片隅の英雄譚   作:浅葱 沼

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防衛戦 2

 

「う、うーん...」

 

「おや、起きられましたか?」

 

「ひぃっ!」

 

 ひどい悪夢にうなされていたノズールが目を覚ますと、顔を覗き込んで話しかけてきた強面のハイルドと目が合い短い悲鳴を上げる。

 

「ぼ、僕は何故寝てるんです?たしか酒場の視察をしていて、ステラさんの料理を食べて......駄目だそこから先が思い出せない」

 

「お腹が一杯になって寝てしまったのでは?」

 

 ノズールが必死に記憶を掘り起こしていると、彼が寝ていたソファの対面に位置する椅子に座った女性が話しかけてきた。

 

「あなたは?」

 

「挨拶が遅れました。副ギルドマスターのベーゼ・フォールと申します」

 

 ペコリと頭を下げるベーゼは所作と言葉こそ丁寧な挨拶をしているが、彼女の言葉の節々にはどこか棘を感じる。

 

「視察の途中に居眠りだなんて、本部の方はそんな教育をされてるんですか?しかも、聞くところによればうちの職員に冒険者に戻らないかと勧誘したそうですね?あなたにそんな権限はないと思うのですが」

 

 眼鏡の奥で光るベーゼの鋭い眼光に、ノズールはこの人に逆らってはいけないと直感した。

 

「そ、それは大変失礼しました。もちろん勧誘の件も本気ではなく冗談で言っただけで...今後はしないと約束しましょう」

 

「まあまあベーゼもその辺で...ノズールさんも疲れてらっしゃるんだろう」

 

「それではここからは私とギルドマスターのハイルドが視察に同行させていただきますので、よろしくお願いします」

 

「そういえばさっきまで案内してくれていた彼女達はどこへ?」

 

 まだふらつく足取りでソファから起き上がり、事務室を見渡して姿の見えないステラとクララの行方を歩き出した二人に聞いてみると、その質問にはハイルドが答えた。

 

「ああ、それでしたら今、ウェスタ大森林から大量のモンスターがこの街に押し寄せて来ていまして、総務部の者達は出払っています」

 

「はぁ!?それって”オーバーフロウ”では!?」

 

 買い物にでも出て行ったような軽い物言いで重大な事件が起きていることを知らされつい声を荒げてしまうノズール。それもそのはず、本来モンスターが大群で街に押し寄せる”オーバーフロウ”は、なんらかの原因によって溢れかえったモンスターが餌を求めて近隣の町や村に被害を及ぼし、放っておけばその被害は拡大するばかりの災害である。

 

「いや。どうやらオーバーフロウとは少し違うようでして...、原因を突き止めたいのですがその前に今向かって来ているモンスターの対処に冒険者達を向かわせたところです」

 

「原因も分からないモンスターの大群が押し寄せて来ているのに、お二人ともなんでそんなに落ち着いてるんです!?今すぐこの街から逃げるべきでしょう!」

 

「その点なら問題ありませんよ」

 

 ノズールのもっともな意見を笑って受け流すハイルド。

 

「何が問題ないんですか?」

 

「キャンテラの街にはディアントが、それに今ではステラ君もいますからな」

 

「ステラさんは元トップ冒険者ですから分かりますが、そのディアントという人は何者なんです?」

 

「元Bランク冒険者止まりだった男です」

 

 ハイルドの言葉はノズールの疑問は深まった。

 

 冒険者は中級と上級の間に大きな壁が存在する。その壁は努力でどうこう出来るものではなく、上級冒険者と呼ばれるもの達には必ず他の追随を許さない圧倒的才能があるとされているからであり、その中でもSランクの冒険者はもはや人外とすら言われるレベルである。それに対し、Bランクまでならある程度の才と努力さえすればなれる凡人の限界と評される域である。

 そんなBランク止まりだった凡人に何が出来ると言うのかと顔に出ていたらしいノズールにハイルドは笑いかける。

 

「心配されなくて大丈夫ですよ。元Aランク冒険者の私が保証します。あいつは人外と言われるSランク冒険者とだって肩を並べられると思っていますので」

 

 そんな言葉が信じられるか!と不安が胸を渦巻きながらベーゼとハイルドに連れられて視察を再開させられるノズールだった。

 

 

 

 

  ◇◇

 

 

 

 

「全員離れ過ぎずパーティー間である程度の距離を保ったまま戦え!それと魔術職のやつは敵に魔術を当てるんじゃなくて敵の足元を狙って怯んだ所を前衛職が突くようにするんだ!」

 

 大声で叫ぶディアントの指示で、普段は一緒に仕事をすることのないはずの数十に及ぶパーティーは息を合わせてモンスターを倒していく。

 

「ディアント!こっち助けてくれ!」

 

「任せろ!」

 

「ディアントさん!マナポーション飲む時間下さい!」

 

「よし来た!」

 

「ディアントー!こっちに負傷者だ!」

 

「うおおおーー!」

 

「ディアント!ちょっと疲れたから交代してくれー」

 

「働けー!」

 

 それでもやはり即席のチームなだけにその連携には綻びができる。しかし、そこを戦場を縦横無尽に駆け回るディアントが、押されている前衛には剣術で、魔術が途切れているところは魔術で、傷を負ったものには神聖魔法で、と適切にサポートすることでその流れを円滑にしている。

 

(す、すごい...)

 

 そんな彼の姿を見て、一番驚いていたのは後ろで魔術の詠唱を進めていたステラだった。

 

(ここまでのパーティーに連携を取らせる指揮はもちろん。戦場全てを見渡せている視野の広さがすごいです。私が冒険者をやっていた時もいくつかのパーティーで協力した時はありますが、ここまでの数ではなかったしこれほどの連携は取れていませんでした...)

 

 冗談を交わしながらも的確に今必要なことをこなしていくディアントに感心しながら、ステラの詠唱も完了し魔術の準備が整った。

 

「ディアントさん!いつでもいけます!」

 

「よっしゃ任せろ!お前ら!全員ステラの方へ走れー!!」

 

 ディアントの号令で背を向けて走り出した冒険者達とモンスターの間にスペースが生まれる。

 

(よし!この距離なら巻き込まないで打てます!)

 

 冒険者達の安全を確認したステラの両手に膨大な魔力が流れる。その魔力で生み出された魔法陣は重なり、隣り合い、その魔術の威力を高めていく。

 

氷界よ、(アイシクル・)現界せよ(アライバル)

 

 ステラから放たれた特級魔術は瞬く間に周辺に冷気を放ちながらモンスター達に襲いかかり、あるものは氷漬けに、またあるものは地面から迫り上がった鋭利な氷柱で串刺しにされ、モンスターの軍勢は壊滅してしまった。

 

「すっげ...」

 

 まさかこれほどの威力の魔術が飛び出るとは思わず、ディアントのみならず大勢の冒険者が茫然と真夏の大地に現れた氷の塊を眺めてキャンテラ防衛戦はあっけなく幕を閉じた。

 




魔術には、下級、中級、上級、特級、絶級という威力に合わせたランクが存在します。
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