片隅の英雄譚   作:浅葱 沼

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裏街

 

「違う違う。一緒に来ていただきたいんですよ...」

 

 裏街という単語を聞いた途端、冷たい態度になってしまったクララに手を合わせてなんとかお願いしてみる。

 

「か弱い女の子をそんなところに連れ出して何しようっていうんですか?訴えましょうか?」

 

「頼むよ。依頼が入っちゃってさ...報酬はクララが受け取っていいから」

 

 裏街とは街の不良なんかが集まる市街地の裏がいくつか重なっている人気(ひとけ)の少ない場所の総称であり、その人気の少なさから表の店では扱えないような品を置く闇商店や盗賊のアジトなんかが存在し、たしかに女の子を誘って連れて行く場所ではないのだが...。

 

「どういう依頼ですか?」

 

 いまだ怪訝な顔をしながらも詳しく話を聞いてくれたクララにジュシウスの店で盗難があったことと、犯人の情報集めがしたいことを伝える。

 

「クララが聞いてくれればあっという間に終わると思うんだけど...」

 

「うーん......しょうがないですね。あんまり行きたくないですけど」

 

「ありがとう。助かるよ」

 

 クララに断られたら冒険者に頼むしかないかと考えていたが、受けてくれるなら話は早い。早速外に出る準備をしてもらうことにする。

 

「でもどうしてクララさんなんですか?」

 

 クララが準備のため部屋を出て行った後、ステラが聞いてきた。

 

「ついてくれば分かるよ。ハイルドに頼んで三人で行くとしようか」

 

 詳しく教えようかと思ったが、勝手に教えて後でクララに怒られたくはないので誤魔化すことにした。一緒に働いているんだからいつまでも隠せるはずはないし、ちょうど良い機会だろう。

 

 

 

 

「ステラさんも来るんですか!?」

 

「はい。勉強させてもらいます」

 

「えー...」

 

「やっぱりお邪魔でしょうか?」

 

「いえ!そんなことはないんですよ!?...分かりました。じゃあどこから行きましょうか」

 

 受付嬢の制服から職員の制服に着替えたクララは、案の定ステラが同行することに一瞬驚いていたが諦めがついたようで行き先について聞いてきた。

 

「そうだなぁ。とりあえずここから一番近い南の裏街に行くか」

 

 裏街は一つではなくキャンテラの街に東西南北に分かれて四つ存在し、冒険者ギルドは街の南に位置する場所にあるので南の裏街に向かうことになった。

 

「クララさんって人探しも得意だったんですね」

 

「え、人探し?ま、まぁそうですね。得意といえば得意ですけど...」

 

 裏街に行く道中、ステラからそんな話を振られたクララは『どんな説明したんだ?』という顔をしながらこちらを見てきたが無言のまま両手を合わせて謝罪の意思を示すと、意を決したようにステラに話しかける。

 

「ステラさん」

 

「はい」

 

「ステラさんには一つ言っておかなければならないことがあります」

 

「なんでしょう?」

 

 ステラは急に改まった言い方をするクララを不思議そうに見ながら返事をする。

 

「実はですね...あたし...」

 

「はい」

 

「恥ずかしながら昔...」

 

 

 

「あれ?姐さんじゃないっすか?」

 

 クララがなかなか話すことを言い出せずにいると、いつの間にか裏街の入り口である路地裏についておりそこに屯していた数人の男のうちの一人がこちらに気付いて声を上げた。

 

「姐さん?」

 

 突然こちらを向いて声を上げた男の顔を見ながら何を言っているのか分からない様子のステラは、隣で男たちを睨みつけているクララに気付いていない。

 

「おいみんな!姐さんだ!姐さんが帰ってきたぞ!」

「ほんとだ!やっぱり帰ってきてくれたんすね姐さん!」

「姐さんにギルド職員なんて仕事は向いてないってみんな言ってたんすよ!帰ってきてくれたなら裏街は安泰だ!」

 

 ステラはあっという間にクララを取り囲んだ数人の男達と俺とを交互に見ながらどうしましょうと言いたげな顔をしているが、安全だと分かっている俺はクララの方を指差しながらよく見てろと伝える。

 

「早速最近調子乗ってる奴らいるんでシメに行きましょう!姐さんがいれば百人力っす...ゔぉ!」

 

 一番最初にクララに気付いて話しかけてきた金髪頭の若い男が物騒な話をクララにした途端、突然彼の体が宙に吹き飛ばされた。

 

「うぅ...<夜叉>の鉄拳はいまだ健在...っすね」

 

 地面に落ちた金髪の男は、それだけ呟くと白目を剥いて気を失ってしまった。

 

「あんたらちょっと離れなさい」

 

「す、すいません姐さん!」

 

 男たちの群れの中からクララの静かな声が聞こえると、蜘蛛の子散らすように男たちが彼女から離れる。

 

 やっと姿が見えるようになったクララにいつもの快活な少女という雰囲気はなくなっており、冷たく男たちを見据える姿には威圧感が感じられた。

 

 そんなクララの姿を見て一番驚いているのはステラだった。

 

「クララ...さん?」

 

 ステラに呼びかけられて我に帰ったクララは、恥ずかしそうに笑ってみせる。

 

「えへへ。実はあたし、昔ちょっとやんちゃしてた事がありまして...こいつらはその時の子分と言いますかなんといいますか...」

 

 やっと言いたいことが言えたクララは照れ臭そうに頭を掻いている。

 

 そう。クララはかつて裏街のリーダーとして<夜叉>の二つ名で恐れられていた存在である。彼女はそんな自分の過去を恥ずかしく思っており、他人に昔のことを聞かれても話そうとはしない。

 

 一方、クララの話を聞いたステラはというと...

 

 

「か...かっこいいです!」

 

「「え!?」」

 

 まさかの反応だった。

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