片隅の英雄譚   作:浅葱 沼

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<保護者>

 

「あ、みなさんお疲れ様です!」

 

 中に入ると、集会所で一人待っていたらしいクララが出迎えてくれた。

 

「モンスターはなんとかなったよ。あとは原因の調査だけど...」

 

 時刻はもう夕方で、森の探索に出るには危ない時間になっているため本格的な調査は明日からになった。

 

「よーし!じゃあ今日は飲むかみんな!」

 

「いいねぇ!」

 

「仕事終わりは酒だな!」

 

 冒険者の誰かがそう言ったことで、盛り上がった全員はギルドの酒場へと雪崩れ込んでいってしまい緊急クエストに参加した冒険者で溢れかえっていた集会所はあっという間に静かになった。

 

「では私たちも行きましょうか!」

 

「俺たちはまだ勤務中だろうが。それに今日の緊急クエストの処理もあるからまだ終われないぞ」

 

「えぇ〜、そんなぁ」

 

 ノリノリで冒険者達の後に続こうとするクララの襟を掴んで制止し、ステラと事務室に戻ることにした。

 

「ん、帰ったか。よくやった」

 

 事務室に入ると、待っていたらしいベーゼから声がかけられる。彼女の後ろを見るとハイルドと何故か驚いているノズールの姿もあった。

 

「ちょうどこっちも視察を終えたところだ。そっちは思ったより早かったな」

 

「ステラのおかげで一瞬だったよ。この子がいなかったらまだまだかかったろうな」

 

「そんなそんな...私は何も、皆さんのおかげです」

 

 実際、彼女がいなかったら日が暮れるまでかかっていただろうな。と飲みにいく元気も残っていない冒険者とギルドに帰って来て、まだ残っているギルドの仕事もしなければならなかった未来を考えて嫌気が差す。

 

「今日は二人とも討伐に参加してくれたし、先に上がっていいぞ。後は俺たちでやっておくから」

 

「え、いいのか?」

 

 

「おーい!デステラさんにディアント!頑張ったんだから一緒に飲もうぜー!」

 

 早上がりだなんて珍しい提案をしてくるハイルドを見ると、どうやらノズールからステラを遠ざけたいから連れていけと目線で訴えかけていることが伝わった。その時、タイミングを計ったかのように既に出来上がっている冒険者が事務室の扉を開けて飲みに誘ってきた。

 

「え、あたしは?」

 

「貴様は今日何かしたのか?」

 

「......喜んで働かせていただきます」

 

 自分も飲みに行きたかったらしいクララがベーゼに釘を刺されているのを見ながら逃げるようにステラと酒場へ向かうことにした。

 

 酒場は飲めた歌えやのどんちゃん騒ぎで、少し見ないだけでよくここまで飲めるなという量の空のグラスやら空き樽が転がっていた。

 

「お!来た来た、みんな今日の主役だぞー!」

 

「「「うぇーい!」」」

 

 二人を見つけた冒険者達はすぐに席につかせて目の前に酒の入ったジョッキをどんと置いて出してきた。

 

「まったく、お前らってやつは...」

 

 

 

「いやー凄かったぜステラさん!」

 

「ほんとほんと、あれって超級魔術ですよね?私なんてまだ上級までしか使えないから憧れちゃいます!」

 

「いえ、そんなに褒められるほどでは...、皆さんが足止めしてくれたから詠唱する時間ができたわけですし」

 

「美人の上に謙虚なんて最高だな!」

 

 主役だなんて恥ずかしいなと思いながらジョッキを手に取ると、ステラを取り囲んで褒め称える冒険者たちに押しのけられて吹っ飛ばされた。

 

「おい!俺は!?」

 

「お、ディアントいたのか?」

 

「いたわ!てかお前らが呼んだんだろうが!」

 

「俺たちはステラさんと飲みたかったんだよ。お前は普段からステラさんと一緒に仕事できてんだから別にいいだろ」

 

(こいつら、打ち上げって理由つけて美人と酒飲みたかっただけじゃねーか!)

