エリニュス-慈しみの神達へ-   作:ライト鯖

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争いの世に、全てを支配せし厄災が、地の底より這い出でる。世界は闇に覆われ、恐怖が人々に降りかかるだろう。
しかして、同時に、闇を払いうる、希望の光も、現れる。
          ーある地域の伝承ー


序章
茶飯事


 

 

「もう大丈夫だからね」

 

優しい手。

小さな頃、記憶も曖昧な時期の、柔らかな記憶。

何の理由だったか、森で迷子になっていた所を、引いてくれた暖かい手。

ずっと泣いていたけれど、彼の声とその温もりは、安心をもたらすには充分で。

 

「僕も、おにいちゃんみたいになりたい」

 

そう口に出すにも、充分過ぎた。

 

「あはは。嬉しいな。けれど、君に"此方"は、似合わない」

 

その意味は、結局分からないままだった。

 

レオ・アルバートは、その日も、いつも通り朝日を顔に受けながら、小さな寝床で目を覚ました。

小さく伸びをし、赤みがかった黒い髪を掻き揚げた彼は、隣に寝ているまだ4歳になったばかりの妹、ソフィア・アルバートを起こすため、その小さな身体を揺する。

 

「ソフィア、起きて。朝だよ」

 

レオが優しく声をかけると、彼女はまだ眠いと言わんばかりに「ううん..」と寝惚けた声を出し、寝返りを打った。

 

「もう朝ごはん出来てるみたいだから、起きて」

 

もう一度声をかけると、漸く目を覚ましたソフィアは、あくびをしながら、目を擦り、ゆっくりと身体を起こした。

レオは、ソフィアの目が多少覚めるのを待ち、二人揃って、両親が奮発して購入した少し大きめの、しかし、古く、劣化の目立つベッドから降り、二人の小さな部屋から隣の居間へと移る。

 

「おはよう」

 

居間に入ると、彼らの母親、アデラ・アルバートが直ぐに気が付き、にこやかな笑顔を二人に向けた。

 

「おはよう母さん」

「おはようお母さん」

 

レオとソフィアは二人揃ってそう挨拶を返し、そのままレオは、土間に置かれた水瓶に貯められた水を柄杓で掬い上げ、自身とソフィアの顔に軽く水を着け、残りをソフィアに飲ませた後、彼女が残した分を彼が飲み干した。

 

「朝ごはん出来てるわよ」

 

母、アデラはそう言いながら、彼女の夫との、つまり、レオとソフィアの父親とアデラの寝室へと顔を入れ、声を張り上げた。

 

「いつまで寝てるの!起きなさい!」

 

その声から暫くすると、のそのそと、まだまだ若さの残る出で立ちの男が、眠そうに居間へとやって来た。

 

「今日は刈り入れも終わったとこなんだからもう少し寝かせてくれよ...」

「もう十分でしょ。太陽はしっかりと昇ってるわよ」

 

アデラに不満をばっさりと切り捨てられた彼は、この一家の主であるマデオ・アルバートである。

 

「おはよう。父さん」

「おはよう」

 

いつも通りの朝。

いつも通り日常。

アルバート家は、裕福ではない、小さな農家だ。だが、それでも四人はそれなりに平和で幸せな日々を送っていた。

 

彼らの住む国、エスパニア王国は、何十年と戦争を続けており、戦地に近しい場所に彼らの村はあったが、何年も被害が及んだことはなく、レオ達にとっては戦争も、何処か遠くの出来事であった。

農作業をし、収穫した作物を売り、暮らす。

そんなのどかな生活を、彼らは謳歌しているのだった。

大人達は戦争について話すことはあったが、子供であるレオには詳しく話すことはなかった。

それに、彼の存在が、村の大人だけでなく、大人が何も話してくれない子供達も安心出来る理由となっていた。

 

騎士団。

魔法を扱える、一部の人間のみが属することの出来る、軍事組織。

村を守るのは、複数ある騎士団の一つ、黒龍団である。

その団員の一人、エリオスという騎士がこの村にパトロールのためによく訪れているのだ。

 

「やあ。元気かリエル爺さん?」

「ああ。いつもありがとねえ」

「気にすんなって荷物運びくらい」

 

フレンドリーに、村の人と接し、信頼を寄せられていた。

幾つもの村々を担当していながら、住民一人一人の名も覚えていたのだ。

レオも、その一家も、彼のことを信頼している。

 

