ここだけシド君に人間性をブレンドした世界線   作:読者その1

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年越し蕎麦ならぬ、年越し投稿。



第8話 掃除は徹底的に

僕は今、学園を一望出来る屋上に居た。

正直、今直ぐにでも、シャドウガーデンの名を騙る蛆共を目に付く限り駆除してやりたい衝動があるが、何はともあれ状況確認が第一だ。

急いでは事を仕損じる。

 

「……大体の状況は把握した」

 

生徒は皆、大講堂に集められている。

学園の外には武装した騎士団が集まっている。その中にはアイリス王女の姿もあった。

魔力が阻害されているのと、校舎の陰からライフルで武装したテロリストが騎士団を牽制している為、突入を躊躇っている様子だ。

蛆共は皆、黒ずくめのローブに身を包んでいる。

初夏の真昼間からご苦労なこった。熱中症になっても知らないぞ。

 

「取り敢えず、間引くか」

 

僕はスライムスーツの一部を切り取り、親指と中指の間に挟んで飛ばした。

 

「がぁぁ!?」

「何だ!?」

 

切り取ったスライムで出来た弾丸は蛆の眉間を捉え、絶命させる。

分かりやすく状況を説明するなら、鼻くそ飛ばす感覚でスライムを飛ばして蛆を間引いている。

…………なんか、かっこ悪いな。

僕はスライムの色を紫色に加工した。

 

「虚〇茈」

「ぐあぁぁぁぁ」

 

うん。こっちの方がかっこいいな。

どうせ殺るなら、楽しまないとね。

モルモットにするにしても、あんなに要らないし。

 

「ぐぁ!」

「ごほっ!」

「助けてぇ!」

「何処だ!何処から撃ってる!?ぎゃぁ!」

 

うん。取り敢えず。目に付く範囲の蛆は駆除出来たな。

 

「さて、次はどうするか……」

 

僕は改めて校舎を見渡す。

ピンクの髪を靡かせ、無防備に歩く馬鹿を発見。

…………あれ、シェリーじゃね?

 

「何やってんだ、あいつ」

 

胸に何かを大事そうに抱え、キョロキョロと周りを見渡すシェリー。

本人は真剣な表情を浮かべてるけど、バレバレである。

取り敢えず、シェリーの背後から近付く蛆を駆除する。

進行方向には、見回り中の蛆。このままだと数秒後に会敵するので始末する。

正直、見てられない。

僕は自分の体を見下ろす。

視界に入るのは、普通死んでいるであろう夥しい血に濡れた制服。

 

「この格好で会うのは不自然だけど、仕方ない」

 

僕はシェリーの元へ駆けた。

 

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誰も居ない廊下を、シェリー・バーネットは駆けていた。

胸に大切そうに抱くのは、現在解析中のアーティファクト。

彼女は数日前から騎士団の依頼を受けて、このアーティファクトを解析していた所を襲われた。

 

「グレンさん、マルコさん……」

 

これとシェリーを守る為、自分を護衛してくれていた騎士2人は、突如現れたシャドウガーデンを名乗る何者かに立ち向かい、敗れた。

殺されているかも知れない。

 

「お2人の犠牲は無駄にはしません!」

 

悲壮と決意に満ちた表情で彼女は叫んだ。

こんな場面で叫ぶな。

 

「ん?誰が居るのか?」

 

近くで警戒中だったテロリストが、シェリーの声を聞き、怪しむ。

 

き、気付かれた!?

シェリーは慌てて、口を抑えて物陰に隠れる。

ピンクのアホ毛が物陰からはみ出してる。

 

「……………………」

 

あまりにもあからさまな光景に、テロリストの男も罠かと警戒する。

その次の瞬間、男は恐ろしく速い何かが首に巻き付けられ、野外へと放り出される。

 

「んぐっ!?」

 

テロリストは声を上げる間もなく、野外に出されると、そのまま宙を舞った。

 

落ちる!

男は落下の衝撃に備えようと受け身を取ろうとするが、無駄に終わる。

男は地に落ちる事なく、宙に吊るされた。

 

「うごぉ!?」

 

首に巻き付いた何かが男の首を絞め、窒息させる。

男が首に巻き付いた何かを外そうと藻掻く。

だがそれは無意味だった。

 

「あ、あぁ…………」

 

首に巻き付いた何かは、びくともせず、僅かな隙間すら作れず、男は苦しみの中に息絶えた。

その様子を見ていた人影は、男が動かなくなるのを確認すると首に巻き付いた何かを外し、男を地に落とす。

 

ゴキッ。

 

