遅くなって申し訳ないです……
第1話 地味な青年?──いいや、キミにきめた!
ブシン祭。
それはミドガル王国で2年に1回開催される大きな武闘大会だ。
周期の短いオリンピックの様な物だ。……いや、結構流血あるし、平和の祭典と一緒にするのはあれか。
兎に角、大きな祭りというだけあって、現在のミドガル王国には周辺各国から腕に自信を持つ強者達が集まっている。
「さて、今回はどう動くか」
こんな大きなイベント。陰の実力者たる僕が何もしないなんて選択は存在しない。
流石にこんな大きな大会にディアボロス教団が絡むとは思えないし、聖域とかいう謎領域に連れ去られる事も無いだろう。
久々に純粋な陰の実力者ムーブを楽しみたい。
「──という訳でやって来たよ。ガンマ」
「どういう訳かは存じ上げませんが、いらっしゃいませ主様」
困った時のミツゴシ商会だ。
「実はブシン祭に正体を隠して参加したいんだ」
「正体を隠して……ですか」
「そう、正体を隠してね」
「うむ。……理由を聞いても宜しいでしょうか?」
「え、理由?」
どうしよう。何も考えてない。なんて素直に言っちゃっていいかな?
「それ、言わなきゃ駄目?」
「……!!申し訳ございません。主様の崇高なる考えを理解出来ず、このガンマの無能さを痛感する次第でございます」
「え、あ、え?」
崇高なる考えって何の事!?
そんな泣きそうな顔する様な事?
どうしよう。選択間違ったかも。
「特に深い考えはないよ。何となく、ブシン祭に興味があってね」
「興味、ですか……?」
「うん。決勝か準決勝まで勝ち進もうと考えている。流石にシド・カゲノーとしてブシン祭に参加する訳にも行かないしね」
シド・カゲノーとしての実力じゃ、準決勝どころか、本選にすら出場出来ないしね。
「そういう事ですか……でしたら良い物がありますよ」
ガンマがパンパンと手を叩くと、それに呼応する様に現れる金髪エルフのカイとダークエルフのオメガ。
彼女等はナンバーズって話だったけど、よくガンマの傍に居るね。彼女の御付きなのかな。
「あ、シドさん……じゃなくて、シャドウ様。いらっしゃいませ」
「マスター。久し振り」
「久し振り……と言う程久し振りではない気もするけど久し振り、イータ。アイ。どう?シャドウガーデンには馴染めそう?」
何故か台車に乗せられて運ばれるイータと、台車を押すアイことシェリー。
シャドウガーデンに加入した彼女はシェリー・バーネットの名を捨て、アイと名乗っている。
シェリー繋がりで某名探偵のヒロインから名前を頂戴した。
今はイータの助手をしているらしい。
「ええ、学園じゃ絶対に経験出来ないであろう激動な日々を満喫してます!」
「それは良かった、のかな?イータはどう?シェリーにパワハラとかしてない?」
「シェリー使える。良い……助手」
「それは良かった」
そんな他愛無い世間話をしていると、ガラガラと背後に運ばれてきた巨大な機械。
僕は流れるままに、巨大機械の椅子に座らせられた。
「では、主様。失礼して」
そしてガンマはローションの様な物を僕の顔に塗りたくった。
「なにこれ?」
「陰の叡智を参考に改良を重ねたスライムです。このスライムを素材に、背後の機械で魔力を通す事で老若男女問わずに顔を変える事が出来ます」
「おお!それは凄い」
怪盗が変装時に使う変身マスクが完成していたとは。
いつかこれを使って怪盗ごっこをしたいな。
今度、無法都市辺りに遊びに行こうかな。
「さて、スライムはこの程度で充分ですね。どのような顔にしましょうか?」
アルバムを持って、にゅっと現れたニュー。キミ、どこにでも現れるね。
「そうだね。僕の理想としては弱そうな人物かな」
「では、こちらのジミナ・セーネンはいかがでしょうか?怠惰な魔剣士で5年前に勘当されて、既に死亡した人物です」
「悪くないね。……でも、インパクトが弱いね」
「インパクト、ですか?」
「うん。強そうに見えない地味な青年が何故か勝ち上がる展開も面白いんだけど、今回はもっとインパクトのある展開を演出したいんだ。その為にも…………」
僕はアルバムを受け取り、ページを捲る。
「……良いね。キミにきめた!」
あるページで目に付いた人物を指差し、ガンマ達に見せる。
「この人物、ですか?」
「オイボレーノ・クソジージですね。2年前に死亡した老人です。享年は94歳で遺族は居ません」
「主様。本当にこの人物にするのですか……?少し考え直されてはいかがでしょうか?」
「いや、この人物に決めた。この人物じゃないと僕の望みは果たせない」
この今にも死にそうな老いぼれた顔が気に入った。
今にも死にそうな老人が、本当はとてつもない強者だった。
陰の実力者としてこれ以上ないイベントだ。
「……そこまで言うのであれば仕方ありません」
ガンマが手元のスイッチを押すと、機械が僕の頭を覆い視界が真っ暗になった。
リンクがスタートしそうな機械だ。大丈夫?脳焼かれない?
