノヴァスタービートも交えた3頭で仲良くしていた。
遠征に詳しいスタッフも配置され、準備は万端。またメジロクロノスの鞍上はこの時は岳に譲ることになった。凱旋門賞の前に、カドラン賞でロンシャンの芝に慣れるためという意図もあった。
迎えたカドラン賞。メジロクロノスは──圧勝。後続に大差をつけて圧勝した。距離が長くなればなるほど有利になるようである。推定17馬身差だったそうだ。この勝利で緊張が取れたか、はたまた楽な気持ちで行けたのか。次の日の凱旋門賞でディープインパクトは勝利を飾る。ノヴァスタービートもディープの2着に入り日本馬がワンツーフィニッシュ。フランスの地で日本馬の強さを見せつけた日となった。
その後は日本に帰国。来年も現役を続行する意思を見せた。
◇
長距離最強の座を手にしたメジロクロノス。この年は父が成し遂げることができなかった春の天皇賞3連覇に向けて調整が進められた。またもぶっつけ本番で挑むことになったのだが……ファンに不安はなかった。
「3000m以上のメジロクロノスに勝てる馬なんているはずがない」
その言葉通りに、二冠馬メイショウサムソンを退けて見事勝利を飾った。父マックイーンが成し遂げられなかった春の天皇賞3連覇。それを息子のメジロクロノスが成し遂げたのである。さらには前年度に自身が記録したレコードタイムをさらに更新。恐ろしい馬である。
次走は招待を受け取りイギリスのアスコットゴールドカップへ。カドラン賞も勝った本馬ならば心配はないと言わんばかりの快勝で見事に勝利を収めた。ただ、そろそろ衰えが見え始めてきた頃であり、次走で最後にしようと陣営は決定。そのレースは──メルボルンカップである。
オーストラリアで開催されるメルボルンカップ。昨年デルタブルースが勝利を収めており、メジロクロノスの期待も相当なものだった。しかし、今更プレッシャーに潰れるような馬ではない。それを証明するように、メルボルンカップで8馬身差の圧勝を飾った。
《メジロクロノス!メジロクロノス!日本最強、違う!世界最強ステイヤーここに降臨!メジロクロノスが突き抜けたぁぁぁぁ!》
勝ったG1は7つ。その全てが長距離という成績を残したメジロクロノス。3000m以上ならばディープインパクト以上の評価を獲得した本馬は、細々ながらもメジロマックイーンの直系を残している。
春天のディープに勝ってたりディープが凱旋門賞獲ってたり色々と情報量が多い!