ここだけシド君に人間性をブレンドした世界線   作:読者その1

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第10話 晴れのち曇り、最期は落雷

火の手は大講堂のみならず、学園全体に広がった。

日が沈み、暗闇に包まれる夜空を、学園から上がる炎が明るく照らした。

そんな中、シドは副学園長室に戻っていた。

一つ、確認したい事があった為、今はシャドウとしての恰好ではなく、シド・カゲノーとしての恰好になっている。

 

「仮装パーティには、まだ早いと思いますけど?ルスラン副学園長」

 

シドの目の前には全身を鎧に身を包んだ男が居た。

大講堂でテロリスト達に指示を下していた鎧男と全く同じ鎧だ。

十中八九、同一人物だ。

 

「やはり、君には気付かれるか……」

 

鎧の男はゆっくりとした動作で兜を取った。

白髪をオールバックにした初老の男の顔が現れた。

それは、最近見知った顔。シェリーが救いたかった義父。

ルスラン副学園長。その人だった。

 

「君は死んだと聞いていた筈なのだが、やはり私自身の手で確実に殺しておくべきだったか。君はこの作戦に於ける一番の不確定要素だったからね」

「それは困る。貴方なら、体を斬り刻んで満足なんてしてくれないでしょう?」

「ああ、その辺の有象無象なら兎も角、君相手なら首を刎ねて確実に死んだ事を確認する」

 

シドとしては、体を斬り刻まれようと、心臓を貫かれようと、死なない自信はあるが、首を刎ねられたら流石に死ぬ。

ルスランが確実に殺しに来ていれば、それに対抗する為にシド・カゲノーとして定めた実力以上の力を発揮しなければならなかっただろう。

それ程までにルスランは強い。

 

「貴方の部下が馬鹿で助かった」

「耳が痛いな。やはり、今度からは重要な仕事は自ら行う事にするよ」

 

それにしても。と、ルスランはシドの佇まいを観察した。

自然体に見えて、何時でも交戦出来る様な姿勢を保っている。

実力は未知数だが、強敵である事は間違いない。

ルスランはそう結論付けた。

 

「僕は、貴方より強いですよ」

「ははは、言ってくれる」

 

ルスランが目を細める。

殺気の乗った鋭い視線だ。

シドは微動だにしない。

その視線よりも、イーシャとアレクシアのやり取りの方が100倍怖かったとも思った。

 

「参考までに聞いて良いですか?」

「……何だね?」

「何故、この様な事を?貴方はこういう事には興味がないと思っていたのですが」

「何故、か……。あれは君が産まれるよりも昔の話だ。私は頂点に立った」

 

ルスランは鎧を脱ぎながら、昔を懐かしむ様子で語った。

 

「ブシン祭の事ですか?」

「ブシン祭など、所詮ままごとに過ぎん。本当の高見はもっと先にある」

「ディアボロス教団のラウンズとか、ですか?」

「ッ!?」

 

ガシャンと音を立てて、鎧が落ちる。

 

「驚いた。その名が出てくるとは……」

 

シド・カゲノーは世界の闇を知っている。

その事にルスランは警戒心が上がった。

 

「その通りだ。私はかつてラウンズに登りつめた。然し、その頂点に立って直ぐ病に掛かり、私が登り詰めた栄光は一瞬にして崩れ落ちた。私はこの病を治す術を探し求め、ルクレシアという研究者とこのアーティファクトに可能性を見出した。ああ、ルクレシアというのは、シェリーの母親だ」

 

そう語り、ルスランは強欲の瞳とシェリーが解析していたアーティファクトを取り出した。

 

「彼女の頭脳はアーティファクトの分野に限って言えば、世界一と言っても過言ではなかった。だが、愚かな女だった。あの女は長年支援してやった恩を忘れ、強欲の瞳は危険だからと、国への管理申請を行った。私の承諾も得ずに、勝手にだ!」

 

その顔は怒りと憎悪に歪んでいた。

 

「だから、殺してやったのだ。体の先から中心へ突いていき、最後は心臓を突き刺し捻じった。実に愉快な死に顔だったよ。あのプライドの高い女が恐怖と苦悶に顔を歪ませる光景は、今でも酒の摘まみになる」

