片隅の英雄譚   作:浅葱 沼

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ミスティとクララ

 

「あ、ミスティちゃんおはよう」

 

 ウェスタ大森林に行った翌々日、またギルドにやってきたミスティは元気よく挨拶してくるクララと目が合うと、昨日抱っこされた記憶がフラッシュバックし恥ずかしさから目を逸らしてしまう。

 

「今日はどうしたの?」

 

 ミスティは、まるで迷子の子供にでも話しかけるような優しい声を出しながら近付いてくるクララに、ここは今一度自分との立場の差を教えてやらねばと決心した。幸いステラは今この場にいないようだし、やるなら今だろう。

 

「気安くわたしに話しかけるなです。わたしはSランク冒険者ですよ?」

 

「どうしたの?今日はご機嫌斜めかな?」

 

 どうも言いたい事が伝わっていないらしく、こうなれば力ずくでも脅そうかと考えたミスティはローブから小瓶を取り出して中身を一滴床に垂らした。

 

「言っておくですが、やろうと思えばお前なんてこの小瓶一つで簡単に倒せるですよ?」

 

 焦げついた床を見せつけながら改めて脅してみると、どうやらやっと意味を分かったらしくクララは床を見たまま肩を震わせて黙り込んでしまう。

 

「ミスティちゃん...」

 

「やっと分かったです?これからは口の利き方に...」

 

「この床...さっきあたしが掃除したばっかりなんだけど...」

 

「へ?」

 

 ミスティがもう一度クララを見ると、さっきのは恐れで震えているのではなく怒りで震えているのだと理解した。現に口調こそさっきの優しいままだが、明らかに怒りを押し殺して笑顔を作っているのが見てとれる。

 

「いや、そうじゃなくて、口の利き方に気をつけないとお前がこういう目にあうぞというですね...」

 

「そんな汚れる物振り回しちゃだめでしょう?」

 

「えと、これは汚れじゃなくて錬金術で作った空気に触れるだけで発火する特殊な液体で...」

 

「渡しなさい」

 

「...え?」

 

 ミスティは差し出された手をじっと見つめて固まる。

 

「そんな物持ってちゃ危ないでしょ?早く渡しなさい」

 

「でもこれはわたしが作った...」

 

「いいから、渡しなさい」

 

 クララは話を遮るように今一度手を差し出す動きをして小瓶を渡すように促す。今もなお顔は笑っているが怒っていることは伝わってくる。

 

「う...うぅ...」

 

 ついにクララの圧に負け差し出された手に小瓶を置くと、

 

「これだけ?」

 

「え、これだけって?」

 

「もう他には持ってない?後で持ってるって分かったら怒るよ?」

 

 まさかの他の物まで渡すよう請求されてしまった。

 

「......持ってるです」

 

 もう抵抗は無駄だと感じたミスティは言われるがままローブの中にしまっていた小瓶を次々と渡す。

 

(せっかく昨日徹夜して作ったのに...)

 

「いっぱいあるねぇ。こんなに持ってたの?」

 

 自分が丹精込めて作った作品達がクララの腕に抱きかかえられる姿を見て、我が子が知らない人に連れていかれるような気分になりながらも涙は堪える。

 

「それじゃあ改めて、今日はどうしたの?」

 

 小瓶を事務室にしまってきたクララが改めて聞いてくる。

 

「この街で錬金術の工房兼販売店を作ろうと思ったからいい場所がないか教えてもらいにきたです」

 

 泣かないように我慢はしているが、もはや半泣きの状態ミスティはやっと今日ここに来た理由を話せた。

 

「ミスティちゃんこの街に住むの?」

 

「一つの拠点として持っておこうかと思ったです」

 

 本当はディアントの魔の手からステラを守るための拠点にするつもりなのだが、それは別にいう必要は無いだろう。

 

「じゃあ今日はあたしが暇だから手伝うよ」

 

 不動産屋の場所さえ聞ければ良かったのだが、まさかクララが手伝いの名乗りを上げるとは思わなかった。

 

「ちょっと待っててね」

 

 断る間も与えないままクララはまた事務室に引っ込むと、すぐ戻ってきた。

 

「仕事はディアントさんに押し付けてきたから行こっか」

 

「え、いやでも...」

 

 もはやこちらの話を聞く気がないんじゃ無いかと思うほど半ば強引に手を引かれギルドを出た。

 

 

 

「ねぇミスティちゃん」

 

「...なんです?」

 

「ミスティちゃんはステラさんと一緒に冒険者してたんでしょ?」

 

 不動産屋に向かう途中、雑談がてらにそんな質問をされた。さっきの小瓶没収といい今まであんな扱いを受けた事がないので、クララという未知なる存在に対する恐怖を抱きながらも暇つぶしがてらに答えることにする。

 

「まぁ何度か一緒に臨時パーティーを組んだ程度です。Sランク冒険者は基本一人で行動する事が多いですから」

 

 Sランク冒険者は一人でAランクパーティー数個分に匹敵する戦力を有する実力者なので基本パーティーを組む事はない。災害クラスのモンスターを相手取る時や長期間かかる事が予想されるダンジョンに潜る時だけは臨時で組む事がある程度である。

 

「それがどうかしたです?」

 

「じゃあさ、ステラさんの冒険者時代のこととか教えてよ」

 

「ステラのことです?」

 

 その質問にミスティはぴくりと反応する。ステラのことならいくらでも話せる自信はあるが、ステラの事を慕っていることをディアントに教えられてご機嫌伺いしているだけかもしれない。ここは慎重にいかねばこの前の二の舞になるかもしれない。

 

「ディアントに何か言われたです?」

 

「なんでディアントさんが出てくるの?何も言われてないけど」

 

 クララの顔を見るにどうやら本当に知らないようできょとんとした顔で首を傾げている。

 

「なんでもないです。でもなんでステラのこと聞きたいんです?」

 

「だってステラさんともっと仲良くなりたいし、ミスティちゃんはステラさんと仲良しだからいっぱい話知ってそうだと思って」

 

 クララの言葉にミスティは満更でもない気分になった。

 

(やはり他人から見てもステラとわたしは仲良しに見えるですか。しかし、わたしたちの絆はもはや姉妹と言っても過言ではないほどですが)

 

「まぁ、仲はいいです」

 

「あ、でも昔の話はステラさんが嫌がるかな?あたしも昔の話されるのは嫌だし...」

 

 昔何かあったような言い方が気になるが、そんなことよりステラの話である。ステラと仲良くなりたいからわたしに聞いてくるとは、どうやらクララは見どころがあるようだ。ならば教えてやらんこともないなと考えたミスティは口を開く。

 

「ステラは何も恥じることをしていないどこに出しても恥ずかしくない人間です。別に気にしないと思うですよ」

 

「流石ステラさんだね」

 

 ステラを褒められてなぜか気分が良くなっているミスティはぽつぽつとステラが冒険者時代話を始めるのだった。

 

 

 気が付くと日は暮れかけており、何故か家賃が高すぎるキャンテラの一等地を買っていたことに気付いたミスティは、帰ってから徹夜で店に出す商品を作るハメになってしまった。

 

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