機械の激しい振動と顔の輪郭を変えられる様な不思議な感覚を味合う事数分。
ピコーンという音と共に僕の視界を覆っていた機械が外れた。
「どうでしょうか?」
ガンマが鏡を持って現れる。
「……うん。良いね。凄く良い」
鏡に映るのは、今にも天に召されそうな老いぼれたお爺さん。
「さっきのスライムまだある?」
「ええ、こちらに」
ニューが持って来たケースを受け取り、中身のスライムを両手の指先から肘に掛けてに塗った。
「こんな感じかな」
僕は先程機械で体験した魔力の流れを参考に、両手に塗ったスライムに魔力を通した。
すると、余分な魔力が剥がれ、若々しかった僕の腕はしわくちゃな老人の様な手になった。
「まさか、先程の経験だけで!?」
「流石ですシャドウ様!」
「あ、私達の研究結果が一瞬で模倣されてしまいました」
「マスター、人の心、ない……」
「あ、ごめん」
この機械を作ってくれたイータとシェリーには後でお詫びしておこう。
「さて、あまり老人の観察はした事ないけど、こんな感じかな」
僕は声色を変えて、目を細め、足腰を曲げて立ち上がる。
「よっこいしょ。ガンマさんや、ちと手を貸してくれんかね」
「うぅ!」
僕がそう言うと、ガンマは涙ぐんで口元を押さえた。
「どしたの?」
「い、いえ、いつかシャドウ様が私達よりも先に老いて、旅立たれる事を考えると、つい涙が」
「あー、うん。成程ね」
周りを見渡せば、ガンマだけじゃなくて、カイやオメガ、心做しかイータまで悲しげな表情を浮かべている。
シャドウガーデンのメンバーの大半はエルフだ。
エルフ=長寿である事はファンタジー世界にありがちな設定だ。
この世界のエルフがどのくらい長寿かは知らないけど、人間である僕よりも長生きなのは間違いないだろう。
「いつか君達と死別する未来が来るだろうね。それは変わらない未来だ。でも、それは今じゃないよ」
死はいつ、どんな時でも平等に訪れる。
僕もまさか、十代という若さで死んで、この世界に転生するとは思わなかったし。
だからこそ、僕はいつ、どの瞬間に死んでも良いように、後悔しない日々を送って居る。
全力で楽しんでこその人生だ。
「そうですわね……失礼しました。取り乱しました。主様の立ち振る舞いがあまりにも年老いた老人にしか見えなかったので」
「褒め言葉として受け取っておくよ。良さげな格好見繕ってよ。武器は仕込み刀が良いな」
「かしこまりました」
それから僕はガンマ達にコーディネートされ、一見どこにでもいる様な年老いた老人にしか見えない姿へとアフターした。
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コツン、コツン。
僕は足腰を曲げ、杖の音を鳴らしながら、街を歩いていた。
向かう先はブシン祭のエントリー会場。
本来なら10分ちょっとの距離を、僕は1時間くらい時間を掛けて歩いた。
「えっと、お爺さん?ここはブシン祭のエントリー会場なんだけど」
「あ、なんだって?」
「……ここは、ブシン祭のエントリー会場なんだけど!」
「はて、娘さんや、ここはどこかのぉ?」
「ブ シ ン 祭 の エ ン ト リ ー 会 場 な ん だ け ど!!」
「そう、大声で言わんでも聞こえとるわい。冗談の通じん娘っ子よのぉ」
「ん~~~~~~~!!」
