エリニュス-慈しみの神達へ-   作:ライト鯖

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一説には、全く違う生物。一説には同じ種類の生物。誰も知らない互いの正体。 



一章
同僚、あるいは友人


 

黒龍騎士団の真っ黒なローブが宙を舞う。

 

レオ・アルバートは、中空で身を翻し、自身の背後を狙う、ヒトと殆ど変わらぬ姿、耳だけが、尖り、違う魔族、エルフに向けて魔力を込めた掌を向けた。

 

「炎魔法:フリント」

 

詠唱と共に、彼の腹の前に、魔方陣が三つ浮かび上がる。

 

「ロック」

 

狙いを定めるようにピンと立てた人差し指をエルフへと向け、呟く。

声に合わせ、魔方陣から鋭く尖った銃弾状に形成された炎が射出され、エルフに直撃、そのまま彼の身体を、糸も簡単に貫いた。

 

『があっ!』

 

そのレオと同い年位の青年風に見えるエルフは、レオの攻撃によって受けた衝撃で、意識を失い、そのまま地面に叩き付けられる。

 

レオが、騎士団に入ってから五年の月日が経って、彼は16歳となり、去年、正式に入団していた。

 

その間、レオは多くの事を学んだ。

魔法の詳細、戦い方、自身の魔術について。

そして、魔族のことを。

魔族には、レオの村を襲ったオークを始め、今戦っていたエルフや、魚人、吸血鬼、ドワーフ等様々な形態が存在することや、それぞれの特徴等を。

 

『魔導不全種め!よくもライツリを!』

 

先程のエルフと同じような年頃のエルフが、レオに怒りの表情を浮かべながら、急襲してくる。

 

「はんっ」

 

エルフの怒りを鼻で笑い、レオはまた、詠唱する。

 

「炎魔法:紅蓮・ジャベリン」

 

レオの握りしめられた掌中から炎が吹き出し、巨大な槍かの如き形に形成されて行く。レオは、その槍を、魔力で強化した腕力で投擲した。紅蓮の槍は、凄まじい速度でエルフへと向かっていく。

 

『岩魔法:グラ━━』

 

エルフは、攻撃を行う為に構えていた魔法を急遽防御魔法へと切り替えようとしたようだったが間に合わず、ジャベリンが腹を貫く、というよりも、引き裂いた。

殆ど半身が泣き別れとなったエルフは、彼の"ライツリ"なる同胞の元へと、虚しく落下していくのだった。

 

レオは、魔族の言語も学んでいた。

理由は簡単。

彼の家族が殺された時、レオは彼らの言葉が分からなかった。しかし、嘲笑われていたことだけはよくわかっていた。

その時の記憶が、染み付いて離れず、何を言われたかも分からないのに、忘れることの出来ない、最悪の情景として、脳にこびりついている。

ならば、同じ言語で嘲笑ってやれば、もっと、大きな、大きな絶望を与えることが出来るのではないか?

彼は、そう考えたのだ。

そして、ついでに捕虜でも捉えれば"尋問"に参加出来る。

だから、彼は、魔族の言語を学んだのだ。

簡単なことではなかったが、マルティンに頼み込み、書籍の入手や、僅かな魔族言語研究者などに講義を依頼したりといった形で、習得したのだった。

 

『魔導不全種が!魔法を使ってんじゃねえよ!気持ち悪い!』

 

 レオにとっては、最悪に耳障りな声。

 

『鉄魔法:アイアン・メイデン』

 

視界が暗く覆われる直前、オークの汚ならしい緑の肌を、レオは目撃していた。

 

『はーはっは!ざまあねえな!!』

 

楽しげに嗤う声。

 

『...緑の蛮族め。そんなに魔法を使えたのが嬉しいか?』

 

レオは、嘲笑で返した。

 

『ああ!?てめえ。気味が悪いな。魔導不全種の癖に、俺らの言葉までしゃべんのかよ』

 

嫌悪感を感じる声色で、オークが言う。

 

『まあいい。死ね!』

「炎魔法:ファーネス」

 

レオは、全身を防御魔法で覆うと同時に、両掌から一気に魔力を、魔力で創った炎を放出し、監獄の内部に充満させた。

炎。夜。ソフィア。記憶。吐き気が襲ってくるが、レオはお構い無しに続け、温度を上げていく。

そして、アイアン・メイデンは、内側からその処女性を破られ、溶け落ちて行くのだった。

 

『なっ...!?』

 

驚愕を隠せないオークをレオは冷ややかに見下し、今度は一つだけ、魔方陣を掌の前に浮かべる。

 

「炎魔法」

 

そこに、割り込む声が響く。

 

「翼魔法:アローヘッド!」

 

快活な声と共に、幾つもの羽が、オークを横から突き刺していった。

 

