ネオユニヴァースの娘。   作:宮川 宗介

2 / 5
登場人物:レイ
※オリウマ娘注意です。

こんな感じの娘です。

【挿絵表示】

よろしければ皆様の読書の一助にしてくださいね。

誕生日:5月10日
体重:地球の七不思議の一つ。
身長:159センチ
スリーサイズ:82・56・83

レイのヒミツ1・実は、普通のウマ娘といろいろ少し感覚がズレている。



第二話

1時間目の授業の準備をしている際、とんでもないことに気づいた私は、顔からさっと血の気が引いていくのを感じていた。

 

「ない……」

 

いつもカバンの一番上に入れているはずの、筆箱がどこにもなかったのだ。

カバンの中に入っているものを全部出し、逆さにして上下に振ってみても、筆箱がコロンと落ちてくる様子はなかった。

 

「でも、筆箱なんて一体どこに……」

 

私は朝からのプチトラブルに少々イライラしながらも、昨日の自分の行動を思い起こしてみる。

 

トレーニングを終えて自宅に帰り、お風呂に入って食事を作った。

 

これは、いつものルーティンである。

 

食事の後、洗い物を食洗機に押し込んで、そのままリビングダイニングで課題を始めたのだ。

その時、カバンから筆箱を取り出したのを覚えている。

 

確か1時間ぐらいで課題を終えて、それから……。

 

課題と一緒に筆箱もカバンに押しこんだような気がしたが(幸い課題はカバンの中にあった)、いまカバンに入っていないということは、それは気のせいだったのだろう。

 

「あ!」

 

今朝、お母さんが出かけようとしていた私にLDから『レイ。テーブルの上に【PERT】してるよ。そっちに……』とか珍しく少し慌て気味に言いかけていたのって、ひょっとしたらこのことだったのかもしれない。

 

お母さんが何を言いたいのかわからないのは日常茶飯事なので、帰ってきてからでも聞き直せばいいや、と思ってそのまま家を出たわけだけど……。

 

でも忘れ物は英語でlost articleだから、お母さんがPERTって言ってたのは、やっぱり筆箱の件とは関係のないことだったのだろう。

 

「んん……?」

 

気になった私はひょっとしてと思い、スマホを取り出して翻訳サイトを呼び出して【忘れ物】をいくつかの言語に翻訳してみた。

 

「あのね、お母さん……」

 

その翻訳結果に、私は呆れと怒りを隠しきれなかった。

 

どうやら、フランス語で忘れ物のことを【article perdu】というらしいのだ。

せめて【ARTI】と言ってくれていれば、ピンときたかもしれないのに……。

 

もちろん、筆箱をカバンに入れ忘れた私が一番悪い。

それは事実である。

 

とりあえずそのことは棚に上げて言わせてもらうなら、普通に『テーブルの上に筆箱忘れてるよ』と言ってくれるお母さんであったのなら、私は忘れ物をせずにすんだはずである。

 

いやまあ、人のせいにしても仕方ないか。

お母さんは一応、声をかけてくれたわけだしね……。

 

そもそもの話、だ。

 

だいたい、スマホもタブレットも普及したこのご時世に筆箱って必要なんだろうか?

正直、明らかに時代遅れだと思う。

 

中学になって最初の授業のとき、『さすがに中学生にもなって鉛筆と消しゴム、それにノートなんかで授業はしないだろう』と思いこんでタブレットを持ち込んだら『何考えているんだ!』と社会科の先生に怒られてしまった。

 

中学入学の準備をしているときにお父さんから『本当にノートも鉛筆も、シャーペンすらいらないのか?』と聞かれ、私は『今どきそんな筆記用具で授業している中学校なんかないでしょ』と笑って答えて『そういうもんか。今どきの中学校は進んでいるんだなあ』みたいな話をしていたんだけど、その時はお父さんの心配が現実のものになるだなんて思いもしなかった。

 

お母さんもお父さんと似たようなことを言っていた気がするけど、私以上に世間ずれしているお母さんの言うことは、申し訳ないけど話半分も聞いていなかった。

 

で、タブレットのことを怒られてしまった私からするとこっちのほうが何考えてるんだ!って感じだったんだけど、学校という組織に所属している以上、目上の者に無駄に逆らうのは得策じゃないし、ルールには従わなくてはならない。

 

そのくらいの常識は、私にも一応あるのだ。

 

私は仕方なく、紙のノートとシャーペンという伝統に則った筆記用具を用意した。

 

それから時が経ってトレセン学園高等部に入学し、またまた『さすがに……』と思っていると、やっぱりここでもシャーペンとボールペン、それに紙のノートで授業をしていることが判明して私は失望を隠しきれなかった。

