ここだけシド君に人間性をブレンドした世界線   作:読者その1

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第11話 エピローグ

血塗れで倒れていた少年を保護した。

その知らせを聞いた時、アレクシアは直ぐ様、救援テントに駆け付けた。

 

「やあ、そんなに慌ててどうしたの?」

 

テントに辿り着くと、血塗れの制服に身を包んだ少年。シドがアレクシアを出迎えた。

その様子を見て、アレクシアはシドの体を触った。

制服は斬り裂かれ、大量の血を流した痕跡はあるが、体は無傷である事を確認して、アレクシアはその場に座り込んだ。

 

「はあ~~~」

 

その表情は安堵に満ちた表情だった。

 

「心配した?」

「……………………してない」

 

嘘だろ。と、シドは思ったが、そこは敢えて追及はしなかった。

アレクシアの様子から、かなり本気で心配を掛けた様子が見て取れたからだ。

 

「良かったですね。アレクシアさん」

 

その様子を遠目で見ていたローズは目尻に涙を浮かべていた。

 

--------------------

 

事件の翌日。

シャドウの名と、彼が率いるシャドウガーデンの名は王都中に広まった。

 

「やられたわね」

 

そう呟くアルファの手には一枚の手配書が握られていた。

机にはシャドウに関する記事と昨日発生した学園占拠事件に関する記事が並んでいた。

 

「ディアボロス教団。まさか、こんな手段を取ってくるとは……」

 

側に立つガンマは苦虫を噛み締めた様な表情を浮かべていた。

 

「学園の占拠及び放火。捉えた学園の教員生徒を面白半分に拷問して、多くの死者と重傷者が出た。とんだ極悪人ね」

 

シャドウが大講堂に突入した時、捕らわれていた多くの教員生徒を治癒した。

だが、それはまだ息のあった者だけだ。シャドウが突入するまでの間に殺された者達までは蘇生出来なかった。

また、火の手が回ってから出た被害者も少なくない。

結果として、昨日の事件で出た死傷者の数は100人を超えるとされており、前代未聞のテロ事件として、そのニュースは瞬く間に広がった。ミドガル王国だけでなく、世界中に広まるのも時間の問題だ。

 

「まさか、王都を騒がせる人斬り事件が、ここまで大きな事態に発展するとはね」

「もっと、事態の収拾に力を入れるべきでした」

 

悔やんでも悔やみきれない。

2人の表情は後悔の念が浮かんでいた。

 

「首謀者は既に死んだのよね?」

「ええ、シャドウ様の手によって、塵一つ残さず消されました」

「あの光ね」

 

アルファとガンマの脳裏には、王都を照らした光の柱が鮮明に浮かんだ。

 

「あれがシャドウ様の至高の一撃」

「周囲への影響が大きくて、滅多にお目に掛かれない物よ」

 

決して人の身では辿り付けぬ至高の領域。

あれこそがシャドウの本気の一撃であり、力の一端。

シャドウガーデンに在籍する者であれば、その光景を目にする事の出来なかった者は、その光景を目にした者に嫉妬し、目にした者はよりシャドウに対する尊敬の念が強まるであろう。

実際、本日のシャドウガーデン内では、王都を照らした光の話題で持ち切りだった。

 

「シャドウは、今回の件は私達には何の落ち度も無いと言っていたわ」

「なんと寛大なお心」

 

その言葉に、ガンマは少し表情が緩んだ。

だが、直ぐに表情を引き締めた。

 

「……ですが、そのお心に頼ってばかりでは、行けませんね」

「ええ、その通りよ。彼に失望される事だけは、避けなくては。……これが、彼を引き留める要素の一つになれば良いのだけれど」

 

そう語り、下腹部を愛しそうに撫でるアルファ。

 

「まさか、アルファ様!」

「……残念ながら、まだよ」

「そう、ですか……」

 

その報告に、ガンマは自分の事の様に落ち込んだ。

 

「ええ、獣人や人と違って、エルフは種族的に孕み難いから、仕方ないわ」

「イータに妊娠促進剤の研究を始めさせますか?」

「それは、……………………そうね。お願いするわ」

 

