僧侶ちゃんの闇堕ちカウントダウン   作:拗馴染

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裕福なメンバーがいる他のパーティーは豪華な宿に泊まっているらしいけれど、私たちは清貧を良しとする姿勢でここまで来ていた。今晩もそれは変わらない。

ダブルベッドだと勇者がしがみついてくるから、夜中に催したときは死にかけたこともある。力が強くて振りほどけないのだ。恥ずかしいから怒れもしなかった。

今日も隣が温かい。よく眠っている。

 

宿を借りて、食事をして。その最中、ずっと村人らの心配そうな視線を感じた。うちの勇者はその平等だけれど子供っぽい振る舞いから『無垢の勇者』と親しまれている。

それ故に、私たちのパーティーは人気が高い。人気が高いからこその、その視線なのだが…

余計なお世話だ。私はこれからも戦い続ける。

でも、そこそこ得意だった体術がうまく機能しなくなりそうで、それはかなり厳しい。勇者が目覚めてから素手で少し手合わせしたけど、体のバランスが取れない。勇者も手加減が下手だった。あっちが手加減しすぎたせいで一本取ってしまった時は、ちょっと怒ってしまった。でも結局、怒った後も戦いにくそうにしていたし、悪いことをした。

 

勇者の頬に触れると、相変わらず柔らかかった。

私は明かりを消した。

 

翌日。私たちは次の街を目指していた。御者が倒れている人を見つけたらしい。私たちはすぐに手当てできるように駆け寄ろうとするが…私は何か違和感を覚えた。

 

「待って!」

「何?」

「待ちなさい。あれは多分、アルラウネよ」

 

アルラウネ。人の似姿である疑似餌を使って人を捕食する。変異種は美しい女性の姿だったりもするが、大抵は傷ついた冒険者や村人である。疑似餌はほぼ完璧で見抜くのは難しい。対処法は複数あるが、私が選ぶのは。

 

「勇者、あの人の周辺の草を刈るわよ」

「そうだね!」

 

一般人ならアルラウネの蔓の範囲内に入っただけで危険だが、勇者なら攻撃を見てから対応ができる。やはりアルラウネだったようで、切られた草が動き出した。順調に戦いを進める勇者を見守っていた私だったが、やはり魔物は侮れない。死にかけのアルラウネの蔓がこちらに向かってくる!私の右側に!

 

「っ!」

「僧侶ちゃん!」

 

勇者の気配が一瞬で鋭いものとなり、こちらへ伸びる蔓を素早く斬りとばす。しかし、斬られた蔓は少しだけ動いて、私の首を絞めた。苦しい。息が吸えない。必死に左手のナイフで切りつけて、後ろに下がる。

 

「げほっ、げほっ」

 

勇者にばれないように声を殺して咳き込む。必要以上に本気を出した勇者は、もうアルラウネの全身を切り刻んでいた。もう死体なのに、追加で攻撃を加えている。彼女の怒りが伝わってくる。

 

「終わったよ僧侶ちゃん!あれ、僧侶ちゃん、その首の跡…!」

「コホッ…なんでもないわよ。馬車に戻りましょう?」

「あ、あたしが…あたしが中途半端に斬ったから…」

「ち、違うの。これはそうじゃないのよ。回復魔法で元通りよ。だから馬車に戻りましょう」

「ごめんね…気づけなくてごめん」

 

ああ、また!私の中に変な感覚がある。私が傷ついて苦しむ勇者の顔に、つい口元が緩んでしまって、私はそれを横を向くことで隠そうとした。あと、隻腕になってから、勇者が過保護なきらいがある。それが嫌いじゃない自分が嫌いになりそう。

 

馬車に戻った。

 

「他に傷、ないよね?」

「大丈夫よ」

「その…確認とか、したりしなくても?大丈夫?」

 

勇者は私の体が見たいのだろうか。ごく稀に勇者はこういうことを言ってくる。『無垢の勇者』が聞いて呆れる…偶にだから、無垢ってことにしておこう。遠慮がちな提案を私ははっきり断った。彼女との関係に恋愛を持ち込むつもりはない。そう、脈はありません。

本当に?恋仲になった方が、彼女は私を心配して、もっと傷ついてくれるのでは?

…信じられない。こんなことを考えてしまうなんて、私、本当におかしくなってしまったのかもしれない。勇者の心を弄ぶような真似を、するつもりはない。

でも、私も勇者のことは嫌いではない。

 

「私より年下のくせに、おませさんね」

 

額を指で突くと、なんだか恥ずかしそうだった。これでいい。私は今も十分幸せ。

街に到着し、門で少し並んでいる。勇者は眠ってしまった。無防備な顔が可愛らしい。

 

「申し訳ありませんが、こちら勇者さまの馬車でしょうか?」

 

外から、きれいな声をかけられ、扉を開く。

裕福な商人の妻?魔法使い?見た目だけではうまく判断できない。こんな田舎にいるのが不自然なくらいの美人だった。黒いレースを纏っている。

 

「僧侶さまとお見受けします。不躾なお願いなのですが、この子の傷を癒して頂けませんか?」

 

ご婦人に頭を撫でられながらも、痛みに震える少年の膝には、擦り傷があった。傷が、どこか不自然だ。

 

「勿論です」

 

二つ返事で治す。これくらい朝飯前だ。

 

「少年、大丈夫?」

「…うん」

「ありがとうございます!恩に着ます」

 

ご婦人は何か対価を払おうとする様子だったが、

 

「いえ、これくらいの治療で対価は要求しません」

 

私は断った。この相手からは、何か妙な印象を受ける。何かがおかしい。

 

「また普通の癒者に治せぬ怪我などございましたら、遠慮なくいらして下さい」

 

そんな感じで話して、馬車の扉を閉めた。

 

「ねえ、今だれか来てた?」

 

いつのまにか起きていた、勇者の声に目を向ける。勇者はびっしょりと汗をかいていた。

 

「ものすごい悪夢を見て、目覚めちゃった」

それは、どのような?

「すぐ近くに邪悪で強大な気配が迫ってるような…。ねえ、本当にだれもここに来てない?」

 

ここに当然の疑問がある。何故彼女は、この馬車が勇者の乗る馬車だと思ったのだろうか?清貧を良しとする私たちは、専用の馬車など持っていない。

 

私は、先ほどの状態が、何か一触即発だったらしいと気がついた。

相手が何故か攻撃してこなかったらよかったものの。

勇者が目覚めるのと、私が致命傷を負わされるのと、どちらが早かったのだろう?




次回水曜前後
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