エリニュス-慈しみの神達へ-   作:ライト鯖

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幻影、だとしても

 

ガバッと勢い良く飛び起きたレオは、周囲をキョロキョロと見回した。

「.........」

 

まるで、本当に皆が近くにいたような、そんな錯覚を覚えていた。

あり得ないことだと分かっているのに、確かめずにはいられなかったのだ。

そんな忙しなく動くレオの視線は、横に寝転ぶ影に気付いた。

 

「マルク...」

 

隣に、マルクが寝かされていた。

 

「...っ」

 

不安を感じながらも、レオはゆっくりとマルクの身体に、顔を近付けていく。

スゥスゥと、確かな呼吸音をレオの耳は捉えた。

 

「..生きてる..」

「良かった...」

 

心の底からの、安堵だった。

ポトリ。

レオは、頬を伝った滴に気が付くことはなかった。

 

翌日。

レオが意識を取り戻したと報告を受けたマルティンは、早速彼の元へ駆け付けてきていた。

 

「色々と大変なところすまないが、報告をしてくれ」

「...はい」

 

レオは、二人で見てきたことを、余さず、報告する。

司令部らしき建造物がカモフラージュで隠蔽されていたこと。警戒が強まっていたこと。そして、ベルアスナのことを。

 

「ふむ...ありがとう。よくやってくれた」

 

報告を聞き終えたマルティンは、しばし考え込む様子を見せた。

 

「ベルアスナというエルフについて、他に気付いたこととかあるか?」

 

レオは、そう尋ねられたが、既に気付いたことや、分かったことは全て話していた。

 

「ありません..すみません」

「いや、ならいいんだ。すまないね。後はゆっくり休んでくれ」

 

マルティンはそう言った後、チラリと未だに目を覚まさないマルクを見た。

 

「二人とも、生きていてくれて良かったよ」

 

一瞬、柔らかな表情を溢し、マルティンは病室を去るのだった。 

 

「まさか偵察に三級魔導士二人を向かわせても足りない程だったとはな...少し過小評価していたみたいだ..」

 

マルティンは病室の前で待っていたヴーゴに、そう後悔を漏らした。

 

「私も驚きましたよ。まさか期待の新人二人がああもやられるとは」

 

ヴーゴは、その魔術が空間魔法という利便性の高いものであることから、マルティンの付き人の様な立ち位置である。

その為、騎士団内でマルティンが本音を溢す数少ない団員の一人なのだ。

 

「レオの報告ではベルアスナという魔導士は一級という見立てだった。三級魔導士二人を圧倒していることから考えてもそれは間違いない。そして、魔族達から盗み聞きした会話、レオ達の侵入に対する奴らの対応。この辺りを勘案すると、ベルアスナというエルフが、現状アルバ地区を占領している魔族の最高戦力だろう」

 

ヴーゴが頷き、同意する。

 

「そうですね。他にいても一人か二人、というところでしょうか」

「だろうな。種々の行動から考えるとベルアスナが最高司令官ではない、と考えられる。そうなると、司令官としてそれなりに強い奴がもう一人はいる可能性が高い。ただ、それ以上はいないだろう」

 

「恐らく、魔族達は攻勢の機会を伺っている。だから、此方は出来る限り素早く態勢を整え、可能ならば奴等の攻勢よりも前に叩く。私と副団長を始めとし、団員の中でも実力者を集めるんだ。私は本部の方で召集をかける」

 

だから、と視線をヴーゴに向けた。

 

「お前は副団長、イグナシオを迎えに行ってくれ。今は王都にいるはずだ」

「了解致しました」

 

ヴーゴは頷き、その場で空間魔法を発動した。

すると何もなかった空気中に、中が霞んでいるようになって見えない穴が出現する。 

 

「直ぐに戻ります」

 

そう言って、彼は王都に繋げた空間を潜り、消えるのだった。

 

等級。

魔導士は、基本的に9つの等級に分類されている。数が少ない程強く、多い程弱い。

 

9級魔導士。

戦闘に魔法を使えるレベルですらなく、日常生活のちょっとした場面で多少扱える程度。

僅かに身体強化も出来るため、鍛えておらずとも、武装していない兵士と同等程度にはなる。

 

8級魔導士。

身体強化や、槍、剣等に魔力を込めて戦うという形で魔力を補助として利用出来る程度である。一般の兵士よりはその分強い。 

 

7級。

魔術を戦闘の補助に扱える程度、魔力が少ないため連発は出来ず、隠し球として使うことが殆ど。魔導士としては最低レベル。

剣や弓で武装した兵士2、3人を一人で相手取れる。

 

