夏の惑星   作:雹衣

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第26話

 辺り一面赤い山に続いていく階段を2人で歩いていく。

 俺の前をひらひらとスカートを揺らして上る香奈さんを見つつ付いていく。空は晴れ晴れとしていて涼しい風が舞い落ちる紅葉ともに通っていく。

 風すらも少々蒸し暑かった夏みたいな無人駅と比べるとやはり快適だ。

 

「とりあえず神社からだね」

「どれくらいかかるんだ?」

「大体1時間くらいかな。そこから例の橋にはさらに1時間ってところかな」

 

 香奈さんが言っているのが正しければ時間としてみるとそこまで遠くはなさそうだ。ずっと階段を上るというのを考慮しなければ。

 

「位置は教えてあげるからとりあえずは神社だけでよくない? 橋は道なりに行けばあるし」

「まあ行ってから考えるよ。何か予定あるなら途中で戻ってもいいが」

「予定なんてないからいいよ」

 

 そう言うとぴょんぴょんと先に進んでいく香奈さん。そのまま少し2人とも時々雑談を交わしながら歩いていく。

 

「結構山の中にも頑張って入ってみたけど、ほんとになんもないの。なんか特別そうな道具とか、この世界に関することは全然」

「見つけたっていう公園とかにも?」

「うん、全然。ボロボロの遊具っぽいのとかがあるだけ……むしろ三枝さんはなんか見つけた? 今まで

学校とかあったんだよね」

「……まあ特筆するようなのはない」

「でしょう、ここでも同じ。だからなんにもないの。ひまひまー」

 

 そう言うと手を力なく上げてプラプラとするどこか可愛らしい幽霊みたいな仕草をする香奈さん。けれどもその表情は笑っておらず楽しげではない。本当に退屈なのだろう。

 そんな風な会話をしていると唐突に階段の終着点が見えてくる。上を見上げると大きな鳥居がドンと立っていた。まるで立ちふさがっているようにも、まるで山の主かのように屹立しているようにも見えてくる。

 山の中の鳥居……状況だけならそう異様でもないのに、ずっと階段と木だけの代わり映えのない景色を見ていたせいで、一瞬どこかちぐはぐなものに見えてしまった。

 

「あそこか」

「そうそう、早く行こ」

 

 まだ遠くに見える鳥居のところにゆっくりと近づいていく。ふと後ろを向くと視界は紅い木々の海が広がっている。俺たちが通ってきた夏の水も旅館すらも秋の海に沈んでしまった。どこを見ても紅葉の世界……人気は全くない。遠くに鉄塔のようなものは立っているのが、集落のようなものはどこにも見当たらない。

 ある意味最初の無人駅との既視感を覚えた。景色として異様だったのはあっちの無人駅なのだろうが、ここも人工物が大量の飽和した自然に埋もれていた。そこそこ階のある旅館すら今は見えやしない。

 まるで人の力なんて大したことはないと見せられているようだ。

 

「すごい景色だよね」

 

 上から声をかけられた。

 

「ああ、綺麗だ」

「うん、でも私はあまり好きじゃないかな」

 

 俺の言葉に香奈さんはそう返した。彼女のほうを向き直ると俺と同じように紅葉の広がる山を一望している香奈さんがいた。涼しい風に吹かれスカートが穏やかにはためく。

 

「そうなのか」

「流石にね。すっごい綺麗だけど、迷い込んで初めて見て、そしてずっと見てる景色だもの。辟易するしいい気分にはならないよ」

「……まあ、そうか」

 

 言われてみればそうだ。彼女たちもここで生まれて暮らしてきたわけではない。迷い込んできて旅館で暮らしているに過ぎない。昨日の様子からすると楽しそうに暮らしているが、彼女たちも寂しいと思っているのだろうか……いや、思っていないわけがないか。

 彼女たちにだって友人も家族だって……もしかしたら恋人だっているだろう。それでも半年間、ここで生きてきた。その辛さはまだ俺には理解できないものだった。

 

 

 

 

 

 鳥居をくぐると小さな神社が立っていた。神社は拝殿らしきものと、社務所、手水舎などがある。しかし、拝殿は屋根が崩れ、右半分が対照的な建造物とは思えないほどにめちゃくちゃな有様だ。社務所なども入口の引き戸が倒れていて玄関口が露になっている。あちこちに草木が生えており廃神社としか言いようがない荒れっぷりだ。

 

「ここが……」

「そう、私と由奈が目覚めたらいつのまにかここにいたの。拝殿のあの辺りかな」

 

 香奈さんがそう言って本殿のほうを指さす。そこには賽銭箱らしき木の箱が横に倒れていた。

 

「……すごいボロボロだな」

「そうでしょ。すっごいぐっちゃぐちゃ。こんなところで目が覚めたからほんとにびっくりだし、呆然としちゃったよ」

「ここは調べたのか? 帰れそうな場所とか」

「もちろん。来た時に必死に探し回ったし。旅館に来てからも何かないか探したよ……でも何もない」

 

 そう言うとなぜか頬を膨らませる香奈さん。

 

「本当にちゃんと探したよ2人で」

「いや、それを疑っているわけじゃないけど」

「そして見つけたのはあっちにある橋だけ」

 

 そう言うと社務所のほうを指さす。そちらに近づいてみると社務所の残骸の奥に木々が分かれて半分獣道のような細い道がある。先ほどまでの階段のようには整備されていない。

 

「橋……はここからじゃ見えないな」

「さらに1時間って言ったじゃん」

 

 獣道の向こうは繁茂した紅葉の中に埋もれて薄暗い道が続いている。その先はよく見えない。

 

「流石にその先に行くのは面倒だから私は行きたくないな」

「……まあ、それならいいか」

「よかったよかった、流石に獣道で大変だから行きたくなかったんだよ」

 

 そう言うと香奈さんは一度軽く伸びをして鳥居の下に腰掛ける。

 

「じゃあ、三枝さんが満足するまでここにいるね」

「ん?」

「調べるんでしょ? ここ」

 

 そう言うと神社を指さす香奈さん。

 

「私は散々調べたからパスー」

「まあ、しょうがないか」

 

 完全に休憩モードに入った香奈さんを見てすこし苦笑いすると俺は神社のほうを向く。実際狭野姉妹の2人が半年何度か調べたのだから何もないかもしれないが、少し調べてみようと俺は拝殿へと向かった。

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