「前線に近い村に、魔族が大量に侵入してきた!」
本部へと戻った二人を待ち受けていたのは、騒然とする本部と、緊急出動命令であった。
「直ぐに準備する」
ルシアとレオは、それぞれ自室へと駆け戻り、数分と経たぬ内に準備を整え、ローブを羽織り、広間で他のメンバーと共に整列していた。
「緊急出動です!最悪なことに、ヴーゴの魔法で転移しても、距離があります。各々、最高速度で国境部へ迎うように!」
「「はっ!!」」
マルティンは王都より更に北方の都市に呼び出されていたため、副団長のイグナシオが音頭を取り、団員達が敬礼をした。
「急ぎますよ!」
等級の高い魔導士から順に空間魔法の穴を潜っていき、他任務で留守にしているメンバー等もいる関係上、レオも三級ながら第一陣としてイグナシオと共にワープした。
飛行魔法。
魔導士の殆どが使用できる魔法。
空を飛ぶことが出来る。
これに、自身の術式を絡めることは高等技術であるが、イグナシオ等は当然の如くやってのける。
レオも、まだ慣れないが、炎の噴出を組み合わせ、通常の飛行魔法よりも高速で飛び出すのだった。
「国境近くのエリーア村が襲われているそうです。....くそっ。最近静かだと思っていたら、まさか団長もいない上、一級や二級の多くが攻略任務に出てるタイミングでこんなことが起きるとは..」
イグナシオは無念そうに拳を握り締めるのだった。
エスパニア王国-エリーア村-
住民達は、現実という名の悪夢を見せられていた。
皆が寝静まった頃、唐突に200はくだらない数の魔族が、十数体の魔獣を引き連れ、村を襲撃してきたのだ。
しかも、居合わせた二名の騎士団員が、住民達の目前で、なすすべなく惨殺された。
最早、村は滅亡するだろうと、村民の誰もが、思っていた。
今、正に、頭部がドラゴンのようであり、体表に鱗のある、竜族に殺されんとしている少年も同様であった。
燃え盛る家を背に、弟を抱き締め、どうにか盾になろうとしていたが、自分の命はもう、諦めていた。
「....嫌だ..」
それでも、死を、すんなりと、受け入れられる筈もない、彼がそう溢したとき、既に竜族の振り上げた剣が、頭へと迫っていた。
「ボルケニックロック!!」
剣の代わりに、少年を襲ったのは、熱波であった。
一瞬にして彼の体温を上昇させる程の熱。
されど、炎が彼に届くことはなかった。
少年が恐る恐る目を開けると、火山岩の如く現れた騎士団によって、竜族の男は討ち取られていたのだった。
「レオさんはそのまま戦闘を!そして行きますよ皆さん!生存者の救出を最優先に!」
「はい!」
団員が村の各所へと散っていく。
「雷魔法:ボルトライク」
イグナシオは全員の散るのを見届けた後、家を踏み潰さんとしている魔獣の一匹へと突撃をかけた。
「グオオオオ」
うめき声を上げ、体勢を崩した魔獣に、止めの一撃を、喰らわせる。
「ライトニング・ランス!」
雷撃の槍は魔獣を貫き、その巨体を沈黙させるのだった。
「フリント..ロック!」
レオは、魔方陣を大量に展開させ、炎の弾を一斉掃射し、対峙した魔族に浴びせていく。
『防御魔法』
その魔族は防御魔術が組み込まれた魔符を使い、強固な魔力防壁を出現させてレオの攻撃を凌ぎきると同時に、攻撃を繰り出した。
『硬化魔法:
握り締めた土を硬めて投擲するだけの単純な魔法。
しかし、躱したレオの背後にあった壁は、その土塊によって、大穴が空く。
「...強い..炎魔法:紅蓮・ジャベリン!」
炎で形成された槍の投擲、それと同時に地面を蹴り上げ、魔族と一気に距離を詰める。
「クリムゾン・クレッセント」
紅蓮・ジャベリンの対処に気を取られている隙を付き、魔族の首目掛け鋭く剣を振り抜いた。
『くっ...』
だが、すんでのところで避けられてしまう。
とはいっても、首の代わりに、魔族は腕を吹き飛ばされていた。
『硬化!』
大量に流れ落ちる血を術式で硬め、魔族はカウンター的にレオへと斬りかかる。
「...っ!」
今度はレオがすんでのところで躱すが、頬を掠めることとなる。
「炎魔法:
拳に炎を纏わせ、振り抜くが、空振り地面に衝突した。
