エリニュス-慈しみの神達へ-   作:ライト鯖

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論功行賞

 

魔族側の最高戦力であったゲルバラナとベルアスナが死んだことで、戦場の趨勢は完全に決した。

援軍として戻ってきたマルティンと、彼の率いるドラゴンによって、魔族は撹乱し、次々とその餌食となっていった。

更に、司令官であるゲルバラナの死は、ベルアスナとは違い、皆が戦っている戦場の真ん中で起きた出来事であった。

司令官であり最高戦力であった彼の死を見た魔族達は、どんどんと戦意を喪失していき、逃亡者まで出始める。

そこをイグナシオが追撃し、更に魔族は混乱を極めるのだった。

 

「終わったね」

 

あちこちに傷を付け、ボロボロになったルシアと、肩で息をし、剣を支えにどうにか立っていたレオは、逃げ惑う魔族達を眺めていた。

レオとしては、魔族を追撃したいところであったが、体力が限界を迎えてしまっており、まともに動けずにいたのだ。

 

「まだ..奴等を..アルバーニから追い出すまで..は..終わりじゃ、ないです..」

 

ゼエゼエと激しく呼吸しながらも、レオは、魔族達を睨み付け、そう言った。

 

「やる気があるのは良いことですが、貴方達はもう休んでなさい」

 

いつの間にか彼らの横に、イグナシオが立っており、レオ達は驚いた。

 

「!..イグナシオさん..ですが..」

 

食い下がるレオの頭に手を置き、イグナシオは笑った。

 

「後は軍に任せておけば大丈夫。もう最高戦力は取り除きましたし、大部分の魔族は討ち取りました、何人かの補助を付ければ軍でも充分対処可能でしょうから」

「...はい..」

 

渋々といった様子で、レオは小さく頷くのだった。

 

イグナシオの言葉通り、司令官と中枢の戦力を失った魔族達は、統制が崩れ、瓦解した。

アルバーニに残っていた魔族らも少数であり、エスパニア王国軍と騎士団数名の補助によって簡単に奪還することが出来た。

幾らかの魔族は逃亡したが、大部分は捕えられ、尋問にかけられることとなる。

 

こうして、魔族によって占領されたアルバ地区はエスパニア王国の手に取り戻されたのであった。

 

 

会戦に置ける騎士団の死者は、39名。

作戦に参加した者が、265名であったことを考えると、かなり抑えられたと言えるだろう。

 

対する魔族側は、1300名弱の軍勢の内、550名近くが討ち取られ、500名が捕虜となった。

 

近年稀に見る大戦果である。

団長クラスの魔族がいないにも関わらず、攻撃を断行した魔族側の失態によるものであったが、2ヶ月もの間占領されていた土地を取り戻し、一つの軍勢を壊滅させたことは、間違いなく勝利と呼べるものであった。

 

「と、言うわけで。明日、王都に行くぞ。陛下が論功行賞をしてくださるそうだ」

 

アルバーニを王国軍が奪還したという報を受けた二日後、会戦に参加した団員が集められ、マルティンからそう告げられた。

 

「王都かあ。久しぶりだな」

「王都は酒も上手いし、楽しみですな」

「お前はいつも飲んでるだろ」

 

口々に団員達が騒ぎ出す。

レオは、そんな中、一人静かに立っていた。

 

「レーオ」

 

そこに、ルシアがやって来て、レオと肩を組んだ。

 

「何ですか..?」

「あんまり、気負いすぎるなよ」

 

ルシアの言葉に、レオは僅かに肩を震わせる。

 

「死んだのはあいつだけじゃない。お前のせいではないさ」

 

ルシアの言葉に、レオはポツリと返す。

 

「分かっています。でも...俺がもう少し強ければ、彼は死なずに済みました..」

 

死霊魔法の使い手との戦闘でルシアを庇って死んだ団員。

彼は、自分が一人であの骸を突破出来る程に強ければ、死ななかった。

 

レオは、そう考えていたのだ。

 

「...あたしが強ければ、良かったんだ。何もあんただけのせいじゃない」

 

それに。とルシアはレオとしっかりと目線を合わせる。

 

「そうやって一人で何でも自分の責任にしちまうのは、死んでいった奴等に失礼だ」

「...!」

「あいつらの行動や想いを否定することになるし、あんたのそれは死を悼む行為じゃなく、侮辱になるよ」

 

レオは、何も言えなかった。

その通りだと思ったからだ。

 

