片隅の英雄譚   作:浅葱 沼

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クララの過去

 

 クララのカミングアウトに対し、ステラのまさかの反応に俺だけでなくクララ本人もどう反応しているか困っているようで、確認を取るように話しかける。

 

「あの、ステラさん?」

 

「なんですか?」

 

「勘違いじゃなければかっこいいって聞こえたんですけど...」

 

「はい。かっこいいって言いましたよ?」

 

 ステラは真っ直ぐとクララを見据えたままにこり答える。

 

「クララさんからは前から只者じゃない雰囲気を感じてましたが、それが不良たちのリーダーだったのは少し驚きましたが、そんな姿のクララさんを想像したらかっこいいなと思って言いました」

 

 ステラのイメージは俺では知る由もないが、一体どんなものを想像したのか少し気になる。

 

「でもですねステラさん。不良ですよ?悪い事だってしてたかもしれないですし...」

 

 肯定されたことに混乱しているらしいクララは何故か自分のイメージを下げようとする発言をし始めるも、それを否定するようにステラは頭を振る。

 

「クララさんが悪いことなんてしませんよ」

 

「......なんでそう思うんですか?」

 

「短い間ですけどクララさんと一緒に働いてれば分かります。クララさんが相手のことを考えて行動してくれる優しい人だってことぐらい」

 

 さっきから一度も視線を逸らさずに話しかけてくるステラを見てクララは思い出す。

 

 かつて、自分がかつて陰であることないことを囁かれていた時、根拠もなく自分のことをいい奴だと信じて話してくれた人がいたことを...不良を辞めて真っ当に生きようと思わせてくれた人がいたことを...

 

 ステラとその人を重ねてふっと笑みを溢しディアントの方を見る。

 

「ほんとにこんなお人好しがいるもんですね」

 

 いきなりこっちを見てきた事に驚いたディアントだったが、彼もまた昔のことを思い出して照れ臭そうに頭を掻きながら返事をする。

 

「まぁ、世の中まだ捨てたもんじゃないってことだ」

 

 そんな二人のやりとりを不思議そうに眺めていたステラだったが、何かを思い出したように話し出す。

 

「その話はまた今度クララさんとゆっくりお聞きしたいですけど、今日は犯人の情報を探しにきたんでした」

 

 その言葉に俺とクララははっとする。

 

 そうだった。そのついでにステラとクララがもっと仲良くなればいいと思っていたが、そっちがメインになるところだった。

 

「なぁお前ら、最近冒険者向けの店に夜中空き巣が入ったんだが、何か知ってたりしないか?」

 

 俺がご丁寧に口も挟まず黙っていてくれた不良達に話しかけると、

 

「今気付いたけど、お前ディアントだろ」

「知っててもお前なんかに教えねーよ」

「そうだそうだ!お前が泥棒みたいなもんだろ!」

 

 俺に気付いた不良達はクララの時とはあからさまに違う態度であしらわれた。

 

「いいから答えなさい。ディアントさんに迷惑かけないの」

 

 クララが呆れたように話すよう説得を試みるも、「でも姐さん!」だとか「まだあんな奴とつるんでるんすか」などなど口々に俺の悪口を言いながら抵抗する。

 

「ディアントさん。不良の方々に嫌われてるんですか?」

 

 そんな状況を見てステラが小さい声で問うてくる。

 

「ああ、色々あってな...」

 

 この話をしだすとまた話が逸れそうなのでいつか話すよとだけ答えた。

 

「教えなさいってば!」

 

 いつまでも話そうとしない不良達に我慢できなくなったらしいクララの拳骨を食らって身を捩らせながら頭を抑える不良達の一人が観念したように話し出す。

 

「俺たちも詳しくは知らないっすけど、ムジカさんなら知ってると思います」

 

「ムジカが?」

 

 

「ディアントさんディアントさん」

 

 横でステラから呼ばれ、誰のことですかという目線を感じたので、クララの弟だと伝える。

 

「クララさん、弟さんがいらっしゃるんですね」

 

「この辺は今クララの弟が仕切ってるんだよ。ただなぁ...ムジカかぁ...」

 

「そのムジカさんってどんな方なんですか?」

 

「うーん。簡単に言えばお姉ちゃん大好きな弟...かな」

 

「素敵な弟さんですね」

 

「まぁな...」

 

 嘘は言っていない。ムジカはたしかにクララのことが大好きな可愛い弟...と呼べなくもない。ただ、彼の好きなお姉ちゃんは裏街のボスとして君臨していた時のクララだという事を除けば。

 

「ディアントさん。ムジカの居場所は聞いたんで行きましょうか」

 

 どうやらムジカに会うのを嫌がっているのは俺だけではないらしく、クララも不本意ながら行くしかないかと言った表情でこちらに歩いてきた。

 

「弟さんに会うの楽しみです」

 

 お姉ちゃん大好きの可愛い弟に会うつもりのステラとその後ろで足取りが重い二人は裏街の奥へと入って行く。

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