エリニュス-慈しみの神達へ-   作:ライト鯖

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友人

 

 

「今回の任務だが、二人で魔族に占拠されたアルバ地区の様子を偵察してきて欲しい」

 

マルティンにそう命じられ、レオとマルクは、準備と情報収集の為に、二人で前線から少し離れた街、"ムラゴシア"に来ていた。

 

「久しぶりに街に来たな」

 

マルクはそう、乗り気でない、というより、あからさまに嫌な顔をしながら言った。

 

「俺は初めてだ」

 

レオはマルクのそんな様子に気が付いていない。彼は、今まで故郷の村と、任務で訪れる前線にかなり近い村、そして騎士団本部しかその人生で人の居住地というものを見たことがなかった。

そして、どれだけ荒んでいようとも、やはり人生で初めて見るモノにはそれなりに好奇心が働いてしまうようで、少しだけ周りの様子を見回していたのだ。

 

「街、来たことなかったのか?」 

 

さすがに、初めてと聞いて、マルクも驚いたようだった。不満そうな表情を引っ込め、レオにそう尋ねる。

 

「ああ。だって特に必要なかったからさ。本は図書室にあったし、休日はそれで困ることはなかったから」

「ルシアさんとかが連れ出しそうなもんだがなあ」

「断ってたんだ」

「ふーん。断ってた割には、好奇心旺盛って感じだな?」

 

レオはマルクの様子に気が付かなかったのとは対照的に、マルクは、レオが少しだけいつもよりも視線をあちこちに動かしていることに気が付き、少しのからかいを含めて指摘する。

 

「...うるさい」

 

ふいっと、視線を逸らし、誤魔化すようにしてレオは歩き出した。

 

「一人で行けるのか?情報収集しなきゃなんだぞ」

 

一人先を行き始めたレオに、マルクは悪戯っぽく笑いかけ、引き留める。

 

「...意地が悪い」

 

顔を少し赤くしたレオは、立ち止まり、マルクを睨んだ。

ニヤリと笑ったマルクは、レオと並び立ち、二人並んで歩を進めるのだった。

 

-ムラゴシア-

 

この街は、最前線に近いこともあり、軍人や、その関係者が多く居住している。

しかし、ここ十数年、この近辺で戦闘が起きていなかったこと、この街は数十年戦場となっていないこと、温和な気候の過ごしやすい街であることが影響し、貴族の避暑地にもなっていた。

軍の拠点にもなっており、街自体は黒龍騎士団の管轄だが、貴族の多さから他騎士団員も特別に駐屯しているため、むしろ他の地区より安全とまで言われている程だ。

 

そんな街の中心地にやってきた二人は、レオは控え目ながらも、キョロキョロと街を眺めながら、マルクは真っ直ぐに、街を進んでいく。

 

「何処に向かっているんだ?」

 

そういえば、とレオがマルクに尋ねた。

 

「軍の駐屯地だよ」

「でも俺達に課されたのが偵察任務ってことは、あまり情報がないんじゃないか?」

 

レオの疑問に、マルクは軽く何を言っているんだと首をかしげ、直ぐに合点がいったと頷いた。

 

「そうか、レオは魔導学校とか通ったことなかったもんな」

 

そう言われ、今度はレオが首をかしげる番になった。

 

「どういう意味だ?」

「学校では最初の方に軽く習うんだよ。こういう時のセオリーを。偵察任務といっても、魔法騎士団が全く何の情報もなく行くことなんて殆どない。

大体王国軍が最初に向かって情報をある程度集めるんだ。

敵の大体の勢力とか、軍だけで対処可能か魔法騎士団による対処が必要かとか。

そうして大まかな情報を集め、次に、騎士団の出動が必要と判断された場合になって初めて俺達騎士団が、詳細な偵察をするんだ」

「なるほど。つまり、魔法を扱えない軍隊じゃ歯が立たないと判断された訳か?」 

「そゆこと」

 

そんな会話をしながら街を歩いていると、レオは、人の色とは思えぬ緑の肌が通り過ぎたことに気が付いた。

 

「魔族!?なぜここに!」

 

レオは、反射的に振り向き、構える。

 

「止めろレオ。そのオークは敵じゃない」

 

マルクがそう嗜めながらレオの戦闘体勢に入っていた腕を掴んだ。 

 

「いや、でもあれ..」

 

良く見ろ、と顎でマルクが指す方向を見たレオは、驚愕の表情を浮かべる。

彼の視界に捉えられたオークのごつい首にはじゃらじゃらと鎖の繋がった鉄の首輪が付けられ、その巨大な両腕は、人の二倍はある大きさのオークの頭上をすっぽり覆う程の大きな荷物を抱えていたのだ。

そして、首輪から延びる鎖は、そのオークの前を堂々と、威張った様子で歩く、宝飾品を身に付け、美しく整った、きらびやかな服を身に纏ったた口ひげの豊かな男に握られている。

 

