ここだけシド君に人間性をブレンドした世界線   作:読者その1

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第4話 チョコレートの行方

ここ数日。注目されている。

 

「ほら、あれが」

「嘘だろ、あんな冴えない奴が?」

 

注目される事自体は今更だ。

アレクシアと交際を始めてから今まで、教員生徒問わず、僕は数多くの視線を集めている。

サブキャラとしてあるまじき事態だ。

然し、僕とアレクシアが付き合い始めてもう直ぐ一月が経つ。

交際を始めた当初はどこに行っても視線を集める程の注目だったが、最近では注目される事も減っていた。

それが一昨日ぐらいから、爆発的に増えた。

 

「なんでも、一昨日アレクシア様と路地裏でヤったらしいぜ」

「ええ、嘘!?」

「アレクシア様の弱みを握って無理矢理ヤったらしい。ヒョロとジャガが言ってた」

 

噂の出所はやはり、あの2人か。

 

「そう言えば昨日、お腹を擦るアレクシア様を見たわ」

「私も見たわ。歩き方もぎこちなかったし、まさか本当に?」

「ああ、既に奴の子供を孕まされたって話だ。ヒョロとジャガが言ってた」

 

よし、あの2人後で絞める。

 

「よお、シドォォ!?」

「シド君おはようござぁ!?」

 

飄々と現れたヒョロとジャガに取り敢えず腹パンした。

 

「な、なんだ。突然腹が……」

「ぼ、僕もです……」

 

2人には何が起こったか分からないだろ。それだけ早い速度で殴ったから。

 

「食当たりじゃない?最近暑くて食材が傷み易いし、気を付けなよ」

「そ、そうか、飢えに飢えて、寮の近くに生えていた食った怪しげな雑草が腐ってたのか」

 

それは腐る云々以前の問題だと思う。

 

「そ、そうですか。昨日獲得した美女の「自主規制」から出汁を取ったスープを飲みましたが、それが当たりましたか」

 

お巡りさーん。ここに変態が居まーす。

そんな馬鹿なやり取りをしていると、僕に注目していた生徒達が更にざわめき立った。

 

「なっ、アレクシア様の「自主規制」で出汁を取っただと!?」

「怪しげな薬草でアレクシア様の身動きを封じて、襲ったと言うのか!?」

「おのれ、シド・カゲノー。許すまじ」

「一体、アレクシア様にどれだけの所業を行ったというのか!」

 

何故か、ヒョロとジャガの奇行が僕の所業にされた。

早々に誤解を解かなければ。

 

「待って、誤解だから」

「5回だと!?5回もアレクシア様を辱めたと言うのか!?」

 

あ、駄目だ。

これ何言っても悪い方向に話が進む奴だわ。

 

「サイテーだな。シド」

「サイテーですね。シド君」

 

便乗する2人に、僕はボディーブローをかました。

 

「「ごおぉぉ!?」」

 

2人はその場に崩れ落ちた。

それを気にする者は誰も居ない。

 

「授業を始めるぞ」

 

教師の登場により、僕に対する視線は収まった。

 

--------------------

 

その日の放課後、僕はチョコレートを片手に廊下を歩いていた。

側にはヒョロとジャガ。

2人の手にはガンマから貰ったチョコレートが握られている。

 

「2人とも例の物は持って来たな」

「勿論です。抜かりはないです」

「まあ、一応」

「ついに計画を実行する時が来た」

「多少計画に遅れが生じましたが、問題ありません」

 

なんか、裏で暗躍する悪者みたいな事を言い出した。

 

「ふはははは、これがあれば、どんな女もイチコロだな!」

「ええ、これさえあれば、例のあの子も、きっと」

 

だから、ガンマからのプレゼントを変な薬物の様に言わないでよ。

 

「では、これより、例の物を意中の女子にプレゼントして、虜にするイチャイチャパラダイス作戦を実行するぞ!」

「はいです!」

 

