ここだけシド君に人間性をブレンドした世界線   作:読者その1

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陰実の映画楽しみだなー
それはそうと、アニメ13話どこ?
映画までの繋ぎで原作者描き下ろしエピソードとかないの?
……ない?そっか、……そっか。


第7話 …………あ?

それから数日、僕の治療を建前にしたアレクシアの特訓を終え、僕の傷は完治した。

この数日でアレクシアの治癒術と魔力操作技術は驚異的な成長を見せた。ここ最近の剣術の成長といい、今回の件といい。彼女は目指すべき道を示せば、とことん伸びる人間だ。

主人公補正でも掛かってるのかな?

 

「おいシド。お前、王女様と良いご身分だったそうだな〜」

「なんでも、王女様が手ずから看病してくれたらしいですね〜」

 

隣には毎回の事ながら、ヒョロとジャガ。

この前、ボコボコにされた姿を見たけど、回復が速いな。

 

「2人共、こないだの怪我治ったんだ」

「ああ、最近就任したイーシャ先生に治してもらった」

「腕が良いと評判なだけあって、あっという間に完治ですよ」

「へぇ〜」

「まあ、治ったなら、さっさと立ち去って下さいって、ゴミを見る目で医務室を追い出されたが……」

「あの目、良いですね〜。イーシャ先生に会いに行く口実が出来るのであれば、また怪我をしても良いかもです」

「「マジか、こいつ」」

 

ジャガが目覚めてはいけない扉に目覚めたみたいだ。

まあ、どうでも良いか。

 

「それよりも、話を逸らすなよシド」

「そうですよ、王女様とはどこまで行ったんですか!」

 

どこまでと言われると、キスまでは行った。不意打ちだったけれど。

けど、この2人に馬鹿正直に答えると、また変な噂を流されそうだな。

さて、どう答えた物かと、考えていると教室のドアが開かれた。

 

「ん、あれはローズ先輩じゃないか」

「ああ、そう言えばそろそろ生徒会選挙の時期でしたね。その活動演説にでも来たんでしょうね」

 

教室に入って来たのはローズ先輩と見慣れない女子生徒の2人。

ローズ先輩は僕の方に視線を向けると僅かに微笑み、教壇に立つ。

 

「皆さん。お時間を頂きありがとうございます。生徒会選挙の説明に参りました」

 

それからローズ先輩は色々と語った。

僕は大して興味も無かったので、適当に聞き流した。

 

「…………ん?」

 

それから暫くして、違和感を感じた。

僕は常に肉体を万全な状態に保つ為に魔力制御を行っているのだけれど、その制御が乱れた。

試しに微細な魔力を放出してみようと試みたが、上手く行かない。

魔力が上手く錬れない。何かに阻害されてるみたいだ。こんな事は初めてだ。

 

「嫌な予感がする」

 

そして僕の勘は良く当たる。

良い方にも、悪い方にも。

 

「全員動くな!」

 

そして案の定と言うべきか、教室のドアを勢いよく開いて、黒ずくめの男達が雪崩れ込んだ。

皆、剣や銃で武装している。

 

「我らはシャドウガーデン。この学園を占拠する」

 

……………………あ?

 

「死にたくなければ大人しくしろ」

「全員手を上げて、我々の指示に従え」

 

ああ、そうか。そう言う事か。

 

「…………はは」

 

魔力が錬れなくて良かったよ。でなければ今頃。この教室の一帯は更地になっていたと思うから。

 

「ここがどういう場所か分かっていての狼藉ですか?」

「ここには魔剣士がどれだけ在籍しているのか、ご存じですか?」

 

抜剣して黒ずくめの男達に立ち向かうローズ先輩。

不味い。

僕は少し冷静さを取り戻す。

 

「ははは、自分の置かれた状況が分かってないみたいだな!」

 

男が剣を振り上げ、斬りかかる。

ローズ先輩は迎え撃とうと魔力を纏おうとして、失敗する。

 

「な、なにが!?」

「今更気が付いたところで手遅れだ」

 

男が剣を振り下ろす。

 

「きゃああああ!」

 

次の瞬間に起こるであろう惨劇を想像し、女子生徒が悲鳴を上げる。

男の剣は魔力を帯びていた。魔力を使えないローズ先輩では防ぐ術はない。

僕は駆けた。ローズ先輩を庇う様に男の間に入って、その太刀を受けた。

 

ザンッ!

