第1話 現実って、思った様に行かないから現実なんだよね
僕は幼い頃から憧れている物があった。
それはヒーローでも、ヴィランでもなく、陰で暗躍し敵か味方かも分からない謎の実力者。陰の実力者に、僕は憧れていた。
理由なんてない。ただただ、そんな存在に憧れた。
憧れだけなら、誰しもが抱く物だろう。
正義の味方に成りたい。
魔法少女に成りたい。
サンタさんに成りたい。
そんな憧れは誰もが一度は描く夢だ。
僕の場合はそれが陰の実力者だった。
けれど、人が成長し、大人になるにつれて、みんな現実的な夢を見る様になって行く。
本気で正義の味方や魔法少女を目指す様な大人は存在しなくなる。
それが普通の事なのだろう。
でも、僕は普通じゃなかった。
陰の実力者を目指す熱が冷める事はなく、周りが大人になればなるほど、僕を突き動かす熱は熱くなった。
日々、陰の実力者を目指し、特訓する毎日を送った。
だが、その努力も虚しく、高校最後の夏。
僕はトラックに跳ねられて短い生涯に幕を下ろした。
……筈だった。
「おぎゃ、おぎゃ、おぎゃ」
僕は転生した。所謂異世界転生ってものだ。
正直、今でも信じられない。
何がどうなって、この様な事態になったのかは分からないが、考えても仕方あるまい。
今は第二の人生を謳歌しよう。
幸いにも、この世界には魔力と言うのか、気とでも言うのか、その力の名前は分からないが、前世には存在しなかった不思議な力が溢れている。
この力の正体、そして使い方が分かれば、僕は成れるかも知れない。
前世では叶えられなかった夢を叶えられるかも知れない。
陰の実力者に。
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転生してから5年程が経過した。
この年頃にもなると、この世界の言葉はある程度覚える事が出来た。
その過程で判明した事だが、不思議な力の名前は魔力と言うのだとか。
この世界では魔力で体で強化して戦うのが主流らしい。魔法の存在は今のところ確認できない。
魔力はあるのに、魔法はないのか?……不思議だ。
僕が生まれ育ったのはカゲノー家。
片田舎の貴族の長男で、カゲノー家は代々魔剣士を輩出する家系だ。
魔剣士ってのは、魔力で体を強化した剣士の事だ。捻りもなにもない、そのままの意味だ。
「良いかシド。魔剣士ってのは全身に魔力を張り巡らせて、戦う者達の事だ」
「うんうん。それで?何かコツとかあるの?」
まあ、そんな家系なだけあって、僕は魔力の使い方に関して英才教育を受けていた。
あ、因みにシドってのは僕の名前だ。
今世の名前はシド・カゲノー。
前世の名前は影野実。
どちらも似たような名前だ。
「勿論だ。魔力を全身に纏わせて、ただ剣を振るう」
「うんうん。それで?」
「それだけだ」
「…………え?」
「魔力を全身に纏わせて剣を振るう。それだけだ」
「…………えぇ」
前言を撤回しよう。
代々魔剣士を輩出している=優秀な家系とは限らないのかも知れない。
「そんなんじゃ分かる筈ないでしょハゲ親父」
「ハゲ!?クレア!パパに向かってハゲとはなんだハゲとは!」
「事実でしょ、シド」
そう言って現れたのは、今世の姉であり、カゲノー家の長女。
クレアー・カゲノーだ。
「シド、見ていなさい。剣ってのはこうしてこうするのよ!」
彼女は剣を取り、大人の丈程あろう大岩に向かって剣を振るう。
大岩は一刀両断された。
「ふふん。分かった?」
自慢げに胸を張る姉さん。
「あ、うん。多分」
僕は何となく分かったふりをした。
親父といい、姉といい、カゲノー家は人に物を教えるのが苦手らしい……。
どうやら、魔力の使い方に関しては独学で学ぶ必要があるな。
まあ、問題はないだろう。僕は転生してからこれまで、有り余る幼少期の時間を魔力操作に充てていた。
5歳になって魔剣士を目指す為の教育が始まり、代々魔剣士を輩出してきたノウハウなどが分かればより効率的な修行が出来ると期待したが、カゲノー家の教えが雑なのか、それとも魔力とは感覚で操作するのか、僕が期待した事は学べなかった。
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それから更に月日が流れ、10歳になった。
僕は昼間は魔剣士として平凡な子供を演じながら、夜は自己研鑽と陰の実力者としての活動資金を稼ぐべく、盗賊狩りに明け暮れていた。
おかけで昼間は寝不足だが、子供ってのは素晴らしい。
好きな時間に起きて、好きな時間に寝れる。
貴族としての勉強?