他にも大勢団員が死んでいるのに、自分の関わった人だけ、自分のせいだと後悔し続けるのは、彼に対して、失礼だ。

ソフィア達とは違い、彼らは戦うことを選んだ、騎士なのだから。

 

 

翌日。

 

エスパニア王国王都 -エル・マドリース-

-王城 ヴィクトーラ城-

 

王侯貴族の居住する、巨大な屋敷や庭園が建ち並ぶ、王貴区。

 

その外周を囲み、富裕層の邸宅や、高級商店、高級ホテル等が建ち並ぶ中央区。

 

平民、といっても、此方も平均的な国民と比べると富裕な人々が住む、民衆区。

そして、低収入労働者の平民が住む外地区。

 

王都を構成する全ての地区を見渡すことの出来る程に、高く、威容と壮麗さを両立させた、優美な王城。

その一角、景色の良い、顕彰の間にレオ達、黒龍団の団員達は集められていた。

 

「すごい景色だなあ」

 

初めて王城に来た団員達は、王国の力を示すかのような王都、それを見渡せるこの城に、興奮を隠しきれないでいた。

 

レオも、ついつい窓辺から、王都を見下ろす程であった。

ただ、彼の場合は、純粋な好奇心や興奮だけではなかったが。

 

「おい。お前らそろそろ陛下が来られる。大人しくしとけ」 

 

マルティンに注意され、団員達はもの足りなさそうにしながらも、整列しなおすのだった。

 

それから数分後。

豪華に飾り付けられた金色の扉が衛兵の手によって開けられ、従者らしき男が、部屋の中央にひかれたレッドカーペットの端を踏まないような位置に立ち、こう、声を張り上げた。

 

「エスパニア王国国王ヴィクトリオ・ラズ・マドリース二世陛下の御成です!」

 

どんな絢爛豪華な装飾を身につけて現れるのかと、膝を付きながら、期待した団員達の多くの期待を裏切り、入ってきたのは、マドリース家であることを示すマント、貴族が着用しているようなコートこそ来ているが、それらと隔絶したような絢爛さはなく、国王という肩書きに相応しい程に豪華と呼べそうなモノは、王冠くらい、そんな出で立ちのまだ青年と呼べる風貌の男であった。

 

「面を上げよ」

 

部屋に鎮座する、王座に着座した国王の言葉に合わせ、団員達は顔を上げる。

 

彼らの殆どが初めて見たその男は、この国を統べる者とは信じられない位に、柔らかな雰囲気を纏って、微笑を浮かべていた。

 

「拍子抜けしたか?」 

 

団員達の様子を感じ取ったのか、国王はそう言って笑った。

 

「.....」

 

団員達は、何と言って良いのか分からず、視線を泳がすことしか出来ず、静寂が広がる。

 

「国王。相変わらず人が悪いですな」

 

その静寂を破ったのはマルティンの気安い一言だった。

 

「...?!?!」

 

団員達は顔を真っ青にしたが、国王は気にするでもなく再び笑った。

 

「悪い悪い。つい、悪戯をしてみたくなるんだ」

「団員達が怖がっていますよ」

「すまないね。君たち。しかし、何も悪戯の為にこの服装をしてきたわけではない。いつも、マルティンと合う時はこうなんだ。堅苦しい上、無駄に飾り付けているあの服は、出来るだけ着たくはなくてね」

 

団員達は、なおも困惑していた。

 

「何だマルティン?お前話してないのか?」

「必要はないかと思いましてね」

「説明を最低限度しかしないのはお前の悪いところだな」

 

その国王の言葉には、つい、多くの団員達が頷くのであった。

 

「こいつ、マルティンとは私が王子の頃から縁があってな。マルティンを騎士団に推薦したのも私なんだ」

 

団員達は、驚愕の表情を隠せなかった。

 

「まあ、その話は良いでしょう。儀礼を優先せねば」

 

マルティンに促され、国王はそうだったな、と笑った。

 

「では、これより論功行賞を始める」 

 

国王は立ち上がり、従者が側に来て用意している勲章を手に取った。

 

「まず、此度のアルバーニ奪還戦において、敵主力を悉く撃滅せしめ、最も今戦闘に貢献してくれた黒龍団諸君に最大限の感謝と賛辞を送る」

 

「ははっ!ありがたき幸せ」

 

先程とは打って変わった形式ばった、しかしそれでいて威厳を感じる声色で国王から賛辞を送られた団員達は、敬礼で礼を示した。

 

「では続いて、個人の顕彰に移ろう。ローズ・ファインベルグ!」

 