『がああっ!?』

「.....フリント」

 

羽の飛んできた方を見、小さく溜め息を付きながら、レオは再び詠唱し、火球を放った。

火球は、オークに直撃すると、一挙に燃え広がり、彼の身体を炎に包み込む。

 

『あぐあああ!』

 

そして、レオは、炎に身悶えするオークと距離を縮め、その身体を足蹴にし、地面へと叩き落とすのだった。

 

「マルク...何のつもりだ?」

 

一息付いたレオは、先程魔術を乱入させてきた青年の方に目を向けた。

 

「助けが必要かと思ってな」

 

あっはっはとマルクと呼ばれた青年は笑った。

 

「あれくらい問題ない」

 

ぶっきらぼうにレオは言い、地上へと降りて行く。

 

マルク・ヴィラールは、三年前に入団し、レオと同室になった男だ。

魔導学校に通っていた所をマルティンにスカウトされたらしい。

スカウトされた場合は、卒業を前倒しに出来るようで、そのまま入団、レオと共に訓練に励んできた。

そして、レオと同じく、去年から任務に当たるようになり、同室ということもあって、しょっちゅう任務を共にしていた。

 

地上に降り立ったレオが、ふうっと、深呼吸をしていると、ワッと歓声が上がり、大勢の人々が、付近の家々から飛び出し、駆けてきた。

レオ達は、魔族の襲撃を受けた村の救援に駆け付けていたのだ。

レオが周囲に目を向けると、他の魔導士達も村人達に囲まれていた。

 

「ありがとう!!」

「村の恩人じゃ!」

「ありがとう!助かった!」

「ありがとうございます!」

「さすがは騎士様だ!」

 

村人達は、口々に喜びを露にし、レオ達に礼を言う。それは子供でも同じなようで、小さな男の子が、レオの足下から声を挙げた。

 

「あの!お兄ちゃん、ありがとう!」

 

そして、男の子は少しもじもじとしたが、やがて意を決したように、口を開いた。

 

「僕も、お兄ちゃんみたいになれますか?」

 

言われて、レオは気が付く。

その男の子からは、そこそこ大きな魔力が感じられた。恐らくもう自覚しているのだろう。自身の力に。

 

「村を、家族を、妹を、守りたいんです」

 

そう言う男の子の頭を、レオは優しく撫でる。

 

「..きっとなれるさ。ただ、君が活躍する機会はないよ」

 

男の子はえっと驚いた顔をレオに向ける。

 

「俺が魔族を全部倒してしまうからね」

 

続いたレオの言葉に、男の子はパッと顔を明るくさせた。

 

「本当!?」

「君が戦場に立つよりも早く、戦争を終わらせて見せるさ」

 

そうだ、戦場に立つのは俺達まででいい。

 

「だから、君は、村..いや、妹を守ってあげるんだよ」

 

レオは、初めの頃、ルシアがレオの入団に難色を示していた理由を最近になって少し理解出来ていた。

そして、エリオスが、戦い以外に力を使ってくれと、言った理由も。

微笑を浮かべながら、小さく頷き、レオは、村人達に向き直る。

 

「それでは、私はこれで失礼します。また何かあれば、通信魔導具でご連絡を」

 

ここ二年で急速に普及した通信魔導具は、魔族による襲撃の被害を劇的に減少させていた。

もう少し早く発明されていれば。レオは何度もそう思ったが、詮のないことであった。自分と同じ目に合う人が減っただけ良かったと、最近はそう割りきれている。

 

そうして飛行魔法で空に浮かんだレオの横に、他の魔導士達と一緒に飛び立ったマルクが再びやって来た。

 

「お前さ、子供には優しいんだな」

「?」

「俺には冷たいのにさー」

 

わざとらしく拗ねたような調子で、マルクが言う。

 

「別に冷たくしてるつもりはないが」

 

レオは、マルクのことは嫌いではなかった。お節介であり、少し鬱陶しく感じる瞬間はあるが。

それでも、そのお節介も彼の人の良さから来るものだと分かっていたので、拒絶をしたことはない。

ただ、端から見れば、無下にしているのだろう。それも自覚はしていたが、治す気はなかった。

誰かと仲良しこよしなど、許されないと、レオは考えているからだ。

友達など、持ってはならない。

一時も、ソフィア達のことを忘れぬように。

第一、自分にそんな資格はない。

そう考えていた。

あの日から、そう、心に決めていたのだ。

 

ー三年前ー

 

レオは、いつもの通り訓練から戻ると、マルティンに呼び出された。

マルティンの執務室へと到着すると、見覚えのない、同じ年頃に思える少年がマルティンの横に立っていた。

 