前世の知識を活用して速攻で終わらせたよ。
シド・カゲノーはそこそこ優秀だけど、怠け者。
それが使用人の間で定着した僕への評価らしい。
大学生活が人生の夏休みなら、子供時代は人生の春休みだ。
実に充実した毎日を謳歌していた。
「こりゃ酷い」
そんなある日、僕は日課の盗賊狩りを終え、戦利品を漁っていると肉塊を見つけた。
辛うじて人型は留めているが、それだけだ。
性別も年齢も種族すらも不明。
「盗賊の娯楽に使われたのかな?」
珍しい事ではない。
捕虜を尋問目的ではなく、娯楽目的で面白おかしく拷問するのは、犯罪組織や戦場では有り触れた光景だ。
目の前の肉塊はその拷問の果てなのだろう。
「どんな拷問を受けたらこうなるのやら……」
「たす、けて……」
驚いた事に、まだ息があった。
肉塊は僅かながら震えていた。
良く見れば体は腐り果てているが、外傷は見受けられない。
「悪魔憑きか?」
聞いた事がある。
ある日、突如として肉体が腐り果て、やがて死に至る病。
教会はそんな病人を悪魔憑きと称して、浄化として処刑している。
教会は民衆に悪魔を浄化したと流布し、何も知らない民衆はそれを信じ込み、教会を称える。
実に恐ろしい。
「出来る限りの処置はやってみるか……」
僕は盗賊を殺しても何も感じない程度に悪人だけど、目の前で苦しんでいる人間を見捨てない程度には善人のつもりだ。
何が出来るかは分からないけど、僕は病人を隠れ家に持ち帰った。
「まあ、全身の肉が腐り果てるなんて病気、なんとかなるとも思えないんだけどね……」
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なんとかなった。
病人を持ち帰って1ヵ月後、悪魔憑きの治療に成功した。
「あの腐り果てた肉塊がこうも回復するとは」
今、僕の目の前に居るのは腐り果てた肉塊。……ではなく、金髪少女のエルフだった。
その体に悪魔憑きであった痕跡は一切見受けられない。
「嘘、あんなに腐っていたのに、貴方が治してくれたのね。ありがとう貴方は命の恩人よ」
「良いよ。僕も得られる物があったし」
悪魔憑きの原因。
それは魔力暴走だった。
何がどうなって、魔力暴走が肉体を腐らせたかまでは分からないけれど、魔力の流れを正常に戻す事で彼女を元の姿に戻す事に成功した。
その過程で僕の魔力操作技量は凄まじく向上した。
魔力操作という単純な基礎に於いて、僕は魔力操作を極めたと言っても良いかも知れない。
今なら細胞の一つ一つ、髪の毛一本に至るまで魔力を通せる気がする。
「さて、君の今後だが、……帰る宛とか、ある?」
「いいえ、貴方に元の姿に戻されたとは言え、私は悪魔憑き。例え故郷に帰ったとしても、私の居場所は……」
まあ、そうだよね。
彼女の現状は、魔女狩り裁判で魔女判定された状況だ。
元の姿に戻ったとしても、故郷の人間は彼女が悪魔憑きと知っている。
人間に擬態した悪魔として殺されるのがオチだろうな。
「私は全てを失った。地位も、名誉も、家族も、何もかも……」
そう呟くと、彼女の目からどんどん光が失われていった。
彼女は生きる意味、目的を失っている。
……しょうがない。一芝居打つか。
「教典にある3人の英雄が魔人ディアボロスを倒した話は知っているだろ?」
僕は懐から教典を取り出した。
「……ええ」
「あれは実話だ。そして魔人ディアボロスは死の間際に3人の英雄に呪いを掛けた。肉体が腐り果て、死に至る呪いだ」
「……!」
彼女は驚きの表情を浮かべた。
良い反応だ。