男はそんな音を立てて、地に落ちた。

それを興味なさげな表情で見つめた人影は、校舎の中へと入り、シェリーの元へと忍び寄る。

シェリーはその人影に全く気が付いていない。

それどころか、物音がしなくなって、誤魔化せたかと、ほっと息を吐いていた。

人影はゆっくりと無防備なシェリーの背後から近付いた。

ゆっくりと伸ばされた人影の手は、シェリーの肩を掴んだ。

 

「ひゃわぁ!?」

 

飛び上がるシェリー。背後を振り向いた先には……。

 

「なんだ、シド君ですか、ビックリさせないで下さい」

 

血塗れの制服を着たシドの姿があった。

 

「って、その怪我大丈夫ですか?」

「大丈夫大丈夫。思ったより軽傷だから」

 

軽傷どころか、無傷である。

見た目は重傷者のそれだけど。

 

「そ、そうですか。良かった…………」

 

素直に信じるシェリー。

 

「…………君はもう少し、人を疑う事を知ろうね」

 

シドとしては好都合だが、疑う素振りも見せないその姿に、シェリーの将来が心配になった。

 

「…………?」

 

不思議そうに首を傾げるシェリー。

危機感の無さそうな表情にシドは、よく、ここまで無事で居れたな。と、溜息を吐いた。

 

「色々と言いたい事はあるけど。まあ、良いや。一先ず、場所を移そうか」

 

--------------------

 

それから、僕はシェリーの護衛をしながら、副学園長室に訪れた。

中は副学園長室と言うよりも、校長室ってイメージの部屋だった。

部屋の中央には応接用の高級なテーブルとソファーが置かれ、壁一面には本棚が並び、奥には実務用の机。

日当たりも良く、備え付けられた窓からは学園が一望出来る。

棚の上には仲睦まじげに写る副学園長とシェリーの写真がずらりと並んでいた。

 

「この人は?」

 

その中で僕は、見慣れない女性が写った写真を取って聞いた。

 

「母です」

「お母さん?」

 

成程、確かに写真に写る女性はどこか、シェリーに面影を感じる。幼少期のシェリーと思われる少女とツーショットで写る写真もあれば、副学園長を加えた3人で仲睦まじ気に写っている写真もあった。

 

「研究熱心な方でした。アークティファクトの研究分野に於いては知らぬ者なしと言われるぐらいには、有名だったんですよ」

「へえ、凄いや」

 

アーティファクトの解析ともなれば、世界でも有数の科学者でもないと解析の難しい代物だ。

その分野で知らぬ者なしと言われるのであれば、相当凄い事だ。

 

「お母さんは今どこに?」

「…………殺されました」

「それは、……ごめん」

「いえ、過去の話です」

 

アーティファクトの研究ともなれば、その研究結果を欲しがる組織や国は少なくない。と言うよりも、欲しがらない組織や国など皆無だろう。

それ故に、自国でアーティファクトの研究をさせる為に研究者を攫ったり、ライバル国の発展を阻害する為に暗殺者を仕向けられる事も珍しくないと聞く。

シェリーのお母さんも、そんな犠牲者の1人なのだろう。

 

「母が死んだ後、塞ぎ込んでいた私を救ってくれたのは、お義父様です。身寄りのない私を引き取ってくれて、実の娘の様に愛情をもって育ててくれました」

「良い人だね」

「はい!お義父さまにはずっと助けられてばかりでした。ですので、今度は私が助ける番です」

 

彼女は一冊の本を取り出すと、あるページを開いて見せた。

 

「恐らく、魔力を封じられている原因はこれです。このアーティファクトは強欲の瞳と言い、周囲の魔力を吸収し、貯蔵します」

「蛆、……テロリスト共は普通に魔力を使っていた様子だけど、それは?」

「強欲の瞳は吸収する魔力の選別が可能です。事前にテロリストさん達の魔力の波長を記録させ、それ以外の魔力を吸収しているのでしょう」

「そりゃ凄い」

 

味方の魔力はそのままで、敵の魔力だけ吸収する。

これ一つで、一方的な戦争が可能になる。

 

「吸収出来ない魔力は無いの?」

「極めて微細な魔力や、許容量を超えた膨大な魔力は吸収出来ません。まあ、そんな魔力を人間が扱えるとは思いませんけど」

 

ここに居るよ。

 

「更にこのアーティファクトは限界までに溜め込んだ魔力を一気に放出する特性があります」

「爆弾みたいな物?」

「はい」

 

それは危険だ。

 

「想定できる被害範囲は?」

「学園中に及ぶ効果範囲と魔力を封じられてからの時間を考えるに、この学園が吹き飛ぶぐらいの威力が想定出来ます」

「わお」

 

それは洒落にならない。

 