ハイテンションに騒ぐ2人を尻目に、僕は溜息を吐いた。

本来なら、昼休みにプレゼント大作戦を実行するつもりだったらしいけど。僕のボディーブローが思いの外に効いたのか、2人が目を覚ましたのは放課後での出来事だった。

悪い事をしたとは思わない。僕はそれ以上の被害を2人から受けているのだから。

それでも2人との縁を切らないのは、愉快だからだ。

見ていて飽きない。

 

「先ずは俺が手本を見せてやる」

 

ヒョロが自信満々の表情である女子生徒の下へと向かう。

 

「ヒョロ君は上級生狙いですか」

 

ヒョロが目的の女子生徒の前に立つと、チョコレートの入った箱を差し出す。

 

「あ、あああ、あにょ」

 

滅茶苦茶どもってる。

僕達の前で浮かべていた自信満々の態度はどうした。

 

「え、え、……誰?」

 

女子生徒もドン引きしてる。

 

「兄ちゃん。俺の婚約者に何か用か?」

 

ヒョロの肩が掴まれる。

そこには筋骨隆々の大男が居た。

魔剣士学園の制服を着ているって事は生徒なのだろうけど、声と言い、がたいと言い、学生離れしてる。

現役軍人が学生服着ている様な違和感だ。

 

「ひゃあ!?ち、違うんです。僕はその…………」

「話はあっちで聞かせて貰おうか」

「あ、チョコは貰うわね」

「へ?」

「何か問題でも?」

「いえ、何も問題ないです!」

 

哀れヒョロ。

チョコだけ失って、何も得る物がないとは……。ざまぁ!

 

「誰か助けてぇぇぇ!」

 

僕とジャガは、ヒョロの断末魔を背に、その場を去った。

向かった先は隣接する学術学園との共有図書館。

そこでジャガは得意気な表情を浮かべた。

 

「ふっ、甘いですねヒョロ君。彼が何を持ち得なかったのか、分かりますか?シド君」

「なんだろねー」

 

逆に君達は何を持ち得るの?

 

「それはズバリ、情報ですよ!」

 

お、意外とまともな意見。

 

「相手を知る事こそが成功の鍵。僕はここ1ヶ月で彼女の好みは把握済みです」

 

これはもしかすると、もしかするか?

 

「へえ、彼女と既に多く交流があるんだ。どんな子?」

「ふっふふ、僕が女子と話す?そんな事出来ると思っているのですか?」

 

……………………風向き、変わったかな?

 

「どうやって、情報を調べたの?」

「そりゃ、毎日彼女を尾行してですよ?」

 

何を当たり前の事を?と不思議そうな表情を浮かべるジャガ。

 

「そっか、まあ、なんだ。……うん。上手く行くと良いね」

「ええ、僕の雄姿を見ていてください!」

「図書館では静かにねー」

 

成功を確信した様子でスキップするジャガを見送り、僕は逃げる様に図書館から立ち去った。

共犯扱いされたくなかったからだ。

 

「きゃぁぁぁ、この人ストーカーです!」

「ち、違います!僕は貴方の事を想って!」

 

暫くして図書館が騒がしくなった。

分かり切った結果だった。

 

「……さて」

 

僕は手に持った箱を見つめる。

何となく持ってきたチョコだけど、僕は誰かにプレゼントするつもりはない。

本当なら、数日に分けてゆっくりと味わいたい所だけど、生憎とこの世界には冷蔵庫がない。

少し勿体ない気もするけど、今日中に食べてしまおう。

 

「あら、奇遇ね」

 

そんな事を考えていると、偶々アレクシアと遭遇した。

 

「そうだね。君はここで何を?」

「ちょっと、図書館で調べ物でもしようかと思って。暫く剣が振れそうにないし」

 

アレクシアはお腹を擦った。

ああ、刺された傷が痛むのか。

 

「そう、今騒がしいから行かない方が良いよ」

「何があったの?」

「ストーカーが出たらしいよ」

「……それは、嫌ね。今日は大人しく部屋で自習でもするかしら」

 

