片隅の英雄譚   作:浅葱 沼

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防衛戦

 

「よし、とりあえずやることはやったかな」

 

 依頼の張り出しと各部署に視察が来ることを伝えたディアントは事務室に戻って一息ついていると、

 

「ディアントさん!ディアントさん!」

 

 そこへ慌てた様子のクララが駆け込んできた。

 

「どうした?何か問題でも...ってなんだそれ?」

 

 ディアントはクララの背中に抱えられている顔色の悪い男を指差しながら聞いてみると、どうやら彼が本部からの視察者でステラの料理を食べて倒れたらしい。

 

「それはお気の毒に、この鼻は副作用でなったのか?」

 

「ぷふー!笑わせないでくださいよ!この鼻は元々こうだったんです!」

 

 男の心配は微塵もしていなさそうなクララはケラケラと笑う。

 

「マジかよ!?顔面凶器とはまさにこのことだな...」

 

「やっぱりディアントさんもそう思います?あたしも見た時笑いを堪えるのに必死で必死で...」

 

「「あっはっはっは!」」

 

「お二人とも、ふざけないでください!それに私の料理の副作用でなったなんてひどいですよ!」

 

 ディアントとクララが腹を抱えて笑っていると、後から入ってきたステラに叱られてしまったので笑って出た涙を拭ながら謝罪する。

 

「すまんすまん。でもこの調子だとしばらくは起きないだろうな」

 

「別に起きなくていいんじゃないですか?ステラさんを連れて行こうとする悪い奴ですし」

 

「それもそうだなぁ」

 

 

 

 

「誰かいるか!」

 

 ノズールをどうしようか三人で頭を悩ませていると、今度はベーゼが駆け込んできた。

 

「...なんだそれは?」

 

 ベーゼは事務室にあるソファーに寝かされたノズールを汚いものでも見るような目をしながら聞いてきたので事情を説明すると、怒りなのか呆れからなのか彼女の表情が強張った。

 

「貴様らは本部から来た大事な客になんてことしてるんだ...本当なら今すぐにでも叱りたいところだが、今はそれどころじゃない」

 

「そ何かあったんですか?」

 

 あのベーゼが昨日までならず今日も叱るのをやめたことに驚きつつ訊ねてみると、

 

「ウェスタ大森林から大量のモンスターがキャンテラの街に向かってきていると情報が入った。今出している依頼を全てストップして緊急クエストとして全冒険者を集めろ。ぐずぐずしてるとこの街がモンスターに飲み込まれるぞ!」

 

「はい!?なんでそんなことになってんすか?原因は?」

 

「原因は不明のままだが、今は調査なんて悠長なことは言ってられん。現状の対処が最優先だ。それとステラ!」

 

「は、はい!」

 

「今はギルド職員だが、元冒険者として今回だけは貴様の力を借りたい。頼めるか?」

 

「...分かりました。私でお力になれるなら喜んで」

 

「すまんな。助かる」

 

「いえそんな!頭なんて下げないでくださいベーゼさん」

 

 少し戸惑いながら答えたステラだが、ベーゼが真剣な表情で頭を下げる姿を見て何故か彼女も頭を下げる。

 

「じゃあクララ、今すぐ街に警報と冒険者を集める放送を流してこい!」

 

「はい!」

 

 顔を上げたベーゼの指示でギルドの放送室へ向かったクララによってキャンテラの街にけたたましい警報が流れる。

 

『ただいまウェスタ大森林の方角から多数のモンスターが街に向かってきていると情報が入りました。南東の地区の住民の方は至急避難を、冒険者の方は至急冒険者ギルドへお集まり下さい!』

 

 

 

 放送が流れたことを確認したベーゼはすぐさまディアント達に指示を出し始める。

 

「よし。ディアントとステラ。貴様らもギルドの集会所に行って冒険者達と作戦をたててこい。こいつの世話は私がしておく」

 

「じゃあよろしくお願いします!行くぞステラ」

 

「お願いします!」

 

 本部からの視察者をこいつ呼ばわりしてしまうもはやベーゼ様とでも言った方がいいお姉様にノズールを預け、二人はギルド受付前にある集会所に急ぐ。

 

 集会所につくとすでに放送を聞きつけた冒険者が続々と集まりつつあり、その中には昨日一緒にゴロン洞窟へ向かったザックたちの姿もあった。

 

「ディアントさん!ウェスタ大森林からモンスターが向かってきてるって本当なんですか?」

 

「ああ、しかも団体様でな。俺も信じたくないが本当らしい」

 

「原因はなんなんだ?」

 

 ディアントとザックの会話を聞いていた近くの冒険者が尋ねてきたのでディアントは集会所にいる冒険者に大声で話し始める。

 

「みんな聞いてくれ!現在モンスターが街に向かってきている理由は不明だ。しかし調査をしている暇もない。だから今いる冒険者で迎撃し、落ち着き次第調査へ向かう!緊急クエスト扱いだから参加した冒険者には後日モンスターの討伐数や種類によって報酬が出るから頑張ってくれ!お前らがこんなところで死ぬようなやわな奴等じゃないことは俺が一番知ってるから、この仕事が終わったらギルドから金ふんだくってやれ!」

 

「お!<守護者>のディアントさんもやる気みたいだな」

「任せろ!」

「ステラちゃんも来てくれるなら百人力だぜ!」

「このギルド金欠で潰してやるから覚悟しとけよディアント!」

「よっしゃ行くぞお前ら!」

 

 集まった冒険者はみなディアントと親しいようで彼の激励に冗談を交えながら応え、掛け声と共にモンスターが迫ってきている南東の門へ駆けて行った。

 

「俺らも行くぞステラ。後から来た冒険者はクララが案内してくれるはずだ」

 

「はい!」

 

 それに続きディアントとステラも門へと急いだが、街の門に辿り着いた二人は目の前の光景に言葉を失った。

 

 

 

「なんだこれ...」

 

 そう呟くディアントの前にはシルバーウルフだけでも百匹はおり、その中には大型の猪モンスターであるレッドボアーやオークまで群れをなして街に向かってきていた。

 

 普通一緒に行動することなどありえないこれら別の種族のモンスター達が徒党を組んでいるところはもはや異常としか言いようがなかった。

 

「私もこんな光景は初めて見ました」

 

 ステラもこう言うように、やはり今ウェスタ大森林で起きていることは早急に解決しなければならない問題だという考えが強まる。

 

「ディアントさん。少し強めの魔術を使うので時間稼ぎをお願いしてもいいですか?」

 

「よし任せろ!」

 

 お互いに頷き合うと、ステラは魔術の詠唱を始める。

 

「お前ら!ステラが魔術を撃つからそれまでの時間稼ぎだ!これ以上あいつらを進ませるなよ!」

 

「「「「ウォーー!!」」」」

 

 冒険者達の雄叫びとともにキャンテラ防衛戦が幕を開けた。

 

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