夏の惑星   作:雹衣

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第24話

 ひょろひょろと飛んでいく球の打ち返しあう様子を由奈とともに眺める。得点は十市さんが6点、香奈さんが9点で少々香奈さんが有利に進めている。

 

「やれー、がんばれー!」

「いつも卓球はやってるのか?」

「ん? いつもではないかな。時々」

 

 「香奈しか相手いないしね」そういうと足をパタパタと揺らしつつ俺を見上げてくる。

 

「どうしたの急に?」

「いや、2人がどうやって暮らしてたのか気になってな」

「どうやってって言われてもなー」

 

 そういうと首をかしげつつ手遊びを始める由奈さん。

 

「こっちに迷い込んだ時点でここにいたのか?

「旅館ってこと? いや? ここから階段を上がっていくと頂上付近に神社あるの」

「神社?」

「うん、多分神社。すっごいボロボロだったし、人いないけど。いつのまにかそこにいたんだよ」

「いつのまにか?」

「そうそう、休日に香奈と2人でショッピングモールに行こうとしてたらいつの間にか……ねー、そうだよね香奈」

「うわっ! ちょっと突然話しかけないでよ!」

 

 突然話しかけられた香奈さんが驚いて球を打ち返し損ね由奈さんに怒り出す。それを「ごめんごめん」と大して反省してない様子で謝る由奈さん。その謝り方からしてこのやりとりはそう珍しいものではないようだ。

 

「ショッピングモールには電車で?」

「いや? 歩き……ただ直前まで何してたとかは覚えてないんだよね。気づいたら2人とも神社で寝てたの。お賽銭箱の近くでね」

 

 電車に乗っていた俺たちとショッピングモールに向かう途中の狭野姉妹では色々状況は違うから結局どうしてここに来たのかはわからなそうだ。

 

「そのあとは今現在って感じかな。ちょっと神社調べてみたけどめぼしいものはないし、階段を下りて誰かに助け求めようとしたけど人なんて誰もいない……そんなときにこの旅館を見つけてそのままここで暮らしてるって感じ」

「なるほど……」

「そっちは?」

「俺たち?」

「そうそう、下のほうから来たんでしょ? 私たち山の下まで行ったことあるけど、ずっと海みたいのが広がってるだけで先に行ったことないんだよね」

 

 「道あるけど果てしないし」そう言うと手をまっすぐに伸ばす独特なジェスチャーをしだす由奈さん……どうやらその手で俺たちが自転車で通ってきたまっすぐな道を表しているようだ。

 

「学校とか言ってたよね? あるの?」

「ああ、あの海……真水だから湖?みたいのがずっと続いてる。それで時々島みたいにいろいろ建物が浮かんでたんだ」

「へぇ、面白そう!」

「まあ、光景だけなら……そうだ」

 

 俺はスマホを取り出し中の写真を見せる。

 スマホの中には無人駅の様子や学校の風景が入っている。調査をしている途中に時たま撮っていたものだ。スマホが充電出来た時限定なため、枚数は少ないものの何枚か撮れている。

 とりあえず最初の数枚……道路が水に浸かった無人駅と無人駅から出発したときに十市さんが写っているものを見せる。

 

「へぇ!ホントだ!」

 

 由奈さんが声をあげながらグイっと体を寄せ、勢いよくスマホに顔を近づける。まだ温泉から出たばかりで乾ききっていない髪がの首元などにぶつかる。その瞬間、体がこわばるが変な動きをしないように自制する。十市さんよりも年下らしい少女を意識してると思われ変な目で見られたら色々と終わってしまう。

 

「うわぁ、すっごい水ばっかり……こんなところを2人でずっと来たの? よくなんとかなったね」

「ま、まあな。とはいえ学校で食料が見つからなかったらさすがに危なかった……そうだ2人はここで食料とかどうしてるんだ?」

 

 ずっと聞きたい事をなんとなしに尋ねる。半年間も人気のない旅館で過ごしていたという2人。だが、彼女たちの様子を見る限りひどく健康を損ねているようには見えない。

 

「え? 出てくるよ」

「出てくる?」

 

 それに対する由奈さんの返答はなんというかおかしなものだった。しかし、聞き間違いではないらしく「そうそう」と首を縦に振る。

 

「多分、そろそろかなぁ。今日はいつもよりちょっと早く入ったから、まだだと思うの」

「何の話だ?」

「お楽しみぃ」

 

 そういうと口元でバッテンを作る由奈ちゃん。……なんというかからかわれているようだ。悪意はないだろうがこっちが驚く反応を楽しみにしているようで口元が笑っている。

 

「うわぁ!」

 

 そんなことを話していると卓球をしていた十市さんの悲鳴が響く。そちらを見ると台に突っ伏す十市さんと俺たちに向けて胸を張っている香奈さんの姿があった。

 

