僧侶ちゃんの闇堕ちカウントダウン   作:拗馴染

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 とんでもない夢を見た。悪夢だ。簡潔にいうと、貴族にステーキを振る舞われる夢だった。それも、絶対に噛み切れないほど肉厚の。しかもよく焼けていて切りにくい。心配そうに見てきた勇者が、私の口に直接運ぼうと…。



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「僧侶ちゃん!僧侶ちゃん!大丈夫?」

「うあ…」

 

 あまりに酷いうなされ具合だったようだ。私は勇者に起こされて、間抜けな声を出してしまった。寝汗で湿っているなどと思われていないだろうか。どうやらまだ日の出前らしい。どんな夢を見ていたのかと聞かれたが、覚えていない。ひとつ、わかっていることは。

 

「勇者は、登場していたわ。いえ、別にあなたが悪いことをしていたわけではないのだけれど」

 

 勇者は不意を突かれたような顔をしていたが、すぐに立て直し、

 

「夢の中でもあたしが、戦えない僧侶ちゃんを守れたらいいのにな」

 

なんて言葉を吐いた。私はすぐに反駁する。

 

「そんなことできる訳ないじゃない。それに、私はひとりでも大丈夫よ」

「えー」

「大丈夫なのよ」

「僧侶ちゃん、それ、本当?」

 

 勇者の純真無垢なまなこが、こちらをじっと見ている。

 強がりに決まっているじゃない。

 しかし、そんな本音を私が言うはずがない。

 

「夢は夢よ」

「そっかー。でもさ、僧侶ちゃん」

 

 勇者は珍しくイタズラそうな顔をした。いや、昨日も私を弄んだ時にしていたか。

 

勇者~、勇者~って言ってたよ。さっきうなされてるとき」

 

 いやいや。

 

「そんな嘘に、私が騙されると思う?」

「これが嘘だと?」

「う、嘘よ」

「動揺してる?」

 

 私が転がってそっぽを向いても追撃してくる。背を向けた敵に斬りかかるとは卑怯な。

 

わかったわよ。これからも私を助けて頂戴。勇者」

「…うん!」

 

 そう答えると、勇者はまた眠ってしまった。

 

▼▼▼

 

 門の方が騒がしい。顔見知りの衛兵がこちらに走ってくる。

 

「勇者パーティーの生き残りらしい!」

「すぐ向かいます」

 

 相手も僧侶でなければ、私の出番だ。

 

「あの赤い癖毛…!」

 

 向かった先には、私の知り合いである魔女さんがいた。椅子に座らされている。私より少し年上。普段なら丁寧に手入れされている服は血まみれで、手には何か、木の人形?

 

「何があったんですか?」

 

 魔女さんは顔を上げる。その目があまりに暗くて、私は思わずすくみあがる。

 

「あなた、腕が…。いえ、それは後ね。わたしたち勇者パーティーは、ヴァンパイアに敗走したの」

「生き残りは!」

「このわたしと勇者の魂だけよ。盗賊も僧侶も死んだわ

 

 魔女さんは手に持った人形を掲げる。確かに強力な魔力を感じる。

 二人が殺されたと聞いた勇者の顔は蒼白だった。彼女は向こうの盗賊とも知り合いだったはずだ。

 

「形見は、ないの…?」

「あの…」

 

 魔女さんは不快そうに勇者を睨み付けた。勇者が無意識に一歩下がる。

 

「あるわけないじゃない、勇者。死体を残しても操られるだけよ。それに、彼女は死に物狂いで逃げてきたのよ。そんな余裕はないわ。あなたも少し考えればわかるでしょう」

 

 こういうことを言うのは、私の役目だ。勇者が私を慕ってくれているから、私も無垢な勇者を遠慮なく咎められる。まったく、私は人の好意につけこむ狡猾な人間だ。しかし、

 

「少し、ひとりにさせて…」

 

勇者は想像以上に絶望していたようで、宿に去っていく。

 

「僧侶ちゃん、少し言い過ぎじゃない?憎まれ役を買ってくれたのは、わかるけれど。というか、あなたはそんな子だったかしら?」

 

 私の知り合いである魔女さんは、私の態度に疑問を持ったようだ。

 

「あ、いえ、これは」

好きな子には冷たく当たってしまうの?」

「え?」

 

