夏の惑星   作:雹衣

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第11話

 校舎の中は不気味な程物静かであった。人気は無く強い雨の音だけが窓越しに漏れている。日曜日などに校舎に入ったときなんかはこんな感じだったなとなんとなしに高校時代を思い返すがそれでもここまで静かでは無かったと思う。

 自分たち以外時間が止まっている……そんな表現がよく似合う。

 

「とりあえず着替えを探そう」

 

 そんな静寂を突き破るように俺は提案した。とりあえず飛び石を通り新しい建物に着いたものの、まだまだ問題は残っている。

 こんなびしょ濡れのままでいれば風邪をひきかねない。

 

「そうですね。役に立ちそうなものを探しましょう。軽く見ただけですけど駅とは違って色々ありそうですし――」

 

 そう呟いた後、「ぐう」と十市さんのお腹から音が響く。その音は静かな校舎によく見えた。

 十市さんは言葉を止め、顔を赤くしつつ俺をじっと見つめてくる。その表情はまた赤くなっている。

 

「食料も探さないとな」

「あの、三枝さん! 良くお腹鳴ってますけど、決して食いしん坊とかそう言う訳じゃないんですよ! 今日はたまたまというかなんというか……」

 

 あたふたしながら言い訳をする十市さん。状況が状況で今日一日まともなものを口にしていないのだからしょうがないと思うのだが、彼女的にはだいぶ恥ずかしいことのようだ。

 

「大丈夫、俺もお腹ぺこぺこだ」

「いや、そういう話では無くて……」

 

 慌てる十市さんを見ていると少々可愛い年相応の少女の姿に少し和やかな気分になる。

 

「まあ、実際食料も探さなくちゃいけないしな」

「うぅ、そ、そうですね。探しましょう」

 

 恥ずかしがりつつも首を縦に振る彼女を見ながら校舎の廊下を進む。途中で何気なく教室の一角を覗く。教室の中は綺麗に並べられた机と椅子。消した跡が残る黒板。後ろのロッカー上には誰かの荷物が時々置かれている。

 まるで放課後の教室だな。俺はなんとなしにそう感じる。今すぐにでも誰かが忘れ物を取りに来ても可笑しくない。そんなありふれた空気を感じる教室だった。

 

「教室に服とかってあると思うか?」

「服ですか? ……なくはないと思いますけど」

 

 歩きながら十市さんに声を掛ける。それを聞くと彼女も教室の中を眺める。

 

「意外と綺麗な感じの教室ですね」

「どんなの想像してたんだ?」

「なんか……こう、机で入り口をふさいでたり、椅子が四方八方に散らばってたり?」

「なんだそれは? ドラマかなにかか?」

「最近見たドラマですね」

 

 「あはは」と笑う十市さん。朝もドラマの話をしていたし、彼女はそういったものをよく見ている様だ。昔からアニメとかサブカルばかりで彼女の想像しているドラマがさっぱりわからない。

 

「まあ、話を戻しまして……服とかは持ち帰るかロッカーに閉まっちゃうんですか? ほら、あそことかに」

 

 そう言うと十市さんは指をさす。その先はロッカー、そしてそのロッカーに付けられたダイヤル錠があった。

 

「あー、そりゃ体操服とか盗まれないようにああしておくか」

「そもそも体操服を置いておくの少数派だと思いますけどね。洗わないと色々アレじゃないですか」

「それもそうだ。俺も体操服とか持ち帰ってた」

 

 つまり、教室にお目当てのものは無さそうという訳だ。とはいえ他に服がありそうな所とは……。

 

「購買とか無いですかね? 私の学校では体操服とかジャージなら売ってましたよ」

「確かに、もしかしたら食料もありそうだ」

「そうですよね。簡単なお菓子とかあれば良いんですけど……」

 

 とはいえこの学校の購買の場所は分からないためとりあえず進んでいくのだった。

 

「ここか」

 

 一階の連絡通路を渡った所で購買を見つけた。

 そこには休憩所のように開けており自動販売機や、ガラスの傍に座れるスペースが作られている。そしてガラスの奥には花壇があり、雨に当たる花々が見えた。どうやら中庭のようだ。

 そして休憩所の一角は仕切りで簡易的に区切られレジと様々な商品が置かれている……どうやらここが購買のようだ。

 購買の棚を見る。するとすぐお目当てのものが目に入る。

 

「あ、パンですよ!」

 

 俺の思っていたことそのままを十市さんが喜色の混じった声で代弁してくれる。棚には袋に包装されたパンが置かれていた。他にも有名なブロック状の栄養食に似たパッケージの箱。ゼリー飲料といったものが見える。山ほど置かれている……という程の量では無いが、これなら数日間は食に困らないだろう。

