ここだけシド君に人間性をブレンドした世界線   作:読者その1

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年明けたので、初投稿です。



第9話 2人の王女

「できました」

 

茜色の空が少しずつ暗くなる頃。シェリーは宣言通り、アーティファクトの解析を完了させた。

 

「お疲れ様」

 

僕は彼女を労い、チョコレートをプレゼントする。

研究室に戻る前に食堂から頂戴した品だ。

 

「ありがとうございます。パク。……美味しい」

 

僕もチョコレートを口にする。

うん。ガンマからのプレゼント程じゃないけど、美味しい。

 

「これでお義父さまを助けに行けます」

 

シェリーはランプを片手に、解析を終えたアーティファクトを胸に抱え、隠し通路を開く。

 

「頑張ってね」

 

僕は付いて行かない。

 

「はい。頑張ります!」

 

これは彼女の物語だ。僕が出る幕はない。

表沙汰には、ね。

 

「さて、行くか」

 

僕は彼女が隠し通路の奥に消えるのを確認すると、ソファーから立ち上がった。

 

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大講堂は物々しい雰囲気に包まれていた。

学園が占拠されて既に5時間以上が経過した。

これだけの時間が経過すれば、生徒側もテロリスト側もストレスを感じ始める。

 

ターン!

 

「ぐあ!」

 

一発の銃声が鳴り響く。それと同時に一人の生徒が血を流し倒れる。

 

「何すんのよ!」

 

アレクシアが撃たれた生徒を庇う形で、銃を撃ったテロリストと対峙する。

 

「なにって、そいつの目が気に入らなかったんだよ」

「何よそれ!言いがかりじゃない!」

「抑えて下さいアレクシアさん!」

 

激高するアレクシアをローズが羽交い絞めで押さえる。

 

「何よ、このままじゃ言いがかりを付けられて、虐殺ショーの始まりよ」

「それでもです。魔力の使えない状況では戦いになりません」

「…………チッ」

 

その言葉に、アレクシアの抵抗力が弱まる。

 

「状況が飲み込めた様で何より。だが、その反抗的な目は頂けないな」

「王女様には、置かれている状況を理解してもらう必要がある様子だな」

「体で覚えさせてヤろうか」

 

下品な笑みを浮かべて近付くテロリスト達。

 

「はん。よって集らないと女の一人も抱けないのかしら?とんだ玉無し共ね」

「…………よし分かった。お前はここで身包み剥がして凌辱ショーだ!」

 

アレクシアに迫るテロリスト達。

 

「言わせておけば!」

「アレクシア様を守れ!」

 

それに対して、生徒達が立ち上がり、アレクシアを守る様にテロリスト達と対峙する。

 

「何だこいつら、魔力も使えないのに俺達と戦うつもりか?」

「無謀にも程があるな!」

 

その様子を嘲笑うテロリスト達。

 

「アレクシア様はこの国の王女様で、この国の未来を背負う方だ」

「既にお腹には世継ぎを授かっているのよ!」

「その噂まだ収まってなかったの!?」

 

それに対して、生徒達は誰一人として、怯む事は無かった。

 

「し、しししし、シドの忘れ形見は奪わせんないにょ!」

「ぼ、ぼぼぼぼ、僕達が、シド君に変わって、あにゅきしあおうにょをま、ままま守りましゅ」

 

小鹿の様に震える足でアレクシアの前に立つヒョロとジャガ。

 

「貴方達、…………ただの屑じゃなかったのね」

「「酷い!?」」

 

大講堂は一触即発の雰囲気だった。

 

「沈まれ!」

「「「「ッ!!!」」」」

 

そんな雰囲気を一瞬で鎮圧したのは、全身に鎧を纏った男の膨大な魔力と殺気だった。

 

「勝手な真似は許さん。皆、時が来るまで大人しくしていろ」

「「「「……………………」」」」

 

その言葉に逆らえる者は誰も居なかった。

好戦的な性格をしているアレクシアでも、それは例外ではなかった。

 

「とてつもない魔力と殺気。それにあの隙の無い佇まい」

「万全に魔力が扱えても、太刀打ち出来るかどうか……」

 

