片隅の英雄譚   作:浅葱 沼

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豹変

 

「はいどうぞ」

 

「ありがとうです」

 

 ソファに座りステラに出されたお茶を嬉しそうに飲むミスティを見て、少し離れた自分の机で仕事をしていた俺の頭に浮かぶクエスチョンマークは増える一方だった。

 

(あれ?さっきの幻覚?俺疲れてんのかな?)

 

「ちょっと出ますね」

 

 今目の前で美味しそうにクッキーを頬張るミスティと、ついさっき事務室に入る前の冷たい態度のミスティを思い出しながら自分の勘違いだったのではと感じた頃、席を立ったステラが部屋の外に出てしまい事務室にはディアントとミスティの二人だけになった。

 

「おい」

 

 突然ミスティの声が聞こえたが、あまりにもさっきまで談笑していた声色と違う。

 

(あれ?これ俺が話しかけられてる?)

 

「おい!聞いてんのか?お前だよお前」

 

「あ、やっぱり俺だよね」

 

「今お前しかいねぇだろうが。さっさと返事しろよ」

 

 信じたくなかったが、やっぱり呼ばれているのは自分らしいので振り返って返事をすると舌打ちとともに悪態をつかれた。それと同時、やっぱりさっき見たのは幻覚ではなく現実だったのだと確信した。

 

「な、なにか用か?」

 

「はあ?誰にタメ口使ってんだお前。こっちはSランク冒険者だぞ?ギルド職員風情が気安く話してんじゃねーよ」

 

 そっちから話しかけておいて酷い言いようである。

 

「お前がねぇ...ふーん」

 

 席を立ったミスティはおもむろに俺に近付くと、なにやら品定めでもするように角度を変えてじろじろと眺めてくる。

 

「えっと、俺の事知ってるん...ですか?」

 

「あ?知らねぇよお前なんて」

 

(えぇ...知ってる感じの話し方でしたやん)

 

「なんでこんな冴えないおっさんなんかが...」

 

 何やら聞き捨てならない台詞をぼそりと言われた気がするが、あんまり突っかかるとまた怒られそうなので黙っておく。きっと、ちょっと早めの反抗期か何かなのだろう。ステラの前とそれ以外での態度の変わり方があからさま過ぎるが...。

 

「お前、ステラに今の私の事絶対に言うなよ?」

 

「え...言ったらどうなるんです?」

 

 質問してみると、ミスティはどこからか取り出した何かの液体が入っっている親指サイズの小瓶を二つ取り出し、

 

「溶けて死ぬか、燃えて死ぬかの二択になるな」

 

 ミスティが少し開けた小瓶の中をほんの一滴地面に垂らすと、一方は床についた瞬間に床板をドロドロと溶かし、もう一方は床板に炎がぼっと発火した後消えた。

 

「どっちがいい?」

 

「もちろん言いませんとも!言うわけないです!」

 

 目の前で行われた恐ろしいデモンストレーションを見て、彼女がSランク冒険者で錬金術師と言う自分が敵うはずもない相手だということを再認識し力強く何度も頷いて返事した。

 

(怖い!この子怖いよ!ステラ助けて!)

 

 願いが通じたのか、そのタイミングでステラが事務室に戻ってきた。

 

「すいませんお待たせしました。あれ?ミスティちゃんもうディアントさんと仲良くなったんですか?」

 

「うん!ディアントさんとっても優しいよ!」

 

 ステラが俺とミスティを見つけて嬉しそうに話しかけてくると、さっきまでの態度は嘘のようにぴったりと抱きついてきたミスティが返事をした。

 

「ミスティちゃん、とってもいい子でしょう?ディアントさん」

 

「あ、ああ。そうだな」

 

 なんとも返答しづらい質問が飛んできたが、密着したことでステラから見えない腕で背中ををこつこつと殴られたので笑顔で返すと、俺から離れたミスティは再びステラとソファに座った。

 

「そういえば。わざわざ私に会いにきてくれたのは嬉しいですけど、ミスティちゃんはこれからどうするの?」

 

「冒険者の仕事はしばらく休んで錬金術の研究をしようと思ってて、ちょうどウェスタ大森林で素材を集めたかったからしばらくはこの街に滞在するつもりなんだ」

 

「じゃあまた一緒にお出かけできますね」

 

「うん!ステラと出かけるの楽しみです」

 

 

「あれ?なんですその子?」

 

 ステラとミスティが談笑していると、受付から帰ってきたクララが事務室に顔を出した。

 

(またややこしいのが来たな...)

 

「お疲れ様ですクララさん。こちらはですね...」

 

 俺の心配など露知らずのステラは俺の時と同じようにクララにミスティを紹介した、

 

「えぇー!?こんなちっちゃくて可愛い子がですか!?すごいねー」

 

「えへへ。ありがとうございますです」

 

 クララに頭を撫でられながら嬉しそうに話すミスティに恐怖を覚えつつ、クララのこの後が心配でならない。

 

「あ、そういえば。今日この後さっそくウェスタ大森林に行こうと思うんだけど、この辺に詳しい人に案内して欲しいです」

 

 クララにひとしきり撫でられた後、思い出したようにミスティが呟いた。

 ステラを見ながら言っているところを見るに、どうやら暗に彼女について来て欲しいと頼んでいるようだがステラの反応は芳しくなかった。

 

「案内はしてあげたいですが、私もこの辺りには最近来たばかりで詳しくないですし今日の仕事もまだ残ってるんですよ」

 

「そっかー。残念です。じゃあまた後日でも...」

 

「それならディアントさんに案内してもらえばいいよ」

 

 後日行く約束を取り付けようと思ったらしいミスティだったが、クララが俺を推薦してきた。

 

(この小娘!いらんことを!)

 

「ディアントさんに...ですか?」

 

「うん。ディアントさんならウェスタ大森林の隅から隅まで知ってるよ。ディアントさんも丁度調べたいことがあるって前言ってましたよね?」

 

 確かに、この間の”オーバーフロウ”の原因が冒険者たちの捜査をしても分からずじまいのままだったので、自分でもまた見に行きたいという話はクララにしたことを思い出す。

 

 俺と同じく、いらぬ提案をしてきたクララを見て若干顔が引きつっているミスティが、

 

「でも、お仕事の邪魔をするわけにもですし」

 

「俺もまだ今日の仕事終わってないし、後日でもいいんじゃないかな?」

 

 やんわり断ろうとしているので俺も助け舟のつもりで賛成した。すると、

 

「何言ってるんですかディアントさん!ミスティちゃんはSランク冒険者。言ってしまえばギルドの稼ぎ頭ですよ?丁重に扱わないとでしょう!しかも見てみればディアントさんの仕事もう終わってるし、行ってきてあげればいいじゃないですか」

 

 稼ぎ頭なんて言い方は本人の前で言うなよ、後お前普段はそんなこと言わないだろうというクララの正論には、俺とミスティも強く否定できずお互い下手な笑顔で頷きながらクララの案を受け入れたのだった。

 

 ステラとミスティが話している間に仕事を終わらせてしまった自分を恨んだが...。

 

「じゃあいってらっしゃい!」

 

「は、はい。行ってくるです」

 

「じゃ、じゃあ行ってくるわ」

 

 クララに見送られ、ミスティと二人ウェスタ大森林へと赴いたのだった。

 

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