クソキショヤンデレ彼氏♡長崎そよ 作:NAGASAKI TOKYO
「そんなの嫌だ!! そよにオレ以外の男ができるなんて!! 一生オレだけを想っててほしい!! オレと別れた後もしばらく……十年以上は引きずっててほしい!!」
そう言って、情けなく膝をつくどうしようもなく哀れな男がひとり。彼の名前は、家永優大。このライブハウス、RiNGで働く大学生で、長崎そよの恋人だ。
その様子を見ていた少女、千早愛音はあからさまにドン引きしており、現実から目を逸らすようにアールグレイのホットを飲む。
「ええっと……別に私はそよりんが優大さん以外の人を好きになるとは一言も言ってないんだけど……そういうとこが、キモいんだよなあ」
「オレのことキモいとか言わないで! オレにキモいって言っていいのはそよだけだから」
「うわ……」
どこまで行ってもキモい発言をする雄大に、愛音は彼の恋人であるそよに心の底から同情していた。それと同時に、なんでこんな男を恋人にしたのだろう、と呆れていた。
なんて言ったって、愛音はそよからも優大に対する愚痴を日頃から聞かされており、つまるところ板挟みなのである。
「で、またそよりん泣かせたんだっけ? 優大さん」
「そよの気持ちに偽りがないのか、どうしても確かめたくて……だってそよの気持ち、オレにはわかんないから……」
「それ一週間前にも同じこと言ってたよね。だからってさ、そよりんの目の前で他の女の子といちゃつくやり方はないでしょ……」
愛音は優大のそよへの気持ちが歪んでいることを知っているが、そのことを純粋に彼を好いているそよに伝えるわけにもいかず、永遠になんとも言えない気持ちで二人を見守っている。
愛音としては自分を介さず本人同士で解決してほしいと心の底から願っているが、まあこんな性格の彼氏とあんな性格の彼女じゃそんなことは到底できるわけもなく、未だに仲介役をさせられているわけだ。
「はぁ……あのね。そよりんって結構面食いなんだよ? 多分、私以上に。だからさ、優大さんよりも性格が良くて優しいイケメンが出てきたら優大さん終わるよ」
「知ってる。だからオレもそよよりかわいい女の子を見つけては目の前でベタベタいちゃついて、それでもそよがオレを選んでくれるのを待ってるんだ」
「うーん、なんて言えばいいんだろ。人間のゴミ?」
優大のあまりにも歪み切った愛に愛音はまたしても言葉を失う。この性格、もう少しなんとかならなかったのだろうか、いや、なんとかならなかったから今の彼がいるのだろう。
愛音は今すぐにでもそよの目を覚ましてやりたい気持ちでいっぱいになるが、彼の話をしている時の幸せそうなそよの顔を思い出してしまい、なんとも言えない気持ちになる。
「それにさ、思うんだよ。そよは、刺激のない関係を嫌ってるって。未来が保証されている安定した揺らぎのない関係なんて、価値がないってそよは言うと思う」
「優大さんってさ、もしかしてそよりんエアプ?」
自分のしでかしをそよりんを使って正当化しないでほしいんですけど……愛音はそう言って大きくため息をつく。
この男の思考が百八十度折れ曲がっていることを嫌と言うほど思い知った愛音は、呆れ気味にこう問いかけてみる。
「ていうか、そよりんのこと好きなんでしょ? 大好き、なんでしょ? だったらそもそも他の女の子といちゃついてそよりんを不安にさせるようなことしなきゃいいんじゃないの?」
「……嫌だッ! オレは、そよに嫉妬されることが生き甲斐なんだッ! 他の女の子と触れ合うオレを包み込む冷たいオーラ、不安げに揺れるまなざし、弱々しく震える声、その全てがBeautiful……」
「犯罪者予備軍のセリフだよそれ……」
どこまで行ってもキモい優大。愛音の心のシャッターがどんどん降りていく。
たしか、こういう人間のことを「ヤンデレ」と呼ぶことを愛音は思い出したが、これをヤンデレとカテゴライズするにはあまりにもキモすぎる。
「今こうして愛音と話してるのだってそうだ。オレが愛音と話すことによって、そよが愛音に嫉妬して愛音のことを嫌いになってオレだけを見てくれるかもしれない、その可能性に全てを賭けてるんだ」
「最悪のRoseliaじゃん」
「……オレさ、いつかの未来そよがひとりになればいいと思ってる! 誰からも見捨てられてひとりぼっちになって、オレだけに縋るようになってほしい! そんなそよが、オレは愛おしいから」
「歪みすぎだよ〜……こわすぎ〜……」
愛音は思った。心の底から。そよりん、こんなやつとはすぐに別れたほうがいい、と。こんなやつと付き合ったところで絶対にいいことなんてないと。
ただ、愛音は思い出す。多分、そよはこう言う男に死ぬほど引っかかるタイプであると。愛音の勘がそう告げている。なんならそよはダメ男を生み出すタイプでもあると、そう告げている。
現に今そよはこの家永優大という特急呪物を彼氏にしてしまっているし、それにより百八十度折れ曲がった愛情を毎日向けられている。正直、めちゃくちゃ心配である。だが、そよの気持ちを考えると、どうしても言えない。そんな時だった。
「……優大くん、なんで、愛音ちゃんといるの?」
「あ、そよ。今日もかわいいね」
「そんな言葉に惑わされないから。で、また浮気かな? 優大くん、本当に変わらないよね。それに付き合う愛音ちゃんも」
「えっ私!? 私何もしてないんですけど!? むしろ被害者なんですけど!?」
話をすればなんとやら、だろうか。RiNGのカフェテリアに、そよがやってきた。案の定そよは怒りモードで、冷たい目線で二人を見つめている。
なんとか誤魔化し方を考える愛音に、優大はこう耳打ちする。
「ほら見て愛音、そよのかわいい顔。怒っててもかわいいなんて、やっぱりそよは最高だね」
「うーん、私には般若にしか見えないんだけど……」
焦る愛音に対して、あまりにも通常営業な優大。愛音は改めてこの男が異常だと感じた。
まさかこうして修羅場に巻き込まれるとまでは思っていなかった愛音。どうしたものかと思っていたその時。
「……ごめん! そよ」
「……何? 今更謝っても、遅いから」
「そよ。オレはさ、そよがいつだって一番だよ。さっきも、そよがかわいいってこと、愛音に自慢してた。それに、オレがそよ以外の女の子に目移りしたことなんてないだろ? オレを信じてくれよ、そよ」
「優大、くん……」
そう言って、そよを抱きしめる優大。そよは優大の腰に手を回すと胸に顔を埋め「うんっ、私も、優大くんが好き……!」と幸せそうに口にした。
そこで愛音は思い知った。これは自分の出る幕じゃないと。私にできることは、二人を見守ることしかないと。
それに、なんだかんだ幸せそうだし、様子見でいいかもな〜ということにした。これに付き合っていたら、そのうち胃が爆発する。愛音の第六感がそう告げていた。
愛音は、抜き足差し足でカフェテリアから去ろうとする。そんな時、肩に置かれる手。
「じゃあ、私からも愛音ちゃんに優大くんのかっこいいところを教えちゃおうかな♪」
……その日、愛音は全てがどうでも良くなった。
長崎そよさんって、絶対クソみたいな彼氏引っ掛けそうだし絶対別れられないよなと思って書きました。続いたら続きます。