「紹介するよ、レオ。彼は、マルク・ヴィラール。私が魔導学校の視察でスカウトした子だ。今日から君の同室になる」

 

そう紹介された、マルティンの横に立つ、少年は、ニコリとレオに笑みを向けた。

 

「よろしくな!」

 

突然、純真な笑顔を向けられたレオは、僅かに戸惑いながら、小さく返事をする。

 

「..よろしく」

 

部屋に案内してやってくれ。とマルティンに言われたレオは、マルクを引き連れて、自室へと戻った。

 

「へえ。結構広いじゃん。なあ。俺、ベッドは上がいいんだけどさ。いいか?」

 

暑苦しい、という程ではないが、妙に距離を詰めるのが早い奴だな。

それがレオのマルクに対する第一印象だった。

 

「俺は下で寝てるから好きにしてくれ。というか俺達二人だけだし」

「二人なのか。四人部屋って聞いてたんだが」

 

マルティン団長は、どうも最低限度ギリギリの説明しかしない節があるな。

レオは、内心そう溜め息を付く。

 

「基本四人部屋だけど、今は人数の関係で二人なんだ」

「へえ。じゃあまた仲間が増えるかもな。あ、そうだ。名前聞いてなかったな」

「レオ・アルバート」

「レオか。改めてよろしく!」

 

マルクに屈託のない笑顔で、手を差し出され、レオは、戸惑ってしまった。

握り返す?いや、馴れ合いは..。これは社交辞令なのだろうか。

レオの右手は、少しだけ上げられた状態で、宙に静止してしまっていた。

その手を、マルクは、勝手に引き寄せ、がっしりと握手を交わさせたのだった。

 

それからは、マルクがレオに何かと絡む、というのが日常となっていった。

 

「飯食いに行こうぜ」

 

わざわざ、レオが戻るまで待ってから、食堂に誘う。そんなことは連日のようにあった。

 

「別に待ってなくていいって言っただろ」

「一人で行けってのか!?」

「他にも仲の良い奴くらいいるだろ」

「俺はな」

 

自慢するように、マルクは鼻を鳴らす。

こうした冗談も彼はよく言った。

レオは大概スルーしていたが。

 

「ならいいじゃないか。俺は一人でいいって言ってるだろ」

「冷たいこと言うなよ」

 

そう言って肩を組もうとするマルクをさっとレオは避け、そのまま部屋を出る。

 

「おいおい。避けるなよー」

 

そんな調子で毎日が続いた。

何故か、自分は気に入られたらしいとレオは考えていた。しかし、その理由も分からなかったし、馴れ合うつもりもなかった。

とはいっても、そんなことが毎日続けば、多少は相手をしてしまうものだ。

レオにも良心はある。

理由は分からないが、自分にずっと構い続ける者を、無下にし続けることは出来なかったのだ。

 

「レオー。自主練終わったなら飯行こうぜ」

「...毎日毎日よく飽きないな」

「ははっ。そりゃあ一度も誘いを受けてもらってないからな。隣が埋まってる席にわざと座ったりするんだもん、お前」

「...はあ。分かったよ」

「マジで..!?」

 

また断られると思っていたのだろう。レオの返事に、誘っていながら驚愕の表情をマルクは浮かべた。

 

「誘いに乗れば飽きるんだろ?」

「どうだろうなあ」

 

いつものからかうような笑みを浮かべるマルクだったが、そこには確かに喜びや嬉しさも混ざっていた。

 

「なあ。何でマルクは、俺に構い続けるんだ?」

 

その食事の際に、レオは、ずっと感じていた疑問をマルクにぶつけてみた。

マルクは、その問いに、キョトンとした顔で答えた。

 

「...え?」

 

質問の意味が分かっていないといった様子であった。

 

「だから。何でただの同室になっただけの俺に、そこまで構うんだ?.....ずっと、冷たくもしているのに..」

 

レオは、そうボソリと付け足す。

 

「何でって、友達だから?最初は、仲間なんだし仲良くした方が良いと思ったからだけどさ。レオは、優しいから、いつの間にか友達だと思うようになってたんだ」

 

優しい...?。レオの脳内は困惑していた。

一体いつ優しくしたというのだろう。彼にはずっと冷たくし続けていたはずなのに。

今度はレオが困惑の表情を浮かべることになった。

 

「レオはさ、あれだけ俺の誘いを断るのに、無視は絶対にしなかったじゃん?嫌なら無視でもすればいいのに、そうしなかった。それにさ、訓練で俺が失敗したりしたら、必ず心配してくれるしさ」

「別に優しいからじゃない。訓練の時は、あんなに思い切り顔から転べば、誰だって心配するだろ」

 

誤魔化すような早口で、レオはそう言い訳したが、マルクに瞬時にカウンターをされる。

 

