ここだけシド君に人間性をブレンドした世界線   作:読者その1

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第4話 古代の戦士

それから女神の試練は続いた。

女神の試練開始当初は茜色だった空も、今では黒へと染まった。

この頃にもなると、古代の戦士を呼び出す猛者も何人か現れては敗れて行った。

その様子をシドとクレアは挑戦者専用の観客席から眺めていた。

 

「次、クレア・カゲノー」

 

名を呼ばれ、クレアが立ち上がる。

 

「行ってくるわ。シド。お姉ちゃんの勇姿をしっかりと目に焼き付けなさい!」

「あ、うん。頑張ってね」

 

変わらず、マイペースな様子のシドを見て、クレアは息を吐いた。

そして決意を固め、闘技場へと向かう。

暫くすると、闘技場の中心部に到着し、剣を抜いた。

それから間を置かずして、宙に古代文字が浮かび上がり光の扉を現れた。

 

「来た!」

 

一先ず門前払いされなかった事にクレアは安堵し、気を引き締める。

光の門が人型へと変わり、古代の戦士を形成する。

現れたのは獣人の少女。

 

「見ない顔ね」

 

その姿は、事前に通していた過去の文献や肖像画として残るどの英雄にも符合しなかった。

文献に残らない謎の戦士。

逸話も何も分からないので、対策の立てようのない相手。

 

「上等!」

 

クレアと戦士が駆けたのは同時だった。

 

ギン!

 

クレアの剣と戦士の爪が衝突する。

剣と爪。本来なら拮抗する事なく爪が斬られて終わりだっただろう。

 

「硬い!」

 

だが、そうにはならず。

剣と爪は拮抗した。

 

「シッ!」

 

空いた片方の爪を振るう戦士。

それをクレアは後ろに飛んで交わした。

追撃する戦士。

獣人の身体能力と両手の爪を使った手数の多さでクレアを追い詰める。

 

「舐めるな!」

 

クレアもただ攻められるだけでなく、隙を見計らって反撃に出るが、それはいとも簡単に躱されて逆に反撃を食らう。

 

バキン!

 

クレアの剣が半ばで折れた。

 

「チッ!」

「ガルルルルルル!」

 

戦士がクレアの喉元目掛けて飛び掛かる。

 

「きゃぁぁぁぁ!」

 

観客席から悲鳴が上がる。

真剣を使う大会では死者が出る事は珍しくない。

それは女神の試練でも例外ではなく、数年に一人は死者が出る。

去年の大会でも死者が出た様に、今大会でも死者数のカウントが増える。

そんな未来を予想しての悲鳴だ。

そして、それはクレアも予知した未来だ。

 

駄目、避けられない。

 

古代の戦士は決着が着くまで消えない。

初撃を耐え切れば、何とかなるかも知れないけれど、それも難しい。

もう駄目かと、思ったその瞬間。

 

「ガウッ!?」

 

古代の戦士が怯んだ。

額には剣が刺さった腕のキーホルダーの剣先が刺さっていた。

いったい何故、そんな考えを抱くよりも前に、クレアはこの好機を逃がすまいと前に出る。

最大の魔力を込めて拳を振るう。

 

「せい!」

 

クレアの拳は古代の戦士の額へと刺さった。

 

「ぎょへ!?」

 

その一打が致命傷となったのか、古代の戦士は光の粒子となり消えた。

 

『な、なんと!?古代の戦士を倒した!!何十年振りの快挙でしょうか!!!』

「「「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」」」」

 

闘技場は今日一番の盛り上がりを見せた。

クレアは古代の戦士が居た場所を見つめる。

そこには残骸となったキーホルダー。

 

「はあ、はあ、…………まさか、シドが?」

 

観客席に居るシドを見ようとする、そこでクレアは過度の疲労に意識が暗転した。

 

---------------

 

いやはや、危ない危ない。

危うく姉さんが死ぬ所だったよ。

買っていて良かったよ。キーホルダー。

アレクシアのお土産が無くなったけど、まあ本人もリンドブルムに来てるみたいだし、必要ないでしょう。

 

それはそうと、見た感じ、女神の試練で呼び出される古代の戦士と挑戦者の間に大きな実力差は存在しない。

強さで言えば、古代の戦士の方が強いけれど、全く勝ち目がない訳じゃない。

現に、今までに古代の戦士を呼び覚ました挑戦者達は皆敗れはしたものの、善戦はしていた。姉さんもその一人だ。

周りの観客は姉さんが一方的にやられていた様に見えていただろうけど、姉さんは隙を見ては反撃していたし、それは容易く避けられたけれど、善戦はしていた。

試練と言うだけあって、丁度良い難易度に収まっていると思う。

戦いの最中に一段階覚醒しないと勝てないくらいの難易度調整だね。

 