6級。

騎士団に入団可能となるのはこの等級から。術式や技量次第ではあるものの、弱い魔族相手に魔法だけで戦える。しかし、殆どの魔族に魔法で勝てる程ではないため、武器に魔力を込める戦闘スタイルを取る。

5級以上の補助が主。

 

5級。

ヒト側の平均値。

この等級に所属する魔導士が最も多い。全体の30%はこの等級である。

魔力のみで戦闘することが可能であり、ヒトが2で魔族が1のツーオンワンならば平均的な魔族にも安定して勝てる。武装したヒトの兵士30人と戦って勝てる場合もある。

魔力で身体を強化していれば銃弾に耐えられるが、何十発と同時に撃たれると防ぎきれない。

 

4級。

平均的な魔族と同等。

ヒトの兵士70人を一度に相手し、倒せる実力が最低限度であり、全体の15%程。4級以上から単独任務を任されることもある。ただ、基本的には二人以上での任務が主。砲撃が直撃すれば戦闘不能になるだろう。

 

3級。

ヒト魔導士の中では上位。全体の15%程。多くの魔族を安定して倒せ、単独任務を任されるようにもなる。

レオとマルクは、現在この等級であり、死んだエリオスもこの等級に上がったばかりであった。

一発程度なら砲撃の直撃にも耐えられる。

 

2級。

全体の10%以下。魔族と比べても上位。武装兵士500人が一斉にかかったとしても勝率は2割に満たない。

 

1級。

全体の5%前後。

魔族でも同等の魔導士は少ない。平均的な魔族や魔導士が相手なら戦闘にもならない。

武装兵士1000人を蹂躙出来、一般の武器は殆ど意味をなさない。大砲を連続して当てることが出来ればある程度のダメージは与えられるだろう。

エスパニア王国の魔法騎士団長や副団長は、この等級の中でも更に上位の数名から任命されている。

 

これら9つの等級は、ヒトの勢力圏である、北方大陸諸国が結成した"大陸同盟"に属する機関の一つ、"魔法協会"が認定している。

魔導学校の卒業や、騎士団に入団したタイミングで等級を計る試験が行われ、決定されるのだ。

最も重視されるのは魔力の量であり、魔力量が基本的に等級に影響する。

 

技量面の評価は魔力量の次であり、一度決定した等級は、技量を上げ、推薦を受けたり、試験に志願し、合格すれば昇級も可能だ。

魔族はこれとは違った基準を用いているが、ヒトの側で把握出来ている魔族個体に関しては、便宜的にこの等級で区分している。

 

ヴーゴを見送ったマルティン自身は、本部へと戻り、3級以上の魔導士と術式が有用と思われる魔導士を召集した。

 

「副団長、イグナシオが戻ってから詳しい話はするが、君達には戦闘準備のために来週一週間、緊急性のある任務以外には出ず、待機しておいてもらいたい。魔力も体力も諸々温存しておくためだ。根回しが済み次第、これより二週間後に、アルバ地区へと攻勢をかける」 

「はっ!!」 

マルティンの宣言に、団員達は肘を直角に曲げ、拳を胸に当てる騎士団式の敬礼で応えるのだった。

 

 

-三日後-

 

尚も目を覚まさないマルクを見つめながら、ベッドの上で、レオは考えていた。

レオにとってのマルクとは何なのかを。

 

結局同じ部屋にいるだけの他人だと思った。思っていたはずだった。

しかし、それは、言い訳だったのだと、彼は気付いていた。 

向き合うことを恐れた。

許されないことだと思ったから。

 

だが、あの時、マルクを抱え、逃げていた時に、感じていた思いは誤魔化せない。

それに、都合の良い幻だったのだとしても、妹に向けられた疑問から、逃げるわけにもいかなかった。

 

「でもやっぱり友達とは名乗れないよ..」

 

ポツリと、独り言ちる。

 

あれだけ無下に扱った。蔑ろにしてきた。酷い言葉を投げ掛けた。

余りに、残酷な言葉を。

 

なのに、友達などと、名乗って良いはずがない。けれど━━。

 

マルクが目を覚ましたら、謝ろう。

赦してくれないかもしれない。

それでも、あんな言葉を投げ掛けて、何もなしでは終われない。

誠心誠意謝罪して、そして、言うんだ。必ず。

 

レオは、一人決意し、ベッドから立ち上がるのだった。

 

-アルバ地区 アルバーニ 魔族連合軍司令部-

 

漸く交代か..。

 

アルバ地区を占領している魔族達を率いる、魔族連合軍大佐、アリオルバナ・バリコルデは、フーッと小さく安堵の息を吐いた。

彼は、前線での勤務を嫌っていた。

出来れば安全な後方にいたいのだ。

しかし、成功可能性が低いと多くが嫌がっていたアルバ地区攻撃の軍司令に任命されてしまい、前線で戦わざるを得なくなったのだ。

 