殴りたいけど殴れないから地団駄を踏む。そんな青髪の少女の様子に僕は満足した。
「おいおい。勘弁してくれよぉ、爺さん。ここはアンタみたいな老いぼれが来る所でじゃねーぜ」
「お、おお!お主、まさか、タロウかい?生きておったか!」
「タロウ?誰だそりゃ、俺はクイントンだ」
「おお、やっぱりタロウじゃないか!」
「ク イ ン ト ン だ!」
「お主が家を飛び出してからというもの、わしゃ、寂しかったぞ。どこをほっつき歩いとったんじゃ?」
「お、おお……(なあ、アンタも俺はタロウじゃねぇって言ってくんねぇか?)」
「(きっと、昔家を飛び出した子供と貴方を重ねてるのよ。もう少し付き合って上げなさいよ)」
「婆さんが死んでからというもの、お主だけが心の拠り所だった」
「……わ、悪かったよ。俺にも色々あったんだよ」
「おお、タロウ。お主喋れる様になったんか!」
「は?……因みに、そのタロウってのは人間なのか?」
「ん?タロウは儂が飼っておったゴリラじゃよ?お主、よく見たらタロウじゃないな」
「……この爺さん。ぶん殴って良いか?」
「止めなさい。死ぬわよ……お爺さんが」
「あ、ブシン祭にエントリーしたいんじゃが」
「「ちょっと待て!」」
僕がエントリー用紙を受付嬢に渡そうとして、止めに入る青髪の少女とスキンヘッドの大男。
うんうん。コレコレ。こういう反応求めてたんだよ!
君達サイコーだぜぇ!!
「爺さん本気でブシン祭に出場する気か?老人の大会じゃねーんだぞ!?」
「ブシン祭は武闘大会よ。殺人は禁じられているけど、死亡事故も絶えない危険な大会よ」
「ほっほっほ。なに、心配には及ばぬよ。……少なくとも、お主達より強い」
僕は糸目にしていた目を片目だけ開き、仕込み刀の刃が少し見える程度に抜刀した。
魔力も放出して、少しだけ威嚇してみた。
「「…………ッ!?」」
2人はすぐさま武器の柄を握り構えた。
表情は強張り、額から汗が流れているのが見える。
うんうん。良いリアクションだよ。2人共。
僕は魔力を引っ込めた。
するとスキンヘッドのおじさんは腰を抜かし、青髪の少女は少し蹌踉めくも、しっかりと立っていた。
少し威嚇が過ぎたかな?
「……私はアンネローゼ・フシアナス。お爺さん。貴方何者?」
「儂か?儂はオイボレーノ・クソジージ」
「老いぼれのクソジジイ?…………偽名?」
「節穴のスーさんに言われとうないわ」
「フ シ ア ナ ス !」
「そうかそうか、すーちゃんや、飴ちゃん食べるか?」
「え、あ、ありがとうございます」
「あ、嬢ちゃん。エントリーをお願いするよ」
「え、あ、……はい。受理します」
受付嬢さんは少し困惑した様子だったけど、僕のエントリー用紙を素直に受け取ってくれた。
「さて、用事も済んだし、儂は帰るとするかのぉ」
コツンコツンと杖を突いて会場を出る僕。
「ま、待って!」
背後から青髪少女の声が聞こえるけど、僕は振り返らず人混みへと消えていった。
「消えた!?あの一瞬で……」
と、見せかけて青髪少女の背後に回っただけなんだけどね。
「オイボレーノ・クソジージ。いったい、何者なの……」
結構良い反応してくれるな。
今回のイベントはこの娘で遊ぼうかな。
ジミナ・セーネン「あれ、俺の出番は?」
オイボレーノ・クソジージ「ないよ」
感想高評価くれたら嬉しいです。