片隅の英雄譚   作:浅葱 沼

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ミスティ・ゴールド

 

 本部からの視察とウェスタ大森林の”オーバフロウ”疑惑から数日後、ギルド本部から視察の結果が届いたことでギルドマスターの部屋に呼ばれたディアントはハイルドの前に置かれた手紙について話していた。

 

「ギルド本部から視察の件で問題なしとの通達がきた」

 

「そうか。よかったな」

 

 ノズールは約束を守ったらしく少し感心しながら返事をすると、ハイルドは深刻そうな顔で少し俯いて、

 

「そんな訳なくね!?」

 

「ど、どうしたんだよ?急に大声出して」

 

「いや、職員からは悪意のある名前の間違えられ方されて、変なもの食べて気絶して、挙句ベーゼにすっごい冷たい態度で話されたのに問題なしな訳なくね!?」

 

 心なしか泣いているのではないかと思うほどハイルドの声には悲壮感が漂っていた。

 

「ま、まぁまぁ落ち着けって。すごく寛大な人だったんじゃないか?」

 

「そんな聖人みたいなやついるか!?もしや...ステラ君の料理を食べたせいで脳にまで異常が...!?俺は怖いよ。なんか後からそのことについて言及されて本部からクビにされたりするんじゃないかって夜も寝れないよ!?」

 

 何やら変な妄想まで始まったので冷静になるよう諭しながら路地裏でのことを思い出す。

 

(あれは向こうから言ってきたことだし、もはや正当防衛と言っても過言ではない...はず。それにそのことは誰にも言ってないからハイルドも気付いてないはずだし、わざわざ言う必要もない......はず!)

 

「ディアントはノズールさんに失礼なことしたりしてないよな?お前だけは大丈夫だよな!?」

 

「あ、あぁー。そう...だと思うよ?」

 

(すまん。思いっきり顔殴ったし誰よりも失礼な態度取ってた気がします。)

 

 ほぼ泣きつくように膝を地面につけて俺の服を掴んでくるハイルドに心の中で謝罪しつつ、路地裏での事は墓場まで持っていこうと一人誓った。

 

 

 

 その後、ギルドマスターをクビになったら嫁や子供をどう養っていくんだなど、一家の大黒柱の赤裸々な愚痴を吐くハイルドを励まし続け落ち着きを取り戻した頃やっとのことで解放された。

 

 

 

  ◇◇

 

 

 

「あ、ディアントさん」

 

 ハイルドの狼狽ようを見て自分も後のことが怖くなり、気分転換に掃除でもするかと掃除用具を持ってギルドの集会所に出ると、集会所でこれから張り出そうととしているらしい依頼書を抱えたステラに声をかけられた。

 

「ハイルドさん何はなしたんですか?」

 

「いや、ちょっとした愚痴を聞かされただけ...かな」

 

「愚痴ですか?深刻そうな顔してたので何かあったのかと思いました」

 

 呼ばれた内容が愚痴を聞かされただけという内容に驚いているステラはポカンとした顔で不思議そうにしている。

 

「まぁ、ギルマスって仕事も色々大変らしいよ」

 

(大体俺たちのせいではあるが...)

 

 

「見つけたです!」

 

 ハイルドが心労で倒れないことを祈りながらステラの仕事でも手伝おうかと思ったその時、ギルドの入り口が勢いよく開け放たれ幼く高い声が集会所に響いた。

 

 振り返ると、そこには眩いばかりの金髪を後ろでお団子ヘアにまとめ、手が見えないほど袖を余らせたぶかぶかのローブを羽織った10歳ぐらいの幼女がこちらを指差して立っていた。

 

「なんだ?」

 

 本来冒険者ギルドに来る者の大半は荒くれ者だったり割合的にも男の方が圧倒的に多いため、ただでさえ珍しい女にしかもそれが幼女という来るはずもない来客に困惑していると、

 

「会いたかったですステラー!!」

 

 幼女は突然ステラの名前を呼んで走ってくると、彼女に抱きついた。

 