「呪いは親から子へ、子から孫へ、英雄の血を色濃く受け継いだ子孫に発現した」
「まさか!」
「そう、君達、悪魔憑きの正体は英雄の子孫。肉体が腐り果てるのは魔人ディアボロスの掛けた呪いだ」
「そんな、そんな事が……」
「信じるか、信じないかは君次第だ」
まあ、嘘なんだけど。
今の話は教典にある伝承を基に、適当な物語を作っただけだ。
「なら、悪魔憑きを買い取って処刑する教会は……」
「魔人ディアボロスの配下、又は信者によって設立されたのであろうな。或いは、教会が信仰する女神そのものが魔人ディアボロスであるのかも知れん」
「許せない」
彼女の瞳に復讐の炎が灯る。
うん。さっきの死にそうな目よりかは幾分かマシだ。
けれど、僕は彼女を復讐鬼にする気はない。
「間違っても教会を襲撃しようと思うなよ」
「何故!」
「教会も所詮は、奴らが表舞台で活動する為の隠れ蓑に過ぎないからだ」
「奴ら、奴らっていったい……」
「ディアボロス教団。魔人ディアボロスの復活を目論見、古来より、陰で暗躍する秘密結社だ」
「ディアボロス教団……」
取り敢えず、彼女の憎悪の対象を架空の組織ディアボロス教団に移す。
「奴らは巨大だ。王国宰相、大貴族、剣術指南役、学園上層部、世界有数の科学者や商人。様々な分野で大きな影響力を持つ者達を教団は支配下に置いている。とても一個人が太刀打ち出来る存在ではない」
「そ、そんな……」
「教団の大きさが分かったのであれば、復讐などと言う愚かな考えはしない事だな。死ぬだけではすまんぞ」
「…………」
よし、良い感じに怯んだな。
「教団は捕まえた悪魔憑きを処刑するだけでなく、人体実験にも使っている。俺に拾われ、運良く元の姿に戻れたが、もし教団に捕まれば人間に戻れた稀有な例として実験体にされるのは確実。生きたまま解剖されるか、サンプルを増やす為に女としての尊厳を破壊され、生涯を孕み袋として過ごす地獄が待っているだろう」
悲惨な未来を想像したのか、彼女は口元を抑えて顔色を青くしていた。
「せっかく手にした命だ。どこか辺境の街にでも住んで第二の人生でも送るがいいさ」
決まった!
これこそが、僕が考えた作戦。
悪い事は全部架空の組織ディアボロス教団に投げつけて、生きる活力を与えさせよう作戦だ。
作戦概要は以下の通り。
先ず、悪魔憑きは英雄の子孫であるという設定にして、自分は英雄の子孫だと言う自尊心を付けさせる。
次に、架空の秘密結社を作り上げて、復讐とか考えずに平穏に過ごす事を選択する様に誘導する。
実にシンプルで効果的な作戦だろ。
即興ながら、良く出来たと、我ながら思う。
「……貴方は」
ん?
「貴方は、どうするの……?」
どうする、か……。
僕が目指すのは、前世も今世でも変わらない。
陰の実力者を目指す事だ。
今語ったディアボロス教団は全て嘘っぱちだけど、もし本当にそんな組織が存在したのだとすれば、僕はどうする?
陰の実力者ならどうする?
決まっている。
「俺は戦う。例え独りであろうと、誰に理解されなかろうと、この命尽きるまで、戦い続ける」
うんうん。僕の考える陰の実力者なら、こう言うね。
「なら、私も戦う」
……なんて?
「この命は貴方に助けられた。全てを失い。醜く腐り果てる運命の中で与えられたこの命。貴方の為に捧げるわ」
え、ええ……(困惑)
「今、この時より、私のこの命、体、これから歩む人生、その全てを貴方に捧げるわ」
ええ……、なんでこうなったかな(混乱)
原作シド君との相違点
1.原作シドよりかは多感的。