冬コミに出される予定の「シグノド合同」へ寄稿する予定だった所ボツになった原稿の供養です。

食料に苦労するといえば、ということでRABBIT小隊がはるばるD.U.から遠征してくる話です。一応シグノドと銘打ちはしましたが、そういう風味はちょっと薄いかもしれません。

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https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=21009949

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間宵村の天見村長

 

 暦通りであれば、レッドウィンター自治区でも雪解けの囁かれ始める時期だ。長い厳冬の終わりと、束の間の春を予感して、生徒達も胸を躍らせる。

 

 だが、227号特別クラス送りとなり、廃墟に等しい旧校舎で過酷な生活を強いられてきた天見ノドカと間宵シグレは、一日でも長く冬が長引いてほしいと祈るような気分で、額から汗を流していた。この、睫毛も凍り付くような極寒の中にあって、である。

 

「……やっと終わったぁ」

「こっちもできたよ」

 

 鹿皮のなめし加工を終えたノドカがタオルで額を拭う。その視界の端でシグレは、捕えた獲物を枝肉にバラし、ポリ袋への密封処理をようやく済ませた所だった。

 

 食料の配給が滞ることも珍しくない旧校舎。周辺の森林にはクマをはじめとした野生動物が生息している。倉庫で狩猟道具の一式を発見した二人は、空腹に苦しむ中、発想を転換した。

 

 軽いノリで狩猟を始めた二人だが、実りの無い挑戦は何日も続いた。そしてようやく一体の獲物を仕留めはしたものの、愛らしい動物として認識するシカの既にこと切れた姿を見下ろす二人は、わけの分からない悲しみに声をあげて泣き崩れてしまい、その先のステップへ進むまで何時間もかかった。哺乳動物の命を奪う道徳的ショックは、花盛りの少女という形容がふさわしい彼女達には、あまりにも重かったのだ。何度も交代して血生臭さからお互いを庇い合い、初めての獲物の解体は深夜にまで及んだ。

 

 しかしながら、人は環境に順応する生き物である。

 

 狩猟という行為の重みを日々実感しつつ、ノドカもシグレも、飢えを克服するようになった。通信講座で正式に狩猟免許も取得し、合法的に動物を狩れるようになった。手慣れた様子で獲物を調達するようになっても、いただく命への感謝は忘れず、食肉として利用できる部位は全て取った。

 

 クマやシカやイノシシを仕留めるごとに、食料の備蓄は増え、空き教室の中に温かい毛皮のカーペットが増えていく。それが、二人に新たな悩みをもたらした。

 

「毛皮はまだいいとしてさ……お肉だよね」

「今はまだ、雪に突っ込んで冷やしておけるからいいけど」

「こんな所まで引き取りに来てくれる人なんて、本当にいるのかなぁ……」

 

 ノドカはスマートフォンを取り出し、フリマサイトを確認した。【引き取ってくれる方へジビエを差し上げます】と題したトピックをタップして、自分の投稿への反応を探る。やっぱり今日も何もないか……と溜息をつきかけたその時、ノドカの目に新着を示す赤が飛び込んできた。

 

《ノドちゃんさん、初めまして。うさうさと申します。諸事情により、食料に困っているため、もしまだ空いているようでしたら是非お譲りいただけませんでしょうか。どんなに遠くてもお伺いします》

 

「しっ、シグレちゃん! シグレちゃんっ!」

 

 幼馴染の姿が視界に入るなり、ノドカは無我夢中で飛びついた。投稿を表示させたスマートフォンをシグレの鼻先に突き付けて、皮なめしの疲れなんてどこへやら。鼻息を荒くするノドカを、シグレは優しく抱き返した。

 

「よかったね、引き取り手が見つかって」

「お肉が無駄にならなくて済むんだ~~~!」

 

 電力供給のあてにならない冷蔵庫は論外。干し肉にするにも処理が追い付かず、調理のレパートリーを増やすには他の食材にも調味料にも乏しい。自ら獲物に手をかけている以上、決して口にしてはならない悩みと自覚しつつ、二人ともジビエの味に飽きつつあったのだ。

 

「早速、話進めちゃっていいよね? 大丈夫だよね?」

 

 ノドカがメッセージを送ると、わずか数分後には「うさうさ」から返信が飛んできた。よっぽど先方も食糧事情が深刻なのだろう。食べるものの足りないひもじさをよく知っているノドカとシグレは、早速日程の調整にかかった。

 

 

 * * * * *

 

 

 数日後、分刻みで連絡されてきた到着予定時刻通りに、「うさうさ」がやってきた。「四人でお伺いします」とメッセージにあったように、四人組だ。防寒着に身を包んでいるが、まるで雪の中での戦闘を想定しているかのように、真っ白だ。みんなウサ耳のカチューシャを着けていて、シグレが気まずそうに目を逸らした。ノドカの胸中にも、罠にかかったノウサギのことが思い出された。