 

「でも、本当に私なんかよりディアントさんの方がすごいと思いましたよ?」

 

「ステラ...!」

 

「ディアントさんの指揮とサポートで皆さんのチームワークが格段に良くなっていましたし、私が冒険者をやっていた時でもあそこまで戦場が見渡せている人はなかなか見たことありません」

 

 昔からの知り合い達に酷い扱いを受ける中、ステラだけが俺を擁護してくれたことで彼女が女神か何かに見えてしまった。...女神はいないけど。

 

「トップ冒険者だったステラさんがそこまで言うなら、すごいのか?」

 

「うーん。でもディアントに手伝ってもらってるのは昔からだし、これが普通だからなぁ」

 

 どこか信じきれない様子の冒険者たちだが、実際そこまで大したことはしていないから実感がないのも無理はないだろうな。

 

「それより、私はみなさんがディアントさんのことを<守護者>と呼んでいたのが気になっていたんですが、あれってなんですか?」

 

「うっ、それ聞くのか?」

 

 話題を変えようとしたらしいステラがこちらを向いて聞いて来たのは、あまり触れてほしくなかった話題だった。モンスターを討伐に行く時も誰かが言っていたが、スルーしてなかったことにしてたつもりなんだが、

 

「あんまり話したくなかった話題でした?」

 

「いや、別にそんな大したことじゃないんだけど...」

 

「俺たちが教えてあげるよステラさん!」

 

 ディアントが口ごもっていると周りの冒険者達が嬉々として話だした。

 

「ディアントは冒険者の頃から同じパーティーや仕事仲間に過保護でさ。冒険者やめてからも付き添いの仕事なんてやって初心者冒険者を守ってやるからディアントが大好きな初心者冒険者たちの間で<守護者>って呼ばれ出したんだよ」

 

「とってもいいことじゃないですか!なのになんで恥ずかしがるんですか?」

 

「いや、そうなんだが...」

 

 その話だけ聞けばいいことかもしれないが、一番大事なところを意図的に話さずこちらをニヤニヤと見てくる冒険者たちのために口を開くことにした。

 

「あまりにも俺が過保護に冒険者を守るから一部の冒険者どもは俺のこと<保護者>なんてあだ名馬鹿にしてんだよ!俺はお前らのパパやママじゃねーし、自分の子供どころか彼女もいないわ!」

 

「ぎゃっはっは!独身のディアントパパが怒ったぞー」

 

「ふふっ」

 

「あ、ステラも笑ったな!?」

 

「いえ、ごめんなさい。でも優しいディアントさんにとってもピッタリだなと思って...」

 

「だよな!<保護者>ってディアントにぴったりなんだよ!」

 

「よーし、てめーら全員そこに並べや!パパの愛の鉄拳食らわせてやらぁ!」

 

 だから言いたくなかったんだと思いながらも、今更<保護者>と呼ばれることには何も思わないので笑っている冒険者達とふざけ合って夜は更けていった。

 

 

 

  ◇◇

 

 

 

「ちょっと外の空気吸ってくるよ」

 

「分かりました」

 

 ずいぶん盛り上がって酒が回って来たのでステラに一言声をかけて席を立つ。

 

(ステラもみんなと仲良くなれてるみたいでよかったな)

 

「君、少しいいかな」

 

 冒険者達に仕事の質問や彼女が冒険者だった頃の話なんかを聞かれて盛り上がっているステラを見ながらギルドの裏手にある路地に出て安心していると後ろから声をかけられた。

 

「あれ、あんたは確か......デカハナさんでしたっけ?」

 

「ノズール・カナハタだ!君たちはわざと間違えているのか!?」

 

「すいませんすいません。お酒が入ってるもんで」

 

 振り返りながら冗談を言うとしっかりツッコんでくれたノズールだったが、なぜこんな時間にここにいるのだろう?視察は終わっているはずなのに、何か忘れ物だろうかとよく見ると昼は付けていなかった剣まで携えている。狩りにでも行くのかな?

 

「どうかしましたか?忘れ物でしたら勝手に入って取ってくれて大丈夫ですよ」

 

「いや、忘れ物ではない。君がステラ君の上司のディアント君で合ってるかな?」

 

「はい。そうですけど」

 

 なんでそんなこと聞いてくるのだろうと思いながらも返事をする。

 

「では単刀直入に言おう。彼女はギルド本部へ連れていくことになったのでよろしく」

 

「はい!?」

 

 そんな突然の通達に言葉を無くしてしまった。

 

 

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