長い葛藤と思考の末、アルファはガンマの提案を呑んだ。

ディアボロス教団に対抗するのに使うべき資金を、この様な事に使っても良いのかとも思ったが、それ以上にシャドウに見放されない事への保険を作る事を優先した。

今回の件で、シャドウが自分達が思っているより、シャドウガーデンを大切にしてくれている事を知った。

王都の路地裏で、シャドウガーデンを騙る不届き者共を誅伐した際、普段滅多に感情を表さない(シドとして振舞う時は別として)シャドウが怒りを表した。その報告を聞いた時、アルファを始めとして七陰は感動に震えた。

だからこそ、前よりもシャドウに見放される。そんな可能性に対する恐怖心が増した。

 

「少し、臆病になってしまったかしら?」

「いえ、私も同じ気持ちです」

 

--------------------

 

大講堂を種火に発生した大火は、隣接する建物に燃え移り、幾つもの建物を全焼させた。

然し、学園の広さ故に魔剣士学園全体の被害範囲としては、半焼。

学術学園には被害が無かったので、学園全体で見れば被害範囲は四分の一程度だ。

いや、この被害範囲を四分の一程度とするべきか、四分の一にも及んだとすべきかは、議論の余地があるかも知れないけど、今は置いておこう。

 

「お待たせしました。シド君」

 

僕の前に現れたのは、小さな鞄を持ったシェリー。

 

「それだけで良いの?」

「はい。私物は全部、昨日の火事で焼けてしまいました」

「親しい友人との別れは?」

「もう、意地悪ですね。研究一筋だった私に、まともな友達が居るとでも?」

「ここに居るじゃないか」

 

シェリーは目を丸くした。

そして、少し間を置いて微笑んだ。

 

「そうでした。でも、シド君はこれからも長い付き合いになるじゃないですか。あ、でも、今後は私のご主人様になるんですから、少し馴れ馴れしいですかね?」

「普通で良いよ」

 

今更、シェリーにシャドウ様とか呼ばれたくない。

それはそれとして、彼女はシャドウガーデンで保護する事にした。

昨日、ルスランを消し去った後、僕は彼女に聞いた。

 

『さて、シェリー。君はこれからどうする?』

『…………私は』

『君の頭脳を欲しがる組織は多くある。ルスランが君を利用した様に、今度はルスランが所属していた組織。ディアボロス教団が君を利用しようとするだろう』

『……ディアボロス教団』

『魔人ディアボロスの復活を目論み、世界を裏で牛耳る組織だ。君の母を殺したのはルスランでも、元凶はディアボロス教団にあるのだろう』

『全ての、元凶……』

『君が世界の闇と戦う意思があるのであれば、俺の手を取れ、シャドウガーデンはお前を歓迎する』

『…………宜しく、お願いします』

 

僕の差し伸べた手を彼女は取った。

シェリーはシャドウガーデンの一員となり、ディアボロス教団と戦う道を選択した。

ならば、その意思を尊重しよう。

魔剣士学園はあの火災で、学園施設が半焼した事により、夏休みが前倒しになった。

僕とシェリーはその夏休み期間を利用して、アレクサンドリアを目指した。

僕一人なら一日と掛からない道程だが、シェリーが居る為、今回は馬を使って数日掛けての長旅をした。

そして長い時間を掛けて辿り着いたのは日の光も届かぬ、深い霧に包まれた森。

 

「こ、ここは、深淵の森ですか?」

「何それ?」

「一度入ったら決して出られない伝説の森です。実在していたなんて……」

 

ここって、そんな凄い森だったの?

こんぐらい深い霧に包まれた森なんて、探せば幾らでもありそうだけど。

 

「まあ良いや。入るよ」

「ほ、本気ですか!?お化けとか、出てくるかも知れませんよ?」

「この森に居るのは、僕の仲間ぐらいだよ」

 

そう言えば、昔はドラゴンが居たっけ?

中々強くて、ガチアトミックを放った数少ない強キャラだったな。

 

「僕の側を離れないでね。迷子になっちゃうから」

「は、はい!」

 

シェリーは僕の腕に抱き着いてきた。

小動物の様な見た目して、意外と良い物持ってるな。

 

「いや、そこまで密着しなくても……。いや、何でもない」

 

涙で潤んだ目で見上げられたら、何も言えない。

この子、僕より歳上だよね?

