ネオユニヴァースの娘。   作:宮川 宗介

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登場人物:レイ
※オリウマ娘注意です。

こんな感じの娘です。

【挿絵表示】

よろしければ皆様の読書の一助にしてくださいね。

誕生日:5月10日
体重:地球の七不思議の一つ。
身長:159センチ
スリーサイズ:82・56・83



第三話

年が明け、私は無事にクラシック級へと進級することができた。

 

ジュニア時代にオープンまで駆け上がったウマ娘の大目標は、もちろんクラシック競走と言われる三冠ロードか、トリプルティアラ路線である。

厳密に言うなら、秋華賞はクラシック競走ではないんだけどね。

 

それはともかく、私はデビュー当初からもしクラシック競走に参戦することができたなら、三冠ロードを歩むことを心に決めていた。

 

理由としてまず第一に、桜花賞の1600Mという距離が、私にとっては少しばかり短い。

マイルもこなせないわけでもないんだけど、センロクのスペシャリストを相手にするとなると、距離適性的に厳しい戦いを強いられる可能性が高い。

 

私は本質的に、中距離以上を得意とするウマ娘なのだ。

 

まぁ、あと無理やり理由をつけるなら……お母さんのネオユニヴァースが勝利した皐月賞やダービーに自分も挑戦してみたい、という気持ちも、まったくないわけではなかった。

 

*

 

皐月賞へ挑むためのローテーションは、だいたい次の3つに分かれている。

 

スタンダートなローテーションとしては、3月に行われる皐月賞のトライアルレースである弥生賞やスプリングステークスでひと叩きし、本番に臨むというものがある。

実際に多くの皐月賞ウマ娘を輩出してきた、王道とも言えるローテーションだ。

 

2つ目は年明けすぐから定期的にレースに出走し、3月に行われる弥生賞やスプリングステークスも戦って本番に挑む、というパターン。

レースを使うごとに調子を上げていくウマ娘や、実戦経験を積んでおきたいウマ娘、あとは皐月賞への出走ポイントが足りてない娘は、このローテーションで皐月賞に向かうことが多い。

 

3つ目は皐月賞まで一度もレースを戦わずに、ぶっつけで本番に挑むというパターンだ。

お母さんの時代にはこのローテーションを採用するウマ娘はほとんどいなかったらしいんだけど、最近ではトレーニング技術の進歩もあってか、このローテーションでも皐月賞で良い成績を残すウマ娘も出てきている。

 

私がいつも言っているように、ウマ娘の脚は消耗品であるから、このローテも十分選択の余地に入ってくる。

 

「そういうレイの考え方は理解しているつもりだけどね。トレーナーとしては本番前に一度、レースを戦っておいたほうがいいと考えている」

 

お父さんは手元の資料を見ながら、私の今後のローテーションについての見解を述べてくれる。

今私達は、来るべき三冠ロードへ向けてのミーティングを行っている最中だ。

 

「その心は?」

「もしぶっつけで皐月賞に挑むとなると、前走のホープフルステークスから四ヶ月の間隔が空くことになる。この空白は歴戦のシニアならともかく、まだまだ経験の浅いクラシック級のウマ娘の実戦感覚を鈍らせるには十分な間隔だ。それに、スクーリングも兼ねて春の中山レース場を本番前に走っておくのは、決して悪いことじゃないだろう?」

「ふーむ、なるほど」

 

私はホープフルステークスで年末の中山を走っているので、かのレース場を走るのが初めてというわけではない。

そうはいっても、同じ中山レース場でも冬と春では芝の様子もかなり違うだろうから、お父さんの言う通り走り心地を確かめる意味でも、本番のコースの状態を把握しておくというは有意義なことだと私も思った。

 

「オッケー。じゃあ、皐月賞へはトライアルを一度戦ってから向かうことにしましょう。で、お父さんは弥生賞とスプリングステークス、どっちに私を出走させたいと考えているの?」

 

私は確かに言いたいことを言いたいだけ言うウマ娘であるが、基本的にはトレーニングもレースのローテーションも、トレーナー、つまりお父さんの指示に従うようにしている。

 

私はお父さんのトレーナーとしての経験や手腕を信用しているし、また、父親としても全面的に信頼していた。

 

「俺としては弥生賞の方を推薦するよ。こちらの方がローテーション的にも余裕があるし、1800Mよりも2000Mの方が、より君に向いていると考えているからね。どうだろうか」

 

全幅の信頼をおいているトレーナーの提案を、私は笑顔で首肯した。

 

>>

 

