香奈さんの言う通り……そして予想通りではあるが神社には目ぼしいものは無かった。そもそも神社の壊れようは相当なものであり下手に近づけば木の残骸や釘などを踏みそうなので外から眺めるも、残骸の中に木魚のようなものやしめ縄らしきものが覗いているが取り立てて変わったものは無い。
俺が神社の周りを探している間、香奈さんは俺を見たり足をパタパタさせながら空を見たり、近くの紅葉を持ってくるくると回したりと明らかに暇を持て余している。
「はやくー、特にないでしょー」
「まあ、確かに無いな」
「でしょ」
香奈さんはそうつぶやきつつ俺に近づいてくると、近くの神社の柱らしき残骸をコンコンと叩く。
「私たちもちゃんと探したんだから」
「そうだな……」
「じゃ、戻ろー」
そう言うと香奈さんはくるっと鳥居から階段へと足を向ける。
「橋の方向も分かったしいいでしょ。由奈ももう起きてるだろうし、皆で遊ぼ」
「……そうだな」
もう少し調べたい気持ちはあれど香奈さんの時間を取るわけにもいかない。俺も彼女の後を追って階段を下りていく。
「4人になったら今までできなかったゲームも出来るしね。トランプとかは2人じゃつまんないもん」
そう言うとしばらく2人で下りていく。秋の空気は今も変わらず俺たちの間に涼しい風を送り、登ってきて疲労した体を労うように冷やしてくる。
「何しよっか、七並べとか」
「……なあ」
「ん?」
俺が尋ねると香奈さんは不思議そうに後ろを振り向いた。
「ここは、どんな世界だと思う?」
「どんな世界?」
「前に十市さんとも話してね。ここがどんな世界か少し考えたことがあったんだ……まあ、全然分からないんだけど」
「ふーん、そうだねぇ……」
香奈さんはトコトコとリズムよく降りながら考える。
「って言っても昨日も言ったけど私達はずっと旅館の周りで遊んでただけだからなぁ」
「それでもいい。何か思ったことは」
「……分かんない」
香奈さんはちょっと悩むもそう告げる。
「だって情報はないに等しいし、ご飯もお風呂もあるけどなんであるのか分からずじまいだしね。多分あのご飯が出なくなったら由奈共々野垂れ死んじゃうよ」
サラリと告げる香奈さん。十市さんに歳が近い少女は自身の死ぬ危険性を何ともないように告げた。
驚いたことを察したのか香奈は少しバツが悪そうに頬を掻きながらこちらを見ずに降りていく。
「事実だよ、由奈には言わないけど」
「由奈には言わないでよ」と小声で付け足される。俺はそれに黙って付いていくしかなくなってしまった。
「野垂れ死ぬ」……それは俺たちも散々考えたことだ。十市さんと駅に迷い込んだ日からことあるごとに浮び上がる悩み。それは香奈さんも同様だった。
一見すると楽しく旅館で妹と暮らしている彼女でもだ。そしてそれはこの異界の気まぐれ一つで実現してしまう。
でも……ここから先歩んでも帰れる保証なんて無い。
「どうしたもんかな……」
思わず独り言を漏らす。香奈は鼻歌を歌いながら階段を下りるのだった。
「あ、三枝さん、散歩してたんですか?」
「あ、香奈起こしてよー」
旅館に戻ると2人はいた。エントランスでのんびりとお茶をいれつつ漫画を手に取っていた。
「見てくださいよ、三枝さん。この漫画、絵は分かるけど文字がさっぱり読めないんですよ」
「ここの漫画とか本は全部そんな感じだよ」
そんなこと言うと2人は俺に漫画のページを開いて見せてくる。
そのページは以前学校で見た教科書の如く文字は日本語のような何かが羅列されている。
「絵は見れるし大雑把に内容は分かるけど流石にコレをずっと読むのは大変ですね……」
「だから暇つぶしは限られてるんだよね。香奈は三枝さんとどこ行ってたの?」
「上の神社。見たいってさ」
「あぁ、なるほどなるほど」
由奈さんはそう言うと納得したように頷く。
「何か分かった?」
「いや、さっぱりだった」
「だよねー、私達も散々探したもん」
そう気楽に言う由奈さん……彼女たちも半年前にここに迷い込んだ。彼女たちなりに様々な調査をしたのだろう。
それでもここにいるということは大したものは見つかっていない。彼女たちはこの旅館で平和ながら変化のない世界で暮らしている。
「よし、七並べやろ、七並べ」
香奈さんはそう言うとどこからかトランプを持ってくる。
「うわ、なつかし」
「由奈と2人でやっても面白くないしね」
「ふふ、旅館でトランプなんて、なんだか修学旅行みたい」
香奈さんの言葉につられ十市さんは笑う。友達と話すような気を遣わない笑み。
「三枝さんもやりましょ」
「ああ」
「うんうん、よしじゃあシャッフルして」
4人でテーブルを囲い、カードが配られる。それを十市さんはその配られたカードをむむむと真剣な表情で見つめている。
……トランプなんて久々だな。大学生以来だろうか。香奈さんから来たカードを見ながら俺は思う。
悩みらしい悩みなんてなく友人と馬鹿やっていた頃の思い出。それを思い返す。
「よし、じゃあまずは私から!」
そう言いながらハートの6が出される。それを見て「んー」と十市さんは考えてカードを出す。
のんびりと始まるトランプ。ついこの前までその日の食事にすら困って歩き続けていたとは思えない穏やかな時間。
……ここにずっといれば安全で命を懸ける危険はどこにもない。
「三枝さーん、三枝さんの番ですよ」
「あ、ああ」
考えていたら手が止まっていたのを十市さんに指摘される。テーブルの上を見て、ダイヤの5を出すと由奈さんが「おぉ」と大げさに驚くとダイヤの4を出す。
「三枝さんラッキー、ほら香奈次、次」
そうやって俺に笑いかける由奈さん。香奈さんは悩んで新たにカードを出し、十市さんもそれに続く。その姿は俺と一緒に歩いていた時よりも年相応に見える。
ここに十市さんが入れば安全だろう。駅の時みたいに食事に困ったり、学校までの道で大雨に遭う危険もない。
彼女はここにいればひとまず安全だろう、学校の時とは違い、一緒に遊ぶ友達……狭野姉妹だっている。
「三枝さん?」
十市さんから声を掛けられる。また俺の手番で止まってしまっていた。
戸惑いながらカードを出す。その姿を十市さんは不思議そうに首を傾げていた。