それと同時に、火花のように炎が拡散。
魔族は予想外の魔術によって幾つか火の粉を被ってしまう。
『くっそ..』
間髪いれず、レオは手持ちの剣を、全力で投擲した。
「はあああ!」
身体に引火した火を叩き消しながらも、魔族は身を捩ったおかげで、硬めた血液と剣の衝突で済んだが、レオの剣によって、
再び、血液が大量に流出し始めたので、彼は慌てて魔術によって硬め治した。
だが、これは致命的な隙となる。
『消え━━』
彼の視界から、レオの姿が消えていた。
『!』
気配を察知し、上を向いたが、もう遅い。
「やああああ!」
レオは炎を纏わせた足で落下速度を加算した踵落としを魔族の脳天へ直撃させた。
『かっ...』
魔族はドサリと倒れ込むと、ぐったりと力無く地面に横たわり、動くことは無くなった。
「思ってたよりも苦戦した..三級、いや二級か?これが100以上はいるとしたら..」
不味い。と辺りを見渡すと、レオの嫌な予感は的中していた。
現状、四級か三級、良くて二級が主体となって迎撃していることと、急行したため、飛行魔法を高速化出来ない者達が遅れていることで到着にバラつきがあることが要因となって、黒龍団は苦戦していた。
三級とはいっても、レオ含む殆ど二級魔導士と遜色のない者やベテランのルシアはどうにか凌いでいたが、他の者達は、既に三割近くが殺されているか、多くが負傷してしまっていたのだ。
「くっそ!」
レオは悔し紛れに悪態を付き、新たな敵に向かって、飛びかかるのだった。
「...何?」
北方都市、ノア・エステルで、
「国境部に魔族が現れ、エリーアという村を襲撃しているとのことです」
「...今、等級の高い奴らは南西部国境攻略任務に参加している....不味いな」
「早く行ってやれ。マルティン」
眉間に皺を寄せるマルティンに、プロビデンスはそう促した。
「悪いね。此方も急ぎたい用ではあるが」
「国民の命には変えられんよ」
「そうだな。ありがとう」
「ああ。気を付けて」
そうして、マルティンは会談場所となっていたプロビデンス家の邸宅を飛び出し、王都へと向かうのだった。
「大丈夫ですか!?」
レオは、ギリギリのところで、魔族にやられかけていた団員を助けだしていた。
しかし、三人の魔族、それぞれ、エルフ、オーク、ドワーフ、に囲まれてしまっている上、助け出した団員は負傷し、戦力としては期待出来そうになかった。
「っそ...」
実質的に三対一、絶望的な状況。
レオは、ゆっくりと息を吐き、相対する魔族を見据える。
「炎魔法:ブレイジング・コラム!」
複数の炎柱を吹き上がらせ、牽制。
そして、二人を囲む魔族の一人、ドワーフに襲い掛かった。
「
弧を描くようにして炎を纏わせた脚を回転させる。
上手く隙を付けたようで、ドワーフは諸に直撃を受け、怯む。
だが、他二人が既にレオへと向かってきていた。
「炎魔法:ブレイジング・ブレイド」
剣を振るったが、エルフが剣で受け返し、更にレオは、その手から剣を弾かれてしまう。
「なっ...」
ニヤリと笑い、エルフは余裕綽々に剣を振りかぶった。
『はっ!!』
「!!」
レオの鼻先で、剣はギチギチと音を立て、動きを止めている。
そして、エルフの剣には、蔦が、幾重にも綿って、巻き付いていた。
「植物魔法:
『ぬっ..?!』
妨害を受けたことに気が付いた瞬間に、エルフは魔力を一挙に放出し、ブチブチと絡み付いた蔦を打ち消していく。
だが。
「炎魔法:
その一瞬は、レオが立て直すには、充分過ぎた。
彼は、エルフと同時にレオを狙って、背後に迫ってきていたオークとドワーフをも巻き込むために、自爆のような形で、強力な炎魔法を放った。
ボン!と炎が爆発のごとき勢いで爆ぜ、周囲へ炎を拡散させる。
『ぐあっ!』
オークとドワーフは爆発に巻き込まれ、後退さった。
そこに、オークに狙いを定めて、ルシアが距離を詰める。
「植物魔法:シードレット」
種の弾丸が、オークの眉間を撃ち抜いた。
ドワーフが反撃しようと、腕を構えたが、そこには炎が襲いくる。
『なに..!』
「炎魔法:フリントロック」
