僧侶ちゃんの闇堕ちカウントダウン   作:拗馴染

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 まさか本当に、今日も夢の中に勇者が登場するとは思わなかった。いや、なんだか違う。勇者は夢枕に立ってるわけじゃない。

 勇者は実際に現実で私の枕元に立っているんだ。

 ああ、まだ寝ぼけていて頭が働いていない。夢枕に立つ、っていうのは故人とかへの表現だけど、勇者はまだ死んでない。少なくとも、私が生きている内は勇者を死なせるつもりなんてない。じゃあ、私はなぜ、この立ちつくす勇者が夢の中の存在だと思ったんだろう?

 私は半覚醒状態な意識のまま勇者を見ようとする。そう、私は勇者の表情を見ようとしている。そうか、私は、さっき勇者が勇者らしくない表情をしていたような気がしたから、これが夢だと思ったんだ。でも、眠ったような状態のまま見たその表情が思い出せない。とにかく、私はまだ眠いのだ。こんなのは不思議だ。朝に弱いのは私じゃなくて勇者であるべきだ。

 それでも私は二度寝してしまった…。

 

▼▼▼

 

「昨日は、すいませんでした!」

「別に、そんなに気にしてないわ。辛いのはあなたも同じでしょうし…」

 

 勇者は、死に体で逃げてきてすぐの魔女さんに、するべきではないではない質問をしてしまったことを謝罪しているようだ。魔女さんは私よりもずっと大人だから、仲間を失った苦しみにも上手く対処しているようだ。さらに、魔女さんには勇者の新しい体を作るという任務がある。

 器は魂に相応しいものである必要がある。今の仮の容器では、神木で作った人形とはいえ、いずれ限界が来るだろう。そして、ヴァンパイアもそれを見越してすぐ攻めてくるはず。また死人が出る。私たちは、他のことにうつつを抜かしていないで、闇に乗じるヴァンパイアに備えなければならない。

 こんなことを考えている内に、目の前の二人の会話が進んでいる。勇者は人当たりがいいから、誰とでもすぐに打ち解ける。

 

「ところで、魔女さんは、昔から僧侶ちゃんの知り合いなんだよね?」

「そうよ?」

「なんか、昔話とか、聞きたいな~って」

勿論よ!勇者ちゃん、すこしこっちに」

 

 魔女さんは勇者を物陰の方に連れて行こうとする。それをぼーっと眺めていた私だったが、これはまずいとはっとする。魔女さんは、私が散々な子供だった頃を知っているのだ!でも、勇者に私のことをもっと知ってほしいような気もするけれど。

 

「ちょっと!魔女さん!何やってるんですか!」

「あら~、別に何もあなたについてある事ない事吹き込もうってわけじゃないわよ?真実だけ」

「それが困るんです!」

「聞いた?勇者ちゃん。今のは何かあったって告白するようなものよね」

「僧侶ちゃん、あたしたちの間に隠し事はなしだよ!戦闘中に支障がでるかもしれないよ!」

「私にだって秘密はあるのよ!

 

 そうだ、魔女さんは確かにこういう人だった。必死で口を塞ぎながらも、私は魔女さんが変わりないようで安心した。その隙に、勇者が私の体を引き剥がしてくる。そして、私が勇者の腕力に勝てるはずがなかった…。

 

▼▼▼

 

 日中はヴァンパイアが出るはずがない。ということで、私たちは三人で無理のない魔物を討伐していた。

 

「私たちの街に魔族が潜んでいるとしたら、それはどのような能力を持っているのでしょうか」

「人間に擬態し、強大な魔力を抑えられる器用な魔族でしょう?歴史をひもとけば、候補は絞り込めるわよね」

 

 本当は他の勇者が戦った魔族の情報がわかれば良いのだが、早馬での情報はまだ回ってきてはいない。話しながら、魔女さんは魔法を放つ。強烈な爆発は実体を持つ多くの魔物を一撃で葬り去ることが可能だが、強靱な肉体に加えて再生力を持つ魔族相手にはあまり効果がないという。着弾して、爆発。目に当たれば目を、耳に当たれば鼓膜を破壊できる魔法でも、相手が動き回っていれば効果は薄い。

 

「特に、ヴァンパイアは動きが速くて、うちの『強壮』も腕力はあるのに遅いせいで歯が立たなかったのよね」

 

 魔女さんが呼ぶのは向こうの勇者の二つ名だ。強壮の勇者。強壮なる勇者。身長は山を思わせ、私ほどの長さの大剣を振るっていたという。状態異常を無効化できるという能力が、うちの勇者と真逆だ。

 

「オーガには力で押し勝ったのよ?でも、最期はヴァンパイアの魔法で焼かれてしまって……塵一つ残らなかったわ。あのヴァンパイアも、肉体が少しでもあったら動き出して自分の首を絞めようとすると思ったんでしょうね。念入りに焼いていたわ」

「でも、その魔法の隙を突いて、魂だけは連れてこれたと」

「ああ、こんな話したくないのだけれど…それは盗賊と僧侶が作った隙よ」

 

 そうだった。その二人の命よりも、勇者の魂の方が重かったというのだろうか?それも、そうかもしれない。私たちだってその道の才能のある一握りだけれど、勇者は一人一人が唯一無二の能力を持ち、非常に強力な存在なのだ。私の回復の才能は私の何倍も年上の僧侶より上だったけれど、勇者の才能はそもそも比較のしようがないものに育つという。最終的には。生き残ることができたなら。うちの勇者もわかってくれるといいんだけれど。

 

「そっか。盗賊も、守ったんだ。だったら、あたしもそれを引き継がなきゃね」

 

 いつの間にか魔物を倒してこちらに来ていた勇者が、そう言いながら魔女さんの方を見る。なぜ?盗賊が守ったのはあの勇者の魂ではないのか?

 

 少し考えて、自分が見逃していたことに気づく。そうか、向こうの犠牲者はこの魔女さんも守ったんだった。彼らは、魔女さんは美人で優秀だから、もしかしたら「勇者の魂を失わない」ことを口実に魔女さんを助けたかったのかもしれない。

 その魔女さんが呟く。

 

「無垢の勇者の攻撃は、ヴァンパイアに届きそうね」

 

▼▼▼

 

 その晩、私は街の城壁に立つ、増えた魔物の攻勢で傷を負った兵士を治療して回っていた。勇者は近くにはいない。

 

「ヴァンパイアは、こちらの疲労がたまる前に討つべきね」

 

 という魔女さんの提案が発端である。我々人間側も、ずっと夜に気を張ってはいられない。私だってそうだし、街を守る兵士も当然そうだ。昨日も壁外からの殺気に当てられて数人が発狂していた。結局、

 

「私が囮になります」

 

と言うほかなかった。私か、あるいは魔女さん。しかし、魔女さんにはできず、私にはできる時間稼ぎの方法がある。相手を逃がさないための。

 

「やめてよ、僧侶ちゃん…」

 

勇者が控えめに私の袖を引っ張るが、

 

「ほら、結局、これが最適解よ。無責任な約束なんてしなくてよかったのよ」

 

私は突き放す。しかし、勇者があまりにも悲しそうな顔をするものだから、私は勇者に静かに近づいて抱きしめる。

 

「ちょ、僧侶ちゃん…」

「今回の作戦は、あなたがどれくらい早く来られるかにかかっているのよ。私の命、任せたわよ」

 

そう言うと、勇者は泣きそうになりながらも頷いた。かわいい。

 




表情については次回
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