夏の惑星   作:雹衣

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第16話

 第3校舎から出て外廊下へ進む。真夏の眩しい日光が容赦なく降り注ぐ。俺は額から出る汗を手で拭いながら部活棟の方へ向かい校庭の脇を通る。

 400mトラックやサッカーゴールなどが置かれている校庭を脇目に進んでいく。

 

「……」

「……」

 

 その間もなんとも空気が重い。十市さんは先程から口数が少ない。俺もあまり口が上手い訳では無いので上手いこと盛り上げる糸口が見つからない。

 ……悩み事ばかりで頭が痛くなってくる。女子高生の気持ちなんてさっぱりだ。

 

「……」

「また外に」

 

 悩んでいる内に目的の場所に着いた。学校から続いている外廊下はそのまま学校の外へと続き水の上へと再び通じている。

 予想した通り外へと続いている道だ。無人駅にもあったどこかへ通ずる道。外廊下はトタン屋根がついただけの簡素な道そのままに水の上に架かっている。

 外廊下の先は見えない。見える限りでは一直線の道で、どこまでも続く外廊下は幾何学模様の絵を思わせて奇妙に見える。

 

「どうします?」

 

 十市さんが顔を向けてくる。俺は暫く黙って考える。

 ここから行くかどうか……。いや、多分学校に出口らしきものはない。居心地は良いがもう調べつくしたといえば調べつくした。ここで残っていても何かあるとは思えない。

 けれどもあの先に2人で行くのか? この外廊下もどこかに通じているかは分からない。

 

「……三枝さん?」

「ああ、いや」

「む」

 

 俺が言葉を発すると十市さんが露骨に機嫌を悪くする。……やっぱり分からない。

 

「すまない、さっきから思ってたんだが、どうして怒っているんだ?」

 

 流石にずっと居心地が悪いこともあって、俺は白旗を上げる。それを聞いた十市さんは一度目を丸くする。

 

「直球ですね」

「……否定はしないんだな」

「まあ、怒ってるといえば怒ってますし」

 

 そう言うと今度は分かり易く口をプクーと膨らませる十市さん。

 

「三枝さん。とりあえず自分一人で抱えようとしてますよね」

「……」

 

 彼女から出てきた言葉に思わず言葉が詰まってしまう。

 

「外廊下を見かけた時、何か考えていたけど黙りましたよね? 何考えてたんですか? それに廊下を歩いている時もです」

「それは……そうだが」

「駄目ですよ。そういうのは」

「そう言うの?」

「黙ってるのがです」

 

 十市さんが指をビシッと俺に指す。

 

「三枝さん、色々これからどうしようと考えているんですよね」

「まあ、考えてるな」

「それ、私にも相談してくださいよ」

 

 腕を腰に付けると分かり易く怒りのポーズをとる十市さん。けれどもそれに反して明らかに怒り慣れておらず、少々声が震えている。

 

「ずっと1人で決めようとしてるじゃないですか……まあ、確かに私は頼りないかもしれないですけど」

「あぁ……すまん。別に頼りないとかそう言う訳では無いんだ」

 

 つまり、今日不機嫌だったのは俺がずっと今後どうするか悩んでいたのに気づいていたからみたいだ。話さなかったのは変な推測をして彼女を不安にさせたくなかったからなのだが、その対応自体が問題だったか。

 確かに2人しかいないのにその片方が黙りこくってるのは相手にとって不安になるだろう。これは俺の失敗だな。

 

「……で、三枝さん何考えてたんですか?」

「この後の捜索についてだな」

 

 そう言うとジッと見つめて来る。流石に観念して自分の考えている事を説明することにする。

 

「昨日までいた無人駅には何も無かったが、この学校なら食料はある。それにシャワーとかの設備もある。だからここを拠点とかにしようかと思ってな」

「拠点?」

「ああ、つまりここで寝泊まりして日が昇っている間はこの外廊下の先に進んでみて出口を探してみたりといった探索をする。そして日が沈んだらまたここに戻って来る……みたいな感じでここを一時的な宿にするんだ」

「ああ、なるほど良いんじゃないですか? ここならシャワーも屋根も食料もありますしね……そういう話なら直ぐに言ってくれればよかったのに」

「そうなんだが、色々個人的に考えをまとめてから言おうと思ってな」

「ふうん」

 

 十市さんの反応としては曖昧な感じだった。納得したような、それでいてちょっと不満げな様子。

 

「そうだな、悪かった。今度は相談するよ」

「分かったなら良いんですよ。もう……それで、どうしましょうかこれから」

 

 そう言うと彼女は指さす。彼女の白い指先は外廊下に向いている。

 

「俺はとりあえず明日この先に行こうと思う……十市さんはどうする? ここに残るか?」

「何言ってるんですか? 私も行きます」

 

 俺の提案に彼女は真っ直ぐに言葉を返してきた。それと一緒に彼女は俺の肩を軽くポンと叩いてくる。

 

「ここで一人にされても困ります。それに、三枝さん1人にずっと負担をかけさせるわけにはいきませんから」

「負担だなんて」

「いえいえ、三枝さんには助けられてますから」

「え」

 

 俺が言い返す前に十市さんはクルっと翻すと校舎の方へと足を向ける。そしてちょっとスキップするかのように彼女は駆け出した。

 

「暑いからもう戻りましょう、あそこの購買ってジュースとか置いてましたっけ」

「ああ、そうだな……たしか、コーラならあったと思う」

「やった!」

 

 三枝さんは先程までの不機嫌さなど無いかのように駆け出していく。俺はそれを後ろから付いていく。

「三枝さんには助けられてますから」……か、俺は歩きながらその言葉を考える。むしろずっと助けられてるのは俺の方だ。彼女がいなければ、俺はあの無人駅に留まり続けとっくに倒れていただろう。

 負担にならないようにしなくちゃいけないのは俺の方だ。

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