アレクシアはそう呟き、踵を返そうとした瞬間。僕の手に握っている物を見て、あら?っと、立ち止った。

 

「その手に持っているのって、もしかしてミツゴシのチョコレートじゃない?」

「…………良く気が付いたね」

 

流石は王族、お目が高い。

 

「最近嵌ってるのよ、ミツゴシ商会の商品に。良く手に入ったわね。それ凄く高い奴でしょ」

「君から貰った駄賃のお陰でね。何とか買えたよ」

 

本当はただで貰ったのだけれど。

 

「そう、なら私の部屋でお茶でもしない?勿論私もそれに見合うだけの物を出すわよ」

「そう言われると断れないな。分かったよ。案内してよ」

 

それから僕はアレクシアに連れられて、アレクシアの部屋に移動した。

本当は1人で堪能したかったけど、しょうがない。

また今度、ガンマからチョコを貰おう。

 

--------------------

 

アレクシアの部屋は広かった。

広々とした作りに、高級家具が沢山。

けれど、無駄に装飾が施されている訳では無くて、装飾は必要最低限。

広々とした空間に侘しさを感じさせない程度の装飾と家具の配置で、優雅さがあった。

イメージ的には高級ホテルのスイートルームを連想させた。

流石は王族って感じがする部屋だった。

 

「はい。最近話題のコーヒーよ」

 

そう言って差し出されたのは、ミツゴシ商会の目玉商品の一つ、コーヒーだった。

この香りからして、最高ランクの代物だ。確かにこれなら僕が持参した高級チョコと釣り合いは取れる品だ。

尤も、僕のはガンマからただで貰った物なのだから、釣り合いもクソも無いのだけれど。

 

「ありがたく頂くよ」

 

僕は差し出されたコーヒーを口にする。うん。苦い。

陰の実力者なら、コーヒーはブラックで優雅に飲むべし。

それが僕の信条だが、今の僕はシド・カゲノーだ。

僕は半分程、コーヒーを飲むとテーブルに置いてあったミルクをカップに注ぎ、スプーンで軽く混ぜる。

真っ黒の液体はあら不思議。あっと言う間にベージュ色の液体に早変わり。

 

「うん。やっぱり、カフェオレが一番だね」

 

本当はミルクの比率を7ぐらいに増やしてコーヒー牛乳にしたかったけど、それはガンマ達の頑張りを否定する気がして気が引けた。

まあ、5:5で割るカフェオレも十分に苦みを緩和したし、十分に我慢せずに飲める範囲だ。

 

「かふぇ、おれ?良く分からないけれど、その飲み方はコーヒーに対する冒涜じゃない?」

「失敬な。子供から大人まで楽しめる至高の飲み方だよ」

 

将来的には、コーヒーよりもカフェオレの方が人気が出るに違いない。

 

「ふーん」

 

アレクシアはカフェオレに興味が出たのか、コーヒーを半分程飲むと、ミルクを入れてスプーンで掻き混ぜた。

 

「…………悪くは無いわね」

 

彼女はベージュ色になったコーヒーを飲んで、そう呟いた。

 

「でしょ?」

「でも、やっぱりブラックこそが王道よ」

「あらら」

 

まあ、人によって好みが分かれるからね。しょうがない。

僕は自分の価値観を押し付けるつもりはないし、それはアレクシアも同様だったらしい。

僕達は他愛無い雑談をしながら、コーヒーとチョコを楽しむ。

うん。こんな時間も悪くない。

 

コンコン。

 

そんなブレイクタイムを楽しんでいると、ノックがされた。

 

「あら、誰かしら。こんな時間に」

 

アレクシアは立ち上がり、ドアの方へ行く。

 

「はい。どちら様ですか?」

 

アレクシアがドアを開く。

そこには、ピンク髪の小柄な女子生徒が居た。

見覚えがある。僕が学園に入学した当初、どうにか接触が出来ないかと考えていた主要人物キャラの一人だ。

 

「あら、シェリー先輩じゃないですか。どうかしました?」

 

そう、彼女こそが王国随一と名高い頭脳の持ち主。シェリー・バーネットその人だ。

 

「あ、はい。あの、アーティファクトの進捗状況の報告に参りました」

「ああ、成程……」

 

アレクシアは僕の方を見た。

 

「席を外そうか?」

「いえ、良いわ。ごめんなさいシェリー先輩。今ちょっとデート中でして、出来れば日を改めて……」

「ん、ああ!ごめんなさい。気が利きませんでした!お2人で将来の大事なお話をされていたのですね」

 

ん?