 

--------------------

 

己を庇い鮮血を撒き散らしながら倒れるシド。

 

「……………………え?」

 

その現実を受け止めるのに、ローズは数秒程時間を要した。

 

「シド・カゲノーさん!」

 

ローズは血で汚れるのも厭わず、シドの体を抱えた。

 

「……何故、何故私を庇ったのですか、貴方にはやるべき事があるでしょうに」

「体が、勝手に……、動いてました。ゴホッ」

「シドさん!」

 

ローズは何とか治療をせねばと、魔力を錬ろうとして失敗する。

魔力での治癒が出来ないのであれば、せめて血を止めなければ。ローズは周りを見渡す。

 

「それ以上は動くなよ。その少年の後を辿りたくなければな」

 

ローズの首元に剣が付きつけられる。

 

「くっ、私はどうなってしまっても構いません。ですので、シドさんの、彼の治療をさせて下さい」

「あ?そいつシド・カゲノーって言うのか?」

「…………?ええ」

 

ローズは何故、シドの事を知っているのか疑問に思う。

 

「はは、こりゃ好都合だ。そいつはこの作戦に於ける不確定要素だから殺せって、指示が下っている」

「なっ!?」

「その出血じゃどの道助からねぇ」

 

手間が省けた。と、笑う男。

ローズは何故、シドの命が狙われたのか疑問に思ったが、それ以上にシドが助かる道はないのだと絶望した。

元々、シドの抹殺命令が下っていたのであれば、結果は変わらなかったかも知れない。

けれど、ローズにとっては、自分を庇い致命傷を負った事に変わりはない。

その事実が重くのしかかる。アレクシアに合わせる顔が無いと、顔を歪ませる。

 

「今から大講堂に向かう。歯向かうなら殺す。大人しく付き従え」

「…………わかり、ました」

 

ローズは大人しく男の指示に従った。

抵抗する者は居なかった。

 

--------------------

 

教室に誰も居なくなった事を確認して、僕は立ち上がった。

 

「あ~あ。血糊でベタベタだ。気持ち悪い」

 

床一面に広がる血の海。これは全て本物の血ではあるけど、僕の血じゃない。

これは全て、スライムスーツに仕込んだ血糊だ。

制服には左肩から右腹にかけて剣で斬り裂かれ、夥しい血の跡が付いているけど、僕は無傷だ。

いや~便利だね。スライムスーツ。

魔力生物であるスライムを原材料に、持ち主の魔力操作によって自在に姿形を変える事が出来る万能スーツだ。

テロリストの男の剣はこのスライムスーツで防ぎ、中に仕込んでいた血糊であたかも斬られた様に偽装した訳だ。

 

え?魔力が錬れなかったんじゃないかって?

確かに魔力が練り難くなっているのは事実だけど、全く錬れない訳ではない。

魔力操作を何時も以上に精密に行えば、魔力は使える。

 

「それにしても、らしくない事をしたな」

 

僕は悪人をどれだけ拷問しようが、殺そうがなんとも思わない程度には悪人で、眼の前で死にそうな人間を見捨てない程度には善人のつもりだけど、積極的に人助けをする程のお人好しではない。

魔力が万全に扱える状況なら、魔力の糸などを使って致命傷にならない程度に陰ながら助けていたかもだけれど、今回は魔力をまともに練られず。ああやって身を挺して救う以外の方法は無かった。

正直、そこまでしてローズ先輩を助ける義理は無いし、そのつもりも無かった。

 

「これが、気付いたら体が動いてたって奴か……」

 

よく映画や漫画である主人公を助けて散って逝くキャラが最期に口にする言葉だけど、本当にある事なんだな〜。

身を挺して主人公候補を救うサブキャラ。

死んだと思われた彼は、物語の終盤。主人公のピンチに颯爽と現れて助太刀する。うん、そう考えれば陰の実力者って感じがしなくもない。

……けど、今はそれ以上にやるべき事がある。

 

「シャドウガーデンを騙るテロリスト共、貴様らは鏖殺だ」

 

誰一人として、生かしはしない。

 

 

--------------------

 

 

同時刻、大聖堂には学園中の生徒が集められていた。

元々、学校行事などで全校生徒が集められるだけあって、学園中の生徒を収容するには十分な広さだった。

寧ろ、現在3年生が課外授業で不在かつ観覧者席などが空席である為、大講堂に集められた生徒は思い思いに寛いでいた。

特に手足を縛られるという事はない。

生徒の数が多くて人数分の拘束具が用意出来ない事もあるだろうが、魔力を封じられて武装も解除されている為、何かしようとしても無意味だと考えているのだろう。

実際、何人かの生徒はテロリスト達に反抗して立ち向かったが、呆気なく返り討ちにされ、重傷を負った。

 