呼ばれた団員は、何度か経験しているのだろう、慣れた調子で、かつゆっくりと、他の者達の手本となるようにしながら国王の前に進み出た。

 

「貴君は、アルバーニ奪還戦において、魔族20人を殲滅したと聞いている。貴君の奮戦を称え、三等 星十字章(せいじゅうじしょう)を授ける」

「誠にありがとうございます。陛下からの評価に耐える魔導士であり続けるべく、今後も奮励努力する所存であります」

 

国王はそれに小さく頷き、次の勲章を手に取った。

 

そうして、暫く団員達の叙勲が続いていき、ついに、レオの番となった。

 

「レオ・アルバート」

「はっ」

 

国王の前に進み出て敬礼をする。

 

「貴君は此度の戦闘において、100近くの魔族を殲滅し、更にその前哨足る偵察において、重要な役割を果たしたそうだな。貴君の奮戦、並びにその勇姿を称え、一等星鷲章(せいししょう)を授ける」

「ありがとうございます」

 

跪き、勲章を受け取るレオに、国王は、語りかける。

 

「君の友達の活躍も聞いている。今回は受章させてやることは出来なかったが、伝えておいてくれ」

「!....はい」

 

レオは、そんな細部まで把握しているのかと、驚きを隠せなかった。

 

「さて、後は..マルティン」 

 

レオを列に戻らせ、国王はマルティンを呼んだ。

 

「はい」

「申し訳ないが、お前は受章なしだ」

 

軽い調子ながらも、悔しさの滲む声で国王はそう告げた。

 

「あー。貴族連中ですかね?」

 

またか。とばかりにマルティンは吐き捨てるように尋ねる。

 

「そうだ。ムラゴシアにいた貴族連中からの苦情が凄まじくてな」

 

マルティンはやれやれ。と小馬鹿にしたような笑みを浮かべていたが、レオには全く意味が分からなかった。

 

(苦情..?なんで..?)

 

「何故避難させる必要があったのだ、ということらしい。避難させる事態になる前に対処しなかったことは怠慢であり、処罰すらするべきだ、と吹き上がっている者もいる」

 

その理由を国王は話したが、更にレオの思考を混乱させることとなるだけだった。

 

「相変わらずむちゃくちゃな連中ですな。そんな文句はヴォルトバル家に言うべきことでしょう」

「全くだが、ヴォルトバルの連中が君をスケープゴートに、責任回避を計っているようでね」

「まあ、私は勲章やらには興味がない。ないならないで構いませんよ」

「すまないね」

 

申し訳なさそうな国王に対して、マルティンは何とも思っていない様子であった。

 

「皆、すまない。話が長くなってしまったな。ここからは、各々自由に過ごしてくれ。食事も用意してあるから、好きなだけ食べてくれたまえ」

 

蚊帳の外になりかけていた騎士団メンバーに、国王はそう笑いかけ、部下らに、立食の準備をさせるのだった。

 

立食の席で、レオは思いきってマルティンに尋ねてみることにした。

 

「ん?ああ。さっきの話か」

 

聞かれたマルティンは、嫌な顔をするでもなく、話始める。

 

「アルバーニはな、ヴォルトバルって貴族の所領なんだよ。で、ヴォルトバルも騎士団を運営している一家なわけだが、それ故に、本来俺達の管轄の区域内に、ヴォルトバルの騎士団が管轄する土地がある。それがあの一帯だったんだ。だから本来、あそこはヴォルトバルのとこが奪還を担当するべきだったんだが、そう重視していない街だったのかなんなのか、一向に奪還する気配もなかったんだよ。

だから、俺達で奪還しよう、ってなったわけ」

 

そこまで言われ、レオは一つの点が繋がった。

マルクの説明を聞いても、一週間近く放置されていたのに今更偵察を、という疑問は残り続けていたが、今、それが解消されたのだ。

 

「だから俺達に偵察を?」

「そういうこと。あの時になってようやくヴォルトバルからの許可が取れたんだ」

「自分達は放置しているのに、許可は取らなきゃ行けなかったんですか?」

「馬鹿馬鹿しいことにな。んで、漸く根回しが出来たからあの作戦を実行したわけ。だからクレームを入れられるべきは本来ヴォルトバルなんだけどな」

 

面倒くさい連中だよ。とマルティンは最後に皮肉っぽく言った。

 

レオには、意味が分からなかった。

マルティンにクレームを入れた貴族もだが、ヴォルトバル家のことが、理解出来なかったのだ。

 