 

「初めまして。うさうさという名でお取引の話をさせていただいていた者です」

「あっ、は……初めまして。ノドちゃん、もとい、天見ノドカです。こちらの女の子は、間宵シグレちゃんです」

「ども、初めまして」

「レッドウィンターの寒さは聞いていた以上ですね」

 

 銀髪の少女は月雪ミヤコと名乗った。きっとこの子が「うさうさ」本人で、四人のリーダー格だろう。ついでに紹介された、鉄帽を被った空井サキ、棒付きキャンディを舐める風倉モエ、そして、ミヤコの陰に隠れて震える霞沢ミユも、荒廃した旧校舎を目の当たりにして、何か言いたそうにしているのを飲み込んだのが分かった。

 

「その……お二人はこのような所で生活されているのですか?」

「廃墟だな」

「そうッ! 廃墟なんですよこの旧校舎! 事務局の連中が特別クラスだなんだって、こんな停電しまくり、穴だらけで風も素通しな所に放り込んで! いつまで経っても本校への復帰を許されないし、もう何なんだって!」

「まぁまぁノドカ。ここの生活も悪くないじゃん」

「シグレちゃんは無欲過ぎるよー……! 私達、華の女子高生だよ? それなのに、こんな辺境の地で、木こりかマタギかって生活送ってるじゃん! そりゃぁ、飢えに苦しむことはなくなったけどさぁ……」

「果樹園のおばさんは大助かりだって言ってたじゃん」

「それはそうだけどぉ……」

 

 シグレがハグを交わし、頭を撫でてノドカを宥めた。外套の脚に絡みつくモフモフの尻尾に落ち着きを取り戻すと、自嘲の苦笑いを浮かべてから、ノドカはミヤコに向き直る。他の三人の代弁をするかのように、ミヤコが口を開いた。

 

「あの……よろしければ、校舎内を見せていただいてもよろしいですか?」

「別にいいですけど、何もありませんよ?」

「設備の点検やちょっとした修理程度なら、お力になれると思います。その……食料だけ頂いていくというのも、非常に気が引けるので……」

 

 ミヤコの言葉が信じられなくて、ノドカは聞き返そうとしてしまった。しかし、自分が口を開く前に「よかったね」とシグレが言うものだから、まだ半信半疑でいたが、ノドカは申し出をありがたく受けることにして、うさうさ一行を校内へ招いた。

 

「校舎が雪に侵食されてるね」

「まるで襲撃された後みたいだな」

「うぅ、なんと言われてもしょうがないです……」

 

 モエもサキも、歯に衣着せぬ物言いで、率直な感想を述べた。

 

 極寒の地にあって、穴だらけの校舎からは熱がどんどん逃げていく。暖房が動かせる部屋はダクトテープを総動員して空気の逃げ道を塞ぎ、物をたくさん置いて少しでも保温できるよう悪あがきをする有様だ。床の一角に敷き詰められたシカやクマの毛皮カーペットに、ミユが小さく悲鳴をあげていた。

 

 暖房をつけたところで夜間から早朝にかけての冷え込みは強烈で、体温を分け合うように添い寝するのが、ノドカとシグレには当たり前となっていた。

 

「廊下の突き当りを左に曲がると倉庫だよ。私達が使えそうなものは大体出しちゃったから、何も無いかもしれないけど」

「そう言われると、隅々まで漁ってみたくなるよね。キケンな掘り出し物が出てきたりして。くひひ……♪ じゃ、私は倉庫見てくんね」

 

 そう言うと、ツアーから外れ、モエが倉庫に向かった。

 

「私は近くの森を見てくる。この辺の気候で食べられそうな野草は、一応調べてきてあるからな」

「あっ、この辺りはクマも出るので──」

「心配無用。これでもポイントマンだからな。野生動物を刺激しないよう立ち回るさ」

 

 鉄帽を被り直して、サキも校舎から出て行った。

 

 ミヤコの陰をひょこひょこついてくるミユがゴミ箱を見ているのが気にかかったが、ノドカは二人を食肉の保管場所へ案内した。「無理はしないで下さいね」と念押ししたが、意外なことに、二人は物怖じしていなかった。既に食肉の形に切り分けられて、店に並ぶ精肉と遜色ない状態になっていたのが大きかったのかもしれない、とノドカは考えていた。

 

「ひいっ……す、凄い量……」

「クーラーボックスをありったけ持ってきましたが、これは……」

 