「アルバートさん!悪いね食事中!」

「エリオスか。何か用かい?」

「子供達は元気か?」

「ああ。生意気ざかりさ」

「お兄ちゃん!」

「ソフィアか。飯はよく噛めよ!」

「うん!!お兄ちゃんも頑張ってね!」

「レオも挨拶したらどうだ?」

「...」

 

レオは、ひょこりと顔を出し、無愛想に視線を送る。

彼のことは信頼しているが、年頃でもあり、純粋に妹のように懐くことが気恥ずかしくなっていたのだ。

 

「ははっ!元気そうだな!じゃあ、また来週な!」

「頑張れよ!」

 

マデオの声を背にし、エリオスは雷のような音を轟かせ、次の村のパトロールへと飛んでいくのだった。

 

レオが、エリオスと話せない理由には気恥ずかしさともう一つあった。

彼は、エリオスへの憧れからエリオスに、言ったことがあった。

「騎士団に入りたい」と。

レオは、村で唯一、魔法が使えるのだ。

教会の司祭とエリオスがレオの魔法に気付き、僅かながら手解きを加えてももらっていた。

だから、憧れの騎士になれると、そう思っていた。

だが、エリオスは困ったように笑い、言うだけだった。

 

「君のその力は戦いじゃなく、誰かの助けに使ってあげてくれ。村の皆のためとかね」

 

彼と一緒に、悪い奴等と戦いたい、そう考えていたレオにとっては、衝撃で、少し、裏切られた気分も味わったのだ。

だから、少し気まずかった。

 

朝食を終えた一家は、いつもの通り、マデオは農作業に、アデラは家事を、レオは、この日は週に三回ある学校が、休みの日であったため、母の手伝いとして、洗濯のための水を汲みに川へと向かうことになっていた。

 

「ちぇ。遊びに行きたかったのに」

 

家をこっそり出ようとしたところを、アデラに呼び止められ、大きな桶を手渡されてしまったのだ。

レオは、小型の荷車に桶を載せ、それを引いて川に向かって歩いていた。

 

「お兄ちゃん待って」

 

ソフィアが、付いてく行くと言って聞かなかったので、仕方なく一緒に出発したが、さっさと終わらせたいレオは、早歩きでさきさきと荷車を引いて進んでしまっていた。

まだ小さなソフィアは、それに付いていくことが出来ず、息を途切れさせながら、一生懸命走ってもどんどんと兄から離されていき、不安な様子であった。

そして、彼女はついに転んでしまう。

 

「あっ!」

 

痛みを我慢出来る歳ではなかったソフィアは、その場で泣き出してしまった。

そこで漸く、ソフィアとかなり離れてしまっていたことに気が付いたレオは、面倒くさいなと思いながらも、ソフィアへと駆け寄る。

 

「何してんだよ。早く歩けよな」

 

朝起こす時は、特に面倒なこともなく、心に余裕もあったので、優しく接していたが、この時のレオは、早く遊びに行きたいのに、多分帰ってもまだ何か言いつけられるだろうこともあって、苛立ちが募っており、つい、苛立ちの籠った声で厳しい言い方をしてしまったのだ。

だが、その瞬間、彼の脳裏に、少し前の出来事が浮かぶ。

 

「気に入らんことがあったからって、それを自分より弱いのにぶつけるような男は、まだまだ大人とは言えんな」

 

子供扱いするな、と父のマデオに言った時の記憶だった。

 

「...」

 

父のごつごつとした手で頭を撫でられ、その時は、それが更に彼の神経を逆撫でしたわけだが、今は、その感触を思いだし、冷静になっていた。

見ると、ソフィアは、兄の強い言い方に驚き、泣き声を収めてはいたが、先程までよりも大粒で、大量の涙を目から流していた。

 

「ごめん。ソフィア...兄ちゃんが悪かったよ。ごめんな置いてって」

 

レオは、ゆっくりとソフィアを抱き締め、頭を撫でる。

 

「おそぐでごめんなざい..」

 

泣きながらそうソフィアに謝られ、レオは益々自分の先程の行動を恥じた。

 

「ソフィアは悪くないよ。ごめんね。大丈夫だよ。怒ってないよ」

 