「…………成程ね」

「だが、強欲の瞳はまだ研究途中だった。私は一時の感情に任せて、愚かな選択をした。そう思ったが、直ぐに都合の良い研究者が現れた。いや、当初は研究者の卵と言うべきか」

「シェリーですね」

 

その通りだ。と、ルスランの顔が邪悪な笑みを浮かべた。

 

「ルクレシアは研究に熱心な女だったが、それと同じく娘の事も大切にしていた。彼女は研究の合間に娘に知識を与え、研究者としての英才教育を施していた。後は最高の環境を与えてやれば、ルクレシアの研究を継ぐに十分な素質を持ち合わせていた。まあ、彼女はルクレシアの死に悲しみ、数年程使い物にならなかったから、先ずは精神のケアが必要だったが。全く、無駄な時間を過ごしたよ」

 

やれやれと、うんざりした様子で首を振るルスラン。

その姿に、シェリーに対する思いやりなど、一切存在しない事が分かった。

 

「だが、時間を掛けただけあって、強欲の瞳は完成した。私の望みを成就させるのに十分な魔力の貯蔵も完了した。長年の苦労が報われた最高な気分だよ!はははははは!」

 

ルスランの高笑いが部屋に響く。

 

「愚かな小娘シェリー。彼女は私が親の仇だとも知らずに良く働いた!嗚呼、愚かな女ルクレシア。君は今どんな顔をしているのだろうね!己を殺した男の意のままに動かされた愛娘の姿を見て、どう思っているのだろうね!想像するだけで実に愉快だ」

 

ガタッ、隠し扉の方から音がした。

シドとルスランは同じ方向を向く。

そこには顔を真っ青にしたシェリーの姿があった。

 

「う、嘘ですよね。……お義父さま」

 

彼女は目尻に涙を浮かべ、縋る様な声で聞いた。

 

「嘘だとも」

 

ルスランは笑顔で答えた。

その答えに、シェリーは一瞬笑顔を取り戻す。

だが、次の言葉が再び、シェリーを絶望の底に貶める事になる。

 

「君に対する愛情は全て嘘だ」

 

先程浮かべた笑みとは一転、虫を見る様な冷酷な表情を浮かべるルスラン。

 

「愚かな娘シェリー。君はよく働いてくれた」

 

その言葉、その表情に、シェリーの顔は絶望した表情となり、崩れ落ちる。

 

「……君はもう用済みだ。長い間ご苦労様」

 

ルスランはシェリーを労りながら、剣を抜いた。

 

「私の願いを成就させてくれた礼だ。教団の為にその頭脳を使うのであれば、教団で飼ってやる。断るなら殺す。ルクレシアを殺した時と同じ殺し方で逝かせてやろう」

「そ、そんな……」

 

シドがシェリーを庇う様に立った。

 

「私と戦う気かね?」

「それ以外にないでしょう」

 

シドが剣を抜いた。

剣先はルスランに向けている。

 

「愚かな」

 

ルスランは一気に駆けて、シドに斬りかかる。

その動きはゼノンより洗練されていた。けれど遅い。

シドはルスランの剣を弾き、手の甲を突いた。

 

「がぁ!」

 

咄嗟に背後に飛ぶルスラン。

 

「病に侵され老いた身とは言え、私に一太刀入れるとはな。シド君。ディアボロス教団に来ると良い。私の推薦とその実力があれば、ファーストの座は確実だろう」

「誰が好き好んで、蛆の巣に入ると思う?」

「……少し、調子に乗っているようだね。良かろう、少し老体には堪えるが全力を出そう」

 

ルスランは懐から赤い錠剤を取り出し口に含む。

更に強欲の瞳とその制御装置を胸に押し付け、体に取り込んだ。

その直後、ルスランの体には眩い光を放つ刻印が現れた。

 

「ぐうぉぉぉぉぉ!力が漲るぞ!私を蝕んでいた病が消えてゆくのが分かる。嗚呼、今の私には全盛期を超えた力がある!」

 

肉体は膨張し、荒れ狂う魔力の嵐が周囲の物を吹き飛ばす。

 

「今の私は人知を超えた。超越者!この力があればラウンズへの返り咲きは確実だ!手土産に、シャドウガーデンを壊滅させてやろう。聞けば、構成員は皆、元悪魔憑きだそうだな。研究素材にも、奴隷としても、価値は非常に高いだろうな!」