「ミスティちゃん!?」

 

 どうやら幼女の名前らしいものを呼ぶステラはこの子を知っているらしく、胸にうずめられた頭を撫でている。

 

「ステラ、その子は?」

 

 状況が飲み込めないままステラに聞いてみると、

 

「すいませんディアントさん。この子はミスティちゃんと言いまして、私の冒険者時代の同僚です」

 

「冒険者!?この子が!?」

 

 まさかの紹介に驚きが隠せないでいると、ミスティと呼ばれた幼女はステラから離れ俺の方に向き直ってペコリと頭を下げた。

 

「どうも、ミスティ・ゴールドと言います。冒険者といっても本職は錬金術師なのでその傍らにやっている程度ですが...よろしくです」

 

「錬金術師!?」

 

 更なる驚きの情報に声を荒げてしまう。

 

 錬金術師とは、この世にあるあらゆる物質を組み合わせて全く新しい物質を作り出したり、現存する物質や現象を再現させることが仕事の職業なのだが、そのあらゆる物質というのがその辺のなんでもない小石から超希少な鉱石までという幅広さや、それらを扱うにあたっての知識も膨大であることから錬金術師になれる人の数が少なく生きていても錬金術師に直接会う機会など一度あるかないか程度である。

 かくいうディアントも錬金術を学ぼうと考えたことはあるが、学ぶだけで生涯が尽きてしまうと考え断念した。

 

「しかもミスティさんはSランク冒険者なんですよ」

 

「です!」

 

「えぇ...」

 

 ただでさえ天才しかなれない錬金術師なのにSランク冒険者でもあるという、もはや嘘にしか聞こえないほどの盛り盛りな情報に吐息のような声しか出せなくなってしまった。

 

「でもミスティちゃんがどうしてここに?」

 

「どうしても何も、わたしが研究に没頭してる間にステラが冒険者を辞めちゃったって聞いたから飛んできたです」

 

「そういえば研究の邪魔になってはいけないと思って挨拶がまだでしたね。今度手紙を送ろうと思っていたのですが...」

 

「まぁ辞めちゃったのは仕方ないですが、今日は元気にしてるか見に来たです!」

 

「そうだったんですか、わざわざありがとう」

 

「ところで、こちらの方は?」

 

 元気いっぱいにステラと話すミスティの姿を見て、お姉ちゃんが大好きな妹みたいだなとほっこりしていると、ミスティがこちらを向きながらステラに問いかけたので、挨拶がまだなことに気付いた。

 

「すまんすまん、俺はディアント・ワーカー。ここの職員で今のステラの同僚だよ」

 

「......ディアントさんですか。よろしくです」

 

 何やら変な間があったが、また頭を下げて丁寧に挨拶してくれるミスティを見ていると父性に目覚めそうになる。

 

「せっかくステラに会いに来たんだし、事務室でお茶でも飲んでいくといいよ」

 

「いいんですか!?」

 

「もちろんだよ。今日は暇だし、ゆっくりするといい」

 

「やったー!」

 

 無邪気に喜ぶミスティを愛らしく思いつつ、ステラは「お茶淹れてきますね」といって事務室に先に入っていった。

 

「それにしても、わざわざステラに会いにくるなんて、よっぽどステラが好きなんだな」

 

 ステラの後についてミスティと事務室に向かおうかと思い、雑談ついでに話しかけながら彼女の頭を撫でると、

 

「気安くわたしに触るなよ?」

 

 さっきまでの愛くるしい女の子とは別人のような冷たい言葉とともに、頭に置いた手を腕で弾かれた。

 

「.........え?」

 

「聞こえなかったか?気安くわたしに触るなといったんだよ。ゴミが」

 

 まるで虫けらでも見るような目でこちらを睨みつけた後、事務室に入っていくミスティを見て空気だけでなく体も凍りついたのを感じた。

 

 




今話から新章です。まだ謎の多いミスティの正体やいかに...。
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