 雪に突っ込んだポリ袋の量に、二人が目を丸くした。レッドウィンター事務局の指示で工務部が山の一部を切り拓いた影響で住処を追われた動物が、旧校舎付近に姿を見せるようになったと思われる。ノドカは二人へそう説明した。

 

「ここ数日、連続で動物が罠にかかって……今は罠を止めてるんです」

「畑とか果樹園の害獣になるのもいるから、何もしないわけにはいかないんだけどね。連絡があったら、猟銃を持って退治しに行ってるんだ」

「こういうのは本校の人がやればいいのにね」

「……お疲れ様です」

 

 ノドカが愚痴をこぼしそうになった所で、ミヤコが労ってくれた。その言葉に、幾分かノドカは救われたような気分になった。

 

 ミヤコ達の持ってきたコンテナに詰められるだけ詰めれば、残りはノドカ達の備蓄としておくのに十分な量になりそうだった。

 

 そうして、心配事が解消される目処が立ってシグレ共々胸を撫でおろしていると、倉庫を探索していたモエが戻ってきた。

 

「太陽光パネルの一式があったよ。これ、キヴォトス全土で建築物への設置が義務づけられてるはずなんだけど、建てた人の怠慢だよねぇ」

「あぁ、それは……マニュアルが抜けてて、設置方法が分からないままだったから、放置してたんです」

「それなら一応知ってるけど、どうする? 蓄電池もあったから、電力事情はマシになると思うよ」

 

 校舎内の配線も見直したから、と説明されて、ノドカとシグレは顔を見合わせた。

 

 斥候(ポイントマン)と自らを指して意気揚々と森へ向かったサキ。一見だらしない印象だったのに、もう調べ尽くしたと思った旧校舎から新たな発見をして戻ってきたモエ。目の前のミヤコも、すぐに気配が消えてしまうミユも、何か只ならぬスキルを持っているのかもしれない。

 

 もしかしたら「うさうさ」は、単なる友達同士ではなく、卓越した技能を持った者の集団なのかもしれない。どこの学園の所属なのか気になったが、そこまで自ら名乗らなかった事実が引っかかり、ノドカは尋ねることができなかった。

 

 ともかく、彼女達を刺激するまい。そう心に銘じて、ノドカはシグレを連れ、太陽光パネルの設置を手伝うことにした。

 

 

 * * * * *

 

 

 昼過ぎに彼女達を出迎えてから、太陽はもう西に傾き始めている。ノドカ達の作業終了を見越したかのようなタイミングで、サキが森から戻ってきた所だった。

 

「戻ったぞ。なかなかの収穫だった」

 

 新聞紙の上にカゴの中身が展開されていく。野草とキノコ。二人が採取したことのないものも混ざっていた。その中に鮮やかな赤いキノコが混ざっているのを見て、ノドカはギョッとした。

 

「ひえっ! これ毒キノコじゃないですかっ」

「ん? あぁ、これはタマゴタケだ。優秀な食用キノコだぞ。毒のベニテングタケとはヒダの色で見分ければいい。白がベニテン、黄色がタマゴタケだ」

「ふうん、結構簡単に区別できるんだね」

「図鑑を読み漁って勉強したからな」

 

 感心するシグレに、サキは得意気だ。彼女が、工務部のミノリが被るヘルメットみたいな鉄帽のツバを摘まんで揺らしていると、意地悪い笑みを浮かべたモエが割って入ってきた。

 

「こんなドヤ顔してるけど、サキが採ってきたものでみんな何度かお腹を壊してるからね」

「それはずっと前の話だろう! 今は確実に安全なのしか採ってないぞ!」

「えっと……食べ物の採集、慣れてるんですね」

 

 おそるおそる、ノドカが尋ねると、うさうさ一行が互いにアイコンタクトを取り始めた。明らかに何かを抱えている素振りだったが、停学処分を受けていることを明かせない自分達もお互い様だった。だからノドカは進んで踏み込もうとしなかったのだが、ミヤコが口火を切ったことで、束の間の沈黙は断ち切られた。

 

「私達RABBIT小隊は、公園で野営しているんです」

「RABBIT小隊……?」

 

 それからミヤコを筆頭に、彼女達が己の所属を明かした。

 

 SRT特殊学園。政治的事情などからヴァルキューレで対応できない任務に臨む、市民の安全を守る特殊部隊を養成するべく設立された精鋭部隊。ところが自分達の所属する学園が突如閉鎖となってしまい、連邦生徒会への抗議のために、D.U.の公園でテント生活を送っているのだとか。

 

 上位組織への抗議。時には自分達で食料調達をして、ドラム缶風呂に入る生活。ノドカには他人事に思えなかった。

 

