夏の惑星   作:雹衣

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第8話

 飛び石の大きさはまちまちだ。足一歩分の大きさのものから、大きければ直径3メートル程のものまで。形は基本四角形が多いが、川辺にある石のように丸っこい形のものもある。皆表面は凹凸が少なく、歩くのに苦労はしない。

 石と石の距離も基本的に変化は少ない。大体歩幅1歩分に収まる距離しか空いておらず、ちょっと歩幅を大きめにすれば届く石ばかり。ちょっと離れてても軽く跳べば楽に届く。

 そんな飛び石の群れを俺達は進んでいく。時計を眺めると短針は「8」の文字を指し示している。

 俺が起きたのは大体6時、それから準備とかがあった筈だ……恐らく飛び石を進み始めて大体1時間といった所だろう。俺達は未だに飛び石を歩き続けていた。

 ふと、後ろを眺める。俺の後ろには軽快にローファーの靴音を鳴らしながら付いて来る十市さんとその後ろに大分小さく見える駅の姿があった。

 

「大分歩いてきたと思ったんですけど、まだまだですね」

 

 俺が後ろを見ている事に気付いた十市さんが同じように振り向きながらそう呟いた。

 

「もう見えなくなっていたと思ってました」

「ああ、俺もだ、もう大分歩いてきたのにな」

「遮蔽物が無いとこんなによく見えるんですね」

 

 そう言うとスマホを駅へ向ける十市さん。

 

「それもメモスタに?」

「えへへ、はい。こんな風景普段なら見れないですから……ほんと、こんなピンチな状態じゃなければ、すっごく綺麗な景色なんですけどね」

 

 十市さんの言葉を聞いてまた駅を見る。

 一面水に囲まれた小さな無人駅。空も綺麗に晴れ渡って太陽の光が水面に反射してキラキラと輝いている。

 確かに、景色だけを見れば見事な絶景だった。

 

「……そうだな、俺も撮っておくか」

 

 俺もスマホをポケットから取り出してカメラを駅へ向ける。非現実的な無人駅の姿をスマホの画面越しに見れば「まるで絵画の様」という表現がぴったりと当てはまってしまう。

 

「あー」

 

 しかし問題が一つ、俺は十市さんの前を歩いていたため、どうしても十市さんの姿が写真に入ってしまう。かといって退いて貰おうにも彼女の足元は飛び石のため、横にズレたりといったことは出来ない。

 

「どうしたんですか? 三枝さん」

「いや、どうしても十市さんが写っちゃうからどうしようかと思っただけで……」

「あ、成程」

 

 俺の言葉を聞くと合点が言ったように頷くと右手をピースして目元に横から添える。

 

「……ん?」

「ほら、シャッターチャンスですよ」

「いや、十市さんを撮ろうという訳では無いんだけど」

「でも、私退けないですよ? 水の中に入るのも嫌ですし……」

 

 そう言うと悪戯っぽく笑う十市さん……確かに、その通りだろう。いや、俺が写真を撮らなければ済む話ではあるのだけど。

 

「どうです? 似合ってません?」

 

 どうにも十市さんがカメラに映る気満々なため俺は彼女をフレームに入れて写真を撮ることにする。

 

「写真に関しては素人だから期待するなよ」

「大丈夫ですよ。私だって別にプロって訳じゃないですし」

「ほんとに期待するなよ」

「分かってますって」

 

 「ほらほら」と呟きながらポーズをとる十市さん。それを見て俺はシャッターを押す。

 写真を撮るのは久しぶり……というかこのスマホで撮るのは初めてでは無かろうか?

 シャッター音を聞くと十市さんはポーズをやめ、飛び石を跳んでこちらに近づいて来る。

 

「どうですか? 三枝さん」

「ああ、こんな感じだけど……どうだ?」

 

 俺はスマホを見せる。少し遠い無人駅を背景に笑って横ピースをしている十市さん。空の青さと水面。それに制服のブレザーを脱いで暑さのせいで少しだらしなく着ているシャツ。

 

「うわぁ、すごい! なんか雑誌……いや、もう写真集の一面みたいです!」

「それは言いすぎだろ」

「いやいやいや、全然! 三枝さん、もしかしてプロのカメラマン?」

「ただのサラリーマンだって……あ、写真そっちに送れないのか」

 

 正直、自分でも悪くない写真だと思っていたが十市さんに予想以上に褒めちぎられ、悪い気はしないが気恥ずかしさから話題を逸らす。しかし、自分のスマホが未だに「圏外」を指し示していた。

 

「え……あ、圏外ですもんね」

「ああ、とはいっても俺が十市さんの写真持っててもな……」

「なんですか、私を持ってたら邪魔ですか?」

 

 そう言うとわざとらしくぷくうっと頬を膨らませる十市さん。けれどもその表情はあからさまに茶化しているのがあからさまだ。

 

「邪魔とは言わないが、俺が持ってても使い道無いだろ」

 

 俺がこの写真をSNSにあげるわけにもいかない。そんなことしたら友人らにあらぬ誤解を与えるだけだ。……元々交友関係なんてそこまで広くない俺がいきなり女子高生の写真なんてあげたら下手したら通報ものだ。

 

「そうですか、もしかしたら数年後には凄い価値になってるかもしれないですよ」

「女優でも目指してるのか?」

「もしかしたらそんな未来もあるかもしれません」

「今のところは予定にないんだな」

「ゼロではありません」

 

 頬を膨らませたままの十市さん。それに苦笑いを返すと俺は駅に背を向けてまた歩き始める。

 

「まあいいや、電波が通じる場所に着いたら写真のデータは渡すよ」

「あ、三枝さん待ってください!」

「早く行くぞー」

 