彼――ネオユニヴァースとレイのトレーナー――は、実は一度トレーナーを辞めている。

 

といってもトレーナー業を完全に廃業したというわけではなく、一人のウマ娘と契約してトレーニングを指導する【専属契約トレーナー(通称・正規トレーナー)】からは身を引いて、【トレーナー助手】と呼ばれる職種にジョブチェンジしたのだ。

 

トレーナー助手は文字通り正規トレーナーの業務補助をしたり、まだ専属トレーナーがついていないウマ娘たちを指導したりするのが主な仕事だ。

 

職場はトレセン学園に限らず、要請があれば地方の学校へ指導に赴くこともある。

 

トレーナー助手は正規トレーナーに比べて給料も安く、雇用も【外部委託】のような形になるため不安定になる。

それに、助手がサポートしたウマ娘がたとえビッグタイトルを獲得しようとも、その栄誉に浴して世間の注目を集めるのはそのウマ娘と正規トレーナーまでで、助手が注目を集めるということはまずない。

 

そもそもトレーナー助手なる職業があること自体、レース関係者以外のほとんどの人は知らないだろう。

 

つまりトレーナー助手になるということは、レース界に身を置きながら栄光や栄誉とは無縁の職業人生を送る、ということになるのだ。

 

それでもなぜ彼が正規トレーナーという恵まれた身分を捨てて、トレーナー助手という仕事に就いたかといえば……それはユニヴァースを支え、レイを育てるためだった。

 

トレーナー助手という職種は給与や社会保障が不安定な反面、シフトや勤務時間の融通が利くという利点があった。

 

 

彼とユニヴァースは、ユニヴァースが現役から退いてすぐに結婚した。

彼が25歳、ユニヴァースが18歳の時だ。

 

ユニヴァースは法的にはすでに成人しているとはいえ、10代の、それもこれから大学生になろうという娘と、収入が担当したウマ娘の成績に左右されるという、少し浮世離れした職についている25歳の青年との結婚は、当然周りから大反対されたが、二人の結婚の意志は固く、結局周囲が折れざるを得なかった。

 

それから彼はトレーナーとして仕事に励み、ユニヴァースは大学生兼人妻として、ユニークな大学生活を送る。

そしてユニヴァースは大学卒業後、RASAという宇宙開発事業を手掛ける職場に就職した。

自身の名前の影響もあったのだろう、宇宙に関係する仕事に就きたいというのは、彼女の小さい頃からの夢だった。

 

 

そんな、はたから見れば順風満帆で幸せに見える夫婦にも、もちろん悩みはあった。

それは【子供をどうするか】という問題だった。

 

ユニヴァースの務める会社は激務であったが外資系ということもあって、実績さえあれば出産がキャリアのハンデになることはなかった。

それでも子供を産み、産休・育休を取ったブランクを取り返すのは容易ではない。

 

また、彼のトレーナーという職種も多忙であり、二人がフルタイムで働きながら子育てをするというのは、現実的に無理があった。

 

でもユニヴァースは「わたしのキャリアなんて、どうでもいい。子供を育てながら、少しでも自分の好きな仕事に携わる。それがわたしの、一番の幸せなんだと思う」と言って、仕事をセーブしながらでも子供を産んで、できるだけ自分たちが時間と愛情をかけて育てたい、と考えていた。

 

しかし、普段ユニヴァースの考えを最大限尊重する彼が、珍しく彼女の意見に難色を示した。

 

「ユニの知性は、人類の宝だ。君の仕事は、これからの地球の未来に希望をもたらすものだ。俺も二人の子供がほしいと思うし、君が子供を産んで育てることに前向きになってくれているのは、とても嬉しい。でも、子育てのために君の夢と人類の叡智が奪われてしまうのは、耐えられない」

 

そういう彼に、ユニヴァースは困惑の表情を浮かべる。

 

「じゃあ、わたしはどうすればいいの?」

「君が産休から復帰するめどが立ったら、そのタイミングで俺は正規トレーナーを辞めてトレーナー助手に転職しようと思う。トレーナー助手になれば給料は下がってしまうが、時間の融通は利くからね。それでできた時間を、子育てに当てたいと考えているんだ」

「それだと、あなたの夢はどうなるの?自分が担当したウマ娘たちを精一杯サポートして、できるかぎり夢を叶えてあげたいっていう夢は……。あなたがその夢を子育てのために捨ててしまうなんて、わたしはとっても『悲しい』だよ……」

 

