「妹って言ってたけど」
「双子だったんですね」
「言ってなかったっけ?」
旅館のロビーに置かれていたソファに俺達は腰掛ける。俺の前には先程まで案内していた少女――狭野香奈と彼女と同じ服を着て顔、髪型もそっくりな少女がもう一人。彼女たちは2人で同じソファに座り俺達と対面していた。彼女が先ほど言っていた「由奈」という子なのだろう。
「香奈、来客が来るとかそういうことは先に言ってよ」
「いや、出会ったのは偶然だし」
「知ってる」
「だよねー」
何やら2人だけの独特な会話をしている。彼女たちの声はそっくりと言っても良いほどに似通っている。声自体もだし、口調というか声音というか……そういったものも瓜二つだ。その2人の様子を見つつ俺は旅館のロビーを見渡す。旅館の中は外側とそこまで変わらない。受付には人がおらず、受付の隣には待合室のようなスペースがありソファと机が何台か置かれている。近くには大きな棚があり、そこには本がびっしりと詰まっている。なんとなしに本の題名に目を向けるが題名は日本語らしき文字が書かれているがなんて書いてあるか読めない。
……そういえば無人の学校でもそんなものを見かけた気がするな。
「あの……2人はずっとここで暮らしているんですか?」
香奈さんと由奈さんで延々と会話をしそうなところで十市さんが口を挟む。2人がどんどん変な世間話に飛びそうになっていたがその言葉を聞いて「あ」と香奈が声を出した。
「そうだったそうだった。そういうお話をしてたんだった」
「そうだよ香奈。そもそもこの2人はどなた?」
「えっとぉ、十市さんと三枝さん。階段を降りた所で会ったの」
そんな軽い調子で香奈さんに紹介される。由奈さんは俺達を見つつ「へぇ」って一言呟いた後不思議そうに首を傾げた。
「……さっきから思ってたけどリアクション薄いな」
「いや、すごい驚いてる。お客さんなんて久しぶりだし……とりあえず挨拶だよね」
そう言うと彼女は右手を胸に当てる。
「香奈から聞いてると思うけど、私は狭野由奈。香奈の妹で私達は双子なの」
「2人共よろしくね」
そう言うと狭野姉妹は2人一緒に手をパタパタと振る。あまりの息ピッタリな動きに俺と十市さんは互いに顔を見合わせる。本当に動きがそっくり過ぎてちょっと気を抜くと自分の眼がおかしくなったのか疑いたくなってくる。
「とりあえず一回ゆっくりしてからお話しよう。私お茶持ってくるねー」
香奈さんはソファを立ち、そそくさと旅館の奥へ歩いていく。
「お茶、飲み物あるの?」
「うん、ペットボトルのも、お茶っ葉のもあるよ」
「へぇ」
旅館だからか色々飲み物などには困らないらしい。食料なども旅館ならあるのか? あまり日持ちする食料は無さそうだが……それとも近くに別の施設でもあるのだろうか……。
「ただそんなの貰って大丈夫なのか? 数に限りはあるだろ」
「限り? 大丈夫大丈夫2人増えた程度で補充される前に尽きないよ」
俺の質問に由奈さんは変な言葉を返した。十市さんもその言葉を聞いて疑問に思ったようで彼女の短い言葉を噛み砕くように一度黙るとおずおずと言葉を発した。
「『補充』?」
「……? 何か変なこと言った?」
由奈さんは不思議そうに首を傾げる……むしろ「補充」という概念を知らない俺達がおかしいかのような顔をしていて寧ろ俺達の方が困惑する。
「あったあったお茶お茶ーペットボトルだけどいいよね」
俺達3人で困惑し合っているとパタパタとペットボトルを4本持ってきた香奈さんがなにやら変な歌を口ずさみながら戻って来る。そして俺達を見渡すと「どうしたの?」と首を傾げるのだった。
「え、知らなかったの……あ、そっか」
香奈さんに「補充」の話をすると彼女も驚いた表情を浮かべるもすぐに納得した表情をする。
「2人共こっち来て1週間とか言ってたっけ」
「え……うん、そうだけど」
十市さんが何の関連があるのか分からず困惑した表情をする。それに反して狭野姉妹は「なるほどなあ」っと二人だけで納得している。
「じゃあ、やっぱり私達の方が色々知ってそうだね」
「やっぱり2人共こっちに来て長いんだよな」
「「うん」」
俺の質問に息ぴったりで答える姉妹。そして彼女たちは指折り数える始める。右手を折りきり、左手の親指を折った所で互いに顔を見合わせるとこっちにクルリと向き直る。
「えーっとね」
「大体半年かな……カレンダー無いから何となくだけど」
「はんっ」
出てきた言葉は俺の想像以上だった。個人的には自分たちよりも少し長い程度……精々1か月位だと思っていたのだが。
「半年っ!? そんなに前からどうやって」
「どうやって言われても……ここで?」
狭野姉妹は十市さんの言葉を聞くとちょいちょいっと指を下に向ける。
「この旅館になら大体のものはあるからね。生活するだけなら」
「風邪になった時は地獄だったけどね」
「ねー」と香奈の言葉に由奈が言葉を合わせる。どうやら彼女達が特に嘘を付いている気配は無い。
「大体のものはあるって言うと前に見た学校みたいな感じですかね。ほら、購買のところみたいに」
「……かもな」
「学校? 購買?」
「なにそれ、面白そう!?」
俺と十市さんが話していると狭野姉妹の2人が顔を近づけて来る。十市さんよりもさらに幼いながら顔の整った中学生程の美少女に近づかれると思わず委縮する。綺麗な女性に近づかれる経験が少ないというのもあるし、こうやって近づかれると彼女達の着ている薄めのワンピースから色々見えそうで思わず視線が動いてしまうのを必死でこらえる。
「と、とりあえず。2人はここに泊まっても良いってことだな」
「え、うん」
「面白い話聞かせてくれるなら大歓迎だよ」
「私達も2人だけで退屈してるしね」
相変わらず息ぴったりに答える2人……声音もそっくりなため1人が喋っているようにすら聞こえる。
「そうだ! 2人共歩きっぱなしだったの?」
「え……うん」
「じゃあ、休憩するのが先だったね」
「部屋に案内しないと」
そう言うと2人はぴょんとソファから立ち上がる。そしてロビーから廊下の方へ歩き出す
「部屋?」
「うん、旅館だからお部屋は沢山あるよ」
「好きな所に選んでね」
そう言うとトタトタと2人はどんどん廊下を進んでいく。
俺と十市さんは一度顔を見開合わせた微笑み合う。
「なんだかマイペースな2人ですね」
「本当にな……仲良さそうだ」
一心同体、そんな風にすら見える2人……彼女達はどうやってここで暮らしているのか少し気になりつつも俺達は後を追うのであった。