「酔い過ぎだな」

 

シドはルスランへと手を翳した。

 

「酔いを醒まし、現実を見るが良い。リカバリー」

 

シドの手から放たれた青紫の魔力がルスランを覆う。

 

「な、なんだ、この濃密な魔力は!?やめろ、私の力が、力がぁぁぁぁぁ!」

 

魔力が晴れた頃には、ルスランが放っていた魔力はその鳴りを収め、体に刻まれた刻印は消えていた。

近くには塵化してゆくアーティファクトの残骸があった。

 

「あ、ああ!私の、私の長年の努力が!私の力が、失われて行く!」

 

ルスランは必死に塵と化してゆくアーティファクトを手繰り寄せようとした。

だが、その努力虚しく、アーティファクトは完全に塵となり、崩壊した。

 

「……さて」

 

シドはシェリーの方を向く。

 

「今からこれ、殺すけど、何か最期に話しておく事はある?」

 

シェリーがルスランに視線を向ける。

そこにあるのは、心優しかった義父の姿ではなく、欲に囚われた醜い老人の姿だった。

その姿を見て、彼女の脳内には母が殺された惨劇の光景が蘇る。

 

『馬鹿な女だ』

 

ああ、そうだ。

あの時。私は犯人の姿を見ていた。

 

『大人しく私の言う事を聞いていれば良かったものを……』

 

返り血に濡れ、血塗られた剣を握った。

お義父さまの姿を、確かにこの目で見ていた。

なんで、今日まで忘れていたのだろうか……。

 

「…………ありません。母と同じ目に遭わせて下さい」

 

シェリーの顔には怒りと憎悪が浮んでいた。

 

「心得た」

 

シドの周りを黒いスライムが覆うと、その姿をシャドウの装いに変えた。

 

「な、君が、……貴様がシャドウだったのか!?」

「その通り。貴様は俺の大切な存在を、シャドウガーデンの名を汚した。その大罪は貴様一人の死で償える物ではないが、かと言って、貴様を生かす理由にもならん。貴様は最大限の苦悩を味合わせて殺してやる」

「ははは、随分と舐められた物だな。力を失ったからと言って、ただではこの首は討ち取れんぞ!」

 

ルスランが斬りかかる、それをシドは最低限の動きで捌く。

そして仕返しとして顎を蹴り上げた。

 

「があぁ!?な、舐めるな!!」

 

ルスランの剣戟が繰り広げられる。

その全てをシャドウは必要最低限の動きで躱す。

 

「ごほっ、ごほっ!」

 

暫くして、ルスランは胸を抑えて膝を突き。吐血した。

激しい運動で、一瞬はアーティファクトで完治した持病がぶり返したのだ。

 

「どうした、綺麗な石でも落ちていたか?」

「な、めるなよ。若造!」

 

シャドウは手を翳し、魔力を放つ。

すると、ルスランの傷は瞬く間に癒え、持病も完治する。

 

「な!?馬鹿な、こんな事が……」

 

ルスランが驚愕に満ちた表情でシャドウを見上げる。

シャドウは淡々とした表情で見下した。

 

「貴様の病程度、治癒の技術を磨けば癒すのは容易い」

「馬鹿を言うな!私の病は世界に名を轟かせる名医でも、教団の技術を以てしても完治は不可能とされる難病だぞ!」

「鍛錬不足だ。貴様がするべきだったのは、アーティファクトの解析ではなく、自己鍛錬だ」

「み、認められるか!認めてなるものかぁぁぁぁぁ!」

 

ルスランが吠える。

 

「私のこれまでの研鑽も、努力も全てが無駄だったとでも言うのか!」

「そうだ。貴様のこれまでやって来た事は全て無駄だ」

「クソが!だが、私を否定する為に、私の病を癒したのは愚策だったな。肉体は全盛期を過ぎたが、技は全盛期より更に洗練されている。病という楔から解き放たれた以上。貴様に勝ち目はない!」

「ならば、その全てをぶつけるが良い」

 

見え見えの挑発であったが、その挑発にルスランは激昂した。

 

「後悔しても知らんぞ!」

 