だが、ベルアスナらの活躍によって、どうにか作戦を成功させ、四年間全く動きの無かった前線を動かし、アルバ地区を占領することが出来た。

占領を維持できれば、充分な功績であり、昇進によって後方に下がれる可能性が高い。

故に、この功績を無駄にしないためにも、彼は、司令官の任が交代になるまで、一切の攻勢を控え続けていたのだった。

 

そして、その司令官の任務は、今日をもって終了する。

新たな司令官が到着し、引き継ぎを終えた彼は正式な辞令を受け取ったのだ。

 

彼は、目の前にいる新任司令官に笑いかけた。

 

「では、後は頼むよ」

「ええ。貴管の活躍を無駄にはしませんよ。この拠点を足掛かりに、更に占領地を拡大してみせます」

 

新任の司令官、緑の肌と大きな体躯が特徴であるオークの、ゲルバラナ・ル・サリスバラ大佐は、アリオルバナとは違い、若く好戦的であり、更に彼よりも強い魔導士である。

 

「期待しているよ」

 

社交辞令としてアリオルバナは笑い、ゲルバラナと握手をするのだった。

 

-翌週-

 

「本当に、もう大丈夫なんだな?」

 

マルティンに念押しされ、レオは頷く。

 

「はい。傷はもう大丈夫です。俺も行かせて下さい」

「......」

 

確かに、彼の出血は酷かったが、それは処置が遅れたせいであり、傷自体は深いものではなかった。

だから、体力さえ問題ないなら、戦うことは出来るだろう。しかしー。

 

マルティンは、考えながら、レオの目を見た。

 

「何故、そうまでして参加したいのかね?マルクの敵討ちのつもりか?」

 

もし、そうなら許可は出来ない。言外にそう言い含める。

 

「マルクはまだ目を覚ましていませんが、生きています。敵討ちではありません。ただ...」

「何か迷っているなら止めておけ。死ぬぞ」

 

言葉を濁すレオに、マルティンは告げる。

 

「逆です」

「逆?」

「はい。このまま待ち続けるだけだと、おかしくなってしまいそうです。だから、任務に行かせて下さい」

 

レオは、迷うことを恐れていた。

マルクに関して決心したことは、自身に課した"使命"を薄れさせるものだと、レオは感じていた。

このまま何もせず、無為に待っているだけでは、決心が揺らぎかねない。

それか、"使命"、復讐心が、鈍りかねない。

レオには、どうすれば良いか分からなかった。

 

だから、迷う時間を作りたくなかったのだ。

任務に出て、戦い、自身に課した"使命"に没頭することで、迷う時間を生み出さないようにしようと、そう考えているのだ。

 

頭を下げるレオに、何か言いたげに口を開きかけたマルティンだったが、迷っているのだろう、髪をくしゃくしゃとさせながら、数秒、うつむいた。

そして、はーっと息を吐きながら、顔を上げる。

 

「任務に集中出来るんだな?」

「はい。約束します」

「..分かった」

「ありがとうございます!」

 

マルティンの首肯を見届けたレオは、再び頭を下げ、礼を言った。

 

分かってるとは思うが、とマルティンはレオに向き直る。

 

「ベルアスナとは戦うな。そいつは俺かイグナシオが相手をする」

「勿論です。悔しいですが、魔術の相性が良くなければ、二人とも死んでいたでしょうから..」

 

レオは、ぎゅっと唇を噛み締めた。

 

「分かっているなら良い。正直、人手は欲しいからな。助かるよ」

 

マルティンはもう一度頷き、レオを退出させるのだった。

 

-三日後-

 

「奴等が動き出しました!」

 

副団長のイグナシオを迎えに行った後、魔族の占領地との境界辺りを見張っていたヴーゴが、空間魔法で戻ってくるなり、そう叫んだ。

 

「ムラゴシア方面に向かって、魔族軍が侵攻中です!」

「まさか一日違いで奴等のが早いとはな..!」

マルティンは立ち上がり、団員達に命じる。

 

「直ちに出動する!指名しておいた連中は直ぐにヴーゴの下へ来い!」

 

「ムラゴシアに通じています!イグナシオ副団長は既に待機中です!」

 

ヴーゴが空間に開けた穴に、マルティンに指名されていた団員達が慌ただしく次々飛び込む。

 

「ヴーゴ、君は着き次第、ムラゴシアの軍司令部に行き避難命令を出させろ」

「はい!」

 

最後に、マルティンと、ヴーゴ本人が飛び込み、穴は閉じ、後にはガランとした広間だけが残るのだった。

 

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