暫くぐずり続けたソフィアだったが、レオはどうにか宥め、再び川へと向かい始めた。ソフィアを荷台に載せようとしたが、それは嫌がられてしまったので、今度はゆっくりと。

そして、川に到着した頃にはすっかりケロリとしていたソフィアは、川べりの小石を取り、レオが水を汲む横で、川へと投げ、遊び始めた。

 

「よいしょ」

 

水を汲み終えたレオは、荷車に桶を載せて、出発する準備を整え、ソフィアを呼ぶ。

 

「おーい帰るぞ」

 

だが、ソフィアはまだ遊びたそうな様子で、不満げな視線をレオに向けた。

また、つい、いらっとしてしまったレオだったが、直ぐに冷静になり、今度は怒ることはしなかった。

 

「帰ったら遊んでやるから」

「ホント!?」

 

パッと顔を明るくさせ、ソフィアはテクテクとレオに駆け寄る。

 

「ああ。約束だ。ほら」

 

そんなに嬉しがることか?と思いつつも、早く戻れるならいいか、と深く考えることはなく、レオは、ソフィアに手を差し出す。

ソフィアはそれを、嬉しそうに握り、片手で荷車を押すレオと共に、また、ゆっくりと歩き出すのだった。

 

森を抜けた先にある村へと戻る途中、丁度、木々に隠れた中間の辺りまで来たところで、妙な音がレオの耳にこだましてきた。

 

「何だ?」

 

レオは首を傾げたが、気のせいかと思うくらいであったため、特に気にせず、また進み始める。

ソフィアは、キレイな花を道中で見つけたようで、すっかりご機嫌になってレオの後ろを付いてきていた。

 

「まったく」

 

幼児の考えることは分からない、と11歳になったばかりのレオは肩を竦めた。

だが、ふと、5年くらいまでは自分もこうだったんだな、と頭に浮かび、不思議な感覚を感じていた。

 

しかし、そんなどこにでもありそうな彼の気付きも、一瞬にして色褪せてしまう出来事が、彼を待ち構えているのだった。

 

森も終わりに近づいた頃、レオは、今度ははっきりと、音を聞いた。

爆発音のような音と、人の悲鳴。

 

「....?」

 

聞こえてきた声が、悲鳴であると認識するまで少々時間を要したが、悲鳴であると理解してからも、レオには何が起きているのか全く検討もついていなかった。

だが、何か、本能に近いものが、彼の脳に警告を出していた。

何か、まずいことが起きている、と。

レオは、荷車をその場に置いて、聞いたこともない音に、首を傾げるソフィアを抱き上げ、走り出した。

 

「お兄ちゃん?お水置いてっていーの?」

「いいんだ。後で取りに行く!母さん達のとこに戻るぞ」

 

何かは分からないが、早く戻らねば、父と母の下へ行かなければと、まだ10歳を終えたばかりのレオは、そう考えることしか出来なかった。

ソフィアは、レオのただならぬ様相から何かを感じたのか、それ以降、何か言い出すことはなかった。

そして、村へと戻ったレオを待ち受けていたのは、炎だった。

平原に点在する家々、美しい畑、つい先程まで、そこに広がっていた牧歌的な風景は、地獄のようになっていた。

家々は燃え盛り、畑にも燃え移ったのか、所々に、赤い火柱が立っていた。

 

「なんだ、これ...」

 

不安と恐怖に押し潰されそうになりながらも、レオは咄嗟にソフィアの顔を自身の胸に埋めるようにして隠し、再び走り出した。

 

「お兄ちゃん?」

「じっとしてろ。大丈夫だから」

 

そこからまた数分走り、レオは、家へとたどり着く。

だが、彼らの家は、燃えてこそいなかったが、何者かに荒らされた跡だけが残っており、朝までのそれとは、全く別物のようになっていた。

 

「母さん?」

 

レオは、言い知れようのない不安を抱えながら、藁にも縋る思いで、室内へと入り、母を呼ぶ。

しかし、返事は返ってこない。

それどころか、室内も荒れ、赤黒い斑点が外へとつたっていることにも気が付いてしまったのだ。

 

「...誰..?何が...?」

 

すると、また悲鳴が、村の広場の方から聞こえてきた。

 

「お兄ちゃん?どうしたの?」

 