ルスランはこれまで築き上げた全身全霊を以て、剣を振るった。

その剣戟は全盛期にも勝るとも劣らない物だと、胸を張って言える物だった。

然し、その一振りはシャドウに簡単にあしらわれた。

 

「ば、馬鹿な……」

 

バキン。

ルスランの剣が鉄屑となり、宙を舞う。

 

「その程度か、ならば、今度はこちらの番だ」

「や、やめろ!」

 

今度はシャドウの剣戟が繰り出される。

その動作に一切の無駄は無く、魔力すら纏わぬ剣戟。

だが、その剣戟にルスランは抵抗する事すら出来なかった。

両手、両足、手から腕へ、腕から肩へ、足から腰へ、腰から胴へ。ルスランは反応すら出来ない速度と無駄のない剣技で突かれて行った。

 

ば、馬鹿な。これ程。

これ程までに実力差がある物なのか……。

私を超越した剣技。肉体。

魔力すら纏わず、これ程までの領域に辿り着ける物なのか……。

ルスランはシャドウの力に驚愕し、やがて来る死の恐怖を感じた。

 

「……だが、どれだけの力を有していようとも、……貴様らは終わりだ」

 

シャドウの剣がルスランの胸を貫く。

 

「ごあぁ…………」

 

ルスランの口から零れた大量の血がカーペットを濡らす。

既に手足は使い物にならず、力無く垂れている。

今はシャドウの剣に吊るされている様な状況だ。

そんな状況下で、ルスランは不敵に笑う。

 

「今回の一連の事件は全て、シャドウガーデンの仕業になる様に仕向けた。……貴様らは今後、裏からは教団。表からはテロリストとして国から追われる事となる。……幾ら強力な組織であろうと、教団の記録を見る限り、結成して数年程度だろ。直ぐに貴様らは破滅する。があぁ!」

 

ルスランの体に青紫の光が血管の様に広がった。

 

「一つ、礼を言っておこう。貴様のお陰で俺はある事を学んだ」

 

光が強くなる。

 

「がぁぁぁ!」

 

ルスランの顔が苦痛に満ちる。

 

「人は怒りの沸点を超えた時、逆に冷静になるのだと知った。故にその礼だ。貴様は塵一つ残さず、消し飛ばしてやろう」

 

シャドウが剣を抜く。

崩れ落ちるルスランを蹴り上げる。

 

「がぁぁぁぁぁぁ!」

 

ルスランの体は屋上を突き破り、天高く舞った。

 

「アイ・アムーー」

「や、やめてくれ!」

 

再び、落ちてきたルスランの心臓を貫いた。

 

「アトミックソード」

 

次の瞬間、青紫の魔力の柱が現れた。

その柱は雲を突き破り、それが放つ光は王都全土を照らした。その威光を多くの者が目にした。

光が収まる頃、そこに残ったのは剣を天に掲げるシャドウと、瓦礫と化した副学園長室。

そして、その一連の流れを見ていたシェリーだけだった。




本編で出す機会の無かったルクレシア(シェリーママ)とルスランの会話
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「今、何と言ったルクレシア」
「このアーティファクト。強欲の瞳は危険だわ。ルスラン。だから、国に管理してもらう様に申請をしたわ」
「申請しただと!?私の承諾も取らずにか!?」
「貴方、絶対に反対するでしょう?」
「当たり前だ!このアーティファクトの解析の為、私がどれだけの援助をしてきたと思っている!?学会に疎まれ、様々な組織や国家からの刺客から貴様を守ってやったのは誰だ!?」
「…………貴方には感謝している。けれど、この強欲の瞳は本当に危険なの!分かって頂戴!」
「そんなの知った事か!このアーティファクトが危険な物だろうと、それで100人死のうが、1000人死のうが、構いやしない」
「なっ!?それが貴方の本性だと言うの?」
「ああそうだ。私は貴様が協力を拒んだディアボロス教団の人間だ」
「何てこと、貴方の事を信じていたのに!もう貴方の研究には協力しないわ」
「そうか、ならば死ね!ルクレシア!」
「なっ!や、止めて!!」

その後、ルクレシアは滅多刺しにされて死ぬ。
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Q.シェリーがルスランが犯人だという事を忘れていたのは何故?
A.ルスランが少し前の記憶を忘却するアーティファクトを使用したから。

学園編は次話で終了です。
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