アレクシアとローズは鎧の男に対する警戒心を上げた。

元々、鎧の男はテロリストに次々と指示を出しており、リーダー的な存在である事は予想していた。

その佇まいから、相当の実力者である事も分かっていた。

だが、魔剣士に最も重要とされる魔力に関しては未知数だった。

けれど、今の出来事で鎧の男の魔力の一端に触れ、想像以上にヤバい存在である事を認識した。

 

その様子をシェリーは、天上に最も近い高所から見ていた。

 

「お義父さま。何処?」

 

見渡す限りに人、人、人。

大講堂には魔剣士学園と学術学園の教員生徒が集められているが、その中にシェリーの義父の姿はない。

ただ単純に、人込みに紛れて見つけられないのであればまだ良い。

 

「も、もしかして……」

 

シェリーの脳裏に血塗れで倒れる母の姿がフラッシュバックする。

それから全身から血を流して倒れる義父の姿を想像した。

そんな最悪の光景を振り払う様に頭を振った。

 

「だ、大丈夫。きっと大丈夫だから」

 

そう自分に言い聞かせ、アーティファクトを起動させる。

後はこれを大講堂の中に投げ入れれば、強欲の瞳の機能を停止させる事が出来る。

ただ、より確実性を期するならば、より強欲の瞳に近付けさせる必要がある。

シェリーはもう一度、大講堂を見渡して強欲の瞳を探す。

 

「見つけた」

 

強欲の瞳は鎧の男が持っていた。

距離は離れているが、この高さから投げ落とすのであれば届かない距離ではない。

 

「すぅ……、はぁ……。よし、行って!」

 

シェリーは何度か深呼吸を繰り返し、精神を落ち着かせると、意を決して鎧の男に目掛けてアーティファクトを投げ入れた。

アーティファクトはシェリーの狙い通り、鎧の男に向かって飛翔し、空中で強い光を放った。

 

「な、なんだ!?」

「攻撃か!?」

 

突然放たれた光に敵味方双方が混乱する中、アレクシアとローズはいち早く魔力が使える事に気が付き、行動した。

 

「はぁ!」

 

アレクシアは近くのテロリストの腕を掴み、背負い投げて剣を奪った。

 

「やあ!」

 

ローズは魔力を込めた足でテロリストを蹴り殺すと、剣を奪い近くのテロリストを次々と斬り殺して行った。

 

「芸術の国の王女様が血生臭いわね」

戦場(ここ)では誉め言葉ですわ」

 

背中合わせで戦う王女達。

 

「魔力は解放されたわ!」

「今こそ反撃の時!」

「「剣を取り、戦いなさい!」」

 

その号令に、他の生徒達も状況を理解し、一斉に動き出した。

 

「アレクシア王女とローズ王女に続け!」

「剣を奪え!」

「一人で戦うな、複数人で囲って戦え!」

「数はこっちが勝ってるんだ、こりゃ勝ったも同然だ!」

「はは!勝てます。勝てますよ!」

「貴方達もぼさっとしてないで戦いなさいよ!」

「「イエッサー!」」

 

アレクシアの怒号に、慌てて包囲網に参加するヒョロとジャガ。

 

「「ぎゃぁぁぁぁぁ」」

 

そして呆気なく、吹き飛ばされる。

 

「……………………」

 

少し見直したと思えばこれだ。

アレクシアの中でヒョロとジャガの評価が急落した。

元の評価に戻ったと言っても良い。

 

「余所見とは余裕だな。王女様!」

「くっ!」

 

テロリストがアレクシアに斬りかかる。

アレクシアは僅かに苦悶の表情を浮かべつつも、冷静に受け流す。

そのまま反撃に繋げ、男に剣を振るう。

 

「ぐっ、だが浅い!」

「ちっ、強いわね」

「当たり前だ。俺は次期ファーストと名高いセカンドだ!」

 

ファースト、セカンド。

あの夜。シャドウガーデンと名乗る人斬りの仲間が語った事と酷似している。

ならば、学園を占拠したシャドウガーデンは本物ではなく、名を騙る何者に違いない。

アレクシアはそう考えつつ、男の剣戟を冷静に受け流していた。

 

「オラオラ!最初の威勢はどうした王女様!」

「自分よがりの男はモテないわよ」

 

だがそれも長くは続かなかった。魔力が使える様になったとは言え、奪われた魔力が戻る訳ではない。

アレクシアの魔力は既に枯渇寸前だった。

 

「ぐわぁぁぁ」

「ランサーが殺られた!」

「よくもやったわね。この人でなし!」

 

それは周囲の生徒も同じ様子で、数と勢いで押していた学園側も、徐々に被害者を出して行った。

 

パキン!

