アレクシアと混浴したのが早朝。
性欲を持て余している僕の下にイプシロンが現れたのが、その直後の出来事。
ささっと、発散して宿に戻るつもりだったけれど、思いの外盛り上がって現在は昼過ぎ。
時間にして、恐らく6時間以上ぶっ通しでヤってしまった。
僕は今、宿の部屋で正座をさせられていた。
目の前には赤い魔力を怒りのオーラの様に荒ぶらせている姉さん。
「私を置いて、何処に行っていたのかしら♪」
笑顔が怖い。
「えっと、……温泉巡りに」
嘘は言っていない。
実際、イプシロンとの行為の後に温泉に入ったし。
「ふーん。その割には雌の匂いがするのは何故かしらね?」
「…………き、気の所為じゃないかな?」
馬鹿な、イータ特製の消臭剤と温泉に入って匂い消しは十分。
今の僕からは温泉の匂い以外はしない筈だぞ。
「私が嘘を吐いているとでも?」
「め、滅相も無い」
真実を当てられて驚愕しているよ。
「……………………まあ良いわ」
おろ?てっきりボコボコにされた挙句、今日一日は馬車馬の如く扱き使われると思っていたのだけれど。
「出かけるわよ。準備しなさい」
僕は部屋に立て掛けられていた剣を投げ渡され、それをキャッチする。
「出かけるって、何処に?」
「女神の試練よ」
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時刻は2時を過ぎた頃。
リンドブルムを代表する闘技場には今、世界中から人が集まり、熱気で包まれていた。
『皆様、お待たせしました。これより女神の試練の開催式を始めます』
声を大きくするアーティファクトを通じて、先日殺された大司教の代理ネルソンの声が闘技場に響く。
「「「うぉぉぉぉぉぉ!」」」
闘技場から、待ってましたとばかりに歓声が上がる。
『では先ずは、来賓の方を紹介します。先ずは最近人気を博している小説家ナツメ・カフカ先生』
どうぞ。と、ナツメはネルソンからアーティファクトを受け取る。
『ナツメ・カフカです。この様な場にお呼び頂き、光栄です。挑戦者の皆さん。応援してまーす♪』
「「「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」」」」」
再び闘技場から歓声が上がる。
心なしか、先程の歓声よりも大きな歓声に、ネルソンは少し複雑な心境になる。
『続いて、紹介致しますは、ミドガル王国の第二王女アレクシア・ミドガル殿下です』
ナツメからアレクシアへ、アーティファクトが回される。
『アレクシア・ミドガルです。皆さん。頑張って下さいね♪』
「「「お、おぉぉ!」」」
民衆向けの笑顔を浮かべたアレクシアに、歓声が上がる。
「ふっ」
己より小さな歓声に、ナツメは失笑し、勝ち誇った様な笑みを浮かべた。
アレクシアは笑顔を浮かべながら、隣のナツメを睨んだ。
「アレクシア殿。アーティファクトをローズ殿へ」
アレクシアはネルソンに急かされるまま、隣のローズへと、アーティファクトを手渡す。
式典の場とは言え、アレクシアはネルソンの言う事を素直に聞かねばならない現状に不満を抱えていた。
『続きましては芸術の国と名高いオリアナ王国の王女。ローズ・オリアナ殿下です』
元々黒い噂が絶えない大司教の監査に訪れたアレクシアだったが、その監査対象である大司教が数日前に何者かに殺された。それにより、監査の話は無しだと抜かし、調査協力を拒んだ張本人こそ、ネルソンだ。
『ローズ・オリアナです。本日、この様なーー』
大司教の監査が行われれば、何かしらの不都合が明るみになるので、その前に何者かが大司教を殺したのは明白。
そして大司教という、要人が殺されたにも関わらず、何の混乱もなく大司教代理の座に就いたネルソンという男。怪しくない訳が無い。
『以上です。長々と語ってしまい申し訳ありません』
『いえいえ、とても素晴らしいお言葉でした』
とは言え、アレクシアに出来る事は何も無い。
聖教の聖地であるリンドブルムが持つ影響力は凄まじく、強引な手段で調査を進めれば民衆や他国からの圧力が掛かる。
それによって、ミドガル王国が被る被害の事を考えれば、監査には慎重を期する必要がある。
その事は理解している。
けれど、理解しているからと言って、納得出来るかは別の話だ。
『本来でしたら、この場に最近話題の音楽家シロン殿も訪れる予定でしたが、本日は体調不良につき欠席となります』
アレクシアはふてぶてしくも、司会を務めるネルソンが気に入らなかった。
「「「「「えぇぇぇぇぇ!」」」」」
後、この場に居ないのに、自分への歓声よりも大きく残念がられるシロンの存在と、隣で笑みを浮かべるナツメの存在も気に入らなかった。
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「全く、何してんだが……」
ナツメ改め、ベータは気に入らなかった。
その要因の一つは、この場にシロンとして参加する予定だったイプシロンだ。
主であるシャドウ様の寵愛を一人で受けて動けなくなるのは当然の事だ。
何故、その場に自分が呼ばれなかったのかと、嫉妬はあるが、理解はしている。
聡明な主はきっと、自分が今日は女性特有の周期の日である事を見抜いたのだろう。
まともに寵愛を受けられないなんて恥を晒さない様に、気を使ってくれたに違いない。
任務を控えているイプシロンを抱いたのも、有名小説家ナツメと有名音楽家シロンの立場で収集可能な情報は既に完了済みで、後の表での活動はナツメのみで充分と判断されての事だろう。
事実、この後の任務にもナンバー2のアルファと七陰最高戦力のデルタが控えている上、主が今回の件に参加するのであればイプシロンは過剰戦力と言っても良い。
理解はしている。けれど、女としての魅力でイプシロンに負けた気がして気に入らない!