ソフィアの声で我に返ったレオだったが、どうするべきか判断が付かず、暫く動けずにいた。

だが、また悲鳴が聞こえたことと、ソフィアがそれに驚き、ビクリと身体を震わせたことで、漸くレオは身体を動かすことが出来た。

何があったか見に行くべきだ、と。

妹を安心させるためにも、父か母を探し出さねばならない、と。

今のままじっとしてても仕方ない。

そう考えを決め、妹を自分達のベッドの下へと隠す。

 

「怖いよ。お兄ちゃん。何があったの?」

「...大丈夫。父さんと母さんも直ぐに戻ってくるから。兄ちゃんも直ぐに戻ってくる、だからそこにいて。」

「何で?何で隠れなきゃいけないの?お兄ちゃんどこいくの?一緒に連れてってよ」

「きっと、父さんと母さんが俺達を驚かそうとしてるんだよ。だから見つけてきてとっちめるのさ。ソフィアは、逆に父さん達を驚かすために、そこに隠れてて欲しいんだ」

 

苦し紛れだった。

だけど、そう言うしかなかった。ソフィアを抱えていては、速くは走れない。それに、何か連れていってはいけない気がしていたのだ。

 

「...分かった」

 

レオの言い訳に納得したようではなかったが、それでも、何かを悟ったのだろう。小さくソフィアは頷いた。

 

「いい娘だね。大丈夫、直ぐに戻ってくるさ。約束だ」

 

レオは、ソフィアの頭を軽く撫で、立ち上がって、家を飛び出した。

 

そうして、村の広場が見える建物の影へと近より、そこから広場へと視線を向けた。

「....!!」

吐き気。

反射的に、手で口を抑える。

首のない身体が、彼の視線の直ぐ先にあった。

そして、その先には、腸の飛び出た身体が。

そしてその奥には、悲鳴の主がいた。

腕を捕まれているその女性は、必死に身を捩っていた。

レオは、ゆっくりと、女性の腕を掴む、見たこともない色をしたその手の先へと、視線を移動させた。

「.....!」

手で抑えた口の中で、声にならない悲鳴を挙げる。

 

緑色の肌、人間とは比べ物にならない巨体、その巨大な顔に付く、大きな口から生えた牙。彼の視線の先にいたのは、レオが初めて目にする、"魔族"であった。

彼も、知識の上では知っていた。

ヒトと、長らく争い続けている"魔族"と呼ばれる存在を。

だが、実物を見るのは初めてであった。

ニヤリと下卑た笑みを浮かべたその魔族は、手で摘まむようにして持っていた女性をゆっくりと肩の辺りまで掲げる。

そして、レオの視線からは見えていなかった、魔族の仲間が、女性の腹に、巨大な槍を突き刺した。

「.....」

レオは逃げ出そうとしたが、その瞬間、彼の探し人が、見つかってしまった。

 

「父さん..母さん..」

 

レオの見ていた魔族達から少し離れた所に、更に多くの武装した魔族に囲まれた村人達がいた。そして、その中に、レオの両親もいたのだ。彼らは拘束されており、恐怖に支配された表情で、震えていた。

 

やがて、そこに、他の魔族よりも着飾った魔族がやってきた。

そしてその着飾った魔族は、何やら村人達を取り囲む者達に言い付け、女性を突き刺し、満足気な様子の二体には叱るようにして指示らしきものを飛ばす。

それを受けた魔族達は、少し村人達から離れ、全員が武器を構え、村人達へと向けた。

「....!!!」

レオは、奴等が何をしようとしているかを悟った、悟ってしまった。だが、恐怖で、その場を動くことは、出来なかった。

そして、住民の逃亡が完全に不可能となったそこに、着飾った魔族が杖を向け、先端に円形の陣を浮かび上がらせる。

 

レオはそれを知っていた。学校の先生が、いつか本で見せてくれた、"魔法陣"だった。

レオはまだ、まともに使えたことのない、魔術。それを発動させるための━━。

 

そして、魔族の杖先から、無慈悲な炎が出で、村人達を、レオの両親を、一瞬にして、包み込んだ。

着飾った魔族は、大声で、何やら叫びながら、笑っていた。

他の魔族も、ゲラゲラと楽しそうに、心の底から愉悦を感じているかのように、大声で笑う。

やがて、ひとしきり笑い終えた魔族達は、まだ燃え続け、中に、黒い、人の形をした影が残っているそれを余所に、村の方々へと散っていった。

直感的に、レオは不味い、と感じた。

頭では動かすことは出来なかったが、殆ど勝手に、足が動いていた。

 

「ソフィア....!」

 