「コンビニの廃棄弁当を頂戴していたんだが、最近、私達の住む地域で工事が盛んで、弁当がすぐ売り切れてしまうんだ」

「採集したものでどうにかしようとすると、タンパク質がねぇ。魚釣りはできるけど供給が不安定だし、D.U.近郊の野山は猟を禁止されてるから」

「実は、本件については、シャーレの先生に紹介してもらったんです。モモトークでURLが送られてきて」

 

 シャーレの先生――目の前にいる四人が、自分達と一本の糸で繋がるような感覚があった。

 

「ねぇノドカ。フリマサイトに登録したのってさ」

「うん。先生に相談したら、そういう提案があって」

 

 ノドカの視界に入る少女達が、一斉に苦笑した。

 

「何だか、先生の掌の上で踊らされた感じがするな」

「ホントだよ。大人ってさぁ……」

 

 サキとモエが、愉快そうにそうこぼした。

 

 昼間に対面した時、彼女達の顔には薄膜のような緊張感が張り付いていた。隠したいものがあったのだろう。お互いシャーレの関係者なのだと分かった途端に、それが薄らいだ。むしろ、四人が自分達より年下の一年生だと分かって、親近感すら湧いてきていた。

 

「もうすぐ日が落ちます。夕飯、ご一緒にいかがですか?」

 

 ノドカの期待した通りの返答が、四人から得られた。

 

 

 * * * * *

 

 

 校庭の片隅に石で組んだ竈門に火を起こし、サキの採ってきた野草と備蓄のイノシシ肉を、鍋へ放り込む。臭い消しに松の葉と摩り下ろしたショウガを入れて、ゆっくり煮立たせる。ハマダイコンの白い実と緑の葉が、具の色合いに彩りを添えていた。

 

 そうしてノドカがぼたん鍋を仕込んでいると、背後の焚火では既にキノコやシカ肉の串焼きパーティーが始まりつつあった。うさうさの子達がキャンプ道具を持っていたおかげで、シグレと二人で焚火を囲む時と比べて、串の本数が段違いだ。

 

「ねぇ見てよ。星空すっごくない?」

「……本当だ。うわ、凄いな。こんなの見たことない……!」

「D.U.は明るくて気付かなかったけど、こんなに……」

「うぅ、見えすぎて、目がチカチカする……」

 

 二人には見慣れた満天の星々も、四人にとっては初めて見るもののようだった。オーロラの出る夜だったら、きっともっと騒がしくなっていることだろう――と、ノドカはミトンに鍋の熱を感じながら思っていた。と、そこへ、シグレが焼きキノコを差し出してくる。

 

「ノドカ、はい、あーん」

「ん……あふ、あふいッ! ああでも、おいひ……っ」

「見分けやすいし、いいね、このキノコ。今度から回収しよう」

 

 口内を焼くような熱が引けた所へ、圧倒的な旨味が広がっていく。サキに教えてもらった食べられる野草やキノコは、今まで二人が気付かずに通り過ぎていたものばかりだった。こんな美味しいものを今まで毒扱いして遠ざけていたなんて。

 

「ところでシグレちゃん。アレ……飲ませてないよね?」

「モルス? やっぱ勧めた方がいいかな?」

「ダメだよ! あの子達って警察寄りっぽい感じだし、勧めるなら温泉がいいって」

「……温泉?」

 

 ミユ一人が、声を潜めたやり取りに反応した。

 ぼたん鍋を無我夢中で頬張っていた三人が、それに続く。

 

「あぁ、うん。温泉郷はなくなっちゃったんだけど、ここから少し歩いた所に小さいのが一つだけ残ってるんだ」

「いいなぁ温泉。ここまで外が寒いと気持ちよさそうだ」

「くひっ、ご飯食べたら行こっか」

「じゃあ、後で案内するよ」

 

 話題をうまく逸らせたシグレが、ノドカにウィンクした。

 

 夕餉を済ませ、ミヤコ達は四人で温泉へ入りに行った。雪中行軍の訓練を兼ねて今日の内に帰る予定だったと話していたが、既に夜の帳も下りていたことで、一泊することになった。

 

「六人もいると賑やかだね」

「そうだね。こういうのも、悪くないかも」

 

 シグレと二人、校庭の焚火で暖を取る。ジビエを食べて目を輝かせる一年生の微笑ましさを思い出して、お互い顔が緩む。

 

「設備が整って、廃墟から村ぐらいにはなったかな」

「村は嫌だなぁ……」

「いいじゃん、村。ノドカが村長でさ」

「嫌だよー。シグレちゃんもこんな所出ようよ。卒業したら一緒にD.U.にでも引っ越してさ」

「……そうだね」

 

 シグレは目を細めて、慈しむように笑った。

 

 

 終わり

 




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