 

一応、万が一に備えて筆箱とノートを持ってきていて本当に良かった。

 

……もう、日本の学校教育はおしまいかもしれない。

 

「まったく、そんなことだから日本は経済的にもドイツに追い抜かれたんだよ。エイシンフラッシュさんも、日本なんかでお菓子屋さんしてないで、祖国でお店を出したほうが良かったんじゃない……」

「お、おはよう。レイさん」

 

私が日本の教育と経済に(やくたいもなく)ぶつくさと物申していると、おずおずと後ろから声をかけてくる娘がいた。

 

「おはよう、マリア」

 

そう、朝の挨拶をしにきてくれたのは先週末のホープフルステークスで私を負かしたマリアージュローズだった。

レース場ではバチバチにやりあったマリアだけど、実は私の数少ない友だちだったりする。

 

マリアと知り合ったのは、トレセン学園入試の模擬レースの時だ。

彼女はトレセン学園入学前からレース関係者の注目を集める存在で、その名前だけは私も知っていた。

マリアはトレセン学園付属の小中一貫校出身で、レース界のエリートコースを突っ走ってきた秀才だった。

そんな彼女は中学ウマ娘インターハイでディスタンス(長距離)部門3連覇の実績を引っ提げ、【この世代のトップクラスの逸材】として鳴り物入りでトレセン学園の入試にやってきた。

 

その時私の前に並んでいた著名人の彼女に、私が馴れ馴れしくも声をかけて、それがきっかけになって仲良くなったといういうわけだ。

 

そんなマリアと同じクラスになれたのは、幸運だったと言うべきだろう。

 

私を負かしたマリアに思うところがないわけじゃないけど、レースなんてものをやっている以上、友だち同士が一つのタイトルを懸けて戦うということはよくあることで、そんなことをいちいち気にしていては友だちなんか作れない。

 

「なんだか、御機嫌ナナメだね。なにかあったの?」

「いや。我が国の現状を鑑みて、日本の教育制度と経済状況を憂いていただけだよ」

「……そっか。頭のいい人はやっぱり、普段から考えていることが違うんだね……」

 

そう言って彼女は少し困ったような笑顔を浮かべた。

 

「私が頭がいいかはともかくとして。私が今日筆箱を忘れたのは、日本の教育システムが悪いからだと思うんだよね」

「えっ、レイさん筆箱忘れてきちゃったの?」

 

私が忘れ物をした(ふざけた)原因をスルーしてくれるあたり、この娘は人付き合いが上手いんだろうなといつも思う。

私は相手が友だちでも、ツッコむべきところはどうしてもツッコミを入れずにはいられないタイプだから(で、こういうタイプは友だちが少なくなるんだ)。

 

「うん、どうやら昨日課題やったときにテーブルにおいて、そのままにしたっぽいんだよね。くっ、日本の授業がタブレットで行われていれば、こんなミスはしなかったのに……」

「それは大変だね……よかったらこれ、使って」

 

そう言って私に差し出してくれたのは、1本のシャーペンと消しゴムだった。

 

「いや、それはとってもありがたいんだけど。シャーペンはともかく、消しゴムはさすがに借りられないよ。それだとマリアが困るじゃない」

「私は大丈夫。予備でいつも2つ持ってきてるから。遠慮なく使って」

 

うーん。

こういう娘のことをきっと気が利く娘、っていうんだろうな。

 

最悪売店にでも買いに行けばいいや、と思っていたが、そういうことなら遠慮なく拝借しておこう。

 

「ありがとう!じゃあ申し訳ないけど、今日一日借りさせてもらうね。このお礼はきっとするから」

 

そういう私にはにかみながら「そんなの、大丈夫だよ」という彼女は、女の私からみても可愛らしく、いじらしかった。

 

 

私はお昼休みにマリアの好きなハチミー濃いめをキッチンカーで購入して、お弁当を食べていた彼女の前にそっと置いた。

 

『そんな。筆記用具ぐらいで、こんなの受け取れないよ』という彼女に『まぁまぁ、こういうのは気持ちだから。ありがとね』と言って、それを無理に受け取ってもらった。

 

これからもきっと、たくさんのレースで勝敗を競い合うことになるであろう私に、マリアが親切にしてくれたことが私は本当に嬉しかったのだから。

 

*

 

「ってなことが今朝あってさ。ホント、まいったよ」

 

トレーニング後のミーティングが一段落ついた時、私はお父さんに今朝あったことを思わずグチってしまっていた。

 

私たちのミーティングは、トレーナーとウマ娘が現状の問題などを共有認識して話し合う場というだけでなく、父と娘のコミュニケーションの機会にもなっている。

 