「えへへ、私の勝ちぃ」

「うう、香奈ちゃん強いよ……」

「勝敗は……まあ、見てわかるか」

「うん、私の勝ち……って2人とも見てなかったの? 私の活躍」

「ごめん、三枝さんと話してたの」

「もー……まあ、いいや。おなかもすいたし。そろそろご飯食べよー!」

「そうだね、香奈。じゃあ2人とも行こ」

「行こって……どこへ?」

「えっとねぇ」

「宴会場?」

「そう、そんな感じ」

 

 そういうと狭野姉妹はとことこと歩いて遊戯室を出ていく。その様子を見送った後俺は十市さんと顔を見合わせる。

 

「宴会場って言ってましたね」

「ああ」

「……どういうことですかね?」

「……さあ」

 

 

 

 

 旅館の一階に宴会場はあった畳を敷き詰められただだっ広い空間だ。その奥に舞台のようなものがある。そんな広い空間に黒い座卓がぽつん置かれている。

 

「こっちこっちー」

 

 座卓の近くにいた由奈さんが後から来た俺たちを手招いていて香奈さんはどこからともなく座布団を4人分持ってきていた。

 

「あれ? これって」

 

 十市さんが座卓の上にあるものを見て目を丸くしていた。それにつられて俺も座卓の上を見る。

 

「ご飯に焼き魚に……おかずも。いつのまに用意したの?」

 

 座卓の上には食事が置かれていた。内容はなんというか典型的な和食みたいなラインナップ。白米に味噌汁にサンマ、チンゲン菜らしきおひたしまである。

 ずっと学校のパンを食べていた俺たちからするとなんというかちゃんとした食事だ。だが、こんなものいつのまに……。

 

「やっぱり今日は4人分出るんだ」

「ほんとほんと下手したら半分こにしなくちゃいけなかったよ」

 

 狭野姉妹はそう言うと座布団に座り始める。大して気にすることはないといった感じ。

 

「これは君たちが?」

「いや?」

「いつもこの時間になると出てくるんだよ」

「出てくる?」

「うん」

 

 香奈さんは首を縦に振る。……どうやらこの食事は勝手に出てきたようだ。しかも口ぶりからするとそれは毎日夕方になると出てくる。

 

「あとは今日は4人分ってことはいつもは違うの?」

「うん、いつもは2人分なんだよね」

「この時間に旅館にいなかったら減っちゃうんだよ」

「以前香奈が道に迷って夜遅くに帰ってきたとき大変だったもんね。1人分しかなくて」

「どこから来るとかは?」

「知らない。冷蔵庫とかにも魚とかは入ってないし」

「まあ、とりあえず食べよ食べよ」

 

 そう言うと狭野姉妹は箸をとって「いただきます」と声をそろえて言うと食事を始める。俺たちは顔を見あわるとおずおずと座布団に座る。

 

「いただきます」

「い、いただきます」

 

 十市さんも箸をきれいに持つととりあえずおひたしを食べる。

 

「おいしい……」

 

 十市さんからぽろっと感想がこぼれた。それを聞いた後俺も白米を食べる。炊き立てのように暖かく、柔らかい……本物の白米だ。久々にパン以外のものを口にしてなんだが新鮮なうま味のようなものを感じる。

 

「うん、やっぱり今日もおいしい」

「でも前に出た刺身また食べたいな」

「あぁ、あれはおいしかった」

「メニューも変わるのか」

「そうそう、大体は今日みたいな感じで時々豪華なのが出るんだよ、和食ばかりだけど」

「へぇ」

 

 十市さんが感嘆の声を漏らす。なるほど、彼女たちが大して疲弊した様子がないのがよく分かった。お風呂に食事にさらに寝床……。異世界で偏ってはいるが衣食住に困っている気配はない。ある意味、ここで平和的に暮らしているのだ。いや、悩みはない訳ではないだろう。彼女たちにだって家族はいるだろうし帰りたいみたいな感情はあるのだろう。それでもここの生活の不安は無いに等しいのだ。すくなくとも彼女たちに怯えていたりしていない。

 ……ここにいられれば、ある意味幸せなのではないか。ふと心の中によぎった。俺にわざわざ変える意味はあるのか?

 変わらない日常なんて元居た世界でも変わらないではないか。毎日毎日電車に乗り、仕事をこなして……むしろ変な悩みがない分元の世界より良いかもしれない。

 ずっと、ここにいれば。

 

「三枝さん? どうかしました?」

「え?」

「呆然としてたけど……」

「あ、いや、なんでもない。少し眠かっただけだ」

 

 十市さんに声を掛けられ俺は慌てて言いつくろう。

 

「ずっと動きぱなっしで温泉が気持ちよかったから」

「そうでしたね。ほんとにすっごい体が楽になりましたよ。私も温泉でついウトウトしちゃって……横から香奈ちゃんに突進されるまで気づかなかったくらいで」

「かえでが隙ありすぎなの」

「隙を見せるのが悪いー」

「もう」

 

 そう言うとまた狭野姉妹が笑う。十市さんもつられて笑い始める。最後にその3人を見つつ俺も微笑んだ。

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