「ふふふ、ナツメ先生。笑顔がぎこちないですよ」
「ええ~、そうですか~♪」
だが、それ以上に気に入らないのが、右隣で民衆向けに笑顔を浮かべるアレクシア・ミドガルの存在だ。
何か深い訳があっての事だろうが、それでも敬愛する主様がこの様な女と交際している事実そのものが受け入れがたい。
主様との子供を孕んだと言う噂を耳にした際には、七陰総出で本気で殺そうとした程だ。
最終的には主様の説得によって、主様との交際は傍観するという事で我慢しているが、本音を言えば今すぐにでも殺してやりたい。
「あれ、寒気が……」
「ふふふ、夏風邪ですかね~」
偉大なる主様がたった一人の女しか娶れない何てことは有り得ない。
故に主様が何人の女を娶ろうと、構いはしない。
けれど、ならば最初に娶られるのは自分か、七陰の誰かでないと納得できない。
少なくとも、ぽっと出で王女という肩書以外に何も持ち合わせない女が最初に娶られるなんて事実は受け入れられない。
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女神の試練が始まった。
僕は姉さんに引っ張られるがままに、闘技場に連れてこられた。
闘技場は人集りが出来ており、入場するのも一苦労だろうと思ったけれど、姉さんが一枚の紙を見せると、長蛇の列に並ぶこと無く入場出来た。
但し、観客としてではなく、挑戦者として。
「なんで!?」
「何よ、いきなり」
「それはこっちの台詞だよ。いきなり連れてこられて女神の試練に挑戦しろって、急過ぎない?」
僕は今、姉さんと一緒に選手控室に訪れている。
まわりには武装した魔剣士達がずらり。
「おいおい冷やかしか?ここはガキの来る所じゃねぇぞ」
眼帯をした褐色肌の大男が現れた。
「何よアンタ」
「俺はクイントン。女神の試練は初参加だが、ブシン祭には何度も出場している」
「クイントン?知らない名前ね。大方序盤で退場する雑魚じゃないの?」
「……口には気を付けな姉ちゃん。俺は女にも容赦しねぇぜ」
君も口には気を付けた方が良いよ。
姉さんは誰にも容赦しないから。
「毎回、お前らみたいな威勢だけの大した実力もない雑魚が場を白けさせる。困るぜ。弱者は弱者らしく、家でままのおっぱいでも吸っていてほしいもんだ」
「そう、なら帰るべきは貴方の方ね」
「ああ?」
「私もシドも、貴方より強いもの」
姉さんが自慢げに胸を張る。
挑発するのは勝手だけど、僕を巻き込まないでほしい。
「言うじゃねぇーか。なら、俺とお前、強いのがどっちか、はっきりさせ……」
バタンと、男が倒れる。
「は?いきなり喧嘩を売って、勝手に倒れた?」
「おいクイントン。どうした?」
突然の出来事に、周りで様子を見守っていた挑戦者達がざわめく。
姉さんは僕の方を見て怪訝な表情を浮かべて、何かを言いたげに口を開く。
「周りの人間は何が起こったか分からない様子だけど、私には何が起こったか見えていたわよ」
姉さんよりも速く、側にいた青髪の少女が僕に語りかけて来た。
「顎に一発。恐ろしく速いパンチね」
自慢げな表情を浮かべる少女。
残念ながら外れてる。
「違うわ。顎と鳩尾に一発食らわせた後に、背中に蹴りよ」
「えっ!?」
自慢げな表情が崩れ、僕の方を向く少女。
「あ、うん。姉さん正解」
僕がそう言うと、青髪の少女は赤面してこほん。と、咳払いをした。
「私は、アンネローゼ・フシアナス」
青髪少女改め、アンネローゼさんが右手を差し出した。
僕がそれを掴もうとすると、姉さんが割って入って、アンネローゼさんの手を払った。
「そう、自己紹介ありがとう。節穴さん」
「……アンネローゼで良いわ」
「そう、私はクレアでこっちはシド。私達、試練の準備で忙しいから消えてくれるかしら?」
何で姉さんは、毎回対立する様な態度取るの?
