ここだけシド君に人間性をブレンドした世界線   作:読者その1

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第7話 エピローグ

「馬鹿な……」

 

ネルソンは目の前の光景が信じられずに呟く。

 

「馬鹿な、馬鹿な、馬鹿な!!?」

 

多勢に無勢。

100を超える分身を用意したネルソンに対し、相手はたったの6人。

それも実際に戦闘をしているのはデルタ1人だけ。

そのたった1人に100を超えるネルソンは一方的に鏖殺されていた。

 

「何故、何故だ。何故こうも、一方的に蹂躙される!?多勢に無勢な戦力差に加え、この聖域のほぼ中心に当たるこの場所では、貴様らはまともに魔力を使う事すらままならぬ筈だ!?それが何故!?」

 

髪のない頭を掻くネルソンの姿に、アルファは嘲笑した。

 

「本当に分からないの?」

「何がだ!?」

「幾ら分身を作ろうと、100の分身を作ろうと、貴方じゃ私達に勝てやしない」

「何故そう思う?」

「だって貴方、ーーーー弱いもの」

「…………あ?」

「幾ら分身を作り出せても、貴方の分身じゃ、100居ても、1000居ても結果は変わらない。精々デルタの遊び相手にしかならない。助かるわ。この子、そろそろ暴れられないストレスで爆発する所だったの、良い息抜きになったんじゃないかしら。教団に感謝したのは初めて。ありがとう。デルタの遊び相手になってくれて」

 

嘲笑を浮かべ皮肉を並べるアルファに対し、ネルソンはブチブチと堪忍袋の緒が切れるが聞こえた。

 

「舐めるなよ小娘ぇぇぇ!貴様らには、儂の切り札を以て蹂躙してくれるわ!!!いでよオリヴィエ!!」

 

ネルソンの呼び掛けに応える様に、聖域に亀裂が入り、そこからアルファに良く似た金髪エルフの剣士オリヴィエが現れた。

 

「あら、それが貴方の切り札?」

「ああ、そうとも!英雄オリヴィエ!魔人ディアボロスの腕を切り落とした伝説の英雄の力だ。貴様ら如き、腕どころか、首を切り落としたのも容易かろう!」

「そう、私も本気を出してやろうと言っていた割に、他力本願な切り札ね」

「〜〜〜!殺れオリヴィエ!あの小生意気なエルフの手足を切り落とし、達磨にしてやれ!ただじゃ殺さんぞ!貴様は英雄の力を色濃く受け継いだ貴重なサンプルとして教団で飼ってやる。長い寿命を持ったエルフに産まれてきた事を後悔させてやる!手足を斬り落とした後は、儂の子種を腹一杯になるまで飲ませてやる。腹が膨れ泣いて許しを乞うても許しはせんぞ!産まれた子供は実験台や教団のコマとして使い潰してやる!儂が飽きたら生きたまま解体して剥製にしてやるわ!」

 

激昂したネルソンの命令に従い、オリヴィエが駆けた。

 

「ガァァァ」

 

オリヴィエは途中で襲い掛かる(デルタ)を華麗に躱し、その先へと居るアルファに剣を振るった。

勝負は一瞬だった。いや、そもそも勝負にすらなっていない。

夥しい量の鮮血が宙を舞い、アルファの黄金の髪を、純白な肌を赤く染めた。

 

「ごめんなさい」

 

---------------

 

僕が次に現れたのは、ドーム状の施設だった。

施設の奥には幾重ものくさりで閉じられている巨大な扉。

その手前にはむき出しの刀身で地面に刺さった聖剣らしき剣。

選ばれし勇者があの剣を引き抜いて、如何にも封印されてる感の強い扉の鎖を断ち切るテンプレ展開が予想出来る。

 

「一応聞くけど、あの扉の先が君の目的地?」

「ええ、あの先にある核を壊せば、私は解放され、貴方も聖域から脱出出来る」

「そっか、ならさっさと壊してしまおう」

「壊すって、何か当てがあるの?」

「まあね」

 