 

「えっと、シェリーさん?私達そんな大それた話はしてませんよ。一緒にチョコを摘まみながら世間話をしていただけですよ」

「いえ、分かっています。今アレクシア様のお腹にいる赤ちゃんの話ですよね!」

「「ちょっと待って!」」

 

僕とアレクシアと声が被った。

 

「ひゃう!?」

 

小動物の様に震えるシェリー先輩。

申し訳ないけど、今は気遣っている余裕はない。

 

「シェリー先輩。取り敢えず、中でお話を聞かせて頂けますか?」

「あ、私、急用を思いだしてぇ…………」

「大丈夫。直ぐに終わりますからね。ね?」

「は、はい……」

 

--------------------

 

それから、僕達はシェリー先輩を尋問……、お話して何故、アレクシアが妊娠していると勘違いしていたのかを聞いた。

なんでも、今朝教室で聞いた一昨日僕とアレクシアが王都でヤったとか、アレクシアを妊娠させてとかって噂が学術学園にまで広がっているらしい。

僕達は根も葉もない噂である事をシェリー先輩に説明した。

 

「なーんだ!嘘だったんですね」

 

彼女は僕達の話をなんの疑いも抱かずに信じた。

単純なのか、騙されやすい性格なのか、将来が心配になる。

 

「ええ、私達は()()そんな関係じゃありません」

 

将来的にもそんな関係になるつもりはない。

 

「まあ、人の噂も七十五日。噂好きの貴族も直ぐに忘れるさ」

「……?聞きなれない諺ね」

「どんな意味なんですか?」

「世間の噂もひと時の事で、2、3ヵ月もすれば誰も話題にしなくなるって意味」

 

僕の言葉に、2人は関心した様子だった。

 

「へえ、知らなかったです。物知りなんですね。えっと……」

「シド・カゲノーです」

「あ、私はシェリー・バーネットです。宜しくお願いします。シド君」

「はい。宜しくお願いします。シェリー先輩」

 

僕はシェリー先輩と握手を交わした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

--------------------

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは数年前の記憶。

記憶の頃の私は、お母さまと2人で暮らしていた。

お母さまは世界でもトップクラスの知識を求められるアーティファクトの研究者で、その界隈に知らぬ者なしと言われる程の研究者だった。

私はそんなお母さまに憧れ、忙しいお母さまに我儘を言って、勉強を教えて貰っていた。

日中はお母さまの出した宿題や本を読んで、夜は日中に解いた問題の答え合わせや、勉強を教わる。

そんな日常を過ごしていた。

 

「今日はここまでね。夜も遅いし、そろそろ眠りなさい」

「はーい。お母さま」

 

その日も同じく、母から勉強を教わった私は、お母さまに言われるがままにベッドに入った。

変わらぬ明日があると、疑わなかった。

その何気ない会話が、お母さまとの最期の会話となる事を知らず、私は眠りに就いた。

 

「ーーー、--ーーー!ーーー--!」

「ーー!?ー、ーーー!」

 

私はお母さまの研究室から聞こえてきた喧騒で目を覚ました。

 

「お、お母さま?」

 

私は眠い目を擦りながら、お母さまの研究室に向かい。

そこで全身から血を流して倒れるお母さまの姿を目にした。

 

「お母さま!!」

「馬鹿な女だ。大人しく私の言う事を聞いていれば良かったものを……」

 

その声に私は背後を振り向いた。

私の記憶はそこで途切れている。

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