 今、魔女さんはなんて言ったのだろう?急な発言に頭が混線して、対応ができない。端から見て私はそう見えるのか?久しぶりに会った魔女さんからそう言われる程?好き?好き?冗談じゃない。

 

「動揺しすぎよ、僧侶ちゃん。こういうのはしっかり考えて答えを出しなさい」

「あ、はい…?」

 

 今の私が対応できることではない。好きだなんて。というか、仲間であり勇者の知人を喪ったというのに、こんなことで悩んでいるだなんて、私は身勝手ではないだろうか。

 

 

 

(注

吸血鬼:日光に当たらない限り不死身。勇者の魔力で対応可能。

魂の封じ込め:魔女のみ可能。直前に死んだ肉体の魂を封じ込める。魂を適切な容器に移せば復活可能)

 

▼▼▼

 

「どうしてそちらの勇者はヴァンパイアを殺せなかったんですか?」

「連戦でみな魔力が枯渇していたからよ。わたしたちは、オーガを殺したわ。でも、その直後にヴァンパイアに襲われて…」

 

 敵となる魔族はこちらの勇者と同数と言われている。相討ちが前提で、しかし全員が相討ちになった場合、魔王を倒すものがいなくなるため、こちらは何人かの勇者を生き残らせなければいけない。

 

 私たちも、あれほど犠牲を出しながらリッチーを取り逃がしている。右の肩が不意に痛んだ。

 

 あの忌々しい苗による洗脳の悪夢が、今もどこかで繰り返されているのかもしれない。また私の勇者が傷ついてしまう。そんなことは許されない。仲間を斬る痛みは…

 

 いいえ、落ち着きましょう。気を引き締める。

 

「冷静に対応するわよ」

 

 この街に潜んでいる魔族がいるとなれば、勇者二人でもって、ヴァンパイアと謎の魔族に対応しなければいけない。リッチーも襲ってきたら一巻の終わりだが、奴は手駒がないと動けない。今は勇者から遠くに住む人間を洗脳している最中だろう。

 

「私たちも、つい先日魔族の気配を感じています」

「はやくこの勇者を戦える状態にしないと、まずいわね」

 

魔女さんは手元の人形を見る。

 

 もし、私の勇者のからだが人形になってしまったら、どうだろうか。私はまともでいられる気がしない。あの勇者のしなやかな身体が失われてしまったら、私はきっと発狂してしまう。

 

 だから、勇者を守るためなら、私はどんなことでもするだろう。

 

▼▼▼

 

「勇者、入るわよ」

「どうぞ!」

 

 勇者は元気を取り戻していた。私が勇者の精神力を鍛えたのが効いたのかもしれない。

 

「もう立ち直ったよ」

「それは、良かったわ」

 

 しかし、私の口から出た言葉は、思ったより心が込められていなかった。自分でも驚く。

 

 私は、もっと勇者に悲しんでいて欲しかったのだろうか?

 泣きながら、怯えながら抱きついて来て欲しかった?

 

「あたし、僧侶ちゃんだけは、絶対に守り抜くからね!」

「そう」

「だから、僧侶ちゃんも、もう絶対あたしより前に出ないでね!あたしより先に傷つかないでね!約束して」

 

 約束。

 

「それは、場合によるわ。私を見捨てなければ魔王が倒せないというのなら、私は囮になるため前に出るわよ」

 

 現実主義者のふりをして、約束をしない。私が傷つけば勇者が悲しんでくれるとわかっているのに、どうして傷つかないでいられようか。

 

「僧侶ちゃん」

 

 勇者は断られると思っていなかったらしい。あまりに悲しそうな顔をしている。

 ごめんなさいね。

 

 私は、理解しているつもりだ。この勇者を悲しませたがる傾向が本当に不味いということ。

 このままだと、私たちは最悪の結末を迎えることだろう。それでも、やめられなかった。




(おまけ
読まなくてもいい設定(魔王)
魔王は魔物が殺した人間の魂が多いほど強化されるので、発生直後はそれほど脅威ではない。勇者が強襲に成功した代は魔王から先に倒せている。
それを防ぐため、勇者に対して敵となる魔族をマンツーマンでつけるのが魔王側の習わし(定石)となっている。
つまり、魔族未討伐の勇者が集まると…
また、魔物側の目的は人間の魂を定期的に徴収することである。魔族が人間を支配した時代には生贄が捧げられていた。)

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 今後ともどうぞよろしくお願いします。

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