僧侶ちゃんの闇堕ちカウントダウン   作:拗馴染

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本当に申し訳ない、のですが、堕ちない回です。
すみません。

カウントゼロを書いていて少し遅れました


10(2)

 この世界において、僧侶とは(究極的には)、勇者という機構を、最大限に使い切るための存在である。

 体力回復により、勇者は本来の体力分の何倍も活動することができる。あれ、いま一瞬何かを思いついたような?

 

 私たちの旅程は、聖書に記されたものである。魔王の生誕とともに、聖書に新たな断片が形成される。

 つまり、もとの旅程では、この街くらいで余所と合流できるのだ。

 他のパーティーの魔女さん。私の昔からの友達で、普段は大人しいけれど、惚れ薬だといって強酸を嗅がせてきたことがある。あれは、しばらく臭いが鼻に残って不快だった。

 しかし、どうやら街に勇者パーティーはいないようだった。

 

 念のため、彼らの通る街道を見に行くと、魔物に襲われている馬車を発見!私をあっという間に追い越して、勇者が参戦のために抜刀する。

 

「加勢します!」

「お嬢さん、無茶だ。相手は気が高ぶっているミノタウロス、しかも複数だ!首を捻切られるぞ、早く逃げなさい」

「いえ、問題ないです!」

 

 勇者は、問題にならない、と言っても良かったと思う。

 知性も低く、魔法も使わない魔物ならば、容易く切り伏せられる。勇者の体は魔物の群れの中に吸い込まれていく。

 

「ありゃ、もう駄目だ!もう助からない!」

「いえ、目を逸らさないで、おじ様」

 

 私も勇者の方を見る。間もなく魔物の巨軀が内臓を溢して倒れ伏し、群れの中から勇者がぬるりと姿を見せる。

 

 うちの勇者の二つ名『無垢』は、別に性格だけでついたものじゃない。

 

「終わったよー!」

 

 返り血を浴びないからだ。

 速さだけじゃこうはいかない。彼女の戦闘センスがずば抜けて優れているから。そう、剣の取り回しが巧いのだ。彼女は、(性格からは思いもよらないことだが、)実は手先もとても器用。そして、先を読むのもうまい。

 その器用さが、戦いにも生かされているのだろう。

 

 この世界では、神が幼い子の性格を照覧し、それを反映したクラス(分類)を与えるといわれている。そう、当人らしいクラスが選択される。人の目を盗んで行動していると『盗賊』に。戦いが好きなら『戦士』に。難しいことを考えるのが好きだったり得意なら、『魔術師』に。

 彼女は、勇者に適した人格を持っていたので、クラス『勇者』を与えられたのだ。このクラスは、正義感または殺意の強い者が選ばれる、そう巷では推測されている。

 

▼▼▼

 

 夕食を食べた私たちは、この街で一度、入浴しておくことにした。

 私は風呂が好きだ。

 今までは洗いあったりはしてなかったが、これからは、勇者に頼ることになりそう。私は綺麗好きだし、入浴中は無防備になるから、洗浄は丁寧かつ素早く行いたい。渋々ながらお願いする。

 

「今日から、勇者に洗ってもらうけど、いいよね」

「え!体を?」

「そうよ。何か?理由だってあるわ

「いやー、喜んでー!」

 

 勇者の手は、丁寧で優しかったけれど、どうもぎこちなかった。

 

「あなた、器用なんだからもっとササッと洗いなさい。なに緊張してるのよ。これじゃ、私が洗った方が早いと思わない?」

「待って、待って、あたしがやります!この勇者に任せてよ」

 

 あれ、後ろから勇者の視線を感じる。特に鎖骨に対して。それに気づいてしまったせいで、私は洗ってもらっている最中も、なんだか気まずく感じた。色気とかにとことん疎い勇者だから、これは単純に好みの問題なんだろう。

 長い時間をかけて、勇者は私の体をやっと洗い終えた。

 

「じゃあ、次は僧侶ちゃんがあたしを洗う番だね!」

「え、嫌よ」

「…なんでなの?」

「だって、あなたが自分で洗う方が、早いじゃない」

 

 言ってから、しまったと思った。私の今の言葉には、勇者を責めるようなニュアンスが含まれていなかった?私に(ある意味)腕を失わせた勇者を責めるような要素が。

 

「…冗談よ。洗ってあげるわ」

「いいの、自分でやります。僧侶ちゃんがいうとおり、今にも魔族の襲撃があるかもしれないし」

 

 これは私が悪い。悲しそうな勇者に、かける言葉もなく、気まずかった。

 

▼▼▼

 

 その晩、勇者はいつもよりも強く私にしがみついてきた。

 

「ちょっと…」

「ごめんね…僧侶ちゃんの…足引っ張っちゃった…」

 

 寝言に、叩き起こそうとしたのを止める。

 

「あたしが…もっと…庇ってもらわなくたって…」

 

しかし、少し考えると、私にはそれが随分とはっきりした寝言に思えた。つい苦言を呈してしまう。

 

「寝たふりして謝ろうっていうの?もしそうなら、それは卑怯よ」

「ごめんね…ごめん…」

 

 寝巻きが湿っている気がする。鼻水なら勘弁して…。しかし、勇者の涙と苦しそうな顔がうっすら見えて、毒気を抜かれる。そう、この子がそんなに卑怯な訳がない。彼女は眠っているに違いない。そんな勇者に、私は、とても冷たい言葉をかけてしまった。

 

「そ、そんな顔することないじゃない…」

 

 いや、して当然か。立場が逆なら、私だって否応なしに苦しんだだろう。

 

「そんなに苦しまないでよ…私こそ、ごめんなさいね…

 

 私も、勇者の顔を眺めながら、いつの間にか眠っていた。




次回11.23迄
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