俺が適当に話を切って進み始めると俺の後ろに続いて彼女もついて来る。

 

「戻らないとこの写真を渡せないしな」

「何か言いましたか? 三枝さん」

「いいや、早く行こうってだけだ」

「はーい」

 

 まだまだ先は見えず、青い海と空の間にかかる飛び石は延々と続いている。そんな果ての無い道を2つの足音を鳴らして進み続けていた。

 

 

 

 飛び石を進むこと更に1時間程経った。しかしまだまだ先は見えない。日も昇り始め、少々暑くなってきたため、飛び石の中でも大きい飛び石に座り2人で1度休憩をとることにする。

 

「はい、三枝さんも。熱中症になったら大変です」

「あ、ああ」

 

 十市さんは水筒で水を飲んでいたがその水筒を俺に手渡してきた。

 

「悪いな、水筒とか持ってなくて」

「気にしないでください。あ、一応周りの水は飲まないでくださいよ」

「俺が昨日言ったことだろ、それは」

「はい、でも一回飲んだじゃないですか」

「あれは、念のための確認だ」

 

 俺がそう言うと何か言いたそうに睨む十市さん。俺はそれをあえて無視して水筒の水を飲む。暑い中をずっと歩いていたから冷たい水がとても美味しく感じられた。

 

「ここって本当に何なんですかね」

 

 三枝さんは何気なく辺りを見渡して果ての無い水面を眺めながら呟く。

 

「……三枝さん、ここってどんな場所だと思いますか?」

「どうって言われてもな……例えば?」

「例えばって……うーん、実はあの駅は『きさらぎ駅』みたいな異界だったとか」

「『きさらぎ駅』……ああ、ネットで話題になってたとか言う」

 

 「きさらぎ駅」……確か、インターネットの書き込みが発祥の都市伝説だったはずだ。2000年代、インターネットが徐々に一般の人達にも普及して商業サービスが出来始めた頃。「気が付いた『きさらぎ駅』という見知らぬ駅についていた」という書き込みがされ、その様子をリアルタイムで書き込んだことで話題になったという。

 それは近年、SNSなどで再ブームになりテレビでちょっとした特集を組んだり、映画なんかにもなっているという。

 

「『気が付いたら、いつの間にか変な駅についている』ってシチュエーションだけならそっくりじゃないですか?」

「……まあ、確かに」

 

 それだけ聞けば確かにそっくりだ。俺は1度振り向いて駅の方を向く。流石にもう駅は見えない。

 

「かといってこんな周囲は水まみれだったか? 確か、途中で駅出て車に乗るんじゃなかったか?」

「それは……アレです。現代化したんです。都市伝説も」

「現代化したら水まみれになるのか」

「あはは……無茶があるのは分かってますよ。だから、三枝さんはどう思うんですか?」

 

 十市さんに話を振られ俺は顎に手を置いて考える。実際ここがどんな場所なのか分からない先程のは十市さんなりに考えた推論なのだろうし、俺も色々考えないとな。

 

「とはいっても『きさらぎ駅』かはともかく異界駅の可能性はあるか」

「イカイエキ?」

「名前の通りだよ。『きさらぎ駅』みたいにいつの間にか変な駅に着いちゃって……みたいな話をそう言うらしい」

「へー、詳しいんですね」

「いや、全然。昔そう言う話が好きな友人がいたんだ」

 

 大学時代にはサークルに創作活動が好きな人が多かったこともあり、部員には色々な話に詳しい人が多かった。その中にそういったオカルト関係が好きな人もいたのだ。

 

「へー」

「後ありえるとしたら……実はここは未来の日本とか」

「未来の日本?」

「地球温暖化が進んで水位が上がってあそこは水だらけの無人駅になった……とか」

「なるほどー」

 

 十市さんは俺の言葉を聞いて納得したように頷く……とはいえその推論も「そもそもなぜ未来に飛ばされるのか」の答えにはならない。それに今歩いている飛び石を置く理由も分からない。飛び石の形はバラバラとはいえある程度同じ距離に置かれている。人為的な意図はありそうだけどあの使われていない駅に道を作る理由が無い。

 人為的なものが散らばっているのに何か違うような……。

 

「未来の世界かー、そんなドラマ前やってましたね。ほら、あの俳優が出てて、ミッシングナイトがテーマソングやってるやつ!」

「み、ミッシングナイト?」

「え、知らないんですか!? 三枝さん! ほら、あの、突然色々な人たちが極限状況に放り込まれてサバイバルをするって奴ですよ! 去年流行ったじゃないんですか」

 

 俺が疑問の声を上げると十市さんがあからさまに驚いた声を上げた。その声音からして彼女からしたら一般常識のもののようだ。けれどもそんなドラマ見たことないし「ミッシングナイト」なるグループ名も聞いたことは無い。

 

「そ、そうなのか?」

「そうですよー、あれで正吾君が格好いいってクラスでも大人気でしたよ。三枝さん、本当に見てなかったんですか!? 人生損してますよ!」

「そこまでか」

「はい! あ、ここから出たら一緒に見ますか? 確かお母さんが録画してたと思いますよ」

「流石に君の家に行くのは……」

「あ、確かに」

 

 そう言うと楽しそうに笑いながらそのドラマの話を始める十市さん。彼女の話を聞いてもそのドラマの事はよく分からなかった。そもそもそこまでドラマや俳優に興味が無いからかもしれないが。

 けれども「ここから出たら」、か。

 

「悪くないかもな」

「お、三枝さんも興味湧いてきましたか? そうそうこのシーンは幸奈役の源さんの演技が凄くって!」

 

 十市さんのドラマ話を聞きながら俺は飛び石を進む。彼女の言う「未来」。それを目指す為に。

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