「奴隷だよ」

 

マルクは、そう眉を潜めながら言う。

 

「奴隷...?」

 

なおも怪訝なレオに、マルクは仕方がないといった調子で説明を始めた。

 

騎士団や、軍によって捕えられた魔族の内、尋問等が終わり用済みとなった魔族が競売に懸けられ、競り落とした者が奴隷として利用することが認められているのだ。

勿論、逆らったり、魔法で逃げ出したりすることを防ぐ為の措置もある。レオが鉄の首輪だと思ったそれは、魔導具であり、魔力コントロールを不可能にするのに加え、暴れた場合には、首輪の内側から刺が飛び出し、魔族の首を突き刺し、無力化することが出来る、という二つの機能を備えた魔族拘束具なのだ。

 

「オークは力が強いから、ああいう荷物持ちとか力仕事の現場で使われてるんだ」

 

マルクの説明を受け、レオは戦闘体勢を解き、オークの奴隷を見送る。

オークは、よく見ると肌に幾つもの傷が付き、足を少し引き摺りながら、歩いていた。

 

「はっはっ。ざまあないな」

 

レオは、楽しげにそう呟く。

隣にいるマルクの様子など、憎い魔族、それも村を焼いたオークが惨めに歩かされている様を見て覚えた爽快感のおかげで、全く気にしていなかったのだ。

 

「...」

 

小さく肩で溜め息をついたマルクは、踵を返し、目的地に向かって再び歩を進め始める。

レオも、それに気が付き、後を追う。

その後も二人は無言で進んでいたが、レオは先程までよりも嬉しそうな様相となっていた。

よくよく通行人を見てみると、獣人等、他の魔族にも首輪を繋ぎ、奴隷として連れている者がちょこちょこいたからだ。

 

彼にとっては、胸の空く思いであった。

あれほどまでに凶悪で、凶暴、人の命など何とも思っていない悪魔のような連中を、ああして鎖に繋ぎ、人間の思い通りにしているのだから。

そんなレオに対して、マルクはますます不機嫌になっていっていた。

 

それから暫くして、二人の目の前に、看板を持ち、軽妙な服装をした少しあやしげな男がやって来た。

 

「お二人さん騎士様かい?良いのが揃ってますよ!よってきませんか?安くしますよ」

 

男は、"エルフの園"と書かれ、ピンクやハートの意匠が施されたいかにもなデザインをした看板を持っていた。

 

「売春は違法ですよ」

 

マルクが面倒臭いというようにそうあしらうと、男は「いやいやいや」と看板をマルクの目前に降ろし、文字を指差した。

 

「うちはエルフを集めた店ですから。売春じゃありませんよ!」

「興味がない。急いでるんだ」

 

マルクはなおも拒絶したが、男は更に引き下がった。

 

「そう言わず!少しだけでも!もしかして魔族の形がお嫌いですかな?ご安心を、奴等の特徴である耳は髪で隠したり、整形したりと様々なパターンを用意してありますから!」

 

マルクは、はあーとわざとらしく息を吐き、男を睨み付ける。

すると男は標的をレオに変えた。

 

「お連れさんはどうです?」

「いや、俺も興味はない。というか魔族に触れたくない」

 

そっけなく答えられ、さすがに諦めたようで、男はそのまま残念そうに去っていった。

 

「...悪趣味だ..」

 

マルクのボヤキに、レオも頷く。

 

「全くだ。魔族と行為などよくそんな真似が出来る」

 

気持ちの悪いものを見た、とレオは言い捨てた。

 

「.....」

 

マルクは、そんなレオを、何とも言い表しようのない顔で見つめる。

 

「なあ、人間が、魔族を奴隷にしていること、本当に何とも思わないのか?」

「急に何だ。何とも思わないわけじゃないさ。だって魔族共が、あんな目に合わされているんだぜ?少しスッキリするな」

「...それじゃあ、俺達は魔族と同じことをしていることにならないか?魔族にも家族はいる。それを...」 

 

マルクは、拳を握り締め、考えながら、ゆっくりとそう言葉を紡いだ。

しかし、それは、マルクが聞いたこともない声量のレオの叫びに掻き消された。

 

「うるさい!あいつらは、悪魔なんだよ!残虐で!凶暴で!凶悪だ!あんな奴ら、死んで当然。奴隷にされたって殺されてないだけありがたく思うべきだ。あいつらは、人間じゃないんだよ」

 

通行人達は、なんだなんだと、二人に好奇の目を向け始める。

 

だが、レオはそれを気にすることなどなかった。 

 

「マルク。お前、もしかしてあんな奴らに同情するのか?」

「....いいや。ただおれは...」

 

マルクは口を開いたが、そこで言葉を途切れさせ、レオの後ろを見つめる。

 

「...?」

 

レオが不審に思い、後ろを振り返った瞬間だった。

荷物を抱えた若い男が、よろめき、着飾り奴隷を引き連れた貴族らしき中年の男に、軽くぶつかってしまっていた。

 