彼は、トレーナーという仕事に人生のほとんどを捧げているような人間だ。

資料集めや人付き合いのために終電帰宅・徹夜作業になることは当たり前だったし、彼もそれを苦だとは思っていないようだった。

担当ウマ娘が自主練中にケガをしたと連絡が入れば、たとえそれが休日のデート中であってもその娘のもとに駆けつけるような、少しワーカホリック気味のトレーナーだった。

 

そんな彼を見てユニヴァースは寂しいと思うこともあったが、トレーナーという仕事に対してそこまで夢中になれる彼だからこそ一生一緒にいたいと思ったのも、また事実だった。

 

「なぁに。助手になってもウマ娘たちをできる限りサポートをして、彼女たちの夢が叶えられるような仕事をする、ということになにも変わりはないさ。それに、俺の夢がウマ娘たちの夢を叶えるサポートをすることだって言うのなら……」

 

そう言って彼はユニヴァースの手をそっと取って、まっすぐに彼女の碧眼を見つめた。

 

「ウマ娘である君の夢を、これからも身近で支え続けるというだけの話だ。命がけの出産だけはどうしても変わってあげることはできないが……子供を育てることに関しては、俺に精一杯のことをやらせてくれ」

 

そういう彼に、ユニヴァースができたことは彼を信頼して首を縦に振ることぐらいだった。

 

さて、ここで終わっていれば彼もそれなりにカッコがついただろうに、彼はシリアスになった空気をほぐしたいと思ったのか、ついいらないことを言ってしまった。

 

「いやー、それにしても俺が助手になったらまわりから色々言われるんだろうなぁ。嫁さんの稼ぎがいいから、気楽な助手やってられるんだろ、とかさ。ユニ、頼むから給料が減ったからって言って俺を家から叩き出さないでくれよ。まぁ、助手やってたら男一人ぐらいなんとか食べていけるとは思うけどね」

 

つまらないことを言う彼に、ユニヴァースはこつん、とげんこつで頭をコツいてやったのだった。

 

 

その話し合いから一年後、夫婦は一人のウマ娘を授かる。

ユニヴァース譲りの金髪碧眼をした、愛らしいウマ娘だった。

 

ユニヴァースはその娘に、レイと名付けた。

 

「女の子らしい響きの、いい名前だね。どんな思いをこめて、その名前をつけてあげたんだい?」

 

名前の意味を聞くと、ユニヴァースは小さく照れ笑いを浮かべながらも、それを語ってくれた。

 

「この宇宙も、0<れい>から始まって、気の遠くなるような時間を経て今の美しくて壮大な姿になった。だからこの娘にも、最初はどんなに自分が【DIMI】に感じられても、時間を掛けてがんばれる人になってもらいたいと思って、この名前をつけてあげたんだよ」

「なるほど。そういう思いが、その名前に込められているんだね。でもそれなら、ゼロユニヴァースとかでもよかったんじゃないか?」

 

彼の疑問に、ユニヴァースは静かに首を横に振る。

 

「ゼロとレイでは、意味合いがまったく違ってくるよ。ゼロの中には、何も存在しないんだ。そして、ゼロからは決して何も生まれない。でも、レイというのはそうじゃない。レイは、その数字の中に本当に少しだけど、いろんな可能性を【INCL】してる。今の、この娘のように」

 

ユニヴァースは少し力加減を間違えると壊れてしまいそうな小さな小さなレイを抱きなおし、今まで彼がみたことのないような、どこか神秘的に見える微笑みを浮かべた。

 

その微笑みを見て、彼は思った。

 

ああ、やっぱり女性ってのは凄いな。

もう、母親の顔をしている。

 

俺も早く、父親になったという自覚を強く持たなければいけないな。

 

そして、どんなことがあってもこの二人を幸せにするんだ。

 

生まれたばかりの我が子と、慈愛に満ちた眼差しを娘に向けているユニヴァースを見て、彼は自分の心に固く誓いを立てたのだった。

 




読了、お疲れさまでした。

人生にはたくさんの岐路が訪れます。

進学、就職、結婚をするのかしないのか、するなら、
どんな人と人生を歩みたいのか…。

どれもその後の大きな人生を左右する、大きな選択です。

しかも、これだけ大きな問題にも関わらず明確な答えは用意されていません。
究極、自分の人生に関わってくるような大きな問題は
【やってみないとわからない】わけですね。

結局のところこの夫婦のように、自分たちで自分の人生を決め、
その時に自分たちが一番幸せになれると思う選択をするしかないのだと
思います。

そういう選択をするとき、身近に信頼できる人がいたなら、
その事自体が幸せだと言えるかもしれませんね。

今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました。
ではまた、近いうちにこのあとがきでお会いしましょう!
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