「あははは!そうかな。じゃあ、何で無視しないんだ?」

「...それは..社交辞令というか..」

 

無視など、考えたこともなかった。

 

「それに、本気で拒絶されたことはないし」

「...いや、それは...」

「ごめん。もしかして本当は嫌だったか?」

 

返答に窮したレオは、困った様に眉を下げ、少し悲しげな表情になったマルクにそう謝られる。

 

「いや、そういうわけじゃ..」

 

思わず、そう言ってしまっていた。

実際、本気で嫌なわけではなかった。

ただ、馴れ合うわけにはいかないからと、距離を置いているだけなのだから。

そして、だからこそ、友達と言われても、それをレオは、受け取ることは出来なかったのだ。

しかし、何か、暖かいものを感じていたことも事実だった。 

ただ、それが何かは分からなかった。

そして、その上、それの正体を突き止めることは、彼の"記憶"が赦さなかった。

 

その日、レオは、また悪夢を見た。

家族に、ソフィアに責められる夢を。

 

「お兄ちゃんだけ楽しそうで良いね」

「私を見殺しにしたくせに」

 

そうして、レオはまた、今までと同じように、マルクに接すると決めた。

だが、それでも、レオも意識しない内に、以前よりはよく会話をするようにはなったのだった。

ただ、それ故に、馴れ合いはしないと、心に決めてしまったのだ。

 

-現在-

 

「お前の冷たいの基準どうなってんの?」

 

冷たくはしていないというレオに対するマルクのクレームをレオはスルーしつつ、二人は騎士団本部へと向かう。

 

その道中、再びマルクがレオに話し掛けた。

 

「なあ、さっきの。本気で言ってるのか?」

「さっきの?」

「魔族を全部倒すってやつ」

「もちろんだ。何だ?」

 

当たり前だろう、と考えていたレオは、マルクの質問の意図が全く分からなかった。 

 

「絶滅させるのが、目標なのか?」

「そりゃあそうだろ。あんな奴等、生かしておく意味もない」

 

何の躊躇いもなく、レオはそう言い切った。

 

「良い魔族だっているかもしれないだろ?」

 

マルクの言葉の意味が、レオには分からなかった。だが、その仮定は、レオの神経を殆ど反射レベルで逆撫でするものではあった。

 

「死んだ魔族だけが、良い魔族だ」

 

不機嫌な声色で、レオは吐き捨てるようにそう言った。

 

「そうか...ならいいんだ、すまない。忘れてくれ」

 

それ以上、本部に帰るまで、二人に会話はなかった。

 

本部に戻ったレオ達は、他の任務を共にした魔導士達と共に、マルティンへの報告に向かった。

 

「リスバナ村での魔族撃退任務、完遂致しました」

 

報告を受けたマルティンは、小さく頷き、特に何も言わず、レオ達を下がらせる。

 

そうして、一旦休息となったレオ達の多くは、食堂へと向かった。レオもその一人だ。

別に食事が楽しみというわけではない。

だが、しっかりと食事を取らなければ、まともに戦えない。だから、栄養補給の優先順位は高いのだ。 

ただそれだけ、そうして、いつもの通り、栄養の整った定食を頼み、席についたレオの下に、ルシアが暗い表情で歩いてきた。 

 

「食事中すまない」

 

ルシアはそう言って、レオの隣に座る。

それから彼女は、暫く押し黙っていたが、重い口を彼女はゆっくりと開いた。

 

「エリオスが、死んだ」

 

今にも、泣き出してしまいそうな面持ちで、ルシアは、絞り出すようにしてそう言った。

レオにとっても、ルシアにとっても、仲間の死はそう珍しいものではない。

レオ達の任務では、今日は、誰も死ななかったが、それでも、レオとマルク、そしてあと二人程を除いて、15人近い団員が負傷をしていた。それが死に繋がることなど、日常の一部である。

しかし、ルシアにとっては可愛がっていた後輩であった。そして、レオの記憶が正しければ、今日彼女達は同じ任務に当たっていたはずだった。

衝撃、悲しみ、悔しさ、怒り。それらが一際大きく感じられたことだろう。

それは、レオにとっても同じであった。

何せエリオスは、彼とっては命の恩人であり、ずっと良くしてくれた、兄のような存在だったからだ。

 

この事実は、彼の憎悪の炎に、薪をくべるに充分過ぎる威力だった。

彼は、自分でも気付かぬ内に、ぎゅっと拳を、その手に持つフォークが折れてしまうのではという程に、強く握りしめていた。

 

やはり、奴等は、滅ぼさなければーー。

 

そう、確信を深めるレオを、近くに座っていたマルクは、思うところのありそうな、物憂げな表情で見つめているのだった。

 

 

 

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