「貴様!!下々の分際で何をするか!」

「も、申し訳ございません!」

 

新たな騒ぎ。

人々の視線も、自然そちらへと移る。

 

「まことに申し訳ありません!!よろめいてしまって..」

「服が汚れてしまったではないか!」

「申し訳ありません..」

「下々が無礼であるぞ!」

 

中年の男は、奴隷を叩くためにでも用意していたのか、近くの従者が持っていた鞭をその手に取り、男に振りかざした。

 

「失礼」

 

バシン!と鞭が道路を叩く音。

マルクが若い男を抱え、鞭を避けたのだ。

レオも、中年の腕を持ち、鞭を動かせないようにしていた。

 

「な、何をするか貴様ら!無礼であるぞ!私が貴族と知ってのことか!」

「騎士団の者です」

 

喚く貴族に、マルクがそう名乗ると、貴族はピタリと動きを止めた。

 

「そうか。騎士団か。ならば丁度良い。その手のことは見逃してやる。その無礼者を引っ捕らえよ」

「お言葉ですが、閣下。彼はわざとぶつかったようには見えませんでしたよ」

「貴族である私に!ぶつかり!服を汚した!これ以上ない無礼であろう!」

「高貴な方々は下の者の僅かな過ちを寛大な心で赦すものではありませんか?」

 

マルクが皮肉を語気に込めながら言うと、貴族は顔を赤くさせた。

 

「貴様、何処の団だ」

「黒龍団ですよ」

「...チッ」

 

"下品"な舌打ちをして、貴族は鞭を従者に放り投げた。

 

「面倒だ。行くぞ」

 

不満たっぷりといった様子ながら貴族はそのまま奴隷や従者を引き連れ、去っていくのだった。

 

「大丈夫ですか?」

「あ、ありがとうございました!!」

 

若い男は、恐縮しきりといった様子で何度も頭を下げるのだった。

 

「....なあ、奴隷って高いのか?」

 

騒ぎも収まり、野次馬も通行人へと戻った頃に、レオは、そうポツリと尋ねた。

 

「ああ。結構な値が張るよ」

「...なのに、服が少し汚れた位で、あいつは怒鳴っていたのか」

「貴族様は殆どがそんなもんさ」

「...マルク、考えが変わったよ。奴隷制はダメだな。あんな奴等の享楽にしかならんのなら、唾棄すべきだ」

 

レオの言葉に、マルクは肩をすくめる。

 

「まあ、とりあえずそういうことで良いか」

 

そうして再び歩きだした二人は、街中にある少し大きめの屋敷を改装し、詰所のようになっている軍の駐屯地へと到着。

魔族が占領している地帯の地図や地形の情報、大体の魔族の規模感など軍の偵察で掴んだ情報を共有してもらった。

 

それが終わると、二人は、夜に偵察に行くため、それまで時間を潰すことになったのだが、休息を取るために宿屋を探すのだった。

 

偵察といっても、警戒の厳しい日に無理矢理強行しても失敗可能性が高いので、最低でも数日は滞在する必要があるのだ。

だから、宿を取っておく必要がある。

予算の都合上、二人は同じ部屋に泊まることとなり、荷物を置いて、それぞれに宿のベッドへ腰掛けて、夜まで時間を潰すことになるのだった。

 

夜になり、二人は偵察へと出向いたが、結局、初日は本格的な偵察を行うことは出来なかった。軍から共有された情報よりも、警戒が厳重になっていたのだ。

故に、僅かに侵入することには成功したが、中途で引き返してきたのだ。

 

そうして翌朝。 

また、やることのない二人は自然、街へと足が出向いていた。

とはいっても、昨日の口論はなあなあの形で終わったが、蟠りは僅かに残ってしまっていたことがあり、二人の口数は余り多くはなかった。

それでも、初めて街に出たと言うレオにマルクは様々な場所、彼のよく読む本が本部よりも更に多くある図書館、レストランや賑わいを見せる通り等、を案内し、共に散策をしていた。

 

「...美味い」

「だろう?冷たいお菓子なんて、魔法がなけりゃ食べれんからな」

 

通りにあった店で、エラード(ジェラート)を買い、口にしたレオは、初めて食べる感触に驚きつつ、素直な感想を漏らした。

 

「腹立たしくもあるが貴族様が多い恩恵だな。魔法を使える商人もここにはいるから、珍しいモノが多いんだ」

「それで行商も多いのか」 

「そういうこと」

 

そんな風にして街を歩いていた二人だが、昼前になると、宿屋へと戻ってきていた。

夜に向けて、休息を取るためだ。

睡眠を取っておかねばならない。

 

レオはベッドに寝転ぶと、直ぐに寝息をたて始める。

初めての見るものや経験するものが多く、疲れがたまっていたのだろう。

そして、マルクも、眠りへと誘われるのであった。

 

 

 

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