「……………………」
ほら、アンネローゼさんも笑顔で固まってるよ。
目元が笑ってない笑顔で固まってるよ。
もっと穏便に行こうよ。
「そう、クレアさんね。女神の試練に出るくらいだし、今年のブシン祭にも出場するのかしら?」
「ええ、学生枠でね」
「……そう、覚えておくわ」
アンネローゼさんはそう言い残すと、僕達の下を去った。
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それから時が経ち夜。
長々と続いたセレモニーが終わり。女神の試練が開始された。
「次、クイントン」
試練はつつがなく、進んでいた。
女神の試練は毎年数百人が参加するが、その中で戦えるのは10人程度。
カーン。
古代の戦士が現れず、退場を促す鐘が鳴る。
今までに99人が出場し、鐘の音がなったのも99回目だ。
つまり、まだ誰も古代の戦士を呼び出せていない。
今回の女神の試練の参加者は1000人近く居るらしい。確率で言えば、そろそろ古代の戦士を呼び出す頃合いなのだけれど。
「次、ゴ・リーラ」
次に現れたのは、ナックルを装備した筋骨隆々のゴリラの獣人。
腰には幾つかのバナナが装備され、右手には半分程無くなったバナナ。
「ハヤク、タタカワセロ!!!」
うん。デルタより頭の悪そうな獣人だ。
カーン。
見た目は強そうだったけれど、退場を促す鐘が鳴る。
「ウキィィィィィィ!!!」
ゴリラの癖に、猿の様な雄叫びを上げて退場した。
「次、ミドガル王国騎士団所属ランサー」
ゴリラ獣人と入れ替わりで現れたのは、ミドガル王国の騎士の恰好をした槍使いだった。
「何か、見覚えのある顔」
「そこそこ腕の立つ騎士よ」
「へえ~」
他人に辛辣な姉さんにしては、かなり高い評価だ。
「どんな人?」
「学生の身でありながら、騎士団に所属する槍使いの騎士よ」
「強いの?」
「見ていれば分かるわ」
顎で指された闘技場を見る。
そこからは光の門が現れ、古代の戦士が現れた。
「つ、ついに古代の戦士が現れたぁぁぁぁ!」
「「「うぉぉぉぉぉぉ!!」」」
闘技場のボルテージが上がる。
隣で、やはりねと、姉さんが呟く。
「古代の戦士よ。いざ、尋常に勝負!」
ランサーさんが駆け、古代の戦士に槍を振るう。
魔剣士としては珍しい、無駄のない洗練された動きと槍捌きだ。
魔力の使い方も、全身に魔力を纏わせて強化するのではなく、要所要所で必要な個所に必要な分の魔力を纏わせている。
かなり熟練した魔力操作術だね。ガンマやデルタに見習わせたい程だ。そして僕好みの戦い方だ。
成程。姉さんが高い評価を付けるだけあって、強い。
「「「「うおぉぉぉぉぉぉ!!!」」」」
白熱した戦いに会場は今日一番の盛り上がりを見せる。
かくいう僕も、この試合の行く末が気になった。
けれど、そんな盛り上がりと裏腹に、戦いは意外な形で終わった。
「うお!?」
ランサーさんは足を滑らせて、転んだ。
その隙にランサーさんは古代の戦士に斬られて倒れた。
「「「……………………」」」
会場が静まり返る。
「ありゃ、もろに食らったな」
「ランサー、死んだんじゃないのか?」
「期待させやがって、この人でなしめ!」
会場はランサーさんを心配する声と、罵倒する声で二分された。
古代の戦士はランサーに追撃はしなかった。
心なしか、残念そうな表情を浮かべて光の粒子となって消えた。
「相変わらず、運の無い男ね」
「そうだね」
口ぶりからして、恐らく姉さんにも見えていたのだろう。
ランサーさんが、バナナの皮に足を滑らせて転んだ場面を。
「優しいね」
「……?」
これは姉さんに見えたかは分からないけど、僕は見た。
ランサーさんが担架に乗せられて運ばれる瞬間。自分が足を滑らせた原因であるバナナの皮を回収して、人知れず魔力で燃やしたのを。
オリキャラ紹介
ランサー
魔剣士学園の生徒でありながら、既に騎士団に入団している若手有望株。
魔剣士としては珍しく、無駄のない動きと魔力運用でシド好みの戦い方をする。
努力家で根っからの善人。
毎回人を助けて、死に掛ける。
人望が厚く、多くの人から慕われている。
今の所、物語に深く関わる予定はない。
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