「強欲の瞳は以前、私が研究していた物です。その危険性から、お義父さまは国に管理してもらう事にしたのですが…………」

「同型のアーティファクトか、盗まれたか」

 

まあ、十中八九盗まれたんだろうね。

これだけの代物だ。どこかから情報が洩れて、それがテロリストの手に渡ったのだろう。

今回の事件が教団によるものならば、コネを使ってアーティファクトを秘密裏に回収する事も容易だろう。多分。

 

「対応策はあるの?」

「あります。これを解析出来れば、強欲の瞳を制御出来ます」

 

彼女はそう語ると、胸元で大事そうに抱いていたアーティファクトを見せた。

銀の十字架の様な形に、中心に赤い水晶の様な物が設置された代物だ。

 

「これは?」

「強欲の瞳の制御装置と思われるアーティファクトです。まだ解析は完了してませんが、解析さえ出来れば、これで強欲の瞳を制御、機能を停止する事も可能な筈です」

「強欲の瞳を制御する具体的な方法は?」

「解析の完了したアーティファクトを強欲の瞳に近付けます」

「強欲の瞳の場所は分かるの?」

「生徒達が大講堂に集められている様子から、恐らく大講堂にあるかと。魔力を奪う対象は近ければ近い程、効率的に魔力が集められる筈ですので」

「成程ね。周りはテロリストだらけだけど、どうやって近付くの?」

「地下通路を使います」

「地下通路?」

「はい。学園の施設には脱出用の地下通路が用意されています」

 

シェリーはそう言って、本棚の本を数冊取って、奥に隠されていたレバーの様な物を引いた。

すると、ガコンと音を立てて本棚が動いた。本棚が動いた先には下へと続く階段が現れた。

 

「……これは凄い」

 

典型的だけど、心が躍るギミックだ。

 

「これを使って大講堂に近付き、起動したアーティファクトを大講堂に投げ入れます」

「成程ね」

 

強欲の瞳が本当に大講堂にあるのか、投げ入れるだけで強欲の瞳の機能を停止出来るのか、不明瞭な部分も多いけど、悪くない。

いざとなれば、シャドウとして動いて手助けすれば何とでもなる。

それに極端な話、シェリーの作戦が失敗しても僕が蛆を鏖殺すれば良いだけの話だ。

それ自体は今直ぐにでも出来るが、それをしないのは一匹たりとも逃さない確実性を期す為だ。

魔力が万全に使える状況なら、僕一人でも、蛆を一匹残らず駆除出来る。

けれど、魔力が万全に使えない状況では取り逃がしが発生する可能性も考えられる。

魔力が万全に使える状況に越したことはないし、魔力が万全に使える状況ならシャドウガーデンのメンバーを動員しての人海戦術も出来る。

 

「解析にはどのくらい掛かりそう?」

「日没までには、なんとか」

 

それが速いか遅いかは、専門知識が無いから判断できないけど、そのくらいなら待てなくもない。

魔力が万全に使えれば、シャドウガーデンを動員しての人海戦術も可能になる。

ここは万全を期す為にも、待つか。

 

「ただ、解析に必要な道具を研究室に置いて来てしまって、…………先ずは道具を取りに行かなきゃ行けません」

「……なら、僕が取りに行くよ」

「そ、そんな。シド君大怪我してるじゃないですか。じっとしてて下さい」

「大丈夫大丈夫。少なくとも君より強いし、トイレ行くついでだよ」

 

実際トイレには行きたかったし。

僕が動かないと色々と詰みそうな状況だ。

まあ、僕が居なきゃ、今回の学園占拠は起こらなかったのかも知れないけど。

 

「分かりました。では必要な道具をメモしますので、宜しくお願いします」

 

それから数分後、僕はシェリーからメモを受け取り部屋を出た。

 

「漏れる漏れる」

 

僕は小走りで廊下を駆ける。

今生徒は居ないので、トイレまで一直線に駆け抜けても良かったのだけれど。何となく廊下は走ってはいけませんという常識と、もしかしたらまだ隠れ潜んでいる生徒が居るかも知れないという考えが僕の足を鈍らせた。

まあ、全力疾走しないと漏れるレベルじゃないから、全然構わないのだけれど。

 

「ああ?こんな所にまだ生徒が残っていたのか」

 

そう思っていたら、赤いバンダナの男に見つかった。

男はトイレの入り口の前に立ちはだかっていた。

 

「まあ良い。俺の名はーー」

「邪魔」

 

虫を払う様な動作で手を振る。

すると、男の首が飛んでその場に倒れた。

 

「ギリギリセーフ」

 

僕はそのままトイレに駆け込んだ。

 