 パンを1つ手に取る。透明な袋に包まれた細長いパン。恐らくコッペパンだろうか。一見すると特に腐った様子もない。何気なく裏を返し普通なら成分表示がある所を見る。

 

「なんだこれは?」

「? どうしたんですか三枝さん」

 

 俺の言葉を聞いて棚を目を輝かせてみていた十市さんが近づいて来る。そして俺の見ていた先を見て「んん?」と声を上げた。

 

「空欄ですか?」

「ああ」

 

 本来なら成分表示が書かれている所には何も書かれていなかった。真っ白な四角があるだけ。賞味期限などの記載もない。

 

「??」

 

 十市さんはその四角を不思議そうに眺めている。どうやらピンときていないようだ。

 

「いや、大したことは無いだろう。とりあえず食料は見つかったな」

「そ、そうですけど……」

 

 俺は詳しい事は言わずにパンを棚に戻す。とはいえ彼女もおかしい事にはきづいているようで不思議そうに小首を傾げている。

 

「ジャージとかを探そう」

「あ、そうですね」

 

 そんな彼女の話を逸らし、辺りを見渡す。棚には食べものとボールペンなどの雑貨ばかりだが、レジの近くに扉が1つあった。十市さんもそれに気付いたらしく無人のレジに遠慮なく近づくと扉をゆっくりと開けて中を覗く。

 

「何かあったか?」

「うーん……たくさん段ボールがあります」

 

 十市さんの報告を聞きながら俺も一緒に覗く。中は天井まで届く棚があり幾つも段ボールが置かれている。更に床にも何個も段ボールが置かれていた。段ボールには見覚えがあるようで微妙に違う奇妙なマークが描かれている。

 

「お邪魔しまぁす」

 

 何故か十市さんは入る前に一言声を掛け扉を開ける。お邪魔しますも何も学校に入っている時点で今更では? というツッコミを押し隠し彼女と共に入る。

 部屋は大して大きくない上に段ボールと棚によって床を占領されており、人一人がギリギリ通れる程度の幅しか残っていない。

 開いてる段ボールの中身を触らずに覗く。中にはシンプルな表紙をしたノートが入っている。別の段ボールには国語辞典がぎっしりと敷き詰められている。どうやら購買の在庫置き場の様だ。

 俺より奥に入っている十市さんも段ボールを覗いて「おぉ」や「うーん」となにやら言葉を漏らしながら探している。

 

「中々無いですね」

「ジャージはここじゃ売ってないか」

「三枝さんの学校では購買で売ってませんでした?」

「そんなにしっかりとしたスペースも無かったし売ってなかったと思うが……お」

 

 ふと、見渡していると大きな段ボール箱の中に青い布のような物を見つける。それをのぞき込むとビニールに包まれ畳まれているジャージが入っていた。ジャージには桜のような校章らしきマークが書かれている。

 それを持ち上げると十市さんがほっとしたように笑いながら近づいて来る。

 

「よかったぁ、これで着替えの問題は何とかなりますね。流石にずっとこのびちゃびちゃでいると大変でしたし」

「ああ、そうだな」

 

 そう言うと彼女も段ボールの中を漁り始める。そして幾つか手に取る。

 

「ん……サイズが分からないですね」

 

 彼女は幾つかジャージを手に取ってみている。しかしそのどれも梱包はしっかりされているのにサイズなどの表記が何処にもされていない。俺の持っているのも同様だ。

 とはいえ、入っているジャージのサイズはバラバラのようで、バリバリと音を鳴らして梱包を破った十市さんが2つジャージを見比べていた。

 

「これくらいかな?」

 

 そう言いながらジャージの上を体に近づける十市さん。一見すると服を選ぶように見えなくもないが手に持っているのはどちらもシンプルで実用性重視のジャージである。

 

「そうだ、三枝さんのサイズはどれくらいですか? L?」

「ん? そうだな普段はLだな」

「じゃあ……これとか大きそうですよ」

 

 そう言いながら俺にジャージの1つを近づけてきて俺とジャージを交互に見比べる。

 

「うーん、これ位が丁度いいですかね」

「……十市さんに合うのは見つかったのか?」

「はい、とりあえず。合わなければまたここから持って行けばいいんですよ」

 

 そう言うと2着ほどジャージを手に取る十市さん。そう言うとちょっと悪戯でもしたような表情で笑う十市さん。それを見て俺も微笑み返す。

 

「ただ、こんな濡れたままで着るのは嫌ですね……三枝さん、シャワーやタオルとかも探しましょう!」

「……意外と強かだね。十市さん」

「ん? 何か言いました」

「いや、なんでもない」

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