物語のテンプレなら、この後主人公なり、敵なりが現れて封印を解く展開になるんだろうね。

正直、シャドウの恰好で聖域の中心に佇む陰の実力者ムーブをかましてやりたい所だけど、……生憎と今日は余裕がない。

さっさと聖域を出て姉さんのご機嫌を取らないと後が怖い。

陰の実力者ムーブが出来そうな機会を潰すのは勿体ない気もするけど、しょうがない。

 

「まさか、その剣で封印を解く気?正気?見るからに市販の、それもあまり質の良いとは言えない剣よ?」

「陰の実力者は得物を選ばないからね」

「あそこに、如何にもな聖剣が刺さっているんだから、あれを使いなさいよ!そんなちっぽけな剣よりも何十倍も優れた業物よ」

「え、やだ。万が一にもあの剣抜けたら、僕が勇者認定させそうだし」

 

僕が成りたいのは主人公じゃなくて、陰の実力者なんだよね。

多分抜けないとは思うけど、万が一にも聖剣を抜いてしまうような事態は絶対に避けたい。

蜂に刺されないのに有効な対策ってなんだと思う?蜂に近付かなければ良いんだよ。

だから、僕は聖剣には絶対に近付かない。

僕が剣を抜くと、アウロラは僕の本気を察してか、少し慌てだした。

 

「え、本気?本気でその剣で封印を解くつもり?私としては核が破壊されて解放すればそれで良いんだけどね。でも、……その、ちょっと、分からない?ほら、聖剣を使って解放されるって、なんかロマンチックじゃない?」

 

彼女は意外とロマンチストらしい。

もしかしたら、何時終わるか分からない長い時の中で、何時か解放される時を夢見て、色々と解放される時のシチュエーションを妄想していたのかもしれない。

だとしたら、少し悪い事をした気にもなるが、僕がやる事に変わりはない。

 

「今はロマンよりも、効率を優先したいんでね。そう言うのはこの世界の主人公的な存在に頼んでよ。僕の役割じゃない」

 

僕はさっさと聖域の核とやらを破壊する為に、剣を掲げた。

 

---------------

 

「ごめんなさい」

 

黄金の髪、純白の肌を鮮血で染めたアルファは謝罪した。

胴体が真っ二つになって地に倒れたオリヴィエに対して。

 

「アレクシアさん。視えましたか?」

「いいえ、全く。一応聞くけど、貴方は?」

「私にぃ~、魔剣士の剣筋を追えると思いますかぁ~?」

「それもそうね」

 

ほんの一瞬、コンマ1秒もないであろう一瞬にして、斬り伏せられたオリヴィエと、それを成し遂げたであろうアルファの技量に驚くアレクシアとローズ。

 

「ば、馬鹿な、……馬鹿な馬鹿な馬鹿な!?オリヴィエが、あの英雄オリヴィエが、有り得ん。こんな事、あって良い筈がない!!貴様、何をした!?いや、そもそもここは聖域のほぼ中心。魔力もまともに使えない筈の空間で、何か、出来る筈もない……」

「そうね。この空間で魔力も使うのは中々至難の技だったわ。だから、ほんの一瞬、剣を振るう一瞬に魔力を集中させた。私がしたのはその程度の事よ」

 

言うは易し、行うは難し。

たったそれだけの事で、あの神速の一太刀を振るえるとは思えない。もっと、別のカラクリがあるのか、それとも本当にそれだけの事で神速の一太刀を繰り出せる程にアルファの実力が隔絶した物なのか、魔剣士として至高の領域を目指すアレクシアとローズは戦慄した。

このアルファというエルフもまた、自分達では決して敵う筈の無い実力者なのだと。

 

「私の体はシャドウの物。私の中に入る種も、宿す命も、それはシャドウの物以外は決して犯し得ない聖域。貴方はそれを犯そうとした。さて、どうした物かしら」

 

冷徹な瞳で睨む。

返り血に濡れた姿が、よりネルソンの恐怖を引き立てた。

 

「「ひっ!?」」

 

その怒気にネルソンのみならず、その姿を見ていたデルタ達も皆、身を縮めた。

 