至近距離で濃い魔力による強力な炎を浴びせられ、防御魔法も反応が間に合わなかったエルフは、プスプスと煙を上げ、真っ暗になっていた。
だが、その真ん前、同じく至近距離で自らの炎を浴びたレオは、幾らか身を焦がしながらも、指をドワーフへと向け、不敵な笑みを、浮かべていた。
「ルシアさん!」
「ああ!植物魔法:ルーツ・ニードル」
地面に手を付き、ドワーフの足下から、大木の根を、高速度で突き出させる。
反応しきれず、足を傷付けながらも、致命は避けたドワーフだったが、空に飛び退いたことで、退路が絶たれてしまう。
「炎魔法:紅蓮・ジャベリン!」
燃え盛る槍がドワーフの身体を貫き、ゴトリと地面へ落ちるであった。
「大丈夫かい?レオ」
「ありがとうございます。ルシアさん」
「礼は良いよ。それより、火傷は?」
「ああ。大丈夫です。まだまだ動けますよ」
レオはすっくりと立ち上がり、そう微笑する。
自身の魔力に対する耐性は、他者からのそれよりも圧倒的に強い。
故に、普通なら丸焦げになる威力であっても、発動と同時に身体を魔力で包み、簡単な防護を施すだけで、充分耐えられるのだ。
「なら、行こうか。まだまだ奴等は残っ...?!レオ!」
叫ぶルシアの視線の先、そこには十数メートルはあろうかという大きさ、といってもこの種の中では平均値だが、のドラゴンが迫ってきていた。
「?..!炎魔法:ボルケー..」
「雷魔法:サンダーランス」
レオがとっさに大技で対処しようとした瞬間、イグナシオが駆け付け、ドラゴンの首に雷の槍を貫かせた。
「魔獣は私達に任せろ!君たちは魔族に集中するんだ!」
叫び、イグナシオは他の魔獣に向かって突撃していく。
魔獣は、ドラゴンのような魔族側の領域でも珍しい種類のモノは、一級魔導士並みの強さを誇る場合が往々にしてある。
そのため、現状、この戦場では、イグナシオや、数は少ないが予備として待機していたおかげで今、参加することが出来ている一級魔導士や、魔術の関係で第二陣で到着した二級魔導士が相手をしていた。
「助かった..」
「イグナシオさんらがいなきゃ、とっくに崩壊してたねこりゃ」
レオとルシアはイグナシオを見送り、再び戦闘へと戻っていく。
「ぐうっ...」
視界の中で、また何人かの仲間が倒されてしまう。
「っ..」
「もうそろそろ出動した全員が到着する頃合いだが...」
ルシアの感覚は当たっており、丁度、村の北方の空に数十人の影が闇に紛れ飛んでいた。
「かなり苦戦してるみたいだな」
「ああ。かなり強い魔族が来ているのだろう」
村まであと少しというところで、飛行していた騎士達は、直ぐに戦えるよう戦闘体勢に入っていた。
「ん?...魔族!」
だが、騎士達の魔力を察知してか、彼らの進路に、魔族が一人、先回りしていた。
「布魔法:ローブロープ!」
先頭を飛んでいた騎士が先手をしかける。
その攻撃を目前にしても、何ら動きを見せることなく、その魔族はニンマリと笑うだけだった。
術式で顕現した布が魔族を拘束する。
「今だ!皆、かかれ!」
魔力の大きさから多対一でかかるべきと瞬時に判断した彼は、そう周囲に呼び掛けた。
そうして周りの者達が、攻撃体勢に入った瞬間。
魔族の身体が、突如として、夜空の一角を照らす程に光輝いた。
『爆裂魔法』
瞬時に空が真っ赤な光に包まれ、轟音、そして、爆風が戦場を襲う。
「なっ...!」
「まさか!?」
レオとルシアは爆風を身体に受けながら、爆炎の広がる空を、呆然と見つめることしか出来なかった。
自爆。
騎士らの前に現れた魔族は自らの身体を爆ぜさせることで、自身の全魔力ごと爆発させ、村に援軍の形で到着するはずだった騎士達全てを葬ったのだ。
風が、端の燃える黒焦げになった騎士団のローブを、レオ達の下へ、運んできた。
「っ....」
ルシアはそれをキャッチし、悔しそうに見つめる。
「ダニエル...皆...」
だが、感傷は許されない。
まだ、戦いは終わっていないからだ。
既に、二人には新手が襲いかかってきていた。
次回更新は未定です。来月中に出来るよう目指します。
残酷な描写タグは必要?
-
必要
-
必要でない
-
どっちでも良い