当然ながら、あくまでレースに関する議題が最優先ではあるけどね。

 

本日の親子の会話は、お母さんの意味不明四文字アルファベットのことである。

 

「気持ちはわからないでもないけどね。でも、使った筆箱をカバンにしまい忘れたレイが一番悪いのは確かだろう?」

「そりゃそうだけどさぁ」

 

まぁ、そこをツッコまれるとこちらとしても非常に心苦しい。

 

「にしたって、自分の母親の言ってることがよくわからない、ってのは結構なストレスだよね。お父さんって、多分モテるほうだったでしょ?なんでわざわざ、あんな意思疎通がやたらめんどくさいお母さんと結婚する気になったの?」

 

そんなことを言い出す私に、お父さんは苦笑を浮かべる。

 

お父さんは優しいし、超絶イケメンというわけではないけど、中年と言える歳になった今でも清潔感があって、女の子から好感を持たれやすいタイプだったはずだ。

 

私も、お父さんが人生の伴侶としてお母さんを選んだ理由を想像したことはある。

 

まず、お母さんは美人である(喋らなければ)。

そして、スレンダーながらスタイルが良い。

 

この2つは、結婚相手にお母さんを選んだ理由にはなりそうだ。

 

あとありそうなのは、トレーナーと担当ウマ娘という関係だったので、単純接触効果が発動して流れで結婚した(一番ありそうではある)。

他に考えられる理由としては……お父さんはサピオセクシャル(相手のIQが高いと性的に興奮する性癖)だったという説である。

 

それならまあ、お母さん以上の伴侶はきっと見つからなかったことだろう。

なんでも、お母さんのIQは200近くあるらしいから。

 

……あまり考えたくない説ではあるが。

 

「確かに、お母さんの言ってることは難しいけどね。でも、ユニはたくさんの人と繋がりたいと思っている心優しい女性だし、そういう人間性ってのは周りにも伝わるものでね。この学園に通っていたときも、いろんな生徒たちがお母さんを気にかけてくれていたんだよ」

「ふ~ん……」

 

どうも、それは信じがたい。

お母さんみたいな生徒がクラスメートにいたら、私なら必要以上に仲良くなろうなんて思わないんだけどね……。

 

「む、信じてないな。当時のクラスメートたちはね、冷え性のお母さんのために、お母さんに腹筋ベルトを巻いてあげて、みそ汁を用意してくれたりしてなあ……。そうそう、冷え性に効く変わった色をした薬を用意してくれた生徒もいたね」

「……そんなことされたら、みそ汁吐き出しちゃわない?それに、その変わった色をした薬って一体なに?お母さん、やっぱ変わり者だったせいでいじめられていたんじゃないの……?」

 

自分の母親の壮絶な過去に、私は驚愕を禁じ得なかった。

 

私が腹筋ベルトを巻かれてスイッチオンされたら、その瞬間みそ汁を吐き出す自信があるし、由来の分からない奇妙なものを飲め、と言われた時点で『あ、私いじめられてるんだな』って認識するんだけど。

 

お父さんはそれらのことをなんだかまるでいい思い出のように語っているけど……父母の世代と私らの世代では、コミュニケーションの感覚が違うのだろうか。

 

いや、やっぱりあのお母さんが変なんだと思う。

そして多分、変人のお母さんの周りにはやっぱり変な人が集まっていたのだろう。

 

どうしてだが、その変人奇人たちの話を聞いていると、うちの母親も含めて何らかの共通点があるような気がして仕方がない。

 

「いやいや、絶対にそんなことはない。彼女たちはみんな、お母さんの体調を本気で心配して、手を尽くしてくれていたんだよ」

 

お母さんと長く一緒にいるせいで、お父さんまで少し【普通】と感覚がズレてしまっているのだろう。

朱に染まればなんとやら、とはよく言ったものである。

 

それを指摘するのもなんだか無粋に思えた私は、生暖かい笑みを浮かべて「そうなんだ」と言うにとどめておいたのだった。

 




読了、お疲れさまでした。

私の母親は良くも悪くも普通の人で、
意思疎通に苦労したということはなかったのですが、
それでも10代の前半は「母親は自分のことなんてこれっぽっちも
分かってくれてない」なんて思い込んでいたものです。

今思えば、じゃあお前は少しでもそんな母親の気持ちを
分かっていたのか?という話なんですけど、
一番身近な大人である母親や父親との、
そういうぶつかりあいを乗り越えて、子供は大人になっていくんでしょうね。

今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました。
また近いうちに、こちらのあとがきでお会いしましょう!

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。