 

そしてアレクシアも今、魔力を乗せた鍔迫り合いに押し負けて剣が折られた。

 

「ぐへへへへ、剣を失えばただの小娘だな。その御尊顔を誰とも分からないままに殴ってぐちゃぐちゃにしてやぶべら!」

 

テロリストが浮かべるニヤケ面にアレクシアは正拳突きを放った。

 

「アレクシアさん無事ですか?」

「ぐえ!」

 

男は無様に転がった所を、救援に駆け付けたローズにトドメを刺された。

 

「ええ、なんとか」

「そうですか、私の背後に隠れていて下さい。お守りします。シドさんの分まで」

 

ローズは決死の思いだった。

シドさんが身を挺して己を守った様に、今度は己が身を挺してアレクシアさんを守るのだ。

それこそが、想い人を喪わせてしまったアレクシアさんに対する贖罪であり、死んだシドさんに対する弔いなのだから。

そう考えていた。

 

「結構よ」

「ですが、剣を失った貴方に出来る事は……」

「剣が無いのなら、拳で戦えば良いじゃない」

「は?」

 

何を言っているのだと、ローズは思った。

魔剣士は魔力で強化した肉体で、魔力で強化した剣を振るう事で戦う。

確かに、剣を失っても、魔力で強化した肉体で戦えなくもないが、それはあまりにも無謀だ。

生身と武器を持った相手では、リーチも殺傷能力も違う。

その考えはローズのみならず、この世界では共通の認識であり、常識だった。

戦争の歴史を繰り返し、発展してきた地球とは違い。

この世界の脅威は人ではなく、魔物だった。

魔物との戦いを想定して発展してきたこの世界に於いては、対人戦術や技術は未発達だった。

故に、武器を持たずに戦うという自殺行為としか思えなかった。

 

「カラテにアイキドウだったかしら?思いの外、役立つ物ね」

 

アレクシアが構える。

それはローズが見た事のない独特の構えだったが、とても洗練された物に見えた。

 

「アレクシアさん。それは?」

「カラテとかいう体術です。シドが教えてくれました」

「シドさんが、……分かりました。ですが、無茶はしないで下さいね」

「ええ、無駄死には勘弁です」

 

並び立つ王女達。

 

「王女様達が命張ってんだ!お前ら、まだへばってなんか居ないよな!」

「「「「「おおおおおお!!!」」」」」

「王女様達に続くのです!」

「「「「「おおおおおお!!!」」」」」

 

その存在は徐々に押され気味だった学園側戦力の士気を高めた。

 

「迎え撃て、相手は既に魔力の枯渇した魔剣士。恐れるに足らん」

「「「は!!」」」

 

対するテロリスト達も、鎧の男の指示に従い、学園側を迎え撃つ。

 

「くっ、流石に気合だけじゃ、どうにもならないか」

「ですが、状況は悪くありません。何とか、救援が来るまで持ち堪えれば!」

 

士気が高まろうと、それで埋められる差は事が知れている。

学園側の戦力は一人、また一人と地に倒れる。

現実は非情だ。

 

「くっ!」

「アレクシアさん!」

 

アレクシアが地に組み伏せられる。

ローズが救援に向かおうとするが、テロリスト達がそれを阻む。

 

「殺すのは勿体ないが、致し方ない。お前の生首を掲げれば少しは奴らの戦意も落ちるだろう!」

「……ッ!」

 

アレクシアの首目掛けて、剣が振り下ろされる。

 

「アレクシアさん!」

 