それだけに厄介だ。

古代の戦士が呼び出される基準が分からない。

最初は魔力で強さの基準を判断しているのかと思ったが、そうでもないみたいだ。

姉さんよりも魔力のある挑戦者の時には、姉さんが戦っている古代の戦士より弱い戦士が現れた。

逆に、姉さんよりも魔力の少ない挑戦者の時は、姉さんが戦っている戦士よりも強い戦士が現れた。

ならば、歩き方か、肉体強度か、他の要素で挑戦者の基準を判断しているのだろうけど、その基準は未だに分からない。

強さの判断基準が分からないと、強さを偽装する事も出来ない。

古代の戦士を呼び出す程度なら良い。けれど、それで呼び出されたのが伝説の戦士とかだったら僕の強さが大衆に晒される事になる。

何時かは正体がバレても構わないと思っているけれど、流石にこんなイベントで、大衆の面前で真の実力を発揮するのは、僕の思い描く陰の実力者像とは違う。

どうせバレるなら、主人公ポジのキャラの窮地を救ったり、クライマックスの場面で主要人物にのみ正体をバラしたい。

それで言えば、シェリーに正体をバラしたシーンは僕の理想とする展開だったな。

あの時は強い怒りでそれどころじゃなかったけど、次に似たような機会があった場合はもっと、陰の実力者らしく振舞いたいな。

 

「次、シド・カゲノー」

 

姉さんが担架で運ばれた後、僕の名前が呼ばれた。

さて、どうした物か……。

 

--------------------

 

「次、シド・カゲノー」

 

その名が呼ばれた時、来賓席に居たアレクシア達は驚愕した。

 

「え、シド!?」

「シドさん!?」

「んん!?」

 

クレアさんが言っていた実績を積ませるって、こういう事?と、アレクシアは考え、そして今までひた隠しにしていたシドの実力が判明するのかと、興味が湧いた。

 

将来アレクシアさんと結ばれる為に女神の試練に挑むのですね!と、ローズは興奮した。

 

クレア様が出場したので、もしやと思いましたが、何かお考えがあるのですね。と、ナツメは思考した。

 

三者三様の反応をするなか、突如として闘技場を眩い青紫の光が照らした。

 

「な、なんですか!」

「あれは、まさか……」

「はて、あんな演出は無かった筈だが……」

「……………………」

 

光が止むと、そこには漆黒のコートを夜風に靡かせた男の姿があった。

 

「シャドウ!」

「何故ここに!?」

「シャドウ?あれが最近ミドガル王国でテロを起こした大罪人ですか」

「それは違う!」「それは違います!」

 

ネルソンの言葉を即座に否定する王女達。

その様子に、ほう。と、ネルソンは目を細める。

 

「あれはシャドウガーデンを名乗る偽物達が引き起こした事件です」

「本物のシャドウガーデンは、私達を救ってくれました」

「ほほう。そうでしたか。それにしても妙ですね。その様な事は一切記事に取り上げられていませんでしたが」

 

2人の表情が苦虫を潰したかのように歪む。

 

「騎士団には聴取の時に言いました」

「彼らに助けられた者は多く居ます。ですが、不思議とその事実は一切公になっていません」

「それはそれは、何か大きな陰謀が絡んでいるのかも知れませんな」

 

白々しい。

学園でテロを起こしたのはディアボロス教団。

敬愛する主様の活躍を隠蔽し、全ての罪を押し付けたのも、ディアボロス教団。

今直ぐ、殺してやろうか。

ナツメはニヤケ顔を浮かべながら、光を反射させる頭をしたネルソンに殺意を抱いた。

 

「すっ、はぁ……落ち着きなさいベータ」

 

ナツメは深呼吸をして、自分に言い聞かせる様に呟いた。

溢れ出そうになる殺気を抑え、闘技場に姿を表したシャドウの姿を見る。

 

「我が名はシャドウ。今宵、古に眠りし記憶を呼び覚ます」

 

膨大な魔力が闘技場を覆う。

 

「ば、馬鹿な!これが一個人が有する魔力だと言うのか!?」

「こ、これがシャドウの力……」

「……この魔力」

 

シャドウの魔力に交合するかの様に、上空に赤い光の門が現れた。

門を構成する古代文字を読み解き、ナツメは呟いた。

 

「災厄の魔女アウロラ」

「なに!?アウロラが!?」

 

ナツメの呟きに、ネルソンが驚愕の表情を浮かべて振り向く。

そして、直ぐに闘技場へと視線を戻す。

そこには、長い黒髪に、闘技場にしては場違いなドレスに身を包んだ女性がシャドウの前へと、降り立った。

 

「あれは何?」

 

アレクシアが尋ねる。

 

「かつて、世界に厄災を齎したとされる魔女です」

「よくご存知で、どこでその様な情報を?」

「作家としての嗜みです。古い文献を読んでいたら、偶々その様な記述を目にしただけです。私も詳しくは知りません」

 

災厄の魔女アウロラ。

ディアボロス教団と戦う為、悪魔憑きや古代の歴史を調べる度に、その名は現れる。

どの様な人物で、何を齎したとかは、一切不明。

シャドウガーデンの調査力を以てしても、謎多き人物である。

それが今、目の前に現れた。

まさか、これを狙って?