 

僕はシェリーと腕を組む様な形で森を歩いた。

最終的には、馴れない山道に疲れたシェリーを背負って歩く事になった。

流石に研究職の彼女に、この山道は辛かったみたいだ。

それから暫くして、深い霧が晴れた。

 

「ほら、あれがアレクサンドリアだ」

「わぁ!」

 

シェリーが目を輝かせる。

その先にあるのは、日の光に照らさた古の都アレクサンドリア。

僕ら、シャドウガーデンの拠点だ。

 

「古の都アレクサンドリア!おとぎ話に出てくる伝説の都!本当に実在していただなんて!これは世紀の大発見ですよ!」

「公表しないでね?」

 

子供の様に無邪気な笑顔でアレクサンドリアを見渡すシェリー。

こりゃ、多分聞こえてないな。

僕はシェリーの気が済むまで待って、古城の城門まで歩いた。

門には2人の少女が武器を携えて警備していた。

僕達の姿に少女は怪訝な表情を浮かべたが、直ぐに姿勢を正して敬礼した。

 

「こ、これはシャドウ様!」

「大変失礼しました!」

「楽にして良いよ」

「「は!」」

 

2人とも凄い緊張した面だ。

そんなに緊張する必要も無いのに。

シャドウガーデン以外に立ち寄る事の出来ない場所にありながら、見慣れない人物に対しての警戒を怠らない。

 

「君達は優秀な門番だね」

 

僕は嘘偽りの無い本心で、彼女達の仕事ぶりを称賛した。

 

「「きょ、恐縮です」」

 

うん。僕が何言っても逆効果になりそうだ。

僕はシェリーを連れて、城門を通過した。

彼女達には後で、給料を上げる様にアルファに進言しておこう。

 

「す、凄いです。あんな怖そうな人達を従えるなんて、流石です」

「…………ありがとう」

 

正直、あまり嬉しくない。

それから暫く歩き、僕はイータの研究室に訪れた。

 

「イータ居る?」

「「「ん~~~!」」」

 

研究室のドアを開けて、中に入ると、猿轡を付けられた全裸の男が3人磔にされていた。

 

「ふへへへ、これは最近開発した性転換薬。これを使って、一人を女にして、モルモット。増やす。さて、誰に投与するか……」

 

その傍らには怪しげな注射を持ってあくどい笑みを浮かべるイータの姿。

 

「「「ん!?ん~~~!!」」」

 

磔にされた男達から助けを求める様な視線を向けられた。

僕はそっと、扉を閉じた。

 

「出直そうか」

「え、あ、えっと……」

 

シェリーは顔を赤面にして狼狽していた。

どうやら、男の裸を始めて見た様子だ。

初めて見る異性の裸が、磔にされた姿だなんて、彼女の性癖が歪まないか不安だ。

 

「マスター。何か、用?」

 

研究室からイータが姿を現した。

手に持っている注射器の中身は空だった。

使用済みらしい。

 

「ああ、君の助手を連れてきた」

「助手?」

 

僕はシェリーの背中を押して、イータに見せる。

 

「彼女はシェリー・バーネット。新たにシャドウガーデンの一員となる」

「シェリー・バーネット?ああ、あの、アーティファクトの研究者」

 

イータが品定めする様に、シェリーの全身を見渡す。

 

「弱そう」

「うっ」

「まあ、悪魔憑きじゃないからね。戦闘力で言えばシャドウガーデン最弱だね」

「うっ!」

「最弱のガンマよりも、弱い?」

「弱いだろうね」

「うぅぅぅ……」

 

涙目になるシェリー。僕は彼女の頭を撫でて慰めた。

 

「チッ」

「舌打ちした?」

「…………してない」

 

あらら、イータが拗ねてしまった。

 

「ごめんって、まあ、彼女の本分は研究職だ。君の助手として面倒を見てあげてよ」

 

僕はイータの頭を撫でた。

彼女はトロンとした表情で僕に体を預けた。

君も僕より歳上だったよね?

