片隅の英雄譚   作:浅葱 沼

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最後の晩餐

 

「「「「おおーー!!」」」」

 

 まかないを作ってくれるらしく厨房に入ったステラを掃除をしながら待つこと小一時間、完成された料理が並べられたテーブルを見て、厨房の男連中もディアントもクララも感嘆の声を漏らした。

 

 そこに並べられた料理達は、まかない料理とは言えないほど豪華で肉料理の油は宝石のような輝きを放ち、野菜も今採って来たのかと思うほどその表面で瑞々しく水が煌めいていた。

 

「すごいなステラ。俺なんかよりうまそうだぞ」

 

「いえ、見た目だけですから、味の保証は出来ませんよ?」

 

「ステラさんもいいお嫁さんになりますよ!」

 

「いやはや、こんなに美味しそうなまかないは初めてだよ。冷めないうちにいただくとしようか」

 

 ディアント達の褒め言葉に顔を赤らめながら照れるステラを筆頭にみんなで席につく。

 

「それじゃあ...」

 

「「「いただきまーす!」」」

 

 全員待ちきれんとばかりにナイフとフォークを握る中、ディアントの呼びかけで感謝の言葉を述べて一斉に料理にがっついた。

 

 

 

 ━━━そこまでが現場にいた人達全員の見た最後の記憶である。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…トさん!......アントさん!!......ディアントさん!!!」

 

 ぼやけた視界が徐々に鮮明さを取り戻す中、大声でクララに肩を揺らされながら呼びかけられて目が覚めた。

 

「あ、うぅん?...クララ?どうした?」

 

「はぁ、よかったー」

 

 何故か安堵の表情を浮かべて息を吐くクララを見て、なんでそんな顔をしてるんだと不思議に思い周りを見てみると、どうやら俺は酒場の床で横になっているらしいことに気付いた。

 

「なんで俺、こんなとこで寝てるんだ?」

 

「...ディアントさんだけじゃないですよ」

 

 クララがそう言って視線を移した先に目をやると、さっきまで一緒に食卓を囲んだ全員が床に倒れ込んでいる姿とそんな彼らの傍に座り込み神聖魔法を唱えているステラが目に入った。

 

「えっと、何があったんだ?」

 

 ここから先はクララが見たままについての証言である。

 

 全員で食べ始めようかというタイミングで、飲み物がないことに気付いたクララは厨房に行くため席を立ったらしい。俺たちに背を向けたクララの耳には「うん!美味い!」とか「こんなの初めて食ったぞ」などなどの賛辞の声が聞こえてきたらしく、自分も食べるのが楽しみだと心躍らせながら厨房からテーブルに戻ってくるとステラ以外の全員が椅子から転がり落ちて白目をむいていたらしい。

 

 まだ無事らしいステラに何があったのか聞いてみても分からないと答えるので、とりあえずその場の全員の状態を確認してみるも、なんの異常も見当たらないのでとりあえず神聖魔法をかけて回ってもらっているらしい。

 

 気絶する前の記憶が正しければ、ステラも料理は口にしていたはずだが、なんでステラ以外の人間だけ倒れたんだ?

 

 まだ若干ふらつく足取りでテーブルに並べられた料理に近づいて匂いを嗅いでみる。

 

「ちょっとディアントさん?何する気ですか?」

 

 特に変な匂いがするわけでもない、ただの美味しそうな料理があるだけである。しかし、どこか違和感を感じるのは何故だろう?すぐに吐き出す準備をしながら、恐る恐る少しだけ口に入れてみる。

 

(うん。やっぱり普通の美味しい料理だな。噛めば噛むほど肉はボロボロと崩れていき、溢れる肉汁は下をピリピリと刺激する.........)

