夏の惑星   作:雹衣

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第15話

 2人で教室を次々と見に行く。どの教室も人気が無い。どこも机の上は綺麗に整理されている、黒板はなにも書かれていないがチョークの消した線は残っている。つい先刻まで授業していて文字を消したかのように人の跡が見受けられる。

 水のど真ん中に浮かぶ学校なのにそこかしこに見られる人気の残り香。それを感じる度に安心感のような……それでいて薄気味悪さを感じる。

 

「使えそうなもの……って例えばなんでしょうね」

 

 十市さんが後ろのロッカーをがちゃがちゃと開いてロッカーの中の教科書やプリントらしきものを眺めつつ呟く。

 

「……ニッパーとかペンチとか?」

「んー、学校のロッカーには教科書とかしか無いですね。工作室とか美術室とか行けばあると思います?」

「そうだな……普通教室だけ見ててもアレか」

「ですよね」

 

 俺の言葉を聞くと十市さんは「よっ」と声を漏らして立ち上がると黒板の前の俺に近づいて来る。

 

「じゃあ、まずは何処に行きます?」

「そうだな……今のところ行ったのはまず入ってきた校舎と購買があった校舎、そして部活棟の三つ。入り口を第一校舎。購買があったのを第二校舎とするとまだ第二校舎の先に校舎が1つあるみたいだな」

「ん……ああ、あっちですね」

 

 俺が窓を見る。それに釣られて十市さんも視線を窓に移す。窓からは俺達のいる校舎と似たような形の大きな校舎がもう1つ見えている。

 

「第一校舎にも第二校舎にも特別教室は無かったし、あっちにあるのか?」

「ですかね……じゃあ行きましょうか、三枝さん」

 

 そう言うと少し笑いながら教室を出る十市さん。俺もそれについて教室に出る。

 ここで目下の問題は解決出来た。食料も数日分。飲めるであろう水もある。服もシャワーだってある。環境としては無人駅に居た時に比べれば天国に近い環境だ。

 

「けれどもこの先……か」

「どうかしましたか―」

 

 俺の呟きに前を歩く十市さんが反応し、クルッと振り向く。

 

「いや、なんでもない」

「そうですか? ……うーん」

 

 俺の返答に対して彼女の眉間に軽く皺が寄る。そして「ジトッ」なんて擬音がしそうな暗い目つきを細めて俺を見て来る。

 

「三枝さん」

「な、なんだ?」

「……いえ、何でもないです」

 

 そう言うと俺に何か言いたそうにしつつも踵を返す。そしてどこか足早に歩きだす。

 

「早く色々探しましょう。三枝さん」

「あ、ああ」

 

 十市さんの言葉に従い付いて行く。

 第一校舎を連絡通路通り第二校舎へ。そこから外廊下に出る。古びていて汚れが目立つトタン屋根しかないシンプルな廊下。外に出ると一気にムワッとした熱さに襲われる。

 

「相変わらず暑いな」

「そうですね」

 

 十市さんはこちらに見向きをせずにぐいぐい廊下を進んでいく。外廊下は外のコンクリートから僅かに段差がある程度の道。それが第三校舎へ続く道と右と左の二方向にわかれている。左を何気なく見ると第二校舎の方に続いていて何やら離れのような所に続いている。右はそのまま暫くまっすぐに校庭らしきスペースの方へと続いている。

 

「ここからでも、部室棟に行けるのか」

「そうみたいですね」

「……」

 

 俺達はそのまま第三校舎へ進む。第三校舎の入り口にはガラス張りの扉があるが鍵などは掛かっていなかったためそのまま入る。

 にしても……。

 

「さて、まずは工作室とかを探すか」

「そうですね。そうしましょう」

 

 ……なにやら十市さんの対応が素っ気ない。さっきから同じ感じでしか返答してこない。

 こっちから声を掛けないと返事をしないし、その返事もかなり適当だ。

 俺……なんか悪いことしたかな。

 

 

 

「お、金槌だ」

 

 目的の工作室を見つけた俺達はその中で使えそうな道具を探す。

 とりあえずはハンマー、釘……。使いどころがあるかは怪しいもののもしもの時に役に立ちそうだ。

 

「十市さんの方はどうだ?」

「……これとかどうです?」

 

 そう言うと彼女は鉄の棒を俺に取り出す。大体50センチ程の長さで先端は赤く塗られており横に曲がっている。

 

「バール? まあ、障害物とかあったら排除するのに使えるかな」

「そうですよね。じゃあ持っていきます」

 

 そう言うとバールを持ちながらフラフラと工作室を見渡す十市さん。……やっぱり反応が素っ気ない気がする。いや、まあ出会って3日程度の関係でしかないから絶対こうとは言えないけど。

 なにか怒ってる? 工作室の引き出しなどを探りながら俺は考える。何か起こらせるようなことを言っただろうか?

 いや、イライラが募っているだけの可能性もあるかもしれないなんて考えてみるもそもそも朝は食事があったから彼女も気分良かった気がする。

 

「……んん、なんでか分からん」

「三枝さん、何か言いました?」

「いや、大したことじゃない」

 

 十市さんからのきもち冷たい言葉にそう返すと彼女は「む」と顔を顰めていた。

 ……また俺は何か地雷を踏んだのだろうか。ただ何故彼女が不機嫌なのか俺には理解できなかった。

 

「……ん?」

 

 工作室を出て第三校舎の廊下を進んでいる時、なんとなしに外を見た時にふと足を止めた。

 

「どうかしました?」

「あそこだ、あそこ」

 

 俺が窓の外を指さす。第三校舎から部活棟の方へ続く外廊下。それは部活棟の横を通って更に奥へ進んでいる……途中で木に阻まれて先は見えないが、その先に校舎などの建物は見えない。

 

「外廊下が外まで続いているって普通あり得るか?」

「私の学校では無いですね」

 

 外廊下は普通校舎と校舎の間を繋げるもの。あそこまで伸ばす必要なんて本来ない。

 なのに外まで続いているとしたら……。

 

「……別の場所に続いているんですかね?」

「そうかもしれないな」

 

 思い出すのは無人駅の入り口から出ていた飛び石の群れだ。水の中にポツンと続く石達。何もない無人駅から伸びる唯一の道。

 もしもそれと同じものだとすればあの先にはまた別の場所に繋がっているのだろうか?

 けれども今は無人駅と状況が違う。無人駅にはまともな食料もなく一刻も早く出ていくべきだった。けれども今は……。

 

「じゃあ、明日には行きましょうか」

「……」

「三枝さん?」

 

 俺が黙ると十市さんは首を傾げる。

 

「いや、なんでもない……」

「む」

 

 再び十市さんに睨まれる……やっぱり怒っている理由が分からない。

 

「……三枝さん、とりあえず外廊下の方行きましょうか」

「あ、ああそうだな」

 

 未だ不機嫌なままの十市さん。その気持ちが分からぬまま俺は彼女の後を付いていくのだった。

 

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