「ヴォルトバル家は、何でアルバーニを放置したんですか..?」

「さっきも言ったが、分からんよ。奴らにとってはそんな重要じゃない街だったんだろう」

「そうじゃありません!だって、あの街には、人が、多くの人が住んでいたんですよ..?」

 

自身の村での記憶がレオに去来していた。

あんな悲劇が起こると分かっていながら、放置していた。

2ヶ月も放置していなければ、住民の多くは救えたかもしれないのに。

 

「あの地区の領主が、ヴォルトバル内の政争に負けて、一族内で村八分のようにされていたのさ」

 

いつの間にか、二人の側に国王が来ていた。

 

「...!」

 

驚き、レオは跪こうとする。

 

「あー、楽にしてくれ」

 

直前で、国王はそう言って手を振った。

 

「...その、政争に負けたから、放置されたというのは?..」

 

楽にしてくれとは言われたものの、どうして良いか分からず気をつけの姿勢となりながら、レオはおずおずと尋ねた。

 

「そのままの意味だよ。一族内での権威を完全に喪失した彼をヴォルトバル家が助けにいかなかった。それだけだ」

「でも、住民が..」

「そうだな。奴等にとってはどうでもよいことなのさ」

「騎士団は、国を、国民を守るためにあるんじゃないんですか?!」

 

レオは思わず、声を荒げてしまっていた。

 

「"国民"を守ろうとしている騎士団はマルティンとプロビデンスの騎士団くらいのものなんだ」

「その、国民を守ろうとしている、というのは..」

 

「これもそのままの意味さ。他の騎士団は、自分達の家の所領、権益を守ることを重視している。それで、その為には王国があってもらわなくちゃならない。だから、国のためにはある程度戦う。そんな程度でしかない」

「仮にそうでも、住民を見捨てる意味は..」

 

レオは初めて触れる、いや、実感した、人間の醜悪さに困惑していた。

 

「大抵の貴族にとっては平民なんて、幾らでもいる駒の一つに過ぎないんだ。恐らくヴォルトバル家も、もう少ししたらアルバーニに新しく住民を住まわせ始めるんじゃないかな」

「で、俺は平民だからこうして貴族から雑に扱われるわけよ」

 

マルティンがそう割ってはいる。

 

「そうだな。貴族連中にとっては平民が騎士団長に命令されたのも気に食わんのだろう」

 

と、国王も頷く。

 

「そんな..でも、陛下は..」

 

先程までの対応や、言葉には、平民である自分達を見下しているような感覚などなかった。

それどころか、マルクのことまで把握し、その労を労うほどに、国民を見ているように思えた。

 

「この人は王侯貴族の中では変わり者だからなあ」

 

マルティンがそう笑う。

 

「褒め言葉として受けっておこう」

 

マルティンへ笑い返した後、国王はレオに目を向ける。

 

「私は今の状況を変えたいと思っているんだ。下らない身分差での差別。

それどころか、自分達の家の利益しか考えない貴族。そんな下らない現状をね。

だが、今のままでは金も足りん。

貴族達は、軍や騎士団に金を出すのも渋る。

だから、マルティンには助けられてるよ。彼と忠誠心厚いプロビデンスがいてくれなければ、私には権力基盤がなくなってしまうから」

 

そう自嘲気味に言い、国王はレオと目線を合わせるために少し屈み、少し頭を傾かせた。

 

「レオくん。すまないね。君の出自は聞いている。私の力が及ばぬばかりに、君に背負わせてしまうことになった」

「....」

「それから、本当にありがとう。君のおかげで、今回の被害が抑えられた」

 

裏表の感じられないその言葉に、レオは、驚きと、不思議な感覚に襲われていた。

 

「いえ...」

 

そう小さく答えることしか出来なかった。

 

「君の村には昔、国王になる前に、行ったことがあってね。本当に良い所だった。あそこの小麦で作られたパンは美味かったよ。本当に..」

 

その国王の言葉を聞き、レオはならば何故、村に騎士を常駐させてくれなかったのか、と僅かに思ったが、直ぐに思い直した。

 

そうか。貴族が。

 

先程までの言からして、国王が可能であるのに騎士や軍を駐屯させなかったとは考えにくい。

であるならば、考え得るのは、貴族が難色をしめしたか。

国王は、それ以上何も語らなかった。

 

言い訳はしない。

レオには彼の目が、そう言っているように見えた。

 

レオは、マルクの慟哭を、想起していた。

人間の醜さ。

その言葉が、彼の脳にこびりついて、離れなくなっていた。

 

 

 

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