シェリーといい、イータといい、僕の周りのお姉さんはこんなんばかりか?

 

「マスターのお願い。なら、しょうがない。……でも、一つ条件が、ある」

「言ってみな」

 

まあ、彼女が求める対価は大抵研究の実験台になる事だけど。一応聞いてみる。

 

「今度、実験に、付き合って」

 

やっぱりそうだ。

 

「良いよ」

「言質取った。撤回は、出来ない……」

 

計画通り。そう言わんばかりに歪んだイータの表情に、僕は早まったかな。と、少し後悔した。

だが、一度承諾した事を撤回するのは陰の実力者らしくない。

 

「あまり派手な実験やリスクの大きいのはNGだからね」

 

僕も出来る限りの事は譲歩しよう。

だが、譲れない線引きという物もあるので、そこら辺はしっかりしておこう。

 

「大丈夫。派手でもなければ、リスクもない……」

「おや、珍しいね。何の実験?」

 

彼女の事だから、解剖させろだとか、転移装置の被検体になれだとか、僕じゃないと絶対出来ない様な無理難題を言って来るかと思ったのだけれど。

 

「妊娠促進剤の実験」

「……………………はい?」

「えぇぇぇぇぇぇ!?」

 

僕の間抜けな声は、シェリーの絶叫で掻き消された。

 

「そ、そんなのダメですよ。シド君にはアレクシアさんという恋人がいるのですから!!」

 

あ、それNGワード。

 

「……………………アレクシア・ミドガル。やはり、殺すべきか」

 

トロンとした表情から、冷徹な表情を浮かべるイータ。

あ、これガチでヤバい奴だ。

 

「待って、待って、待って!」

 

僕は慌ててイータを止める。

 

「イータ様。討伐計画書はこちらに」

「ニュー何処から湧いて来た!?」

「ふむ、全て、任せる」

「任せちゃ駄目!」

「何々、とうとうあの王女様を始末出来るの?」

「おや、それは朗報ですね。シャドウ様の隣に相応しいのは、銀髪エルフの美少女である事を証明する時が来たのですね」

 

騒ぎを嗅ぎ付けたゼータとベータが訪れた。

場は混沌と化していた。

 

「あわわわわ、大変な事になっちゃいました!」

「全くだよ!ニュー。その作戦はシャドウの名の下に永久凍結する!」

「では、毒殺計画は如何でしょうか?」

「そう言う問題じゃないよ!」

 

その後、意気揚々と武器の準備をするゼータを止めたり、

捏造記事でアレクシアを社会的に殺そうとするベータを止めたり、

ラムダとアレクシアの討伐隊編成を行おうとしていたニューを止めたり、

色々と大変だった。

 

「ですから、シド君にはアレクシアさんという恋人がいるんです!」

「マスターは、私達のマスター。……ぽっと出の王女には、渡さない」

 

シェリーとイータは、僕とアレクシアの関係に対しての話題で対立した。

僕はどうした物かと、頭を悩ませた。

 

「ええ、ですから、このアーティファクトはーー」

「成程。それは中々面白い。なら、更にこうすればーー」

 

けれど、アーティファクトの話題になると、2人は意気投合してアーティファクト雑談に熱中した。

こんなに興奮しているイータは初めて見るかも知れない。

別の意味で興奮している姿なら、何回も見た事があるけど。

 

「それは凄いアイディアですね!これなら強欲の瞳と同じ効果のアーティファクトを、より危険性の少ない方法で量産できます!凄いです。イータさん」

「お前も、中々面白い。……これが成功すれば、核融合炉の実現に、近付く」

 

何か、凄い話に発展してる。

でもまあ、シェリーが受け入れられたようで何よりだ。




以上で学園編は完結です!

ストックが無いので少し投稿間隔が空きますが、次章は話が完成次第、投稿して行きます。

面白い。早く続きを見たいという方は高評価を、既に評価済みの方は感想をお願いします。
大変励みになります。

追記
活動報告で今後のシェリーの名前のアイディアを募集しています。
もし宜しければ、コメントをお願いします。
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