「きゅ~~」パタン

「ア、……この方白目を向いて倒れてしまいましたよ?」

「……この子、本当にシャドウガーデンのメンバーなの?」

「あまり強そうに見えませんね。それに何だか見覚えが」

「奇遇ね。私もどこかで見覚えがあるのよね。……このフードと仮面外して見ましょうか」

「だ、駄目ですよ!彼女の正体を暴いた結果、もうお前達は生かして帰す事は出来ない。的な展開になっちゃうかも知れませんよ!!」

 

アルファに対する恐怖で気絶して倒れたアイ。

アイに対して疑問を浮かべるローズ。

その正体を暴こうとするアレクシアと、それを必死に止めようとするナツメ(苦労人ベータ)

デルタは身を縮め、ガクガクと震えていた。

 

「ひ、ひぃぃぃぃ!いでよ、オリヴィエ!儂を守れ!!」

 

ネルソンの号令に従い、空間に亀裂が入り現れるオリヴィエ達。

1人、2人、3人、その数は先程の比にはならない程のオリヴィエが現れた。

 

「あら、女の影に隠れるなんて、情けない男ね」

「ひいっ、オリヴィエ。あのエルフを近付けるな。怖い。超怖い。もうヤダあの女」

 

恥も外聞も殴り捨てて、多数召喚したオリヴィエの影に隠れるネルソン。

そのタイミングで、どこからともなく、カイとオメガが現れた。

 

「アルファ様。聖域の調査が終わりました」

「今後、聖域には何時でも出入り可能です」

「……そう、ならこれ以上の長居は不要ね。デルタ。帰還するわよ」

「は、はいなのです!」

 

先程までの獰猛な獣の雰囲気は鳴りを潜め、子犬のように縮こまるデルタ。

聖域に亀裂が入り、そこから外へと出て行くアルファ達。

ネルソンはそんなアルファ達を追撃もせず、ただただ黙って「早く帰ってくれ」と祈っていた。

最後の1人アルファが聖域を出て行ったのを確認してネルソンは漸くホッと息を吐いた。

 

「はは、はははは、ふははははは!奴め、儂に恐れをなして、逃げ帰ったぞ!ざまぁみろ!儂の勝ちだ、そう、儂の、勝ち……」

 

アルファに対する恐怖を誤魔化す様に高笑いするネルソン。直後に返り血に染まり、冷徹な表情を浮かべたアルファの姿がフラッシュバックし、恐怖に身を竦ませる。

 

「おのれ、あのアルファとかいう女め、何時かこの恨み」

 

晴らしてやる。

そう続けようとして、ネルソンは青紫色の光へと飲まれた。

 

---------------

 

「何と言うか、……出鱈目ね。貴方、絶対この時代に存在して良い人間じゃないわ。いえ、そもそも人間かどうかも怪しい」

「まあ、僕としても、核になるつもりで鍛錬した結果がこれだからね。それは誉め言葉として受け取って置くよ」

 

聖域から解放された僕は、消えかけのアウロラと夜空を見上げながら、雑談に花を咲かせていた。

本当なら、さっさと姉さんの下へと駆け付けたいのだが、その場を立ち去ろうとしてアウロラが寂しそうな表情を浮かべた為、アウロラが消えるまでの僅かな間、この夜空を眺めながら雑談をする事にした。

え、聖域の核はどうしたかって?

アトミックして封印ごと吹き飛ばしたよ。

ネルソン?オリヴィエ?誰それ?

 

「ありがとう。貴方のお陰でとても楽しい時間が過ごせた」

「それは良かった。僕もそれなりに楽しかったよ」

「そう、良かった。とても綺麗ね」

 

アウロラは夜空を見上げて呟いた。

そして、

 

「もし、本物の私を見つける事が出来たのなら、その時は、ーーーーーー」

 

アウロラはそう言い遺して、光の粒子となった。

それは夜空に煌めく星々に加わる様に空へと消えて行った。




はい。と言う訳で1月から投稿始めた聖地編がやっと完結しました。
たった7話の投稿なのにえらい時間かかってしまって申し訳ありません。
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