--------------------

 

トイレを済ませた僕は、シェリーの研究室に訪れた。

研究室には争った跡があり、壁際には若い魔剣士とおっさん魔剣士が血みどろで倒れていた。

おっさんの方は死んでるけど、若い魔剣士には息があった。

 

「生かすか」

 

取り敢えず、傷を癒やした。

斬り傷は一切なく、服の損傷が無ければとても斬られたとは思えない。

 

「お見事です」

「これ程の治癒は目にした事がありません」

 

物陰から現れたのは、片目を隠した金髪ショートのエルフと金銀のオッドアイを持つダークエルフ。

 

「カイとオメガか、ニューは?」

「ニューはイーシャとして、大講堂に拘束中です」

「そりゃそうか、君達は魔力が使えるの?」

「はい。この程度の阻害なら問題なく」

「ただ、本来の半分程度の力しか発揮出来ません」

「十分だね」

 

半分程度でも、魔力が使えるのであれば、一方的に殺られる事はないだろう。

僕が護る必要は無さそうだ。

 

「ところで、この青年を助けたのに、何か理由があるのですか?」

「正直、この青年に利用価値は無いとは思うのですが」

「うん、その通りだね。正直シャドウガーデンに利を与える様な存在ではないよ」

 

ただ、そんな存在を意味もなく助ける程、お人好しじゃない。

 

「君達は僕のこの傷を見てどう思う?」

「御方が無傷であることは分かっております」

「素晴らしい偽造です」

 

いや、そう言う事じゃなくて。

 

「客観的に見て、どう思う?」

「客観的にですか?それでしたら致命傷ですね」

「動けているのが不思議な傷です」

「でしょ、この青年も同じだ。この青年の傷を癒やしておけば、僕が無傷の状態で発見されても不自然じゃないでしょ」

 

2人は成程と呟く。

 

「確かに、シャドウ様御一人が無傷の状態で発見されれば、不自然」

「然し、致命傷を負った筈の人物が2人。無傷の状態で発見されれば、何者かによって傷を癒やされたと考える」

「「流石です。シャドウ様」」

 

尊敬の眼差しで見つめてくる2人。

もう少し、陰の実力者らしい事していたいけど、時間が惜しい。

 

「現状はどうなってる?」

 

僕がそう問いかけると、2人は凛とした佇まいになり、報告を始めた。

 

「は、現在ガンマ様が指揮を執り、学園の周りに待機しています」

「ただ、魔力が制御された状況下で、まともに行動出来る人員が限られており、現状は様子見の状況です」

「それが正しいよ。無理をして怪我人を出すよりかは全然良い」

「なんと、私共の身を案じて下さるのですね!」

「なんと慈悲深いお言葉」

 

いちいち、言動がオーバー過ぎない?

 

「学園の周りは騎士団が包囲網を構築していますが、戦力になりそうなのはアイリス・ミドガルと数人程度ですね」

「大半が有象無象です」

「成程ね」

 

大体、昼間に見た時と同じような状況か。

なら僕は、シェリーからのお使いを果たすとしよう。シェリーから貰ったメモを読む。

えっと、必要なのはミスリルのピンセットに、地竜の骨の粉末に、……分からん。

 

「このメモにある内容の物を用意出来る?」

 

僕はカイとオメガにメモ用紙を渡した。

2人はメモの内容を読んで、お安い御用ですと次々と戸棚から必要な道具を揃えてくれた。

 

「いや~、助かったよ。ありがとう」

 

割と切実に。

 

「いえ、この程度の事で宜しければ」

「因みに、何に使うかお伺いしても?」

「うん。シェリー・バーネットって生徒が今アーティファクトの解析を行っていてね。それに必要な道具らしいんだ」

「なんと、あの王国随一と名高いシェリー・バーネットですか!」

「うん。そうだね」

「それ程の人物を既に従えているとは、流石はシャドウ様です!」

「ああ、うん」

 

……シェリーは従えているんじゃなくて、どちらかと言えば僕が助手として従えられている状況なのだけれど。

それでも客観的に考えれば凄い事なのか?

あまりのポンコツぶりに忘れていたけど、そう言えばシェリーは凄い人物だったっけ。

 

「日没にはアーティファクトの解析が終わるみたいだから、それまではゆっくりしていなよ。くれぐれも無理はしない様にね」

「「は、畏まりました」」

 

僕はシェリーから頼まれた道具を箱に入れ、副学園長室に戻った。




今回は偶然にも、本文が6666文字。
色々と縁起の良さそうな数字ですね。

……まあ、誤字脱字の修正で文字数が変動する可能性もありますけど。

皆さん。良いお年をお過ごしください。
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