ローズは必死に剣を振るった。

込められるだけの魔力を込めて、後の事など一切考慮せず、ただアレクシアを救う為の剣を振るった。

 

「「「ぎゃぁ!」」」

 

それは剣圧だけで、周囲のテロリストを吹き飛ばし、アレクシアの首を刎ねようとしたテロリストの両腕を切断した。

圧倒的暴力。例えるならそんな一振りだった。

人生の中で一番と言える一振りだった。

けれど、ローズの心を満たすのは、人生で最高の一振りを繰り出した優越感ではなく、アレクシアを救えた事実に対する安堵。

 

これで、シドさんに対する義理立ては出来たでしょうか。

 

魔力が枯渇し、朦朧とした意識の中で、ローズはそんな事を考えた。

そんなローズに迫る無数の刃。

 

「ローズ先輩!」

 

アレクシアが叫ぶ。

 

「ローズ王女!」

「生徒会長!」

 

周りの生徒も叫ぶ。

誰も、助けに入る余裕は無い。

皆、目の前の敵で精一杯だった。

誰でも良い。誰がローズ先輩を、王女を、生徒会長を、助けてくれ。そんな願いが重なった。

 

パリン!

 

そして、そんな願いを聞き届けるかの様に、大講堂の天窓が割れ、そこから漆黒を纏った一人の男が舞い降りた。

 

「我等はシャドウガーデン」

 

男は名乗りを上げると共に、ローズに迫っていた無数の刃を鉄屑に変え、その持ち主達を肉塊に変えた。

 

「陰に潜み、陰を狩る者」

 

男は漆黒の剣を掲げると、青紫の魔力の雨が降り注いだ。

 

「……凄い」

「奇跡だ」

 

その雨は傷付いた教員生徒を癒し、枯渇した魔力を回復させた。

 

「我等の名を騙る蛆を一掃せよ」

「「「「「我らが主の御心のままに」」」」」

 

男が指示を下すと、何処からともなくローブに身を包んだ者達が現れて、テロリスト達に一斉に斬り掛かった。

 

「「「ぎゃぁぁぁ!」」」

 

圧倒的な光景だった。

テロリスト達の血飛沫が大講堂を舞い。

ローブに身を包んだ者達は舞う様に剣を振るう。

一方的な虐殺が、繰り広げられていた。

 

「……シャドウ、ガーデン」

 

ローズは男に対し、最大限の警戒心を抱いた。

己の命を救ってくれた恩人とは言え、得体の知れない男だ。

無警戒とは行かない。

その反面、アレクシアは男の、シャドウの登場に安堵した表情を浮かべていた。

 

「シャドウ。学園の占拠は貴方の意思?」

「いいや、我らの名を騙る蛆が勝手に行った事だ」

「そう、良かったわ。貴方達と敵対するのは御免だもの」

「……そうか」

 

まるで旧知の仲の様な態度で会話するアレクシアと男、シャドウの姿に、ローズは目を丸くする。

 

「あ、貴方は、……世界に仇名す存在なのですか?それとも……」

「……善悪の基準は人それぞれだ。立場が違えば善と悪は逆転する事もある。我々を善とするか、悪とするかは、貴様らが勝手に決めろ。俺はただ、シャドウガーデンの名を貶めんとする蛆を駆除しに来たに過ぎん」

 

シャドウが鎧の男が居た壇上に向かって歩み始める。

鎧の男の姿は既に無い。この混乱に乗じて姿を消した。

 

「火事だ!」

「火の勢いが凄い。消火は無理だ。皆避難しろ!」

 

事態は目まぐるしく加速する。

何処からともなく、火の手が上がり、それは一気に大講堂を包んだ。

 

「これ以上の手助けはせんぞ」

「ええ、これ以上の手助けは要らないわ。このぐらい困難でもなんでもないわ」

「そうですね。このぐらい。私達でどうにかできます」

「そうか」

 

シャドウは講堂の奥へ。

2人の王女は講堂の外へ。

双方の歩みは交差した。




去年は大変お世話になりました。
皆様の温かな感想や高評価が励みになりました。

今年もどうぞ宜しくお願い致します。

もし宜しければ、僕に高評価というお年玉くれたら嬉しいです。
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