片隅の英雄譚   作:浅葱 沼

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説教

 

「貴様というやつはまだ冒険者のつもりでハイルドさんと接しているのか?」

 

「...すいません」

 

「大体なんでこんな時間になって外から帰ってきてるんだ?付き添いに関しては有用だから許可はしているが書類仕事を後回しにしていいとは言ってないぞ。残業すればいいなんて思ってるんじゃないだろうな?残業代を気前よく払えるほどうちのギルドは儲かってないのはお前も知っているだろ。ほんとに貴様は......」

 

「あのー...」

 

 決壊したダムの如く溢れ出てくるベーゼの説教を一身に受け止めしゅんと背中が丸まっているディアントを気の毒に思い止めようかどうか迷っていたハイルドだったが、ちょうどそこに着替えを済ませたステラが申し訳なさそうに事務室に入ってきた。

 

「ん?誰ですかあなた?」

 

「はじめまして。私、ステラで・ジェットと言います。先日からここで職員として働かせていただいています」

 

 突然声をかけられ説教を止められたことで、ステラの方をメガネ越しでも分かる鋭い目つきで睨みつけたベーゼは、ステラの自己紹介を聞いた途端目つきが和らいだ。一方で、さっきの怖い顔のベーゼを思い出しながらやっぱり止めなくて良かったなと安心したハイルドはこっそり一人で胸を撫で下ろしていた。

 

「あぁ、君がか。初めましてなのにこんなところを見せてしまってすまないな。私はベーゼ・フォール ここの副ギルドマスターだ。よろしくな」

 

 さっきまでのディアントに対しての態度とうってかわって優しく笑いながら話すベーゼは、そこだけ見れば気さくな姉御肌のお姉さんにしか見えない。

 

「今日はもう上がるといい。あとの仕事はこいつの説教を済ませてから私が一緒にやっておく」

 

「そのことなんですが...」

 

 ステラを返して説教を再開しようとディアントの方に向き直そうとしたベーゼは、ステラがまだ話そうとしたので少し面倒くさそうにもう一度彼女に目を向ける。

 

「なんだ?」

 

「ディアントさんの付き添いに付いて行くと言ったのは自分ですので、ディアントさんを叱るなら私も一緒に叱っていただけませんか?」

 

「はあ?貴様何を言って...」

 

 予想外の言葉につい言葉が荒くなりそうになったベーゼは、どうしたものかと言葉にならない声を口から漏らしながらステラの顔をもう一度見ると、これまた予想外に真剣な眼差しで真っ直ぐこちらを見ているステラと目が合い、

 

「〜〜っ、もういい!今日のところはこれぐらいにしといてやる。残った仕事は二人で片付けてさっさと上がれ」

 

 とだけ言い残して事務室を出て行ってしまった。

 

「「おおー」」

 

「ど、どうしたんですか?」

 

 ベーゼが部屋を出て行った瞬間、ディアントとハイルドが謎の声を上げながらステラを見たので彼女は困惑した。

 

「いや、あのベーゼさんが説教を中断するとは」

 

「すごいなステラ君。彼女の説教を一度ならず二度も阻止するとは、さすがは元トップ冒険者」

 

 立て続けに出てくる賛辞にステラの困惑は加速するばかりである。

 

「いえ、私は何かしたつもり無いんですが」

 

「いやぁ助かったよ。ああなったベーゼさんは誰も止められないからさ」

 

「うむ、ベーゼはディアントに特別厳しいところがあるしな」

 

「やっぱあれか。歳のせいかな?」

 

「ガハハ!おいおいディアント、お前ベーゼとそんなに歳変わらんだろ!」

 

 嵐が去ったことに安心したのか冗談を言い合いながらディアントとハイルドが笑っていると、

 

「聞こえてるぞ貴様ら」

 

 出て行ったはずのドアからこちらを睨むベーゼの声が聞こえた途端二人は石にでもなったように固まる。

 

「ディアント。貴様には後日上司に対する態度をしっかりと教える時間をとってやるから覚悟しておけ」

 

「.........はい。すいません」

 

 ステラは背後から聞こえるベーゼの声に謝罪するディアントがシュルシュルと小さくなっていくように見えた。

 

「それと、ハイルドさん」

 

「はい!なんでしょうか!」

 

 元気よく返事するハイルドは彼女の上司のはずなのだが背筋はピンと張り、顔はななめ45°を保って天井を見つめている。

 

「なんであなたが敬語なんですか...まぁいいです。ディアントに例の件伝えておいて下さい。それを伝えに戻ったんです」

 

「分かりました!」

 

 天井を見つめたまま返事をするハイルドにベーゼはため息をつきながら今度こそ部屋を出て行った。

 

「俺、多分殺されるな...」

 

「ディアント...お前のことは、絶対忘れないからな」

 

 ハイルドはどこか遠くを見つめながらか細い声で呟くディアントの肩にそっと手を置きながら目を閉じる。

 

「あのー...」

 

 すっかり置いてけぼりにされたステラが声をかけると、二人はすぐに我に帰った。

 

「すまんすまん。ついいつもの癖でふざけてしまった」

 

「ステラが来る前からこんな感じだからな」

 

 ステラは、はははと笑い合う二人を見ながら男の子ってこんな感じなのかなと考えそれ以上深くは追求せず、

 

「それより、さっきベーゼさんが仰ってた”例の件”ってなんですか?」

 

 気になったベーゼの言葉について聞いてみた。

 

「ああ、そのことなんだが少しややこしくてな。明日の朝にクララも入れて改めて話そう。今日はもう遅いから二人とも仕事を終わらせて上がってくれ」

 

「りょーかい」

 

「分かりました」

 

 結局なんのことか分からないまま、ディアントとステラは残していった仕事を手早く終わらせて家に帰った。

 




ベーゼさんはディアントより2歳年上なだけで綺麗なお姉さんです。
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