あり得ない事ではない。

主様は常に十手先も、百手先も見据えて行動している。

流石です。シャドウ様!

ナツメはシャドウへの尊敬で歪みそうになる表情を必死に抑えた。

胸の谷間に収納していた手帳とペンを取り出し、アウロラの姿をスケッチする。

 

「おお!」

 

ハゲが欲情した視線を向けてくる。

正直、主様以外に向けられる欲情など、不快以外の何物でもないが、情報収集には使える。

 

「宜しければ、アウロラについて、詳しく教えてくれませんか♪」

「ええ、勿論ですとも!あれは史上最強で災厄の魔女です。シャドウ如き、簡単にあしらわれるでしょう」

 

ネルソンは鼻の下を伸ばして、得意げに語る。

その欲望に塗れた視線はナツメの胸元に向いている。

アレクシアとローズは引いていた。

 

「それだけですか?」

「え?」

「他に、ご存知な情報は無いのですか?」

 

ナツメの問いに、ネルソンはたじろいだ。

 

「え、ええ、……まあ、アウロラは教会でも極一部の人間しか知らぬ名ですからね。その、……これぐらいしか」

 

ナツメの瞳から光が消える。

 

「…………はぁ」

 

もはや、用はないとばかりにネルソンから興味を失った様子を隠そうともせず、深い溜息を吐いた。

 

「うぐっ」

 

その様子に、ネルソンは心に酷い傷を負った。

 

「ふっ、いい気味だわ」

「あ、戦いが始まりそうですよ」

 

観客席からの視線がシャドウとアウロラへと集中する。

 

「「……………………」」

 

闘技場が沈黙に包まれ、固唾を呑んで見守る中、先に動いたのはアウロラだった。

アウロラの腕から血が噴き出したかと思うと、それは空中で凝縮され、槍と化してシャドウを襲う。

それをシャドウは半歩下がるだけで避けた。

躱したと思われた血の槍だが、それは空中で無数に枝分かれしてシャドウを囲む様に襲い掛かる。

シャドウから膨大な魔力が放出される。

 

「なっ!?」

「何と言う魔力!?」

「馬鹿な」

 

それはシャドウを襲い掛かる血の槍を吹き飛ばした。

血の槍がただの血へと還り、闘技場の床を汚す。

それは人間一人分の血は優に超えている量であり、闘技場は大量虐殺でも起こったのかと思う様相をしていた。

 

「どうした。その程度か?」

 

期待外れだと、落胆した様子のシャドウ。

それに対してアウロラは獰猛な笑みを浮かべた。

アウロラから膨大な魔力が溢れる。

 

「「「ッ!?」」」

 

その魔力は先程のシャドウと同等かそれ以上。

 

「災厄の魔女アウロラ。まさか、これ程とは…………」

「ははは、素晴らしい。これならば、シャドウも生きられまい!!」

 

誰もが、上空を見つめた。

そこには闘技場を埋め尽くさんとする大量の血。

それが今、降り注ごうとしていた。

 

「ちょ、ちょっと!止めなさいよ!!」

「そうですよ。あれは闘技場どころか観客席にも被害が及びますよ」

 

闘技場に居るシャドウに逃げ場はない。

それは観客や来賓席に座るナツメ達も被害が及びかねない規模の攻撃だった。

 

「ははは、無理ですな。古代の戦士は決着が着くまで消えませんし、現れた古代の戦士を操る術はございません」

 

ネルソンは興奮した様子で、尤もと続ける。

 

「仮に操る術があったとしても、手遅れですな…………」

 

血が降り注ぐ。

それは正しく血の雨であり、槍の雨だった。

 

「面白い。ならば、火力勝負と行こうか」

 

シャドウは不敵な笑みを浮かべた。

 

「アイ・アムーー」

 

シャドウから放たれていた膨大な魔力が剣へと収束される。

 

「アトミックソード」

 

振り上げられた剣から放たれる光の粒子。

それは降り注ぐ血の雨も、アウロラも、夜空さえも飲み込んで聖地リンドブルムを照らした。

 

「久々に楽しめた。故に誇れ、名も知らぬ戦士よ」

 

後に残ったのは、体を崩壊させるアウロラと、剣を掲げ佇むシャドウだけだった。

 

「お前は強い」

 

アウロラは満足そうな笑みを浮かべて、光の粒子となって消えた。

 

「次があれば、今度は全力の君と戦いたいね」

 

シャドウはそう言い残し、闘技場を去った。




執筆の時間がない…………
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