思わず、口を付いて、声が、出ていた。

幸いにも、広場で燃え盛る炎が、赤々と燃える家々の音が、彼の声を、走る音を、かきけした。

 

「ソフィ..」

 

自宅まで戻ったレオだったが、そこに待っていたのは、赤く、残酷な程に、美しく明るい、炎だった。

もう、彼は思考していなかった。

燃え盛る自宅へと、彼は飛び込み、彼らの寝室へと向かう。

 

まだ、内部全てが炎に包まれたわけではなかったが、入った瞬間、高温と煙で、レオは意識を失いかけた。

だが、ただ、がむしゃらに、彼の足は駆動し、意識も、すんでのところで、留まっていた。

寝室の入り口から、もうもうと、真っ黒な煙が出てきており、赤い炎も見える。

そこにレオは滑り込むようにして入り、ベッドの下へと手を伸ばした。

しかし、それを掴む手が伸びてくることはない。

即座にベッドの下を覗き込むと、そこには、ソフィアの影はなかった。

それを知覚した瞬間、再び彼は走り出していた。

 

一人で逃げたのか!?どこに!?まさか広場へ!?

 

纏まらない思考を振り落としながら、彼は家を飛び出し、辺りを見渡す。

すると、そこには、自宅に飛び込むまではいなかった、魔族がいた。

 

「△×ーん。つ÷!す&*」

 

何を言っているのか、レオには分からなかったが、見つかったのは間違いなかった。

しかし、そんなことは、今のレオにとってはどうでも良かった。

なぜなら、その魔族は、片手に、顔から血を流す、ソフィアを持っていたからだ。

 

「放せ...」

「放せ!!」

 

レオは、先程まで、恐怖で動けなかったのが嘘のように、大声で、必死の形相で、魔族に怒鳴った。

そんな様子を見た魔族は、レオをせせら笑うようにして指差し、次いで、ソフィアを指差した。

 

「放せよ!!」

 

レオは、真っ向、魔族へと駆け寄った。

 

「おおおあああ!」

 

炎。

レオの手に魔法陣が出現する。

 

「ああああ!放せ!放せええ!」

 

炎が拳へと纏わる。

それに気付いた魔族は一瞬怯んだ様子を見せたが、炎の大きさを見て嘲笑けりへと顔を変えた。

そして、レオを軽く蹴り飛ばす。

吹き飛ばされたレオだったが、直ぐ様立ち上がり、再び魔族を睨み付ける。

そんなレオを見る魔族は、ニヤニヤとした笑みを浮かべるばかりであった。

まるで、お前は次に楽しむ。とでも言いたげな様子で。

 

「止めろ!」

「痛い...お兄ちゃ...助け...」

 

その魔族は、片手に持つ、朦朧とした意識のソフィアを、燃え盛る、彼らの家だった場所へと投げ入れた。ソフィアの掠れるような声は、魔族の腕が空を切る音にかきけされ、そして、燃え盛る家の方へと、消えていった。

 

「ソフィア!」

 

彼は、ソフィアの飛んでいった炎へと駆け寄ったが、もう、その中に、入ることなど、出来はしなかった。

 

「あああああああああ....」

 

何かの糸が切れたように、レオはその場に崩れ落ちる。

魔族は、その後ろからレオの身体を掴み、持ち上げた。

 

「ソフィア...父さん...母さん...」

 

そして、魔族は、小さく振りかぶり、レオも投げようとする。

 

「ニードル・サンダー!!」

 

声と、次いで、やって来た轟音と共に、レオは地面に落下した。

まだ、魔族の手は、レオの身体を掴んでいたが、それは、魔族の腕からは、離れていた。

 

「ぐおおおあ!?」

 

魔族が悲鳴を挙げる。

人影。

 

「ボルテック・フィスト!」

 

嵐が呼び込む雷のごとき雷鳴を轟かせ、人影の繰り出した拳は魔族の巨体を、地面へと倒れさせた。

レオは、精神的な限界を迎えていたのか、その様子を、徐々に狭まる視界でうっすらと認識できただけだった。

 

「レオ、大丈夫か!?」

 

人影が、レオへと駆け寄ってくる。

レオは、その呼び掛けに答えることも出来ず、徐々に、意識を暗闇へと委ねていった。

「レオ!レオ!」

呼び掛ける声を脳にこだまさせながら。

 

 

 

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