 

「マッッッッッズ!!」

 

「「えぇ!?」」

 

 すぐさま口に入れた何かを吐き出しながら叫ぶと、横にいたクララだけでなく少し遠くのステラの声まで聞こえた。

 

「こんなに美味しそうなのにマズいんですか?」

 

 クララが渡してくれた水を飲みながら、さっき感じた違和感の正体に気付いた。

 

 それを実証するため、すぐさま料理に近寄り手をかざし呪文を唱える。

 

 魔法の中でも初歩の初歩で教わる簡単な魔法。

 

解除(リリース)

 

「あっ!」

 

 ステラの小さな叫び声が聞こえたが、ディアントの言葉で料理達の周りははモヤがかかったように空間が歪み始め徐々にそのモヤが晴れて中が見えた。

 

 

「こ、これは...」

 

「...うわぁ〜」

 

 そこにはディアントとクララが言葉を失うほどの光景が広がっていた。

 

 綺麗な肉料理だったはずの物は焦げているのかなんなのか、ただ真っ黒な物体になり、皿の底が見えるほど澄んでいたはずのスープは、何色なのか分からないほど濁っている液体に変わっていた。

 

「これ、なんなんですか?」

 

「簡単な幻術魔法だよ。ただし、とびっきり手が込んでるけど...」

 

 違和感の正体は魔力だった。本来料理から魔力を感じるなんてことは絶対ないのだが、ステラの作った料理からはわずかに魔力が感じられた。しかし、幻術魔法は見た目を変えたりするだけの単純な魔法のはずで匂いや味までは変えられないのが普通である。

 

 その点、匂い然り少しの間とはいえ味まで惑わせるほどの幻術魔法は初めて見た。

 

「てことはつまり、みなさんが倒れた理由って」

 

「見た目とは違いすぎるあまりの不味さに頭が混乱したせいだろうな」

 

 

 

 

  ◇◇

 

 

 

「すいませんでした!」

 

 倒れていた人全員が意識を取り戻し、落ち着いたところでステラが頭を下げた。

 

「私が普段するように作ってみたのですが、こんなことになるとは思わず...」

 

 顔を上げたステラは自責の念から今にも泣きそうだった。

 

 話を聞くと、ステラは冒険者をしている中で自分で捕まえた獣などを料理していたらしいのだが、どうも見た目が悪いので見た目だけでも豪華に見せようと幻術魔法をかけて食べていたらしく、そんな日々が続く中で幻術魔法に磨きがかかりすぎて匂いや味まで変えれるようになったという。しかし、見た目はともかく匂いや味の幻術はすぐに消えてしまうらしい。

 

(だとしても、あのマズさの料理は普通に食ってたってことだよな...)

 

 その場にいた全員が同じことを考えて、少し震えた。

 

「いいよいいいよ。全員別になんともなかったし、ステラさんに料理を作らせたのは俺だからね」

 

 ロンドールは笑いながらステラを庇ってくれているが、顔は明らかに血色が悪く真っ青だ。

 

「ただ、厨房に入ってもらう話は一旦忘れてくれるかい?客が倒れたんじゃ店が潰れちゃうからね」

 

「はい。もちろんです。すいませんでした」

 

 もう一度深々と頭を下げて、その日は解散ということになった。

 

 

 

「しかし、ステラさんにも苦手なものがあったんですね」

 

「お恥ずかしいです」

 

 クララとステラのやりとりを見ながら、実際なんでもできる完璧超人だと思っていたステラの人間らしい一面が見れてホッとしている自分がいた。

 

「ステラもいつまでも気にしなくていいからな。やらかした話ぐらい誰にでもあるし、クララなんてちょっと前までは...ふぐっ!?」

 

「どうしましたディアントさん?」

 

 少し場の空気を和ませようかとクララの昔話をしようとしたら、ステラには見えないように鳩尾を殴られた。

 

「きっとおじさんだから疲れてるんですよ。さ、一緒に帰りましょう!」

 

 そう言い残して、ステラの手を引いて出て行ってしまった。

 

「あいつ、本気で殴ったな...」

 

 腹の奥まで響くパンチを放って去っていったクララに恨み言を言いながら、再びディアントの意識は途切れた。

 

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