「くそっ、いてぇ……」

 

殺されはしなかったが、魔力を封じられてまともな治療を受けられない生徒達の苦痛に表情を歪ませた。

 

「はいはい。魔剣士が情けない事言わないの」

 

そんな生徒達を次々と治療をするのは、最近就任した新米医師のイーシャだ。

魔力による治癒程では無いが、彼女はその場にある物で的確な応急処置を施していた。

だが、それでも苦痛に表情を歪ませる者達は多い。

そんな中、ローズは別の意味で苦痛に満ちた表情を浮かべていた。

 

「あ、ローズ先輩」

「…………アレクシアさん」

 

アレクシアとの邂逅に、ローズは顔色を悪くする。

 

「どうしたのですか、顔色が悪い様子ですけど、どこか怪我でもしたのですか?」

 

心配そうな表情を浮かべるアレクシアに、ローズは思わず目を逸らしたくなる。

 

「…………アレクシアさん。私は、貴方に謝らなければならない事があります」

 

けれど、それは出来ない。私は彼女に伝えなければならない事があるのだから。

ローズは真っ直ぐにアレクシアの目を見つめた。

 

「…………謝らなければならない事?」

「私は、生徒会選挙の説明の為、1年の教室を回っていました」

「ええ、存じてます」

「私がここに連れて来られる前には、シド・カゲノーさんが在籍するクラスに居ました」

「…………そうですか」

 

アレクシアは嫌な予感がした。

 

「シャドウガーデンと名乗る者達が現れたのは、その演説の最中の出来事です」

 

彼女はこの大講堂に連れて来られてから、ずっとシドの姿を探していた。

何かと目立つ事は避ける彼の事だ。何事も無く大講堂に連れて来られていると考えていた。

けれど、学友であるヒョロとジャガの姿は見付られても、肝心のシドの姿が見つからなかった。

そして、何時もシドと一緒に居る学友2人の顔色は悪かった。

 

「私は剣を抜き、彼らと対峙しました。魔剣士学園を襲撃した愚か者だと決めつけ、私の力なら対処出来ると、そう考えていました。魔力を封じられている事に気が付いたのはその直後です。私は為す術もなく、命を落とす所でした」

 

その姿、そして目の前のローズが浮かべる悲壮に満ちた表情が、嫌な考えを過らせる。

 

「私はシド・カゲノーさんに救われました。その剣から身を挺して私を庇い。その結果、……………………彼は命を落としました」

「……………………そう」

 

驚きはしなかった。

何かと淡々とした態度を取るが、根は優しい。

我ながら性格が悪いと思っている自分に対しても、愛想を尽かす事無く接している。

そんな彼が、目の前で人が斬り殺されそうな光景を前に何もしないなんて、有り得ない。

そう思えるからこそ、驚きはしなかった。彼らしい最期とも言える。

アレクシアはそう考えると、テロリストの方へ歩き出した。

 

「待って、何をする気ですか」

 

そんなアレクシアの手を、ローズは掴んで止めた。

 

「皆殺しにするんですよ」

「なりません。原理は不明ですが、私達は魔力を封じられ、彼等は問題なく魔力が扱えます。死にに行く様な物です」

「……………………そうですね」

 

ローズの制止に、アレクシアは冷静さを取り戻した。

だが、腹の底から湧き出る殺意は収まらない。

頭では分かっていても、ローズの制止がなければ、直ぐにでもテロリストへと飛び掛かりかねない状態だった。

 

「今は時を待ちましょう」

「……………………はい」

 

アレクシアは奥歯を噛み締め、今は耐える事を選択した。




原作との相違点

1.ローズの敬称の変化
原作「シド君」
本作「シドさん」
これは原作シド君の印象が幾らボコボコにされようと立ち上がった気概のある少年であるのに対し、
本作シド君はアレクシア王女と添い遂げる為に茨の道を進む騎士(勘違い)として尊敬の念を抱いているから。

2.シド君無傷。
学園内にシャドウガーデンメンバー。イーシャ(ニュー)が居るからこそ出来た芸当。
イーシャが居なければ、斬り傷が無いのは不自然だから原作通り斬られていたか、ローズを見捨てていた。

3.学園内にアレクシアが居る。
怪我した部分が腕じゃなくて腹部であった事。
シャドウの治癒によって傷自体は完治していたので、授業には参加していた事。
色々な要因が重なり、襲撃時には学園内に居てテロに巻き込まれました。
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